軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

273.

「これは……また……凄いですね……」

食堂に入った藍之介の第一声である。

だが、俺も同意だ。

将軍達が酒を飲んでいたし、騒がしいだろうからとジェスを部屋に置いてきて正解だった。

酒を飲んでいるからとか飲んでいないというレベルの話ではなく、前世を思い出す前の第三騎士団を思わせる……いや、あまりに騒がしいと俺が怒るからと限度を知っていた部下達の方がマシだっただろう。

「お前食べ過ぎだぞ!」

「そんな事ない! お前の方こそ、それ何個目だ!?」

「あっ、ここに置いてくれ!」

「バカッ、将軍が優先だろ!」

掴み合いに発展するほどに騒いでいる原因はもちろん唐揚げだ。

黄鱗帝国の文化的に、大皿に食べ切れないほどの量を載せるというのがお決まりだが、大量にあったであろう皿の上が空になっている。

お代わりを持って現れた女官に、自分の前に皿を置くように言う者もいた。

「団長~、こいつら匂いに釣られて、準備が整うより早く来てさぁ、それからもう 酷(ひで) ぇのなんのって」

できるだけ騒がしくない端の席に座ると、シモンが嘆きながら寄って来た。

どうやら争奪戦に負けたらしい。

何度も食べた事のあるシモンと、初めてだが、明らかに美味しそうな料理を前にした者であれば、熱量は後者の方が高いだろう。

「なくなっても厨房から次々運ばれて来るだろう? 厨房の者が自分達の賄いを取り置きしていなければ、だがな。他の料理も美味いんだから、そっちを食べればいいだろう」

「だって! 角兎ならともかく、ロック鳥の唐揚げは滅多に食えねぇのに!」

食べ物の恨みは恐ろしいとは言うが、シモンも例に漏れずかなり執着する方だ。

「はぁ……。俺を睨んでいても食べられないぞ。どうせなら将軍のところで分けてもらえばいいだろう。あの皿からは護衛の奴らは遠慮して手を出せないだろうからな」

「確かに! さすが団長! ちょっと行ってくる!」

そう言ってシモンは取り皿と、使い慣れてきた箸を持って将軍の方へ向かった。

その隙に、俺は魔法鞄から二種類の唐揚げの皿を取り出す。

「藍之介はあちらまで取りに行かないだろう? これを食べるといい」

「え? よろしいのですか? シモンがあんなに食べたがっていましたが」

差し出された皿を見て、戸惑う藍之介。

「構わん。俺も食べるから遠慮しなくていい。……うん、やはりロック鳥は弾力が違うな」

例えるなら名古屋コーチンだろうか。

噛めば噛むほどうま味が……。

「あぁ~! ズリィ!! さっきまでなかったのに!」

取り皿に唐揚げを盛ったシモンが戻って来て、俺と藍之介が食べている事に文句を言い出した。

「……シモン。お前は俺が厨房にいる間何をしていた? ここで酒を飲んでいただろう? 藍之介は部屋でジェスを見ていてくれたうえ、自分の武器である矢の予備を作っていたんだぞ? どちらが食べる権利があると思う?」

「うぐぅ」

「それに、しっかり自分の分を確保しているじゃないか。どっちも味は同じなんだからそっちを食べればいいだろう」

悔しそうに呻いたが、反論できずに皿を抱えたまま俺の隣に座った。

心なしかシモンの食べている方は色が濃いような。

気を取り直したシモンは、笑顔で唐揚げを頬張った。

……が、咀嚼していくうちに、段々と首が傾いていく。

「どうした?」

「うん……、何か……団長のと違う。味は同じだと思うけど……」

「どれ」

「あっ!」

ヒョイとひとつシモンの皿から奪い、食べてみる。

あ、わかった。

これは予熱で火を通さず、火が通るまで揚げているから身が硬くなっているんだ。

護衛達の要求で、少しでも早く提供できるようにしたのだろう。

「団長! オレの皿からひとつ取ったんだから、そっちからもひとつもらうぜ!」

「わかったわかった。そうムキになるな」

片方の皿を差し出すと、数回息を吹きかけて冷まし、頬張る。

「う~ん、これこれ! むぐむぐ、柔らかくて……噛むと肉汁が……んん、ごくん。 美味(うま) ぁい」

頬を手で押さえながら食レポするシモン。

そっちは普通の鶏だから柔らかいだろうよ。

「だったらあいつらに言ってやれ、厨房を急かさない方が美味い唐揚げが食べられるぞってな。次が出てくるまで他の料理を食べて待てばいい」

「そうする!」

もう俺から分けてもらえないとわかっているシモンは、いそいそと他の護衛達のところへ向かった。

峻耀(ジュンヤオ) の護衛達は二十代の者がほとんどだ。

つまりは大半が俺より年上なのだが、唐揚げを取り合う姿は弟達のそれと変わらない。

ある程度腹が満たされれば、もう少し大人しくなるだろう。

どうやらシモンの説得は成功したらしく、更に美味くなると聞いて、みんなはいつもの食事と同じくらいには大人しくなった。

まぁ、普段から静かというわけではないから、それなりに騒がしくはあるが。

周りが落ち着いたから、今度は将軍の声が、会話の内容までが俺の耳にも届くようになった。

俺が 峻耀(ジュンヤオ) の信頼を得ている事と、唐揚げのレシピを提供した事を絶賛してくれている。

もしも俺が女で自分が若い時に出会っていたら求婚していたかもしれない、という内容は聞かなかった事にした。

もしかして今の奥方も、胃袋を掴まれて結婚したのだろうか。