軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

221.

「せっかくですからコーヒーを飲んでいきませんか? ジェスくんは砂糖とミルクを入れて出しましょう」

「 妾(わらわ) とジェスには不要だ。元々食事も必要ない身なのでな」

藍の申し出をジャンヌがキッパリと断った。

「おや? 里で食事をしていたと聞いたのですが」

「ジュスタンが作ってくれたからね!」

ジェスは素直に答えているが、いつ、誰からその情報を仕入れたのか気になった。

俺達が里に入ってから一日しか経っていない。

という事は俺達がこれまで会ったエルフの中に、藍に情報を渡している奴がいるという事だ。

問題は全員一人になっている時間があって、容疑者が絞れないため、全員を疑うしかない。

ただ俺達の動向を見張るために情報を仕入れたのか、それともエルフの里の情報を仕入れているのかは不明だ。

「なるほど……? 従魔契約というのは必要のない食事でも受け入れるようになるのですね」

「それだけ絆が結ばれているのだ」

少々勘違いしているようだったが、なぜかジャンヌは否定しなかった。

何か考えがあるのだろうか。とりあえず話は合わせた方がよさそうだ。

『主殿、先ほどから嫌な予感がしてならぬ。こちらの情報はできるだけ渡さぬ方がよかろう。ジェスもな』

突然ジャンヌが念話で語りかけてきた。

そういえば俺達だけなら念話で内緒話も可能だったな。

『わかった!』

『ああ、油断せずにいよう。あとはシモンが余計な事を言わなければ、だな』

『シモンは思慮は浅いが、勘はよい男であろう。今も黙っておるしのぅ。何か感づいておるやもしれぬ』

確かに、普段ならペラペラしゃべっていてもおかしくないが、今は珍しく大人しい。

フレデリク殺害の犯人が黒狼の誰かだという予測は話しているから、そのせいかもしれないが。

俺達は長の屋敷に似た家に招かれた。

どうやらここが藍の家のようだ。

一人暮らしの割には物が多い気がする。

「ここは藍が一人で住んでいるのか?」

俺の問いに、前を歩く藍が一瞬止まった。

呼び捨てにしたのが気に入らなかったか?

「いいえ、ここには菊と蘭の三人で住んでいます。私達が黒狼の代表でもありますから、何かあった時はすぐに連携が取れるように。ここが客間です」

案内された部屋は床の間もある和室で、立派な一枚板の机と座布団が置かれていた。

えっと、和室の上座ってどこだっけ。

確か入り口に近い方が下座だったのは覚えているんだが。

イメージ的に床の間の前が家長的なお年寄りが座っていた気がする。

となるとそこは藍が座るだろうから、俺はその向かいかな。

すると、予想通り藍が床の間の前に移動したので、藍の向かいに座った。

俺の左右にはジェスとジャンヌ、入り口側のお誕生席にシモンが座ったが、そこが下座のはずだからちょうどいいだろう。

「ここはエルフの里から離れているのか?」

「そうですね、一応歩いて移動しても十分日帰りできる程度の位置ですよ。ここから山を下りるとしたら、半日くらいでしょうか……人族の足ならね」

最後に何かボソボソと言った気がしたが、聞き取れなかった。

そしてすぐにコーヒーの香りが廊下から漂ってくる。

「お待たせ、コーヒーよ」

「ありがとう。いい香りだ」

菊に礼を言うと、ニコリと微笑んだ。

なんというか、自分が美人なのをわかっている微笑み方だな。

「菊、蘭はどうした?」

藍が菊に尋ねる。

そういえば、いつの間にかいなくなっていたな。

「さぁ? する事があるとかで自室に戻ったみたいだけれど。えっと、ジュスタンと言ったかしら? あなたに話があるから後で一人で来てほしいって言っていたわ」

「俺に?」

「いったい客人に何の話があると言うんだ。私は何も聞いていないぞ」

藍がわかりやすく不機嫌になった。

蘭は妙に掴みどころがなくて苦手なタイプだから、できれば二人きりにはなりたくない。

何か言い訳を……、そうだ!

「悪いが婚約者がいる身なのでな。女性と二人きりになるのは避けたい」

「? どうして婚約者がいたら二人きりになれないの?」

心底不思議そうに首を傾げる菊。

「それは……婚約者を不安にさせないためだろう? 俺達にとっては礼儀でもあるが」

「あっは! 人族とエルフで何が不安になるの? ああ、ダークエルフでも人族から見たら美人に見えるから、あなたの気持ちが婚約者から離れてしまいそうで不安なのね?」

「それはない」

キッパリと断言しておく。

それにしても、初対面の時の蓮達もそうだったが、エルフは人族を下に見ているな。

黒も高慢だと言っていたらしいから、案外仲間以外にはそうなのかもしれない。

しかし、ジャンヌにはそれなりに敬意を払っているように見えたが。

もしかして、結界を張ったりと、実力をその目で見たからか?

「じゃあいいじゃない。何ならそのまま蘭を引き取ってくれてもいいのよ? 元々外から来た子だもの、ここから出て行く事にも抵抗がないでしょ。ここを出て左の突き当りの部屋よ」

出て行けと言わんばかりに出口を指差す菊。

仕方ない、どんな話があるかわからないが、とりあえず行くか。

客間を出て、廊下の突き当りに引き戸がある。一応ノックをすると、中から返事があった。

『ジュスタンかしら? どうぞ、入って』

「邪魔するぞ」

畳敷きの部屋に一歩足を踏み入れると、途端に魔法陣が浮き上がり、部屋の中が眩しいくらいに光った。

急いで足を引っ込めようとしたが、動かない。

俺自身が身体から引っ張り出されるような不思議な感覚に襲われる。

「うふふ、最初の目的よりいい身体が手に入るなんて幸運だわ」

抵抗しようとしたら、まるでちぎりパンのように意識が分離する。

妙な事を言っているとは思うが、そうとしか表現できない。

気付くと俺の意識は 俺の身体を(・・・・・) 見下ろしていた。

「ふふ、あとはこの身体を捨てて魂を移すだけね」

「何を言っている? ここはどこだ。妙な見た目をしているが、貴様は何者だ」

俺の意識はここにあるのに、俺の身体は俺の意思とは関係なく言葉を放った。

そして気付いた、今の俺の意識は直輝だった頃の自分だと。