軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第55話 幼なじみとお買い物

「やほー、こーちゃん」

Aランクパーティ認定試験の日付が示されてから2週間後。

俺はおタマちゃんの家に、納車されたばかりの黒いSUVを停車させた。

「いい車買ったね。素材も載せやすそう」

「臨時収入もあったしな。探索者を続けていくなら、と思って買っちゃったんだ」

今日はふたりでアウトレットモールに行き、宇都宮ダンジョン探索用の服を買う予定だ。

おタマちゃんは助手席に乗り込み、ドアを閉める。

「もう誰か乗せた?」

「いや、自分以外を乗せたのは、おタマちゃんが初めてだな」

「そうなんだ。えへへ……なんだかうれしいな」

おタマちゃんは助手席のシートを右手でなでている。

「じゃあ、いくか。俺、マジで店知らないからな。頼りにしてるよ」

「あたしもそこまで詳しいわけじゃないけど……。とりあえず有名どころを回ってみようかな」

ゆっくりとアクセルを踏み込み、車を発進させる。

魔石駆動ならではの、しずかなモーター音が響いた。

スマホと連動したスピーカーからは、一昔前に 流行(はや) った音楽が流れる。

「あ、これ、あたしが車で聞いてるやつと一緒だ」

「この前レストラン行ったときにおタマちゃんの車で聞いてさ、懐かしくなってダウンロードしちゃったんだ」

「こーちゃんもこの曲好きだったの?」

「ああ。子供のころはよく聞いてたよ」

ダンジョン適正国民検査で無能だと断定されてからは、とてもじゃないけれど、明るい曲は聞けなくなった。

夢や希望、愛や青春を歌い上げる歌詞は、あまりにも 眩(まぶ) しすぎて、耐えられなくなってしまったのだ。

しかし、大人になっておタマちゃんと出会ってから、不思議とこれらの音楽への抵抗感がなくなった。

「る〜、る〜♪ 君のもとへ羽ばたいていくよ〜♪」

おタマちゃんは、窓を開けてのん気に歌っている。

だいぶ機嫌がいいようだ。

そして、俺も楽しい気分になってくる。

……国民検査から仕事をクビになるまでの約10年間。

あの時間が何かの間違いだったかのように、俺は新しい未来を歩いている。

「……アウトレットなんて、行こうとも思わなかったのにな」

キラキラとした場所にも、苦手感があった。

そういう場所は、俺じゃない誰かの場所だと思っていた。

まさか行くのが楽しみになるなんてな。

「おタマちゃんや、みんなのおかげかな……」

「君のことが、いつまでも大……き、……きぃー」

おタマちゃんは歌のサビの部分をモゴモゴと歌っている。

「あれ、うろ覚えなのか?」

「う、うん! そうなの!」

恥ずかしいのか、少し顔が赤い。

1番のサビをうろ覚えというのも珍しいな。

ま、この自由さがおタマちゃんのいいところか。

俺は自分でも口元がゆるんでいることを感じながら、アウトレットに向かう国道へ車を進めた。

☆★☆

佐野ミレニアムアウトレットには、レンガのような 舗装(インターロッキング) を敷きつめた通路があり、その両脇に西洋風の建物が 軒(のき) を 連(つら) ねていた。

