軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

220.

「なぁ団長、オレ達これから黒狼の集落へ行くのか?」

「そうなるみたいだな。まぁ、せっかく招待してくれると言っているんだ、行ってみるべきだろう」

黒狼の拠点がわかっていれば、何かあった時に対応がしやすくなる。

俺やシモンはその時の現在地がどこか把握できないだろうが、ジェスやジャンヌなら感覚でわかるだろう。

これまで一緒に行動してきて、方向感覚や索敵能力が人族とはレベルが違うと思い知らされたからな。

萌が話し合いのために座っていたお誕生日席から、長いテーブルの反対側に移動したため、俺とシモンの囁き声は聞こえていないだろうが、あまりうかつな事は口に出さない方がいいだろう。

そう思っていたら、ジャンヌがニヤリと笑った。

「主殿、二人の会話はエルフ達にしっかり聞こえておるぞ。長い耳は伊達ではないというわけだ」

ジャンヌの発言で一瞬場が静まり返ったが、ダークエルフの蘭がジェスに近付いて声をかけてきた。

「ジェスくんって言ったっけ? 可愛いねぇ、今何歳なの~?」

「ボクは十歳だよ」

「十歳かぁ、大人しくできてえらいねぇ。大人の話聞いてて退屈じゃない?」

「平気だよ、だってジュスタンと一緒だもん。誰もいない巣で待ってるよりもずっと楽しいから」

そういえばジェスが操られる原因になった魔石を埋め込まれた時は、ジャンヌがいない隙を狙っていたようだからな。

ジェスがいた巣には行った事がないからわからないが、恐らく山の中で何の娯楽もない状態だっただろう。

そこに一人でいたかと思うと胸が痛い。

前世で弟達に留守番させる事はあっても、おもちゃやゲームという暇潰しがあってこそだったし。

それにしても、よくこの状況でジェスに話しかけてきたな。

空気の読めない能天気を装っているのか?

どちらにしても、俺の中では要注意人物に確定しているんだが。

恐らくシモンも同じ意見だと思う。結構わかりやすいのに、どうしてエルフ達は簡単に騙されて……あ。

「ふむ、場数の違いか」

「ブファッ」

つい口に出した言葉に、シモンが噴き出した。

もしかしたら同じような事を考えていたのかもしれない。

今もシモンは肩を震わせて静かに笑い続けている。

そうだよな、エルフの里には娼館なんてないだろうし、色恋を利用して騙して引っかける必要も、そんな気もない者達ばかりだろうから。

平和な暮らしの代償は、危機感の薄さというやつだな。

無菌状態で育てば、その分菌への耐性が低くなるのと同じだ。

しばらくすると、話合いが終わったのか、エルフ達が全員立ち上がった。

「お待たせしました。これから黒狼へ案内しようと思うのですが、問題ありませんか?」

「ああ、どうせ荷物は 魔法鞄(マジックバッグ) に入っているし、いつでも構わない」

「では行きましょう。長、客人達を連れて行きます」

藍が萌にそう伝えると、萌は頷きながらも真っ直ぐに俺を見た。

「ああ。ジュスタンよ、まだ聞いていない調理法を教えに戻って来てくれるのじゃろう?」

期待に満ちた目を向ける萌。

実際ラフィオス王国で広めたレシピはまだ教えてないしな。

「まだまだここにある材料だけで、萌が食べた事のない料理を作れるからな。楽しみにしていてくれ」

「うむ! では帰りを待っておるぞ!」

「……では黒狼への転移魔法陣へ向かいましょう」

今、藍が不機嫌になった気がする。

表情に出ていないが、なんとなく。

あ、もしかして長である萌を呼び捨てにしたせいだろうか。

それでなくとも、会って間もないよそ者なわけだし。

馴れ馴れしいとでも思ったのかもしれない。

しかし、その後は特に問題もなく、黒狼の転移魔法陣へとやって来た。

その場所はなんというか、他の魔法陣と違って野ざらしの岩に描かれている。

「ああ、これは描いてあるのではなく、削ってあるのか。中々の大仕事だな」

「土魔法の応用で描けば簡単にできますよ。さぁ、魔法陣の上に立ってください」

高度な魔法をさも簡単な魔法のように言ったな。

実際藍からしたら簡単なのかもしれない。

アリアの攻撃魔法も凄いと思ったが、藍が攻撃魔法を使ったらどれほどの規模になるのやら。

藍達と一緒に俺達四人も魔法陣の上に立つと、藍が呪文を唱える。

転移独特の感覚と共に、気付くとどこかの小屋の中にいた。

どうやら黒狼側の魔法陣には小屋が建てられているようだ。

小屋を出ると、そう離れていない場所から水音が聞こえる。

世界樹の泉からの水だろうか。

小屋の周りにはいくつかの家が建っていた。

その内のひとつは、萌の住んでいた家とほとんど同じように見える。

「ようこそ黒狼へ。ほら、あそこに見える木は全てコーヒーです」

藍が指差した方を見ると、山の斜面にコーヒーと思われる木が段々畑のように行儀よく並んでいた。

「中々の量産をしているんだな。みんなコーヒーが好きなのか?」

チクリ、と一刺し。

実際はエルドラシア王国へ潜入するために、業者として持ち込む分を多く栽培していたはず。

俺達が王都を出た時には、仕入れの予定日に運ばれて来ていない事は確認済みだ。

だが、藍は怒るでも、顔を顰めるでもなく穏やかな笑みを浮かべた。

「そうですね。少し前まで外界に販売していたのですが、ゴタゴタしてしまったので取引を止めたところです」

こいつ、隠す気がないのか?

案外ストレートに聞けば全て話してくれそうでもある。

どこまで聞き出せるかわからないが、久々に貴族らしい腹芸をする事になりそうだと、頭の片隅でゴングが鳴った気がした。