軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4 本音

無理をしなくていいと言われて、ローズマリーはまったりと勉強する日々を過ごしていたが、どうしてもレジナルドが会いたがっているという話を受けた。

両親の監視の上でという話だったが、ローズマリーは自分で決別したいからと決意を固めた体を装って、応接室に二人、ローテーブルを挟んで向かい合った。

レジナルドは両手をじっと見下ろして、うつむいたまま何度か言いよどんでそれから言った。

「こんなことになるなんて想像もしていなかった。君がこんなことをするとも、自分がこんな大事になるようなことを言っている自覚もなかった」

彼の口から出てくるのはまごうことなき言い訳だ。しかし、本当に後悔はしているように見える。

それは軽率な謝罪よりもよっぽどましに思える代物ではある。

「ただ、当たり前のことを言っているつもりでいたし、それですっきりしていた」

「……」

「それに、正しいと思ってた。君を糾弾するロジックは正しくて、皆大きな声では主張しないだけで、私のことをまぁ当たり前のことをしただけだと、認めると思ってた」

「……」

「君は賢いからこんなことで騒ぎ立てるはずもないし、うまくやるだろうとも思ってた。もっと賢いと思ってた、でもおろかだったのは私だった。君が捨て身でこうすれば公になった私の行動は誰にも擁護されない」

「……そうでしょうね」

レジナルドのつぶやく後悔に、ローズマリーは考えながら適当な返事をした。

「明らかに他人をおとしめた人間なんて、男だろうと女だろうと擁護されるはずがなかった。私は学園でも教師どもから嫌味を言われ、友人は離れ、すでに授業にはついて行けていないし、両親も私をこのまま跡取りとして遇する気がない」

「……」

「君が人生を捨てるわけがないと言う思い込みのもと、動いて今は自業自得の後ろ指を指されてる」

彼の語る言葉は、彼の置かれている状況をありありと想像させた。

どこにいてもどの居場所でも針のむしろだろう。

「後悔は……してもしきれない。どんな謝罪の仕方をしたって君が納得してくれる許してくれるとは思えない、君だって落第という代償を支払っているし、人生が詰んだ。魔法使いの夢は途絶えた。そうまでなって私をここまで追い詰めた」

レジナルドの言葉にローズマリーは、首をかしげる。

「お互いもうどこにも行けやしないし、もうどうしようもない。……でもそれでも、謝らせてくれ本当に心から後悔してる。申し訳ありませんでした。なぁ、ローズマリー」

「はい」

「その上で、私ができる君に対する償いはないか? すぐに許してもらおうとは思っていない……でも君も汚点の一つもない学年首席の令嬢という立場を失った。利用できるものはなんでも欲しいんじゃ――」

そうしてレジナルドはまずは許しの可能性を見つけるために、自分にできることはないかと問いかけてくる。

ローズマリーだって、転落した彼と同じように夢と希望をドブに捨てて、落第したからには何かはあるだろう。

そんなふうな言い分だった。

許しを得て、彼がなにを手に入れたいのかはローズマリーにはよくわからない。

両親からの言いつけで、許されなければ彼の貴族としての立場が怪しいのか、それとも今までの友人を取り戻すために許されたと言う実績が必要なのか。

そのどちらでもない可能性もある。

しかしともかく必要で、彼はもう十分思い知って謝罪をするぐらいには追い詰められたのだろうと理解できる。

けれど、彼の申し出はそもそも無意味だ。

なんせ、前提が間違っている。

「レジナルド」

レジナルドの言葉を遮ってローズマリーは、彼を見つめた。

彼は言葉を切って、真剣にこちらを見つめた。

「話はわかりました。その上で言わせてもらいます」

「あ、ああ」

「あなたの思考ってお花畑ですのね」

「……」

突然の暴言に彼は眉間にしわを寄せて目を見開く。そんな反応も気にせずに続けた。

「それに……わたくしの真意に気がつかない人ばかりで少し驚いていますの。ねぇ、レジナルド」

「……」

「わたくし、ただあなたをずっと前から、いつか背中を刺してやろうと思っていただけです」

「は、え?」

「わたくしは、あなたの言葉に心折れて悲しみのあまり落第した訳でも、あなたに復讐をするために首尾よく退学した訳でもございません」

レジナルドは当事者のくせに、本当に自分にとって都合のいいことしか覚えていないらしい。

それほど女というものを、侮っているのだろう。

「水に流してなんていませんよ? わたくしが将来を選択しようとするとき、あなたは、ケンドール伯爵領が魔獣が多いことを理由に勝手に話を通し、外堀を埋めて、わたくしの夢はその後叶えさせてやると言ったでしょう」

レジナルドはやっとそのときのことを思い出したみたいな、はっとした顔をした。

遅すぎである。

「わたくしはもとより、才能があるものよりも堅実で手堅い事務官を目指すつもりだと話をしてあったのに、あなたは裏切って、将来、自分が楽をする方法ばかりを考えていて」

「っ……」

「わたくしの夢など関係なく、無理矢理入学させ……ねぇ、水に流してもらえたと思っていたんですか」

「そ、それは」

「もうローズマリーは魔法学園に入ってこんなに素晴らしい成績を残していて一年もたっていて、その時のことをなにも言わないということは自分が正しかったと思ったのですか?」

「…………」

「わたくしはずっとあなたの背後を狙っていましたよ。鋭いナイフを持って、目を光らせていましたわ」

レジナルドの横暴はあの手紙から始まったわけではない。

それ以前からも、ローズマリーは彼のせいで苦労させられた。

だからずっと待っていたのだ。いつでも事務官を目指し直せるように、彼がプライドをこじらせて、何らかの行動に出る時を虎視眈々と待っていた。

そんな前のことは態度に出さないからには許してあげているはずだ。きっとこの手紙が理由なのだ。

そう思うなんて、お花畑としか言い様がない。

「隙を見せたあなたが悪いのです。自分のしたことを忘れて生ぬるいことをしたあなたが悪い」

「っそ、そんな」

「そして思い出せばわかるでしょう。わたくしの夢、魔法使いなんかじゃありません」

「…………」

「事務官です。事務官の試験は勉強さえできれば、いついかなる時でも受けられる。魔法学園と違って年齢制限もない」

ローズマリーは目を細めて、口元に指を置いてたまらず笑みを浮かべた。

「あなたと違って、わたくしの人生は詰んでなんていませんの。むしろ自由を得た。破滅したのはあなただけ、朽ち果てるのもあなただけ」

「ふっ」と声が漏れる。じんと嬉しい気持ちが広がって高笑いしたい気分だった。

「捨て身の復讐? そんなことをする価値はあなたにはありません! せいぜい一人で勝手に朽ち果ててください。勝手に終わってください。あなたがわたくしに与えられるものなど一つもないのですから」

「クッ、クソ……」

「では、まだ勉強がありますので。失礼いたします」

満ち足りた気持ちでローズマリーは立ち上がる。レジナルドは恨み言の一つも言えずに頭を抱えて小さく縮こまったのだった。