建物にはそれぞれ自動ドアがついており、中は個々のブランドショップとなっている。

「敷地、広いな……」

パンフレットを見ても、ブランド名が書いてあるだけで、何がどこにあるのか全然分からない。

完全に初心者殺しである。

かろうじて知っているのは、高級チョコレートと海外のおもちゃブランドの名前だけだ。

「ね、こーちゃん。探索者用のブランドは南のはじにまとまっているから、とりあえずそっち行こうか」

「助かる」

「 SEEKERS(シーカーズ) はどうする? ハーみん様とおそろいになるけど……」

「とりあえず最初に見てみるかな。昨日、グリーンドラゴン亜種の素材買取料が入ったから、お金には余裕あるし」

「……まなみんが買った30万円のローブは格安だから、たぶん型落ちのアウトレット品だと思うよ。予算感は50万円からかな」

「結構するな……」

そうして、俺たちはまずSEEKERSに入った。

店の中は、黒を基調にした服が多く置いてあった。

「え、このロンT50万円するのか?」

「ダンジョン素材を織り込んだ、耐刃・耐魔仕様だからね。このお店では安いほうじゃないかな?」

「……マジか。この店で即決というわけにはいかないな」

車にはもっと 大金(たいきん) をつぎ込んだというのに、服になったらまともな金銭感覚が戻ってくる。

「うん、いろいろ見てみようよ。黒一色というのも、こーちゃんのイメージとは違う気がするな。……それに、こーちゃんはあたしと同じところで買ってほしいし……」

「ん、なんか言ったか?」

「う、ううん! なんでもない!」

「じゃあ、次に行ってみるか」

――その後、俺はおタマちゃんと一緒にブランドを何店舗か回った。

「あ、これ、こーちゃんに似合いそう!」

「どれどれ……」

おタマちゃんが 薦(すす) めてくる服は、桜のようなピンク色だったり、緑とグレーの中間の色だったりと、俺ひとりでは絶対に買おうとは思わないものばかりだった。

でも。

「あ……、こーちゃん、かっこいいじゃん!」

「そうか?」

試着して、おタマちゃんに褒められると、ついその気になってしまう。

アウトレットに来る前は、機能面がしっかりしてれば後は何でもいいやと思っていたが、こうなるとおタマちゃんが喜んでくれる服を選びたくなってくる。

「次は、あの店か」

Dungeon(ダンジョン) Flags(フラッグス) というのだろうか。

いかにも探索者向けのショップである。

「あー、ダンフラね! ここはメンズも多いからねー」

「おタマちゃん、よく知ってるのか?」

「う、うん! あたし、いつもここで買ってるから!」

「なるほどな……」

おタマちゃん愛用ブランドといったところか。

さっそくメンズ側の入り口から入ってみると……。

「おお……!」

うまく言葉にはできないが、なんとなく俺の好みに合う服が多かった。

いや、むしろ、アウトレットに着いてから俺に叩き込まれた、おタマちゃんの 美的感覚(センス) に合っているというべきなのか……。

「いい感じだな」

「でしょー?」

おタマちゃんはニコニコと笑っている。

ま、俺のセンスだけで服を買ったら、いつもと同じ服を買うことになる。

せっかくふたりで来たんだし、ここはおタマちゃんが 敷(し) いたレールに乗っかってみよう。

「気に入ったから、ここで一式買ってこうかな」

「う、うん! いいと思う! えへへぇ……」

「これとかどうかな?」

「ぜったいかっこいいと思う!」

「そ、そうか……」

大きな声で褒められて、つい照れくさくなってしまう。

探索者パーティとしての買い物なのに、デートだと勘違いしちゃいそうだな。

アウトレットモールという初心者殺しの魔境での、つり橋効果みたいなものもあるのかもしれない。

「じゃあ、このマネキンの一式を買おうかな」

「あ、ちょっと待って。こーちゃんはもとから速さの数字も高いし、こっちのアウターで耐魔性能を上げたほうがいいかも。これも格好いいし」

「先輩探索者の意見は助かるな」

「えへへ、まかせなさい」

そうして、俺の装備一式は決まった。

上下そろえて、合計85万円。

なんだかんだで、ダンジョン由来の素材製は高いな。

イーヨンでそろえたやつは、全身で2万円くらいだったからな。

たぶん本当は、アレで太田ダンジョンの10階以上とか潜っちゃいけなかったんだろう。

「こーちゃん、おすすめ買ってくれてありがとう」

「いや、こちらこそほんとに助かったよ。……今日、おタマちゃんに買い物付き合わせちゃったからな、なんかお礼したいな」

アウトレットは太田ダンジョンより攻略難易度が高かった気がする。

「せっかくだから探索グッズでも買ってやるか?」

アウトレット内のショップでは、どんなものでも10万円はするだろうが、85万円のあとでは誤差程度に思えてくる。

「た、探索グッズなんて高いもの、買ってもらえないよ! じゃ、じゃあ、雑貨とか……」

「そんなのでいいのか? じゃ、お店に行くか」

☆★☆

雑貨のお店に行く途中、小さな女の子が、赤い風船を引き連れながら、俺たちの横を走っていった。

風船はふわふわと宙に浮かびたいのだろうが、女の子のスピードには追いつけず、ほぼ真横になる形で引っ張られている。

「リンちゃん、待ちなさい!」

後ろから母親が追いかけていく。

「あの子、おタマちゃんの小さい頃みたいに元気だな」

「あたし、あんな感じだったかなー」

微笑(ほほえ) ましい気持ちになりながら、女の子を見ていると。

ドタッ!!

10メートルほど先で、女の子が転んだ。

「あ……」

女の子の手からは風船が離れ、空に昇っていく。

「ふ、ふぇぇ……!」

――かわいそう、と思う前に、俺の体が動いた。

俺は【神速】で10メートルの距離を一瞬でつめると、そのまま2メートル程度垂直に跳び、風船のひもをつかんだ。

スタッ!と着地し、女の子に風船を渡す。

「ほら、気をつけてな」

「ふぇ……、あ、ありがと……」

「あ、ありがとうございます! あれ? え? でも、どうやって……?」

「こ、こーちゃん!」

おタマちゃんが俺に駆け寄ってくる。

「こーちゃん、今のって……」

「……ああ」

自分でもビックリした。

「ダンジョン内の能力だ」

「やっぱり……!」

親子はお礼を言いながら、駐車場の方に歩いていった。

俺はおタマちゃんに改めて聞く。

「なんでだ? ここ、ダンジョンの外なのに、ダンジョン内みたいに動けたけど……」

「こーちゃん……、今、レベルいくつ?」

「え? 42だけど」

毎日虫を捕まえたり、【神速】で走り回っているうちに、どんどんレベルは上がっていった。

すると、おタマちゃんは。

「 魔素(まそ) 残留(ざんりゅう) だ……」

「魔素残留?」

おタマちゃんの話によると、こういうことだった。

人間は、ダンジョンに入ったときに半魔素体に変換され、身体能力が向上し魔法などが使えるようになる。

逆に、ダンジョンから出た場合は、魔素が肉体に再変換されるため、ダンジョン内のような力は使えなくなる。

――しかし。

一定以上の 魔素密度(レベル) がある場合、ダンジョン外に出ても、魔素が抜けきれず、ちょっとした身体強化が継続されるという。

「じゃあ、俺、ダンジョン外でも戦えるってこと……?」

モンスターはいないから、戦う必要はないのだが。

「……うん。たぶんだけど、ステータス値の高い【速さ】だけがダンジョン外でも強化されている状態じゃないかな」

「マジか……」

今ならオリンピックにも出られそうだ。

☆★☆

――結局、おタマちゃんには小さなクマのぬいぐるみを買ってあげることになった。

「君のことが、いつまでも大好き、大好きぃー♪」

おタマちゃんは、助手席でクマを抱きしめながら上機嫌に歌っている。

俺はさっきの【神速】を思い出しながら、窓からの風を浴びる。

――俺は、成長している。

久しぶりに、充実感が自分を包んだ。