軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6 兄

ローズマリーは、セオドアとの約束を守るために、新しい婚約者の席を空けておくことにした。

もちろんすぐに、行動を起こしても失敗するということはないだろうが、今のセオドアの本分は学生で、ローズマリーは来年の春から一年間、事務官見習いとして仕事を覚えることになる。

わざわざそのタイミングでなければならない理由はない。

父にも「今、無理せずとも仕事が安定した後に、良い縁を自分で探したい」と言えば彼は納得した様子で承諾した。

それにセオドアには少しばかり事情もある、そのあたりの対処も、万全を期して行いたい。

仕事を覚えたり知識を入れながら対処法を考えていくということで、これからの一年を過ごしていこう。

そんなふうに考えていた。

しかし、やっかいな人に絡まれた。

「父上から聞いたぞ、ローズマリー……お前、新しい婚約者は自分で見つけると言ったらしいな?」

ローズマリーがいつものように屋敷の図書室にこもっていると、そこへやってきた兄は後ろからローズマリーをのぞき込んで声を変えた。

「…………」

彼が来たということは、ローズマリーは静かに読書をすることはできない。

観念して諦め、ローズマリーは静かに本を閉じて、少し椅子を引いた。

「だったら何だというのですか」

「……ケンドール伯爵令息の件……俺はわかってるんだぞ?」

彼はにんまり笑って、首をかしげる。

まるで悪魔が人間をたぶらかそうとしているみたいな顔つきであるが、これはローズマリーの兄である。

名前はアルフレット。メイスフィールド侯爵家の跡取りであり、ローズマリーのたった一人の兄姉だ。

アルフレットはローズマリーとよく似たさらりとつやのある赤毛をしていて、瞳の色はエメラルド。

顔は酷く整っていて少し目尻がつり上がっている。端正で、逆に言えば面白みがないとも言える顔つきで、顔までローズマリーとよく似ていた。

たまに双子と間違えられる時があるが、まったくもって嬉しくない。

「わかってたが、黙っててやったんだ。ありがとう兄様と言ってくれよ。だってお前が、あんなちゃちな手紙なんかで心が折れる? 落第してしまう? あり得ないだろ」

アルフレットはカラカラと笑って、座って睨みつけるように見上げているローズマリーの肩を気さくにポンポンとたたいた。

「で、さらに言えば、婚約者の話。父上は事務官として得たツテで、よりよい結婚相手を探すために一年待つとお前の言葉を受け取った」

「……」

「がしかし、お前の本音はこうだ。すでに相手は決まっているけど何らかの障害が合って慎重にならざるを得ない」

どうだ? とばかりに彼は手を広げて小首をかしげた。間違っていない。と言うかほぼ正解である。

しかしそれをローズマリーに言ってアルフレットはなにがしたいのだろうか。

「そうであったとして、あなたになにか問題があるのかしら」

問い返すと、アルフレットは「いいや、まったく」とあっさりと自身との関わりを否定した。

なら関わるなとローズマリーがそう言い返せることを理解していて、その上で、否定した。

「……」

「まったくないぞ。でもからかいに来た。だってお前の兄様だから」

「…………」

「ヒヤッとするだろう? ちょっとしたコミュニケーションだ。兄姉というのはいいものだな、楽しい交流だろう。ローズマリー」

「…………わたくしは、あなたのそういうところを好ましく思っていないのですけれど」

「冷たいこと言わないでくれよ。ちゃんと、父上には言わないでいてやる」

そう言って、アルフレットは少しかがんで、家族としての信頼を意味する頬にキスをして、ハンサムに笑って見せた。

悪い人ではないのだが、良い人でもない。少し性格の悪い人なのだ。ローズマリーの機微を見て楽しんでいるのだろう。

それでもなぜか女性からは人気がある。世の中不思議なものだ。

「その話を聞くまで、お前の新しい婚約者に俺の友人を紹介しようと思ってたんだ。お前の夫が俺の友人なら、お前をこうしていつまでもからかえるだろ」

「わたくしをからかって面白がるのはあなただけですわ。楽しくもないでしょう」

「楽しいぞ。で、本題だ」

どうやら今までの行動のすべては本題ではなかったらしい。本題ではなかったのなら、いらなかっただろうと若干いらだった。

「先日、出席したパーティーで、お前の元婚約者を見かけた」

「……わたくしにはもう関係ありませんけれど」

「まぁ、聞け。お前の元婚約者が連れていたのは成人前の妹だ。妹があちこち挨拶していてそれを元婚約者が見張っていた」

「……」

「ケンドール伯爵家の新しい跡取りはどんなものかと近づいていったら、受け答えははっきりして品もいい賢そうな子供なのに、顔が青白くまるで幽霊のような様子だった」

兄の言葉に、ローズマリーはつい、怪訝な顔をした。

一応レジナルドとはそれなりに長い付き合いで、あちらの家にローズマリーは嫁に行く予定だったので、妹のベアトリスとも面識があった。

彼女は、病弱というわけでも特別色白と言うわけでもない普通の外見をしていたはず。

「さて、お前は跡取りの元婚約者に盛大に汚点をたたきつけて振ったわけだが因果関係をどう見る? って話だ。……まぁ、俺なりの良心だ。なにか起こった後に、お前の行動の結果誰かが不幸になった話を聞いたら、お前は辛く思うだろ。ローズマリーは甘いからな」

つまり……このまま放っておいたらその妹に問題が起きる可能性がある。そして、手遅れになってからローズマリーが知って苦しまないように情報を伝えに来たと。

ならば最初からそうして言ってくれれば、ローズマリーだって親愛のキスを返したというのに。

「俺の優しさだ。兄様大好きって言って良いぞ」

「言いません。……でも、ありがとうございますわ。……少し考えます」

そうして兄との会話を早々に切り上げて、ローズマリーも部屋へと戻ったのだった。