作品タイトル不明
5 好意
婚約は破棄され、レジナルドは跡取りの地位を正式に失った。さらに損害賠償の請求など公的に記録が残る汚点を彼は背負っているので婿に行くことも難しい。
火の車となったケンドール伯爵家でギリギリの生活を強いられているだろう。
一方、ローズマリーの日々は充実していて、魔法学園を退学になってから半年で、宮廷事務官の試験に合格した。
ローズマリーの年齢では早いほうであり、やっぱりやりたいことには身が入り夢中になって日々を過ごしていた。
そんなある日、王都のお屋敷にローズマリーの学園時代の友人が訪ねてきた。
もちろんそれはセオドアであり彼は、会った途端「ろぉずまりー……」と感極まったように言って、情けなく涙を浮かべていた。
とりあえず応接室へと入れると、セオドアは吐き出すようにいった。
「何にも説明せずに学校やめちゃうんだもん。僕だって同じクラスの子たちだってさぁ、ローズマリーには助けてもらったのにいきなりいなくなって」
「……」
「かと思えば、君の婚約者の話でしょ。皆怒っちゃって、特に女の子たちなんて悔しいとかいって泣き出して、僕なら会えるかもって、ローズマリーの助けになることを見つけ出してこいって言われて」
セオドアはもたもたと事情を話した。
しかし、同じクラスの生徒たちまでそれほど怒っているとは驚きだった。
ローズマリーにとっては不本意な場所だったが、それでも彼らにとってローズマリーは同じ夢を目指す心を許した同士だったらしい。
「でも、さすがに渦中の君には会わせてもらえないし。やっとだよ、僕だってクラスメイトの言葉なしにね、会いたかったんだから」
そしてセオドアにとってもローズマリーは、同じクラスの同級生でなくても会いたい人だったらしい。
「寂しかったんだよ。ここ一年毎日一緒にいたのにさ。……でも僕は結局さ、なんかなんとなく君がどこか遠く見てたのわかってた気がする。今じゃなくて遠くを見てて、不本意そうなの……わかってたよ」
「意外です」
「さすがにね。でもやっぱり仲良くなったからには一緒にいたくてさ、知らないふりしていたし、気のせいだと思ってた。でも違った。……事務官の試験合格おめでとう」
「ありがとうございます」
「クラスの子たちには、君はやりたいこと見つけて楽しくやってるから手出し不要だって伝えておくよ」
セオドアは悲しげな表情を崩さずにしょんぼりしたままそう言って、少しすねているみたいな独特な声だった。
不服を訴えるような、でも責めている訳ではなく甘えているようなそんな声だ。
「……助かるわ」
「……」
「……」
「……でも僕は寂しいよ」
そして素直にだだをこねた。
そんなことを言われてもローズマリーは学園に戻らないし、戻ることだってできない。
やりようがないと彼もわかっているはずなのに、少し子供っぽい台詞だ。
それが彼の愛情表現であることをローズマリーはもうずいぶん前から知っている。
「一緒にいたい」
そしてその愛情表現に今まで答えられずにいた。でも今はもう口をつぐむ理由はない。
「じゃあ、一緒にいますか?」
「!」
「あなた、わたくしが好きですわね」
「う、うん」
「わたくしに婚約者がいても隠す気ありませんでしたわね」
「……ごめん」
「いいえ、嬉しいと思っていたからそばにいたので」
「えっ」
「今はやっと、気持ちを素直に言える立場を手に入れましたから、わたくしだって言いますよ。……一緒にいましょう。セオドア」
「っっ!!」
ローズマリーが優しい声で言うと、セオドアは脅かされた小動物みたいにびくついてそれから涙を浮かべて顔を赤くした。
「ふっ、かわいい人ですね」
それにローズマリーはまた本音をこぼしたのだった。