軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

272.

揚がった唐揚げは余熱で火が通ったのを確認して、切り分けて味見してもらった。

恐らく放っておいたら数百年後には黄鱗帝国で生まれていたかもしれない料理なわけで、当然のように料理人達は大絶賛して作り始める。

見ていると明らかに 峻耀(ジュンヤオ) や護衛達の分にしては多い。

自分達の賄いの分も作っているのだろう。

俺としてはやる気を出してくれたのなら問題ない。

ジェスとジャンヌ用に俺が作った分は魔法鞄に入れ、今にもヒャッハーと言い出しそうな雰囲気の厨房から離脱した。

教えた通りに作れていたし、他の料理も作り始めていたので任せても大丈夫だろう。

普段の護衛服に着替えてシモン達と合流するために部屋に向かっていると、食堂から豪快な笑い声が聞こえて来た。

この声は間違えようがない、劉将軍のものだな。

同じくらいの大きさで 烈陽(リエヤン) の声も聞こえている。

護衛はどうした。

「わははは! お、ジュスタンではないか! お主も一緒に飲もうぞ!」

「ジュスタン! 劉(リウ) 将軍がこう言っているんだし、こっちに来い!」

劉(リウ) 将軍は俺を見つけると、酒の席に誘った。

どうやら 烈陽(リエヤン) は憧れの将軍の登場で舞い上がっているらしい。

「俺は 東宮の護衛中(・・・・・・) なので遠慮しよう。そこにいる男は責任者だった気がするんだが、俺の勘違いだったようだ」

怒気を孕んだ目で睨むと、 烈陽(リエヤン) は一気に酔いが覚めたらしく、顔色が悪くなった。

「あ……っ、いや、今は交代時間で……。だからジュスタンも厨房へ行っていただろう……?」

しどろもどろになりながらも 説明(言い訳) する 烈陽(リエヤン) 。

俺の場合は 峻耀(ジュンヤオ) とその他複数の希望で厨房に立っていたんだが。

「では当然交代の時間までに酒が抜けるんだろうなぁ? そこの逃げようとしているシモンも」

「ひぃっ!?」

食堂の隅にいたが、しっかり視界には捉えているからな?

俺の姿が見えた途端にゆっくり逃げようとしていたのにも気付いていた。

「俺は将軍にすすめられた一杯だけだぜ!? だからほら! 全然酔ってねぇ!」

「確かに酔ってはいないようだな。ジェスと藍之介はどこだ?」

「二人は部屋で休んでるはずだぜ。東宮は寝ちまったみたいだし……藍之介は将軍のデカい声が苦手だってさ」

最後に将軍に聞こえないくらいの小声で、シモンが報告してきた。

「そうか。俺も部屋に戻る。 烈陽(リエヤン) が言うには、俺も休憩中らしいからな」

そう言って俺は魔法鞄から小分けにしておいた唐揚げを一皿取り出し、香りを食堂に蔓延させてから部屋へと戻った。

食堂からはシモンが 烈陽(リエヤン) と将軍から、この香りは何だと問い詰められている声が聞こえていたが、これはジェスの分だから渡す気はない。

部屋に戻ると、ジェスが抱き着いてきた。

「ジュスタ~ン!」

「おっと、どうした? 唐揚げの匂いに気付いたのか?」

「それもあるけど、やっと落ち着いて一緒にいられそうだな~って思ったの」

どうやら 峻耀(ジュンヤオ) と一緒にいる時は、お兄さん役として頑張っていた反動らしい。

きっと甘えたい気分なのだろう。

俺はジェスを膝の上に座らせ、唐揚げが五つ載った皿とフォークをジェスに渡した。

本来なら膝の上という年齢ではないが、ジェスの幼い言動を見ているとつい甘やかしたくなる。

「美味しそう! いただきます! あむっ、……もぐもぐ……ん~んん~!」

「シモンじゃないんだから飲み込んで話しなさい」

お~いし~、と言ったのはわかったが、シモンのようにはなってほしくないので頭を撫でながら窘めた。

「えへへ。美味しくてつい」

「本当に仲がいいですね。従魔契約をしている時点で信頼関係はできているとわかってはいましたが」

部屋の椅子に座って矢の制作のために木の枝を削っていた藍之介が、俺とジェスのやり取りを横目で見ながら微笑んだ。

あ、もしかして藍之介も唐揚げが食べたかっただろうか。

エルフの里でも作ったから、どんな味か知っているもんな。

「藍之介の唐揚げは夕食の時に出るからな」

「ふふっ、別に催促をしたわけではないのでご安心を。でもそうですね、久々に食べられるのは嬉しいです。しかも今回はシモンおすすめのロック鳥での唐揚げでしょう?」

なるほど、エルフの耳がいいのは知っていたが、あの時の会話が隠れていた場所でも聞こえたのなら、将軍の声はさぞかし大きく聞こえているだろう。

食堂から退避したのも納得だな。

「ああ、さっきこの匂いだけを食堂に広げてきたから、今頃厨房に将軍達が催促しに行っているんじゃないか?」

ニヤリと笑うと、藍之介は一度目を瞬かせてから笑った。

「ククッ、それは可哀想に。主様は時々意地悪ですね。シモンが食べたいと騒ぎませんでしたか?」

「その前に逃げて来たからな。むしろ匂いの元が何かと 烈陽(リエヤン) と将軍に詰め寄られていたようだぞ」

「では今日の夕食はいつもより早い時間になりそうですね」

そう話を続けながらも、藍之介の手は器用に半分に裂いた羽根を矢に糸で括り付けていく。

唐揚げを食べ終わったジェスは、その作業をジッと見入っている。

どうやら二人でいた間は、ジェスがこの作業を見学していたようだ。

こういう作業ってつい見ちゃうよな。

夕食に呼ばれるまで、俺とジェスは矢ができるまでの工程の見学会に夢中になっていた。