軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

麦畑で捕まえ……られませんでした

最後の最後にトラブルに見舞われたカーナン王国を後にし、今回の諸国訪問の最終地であるクルト王国に向かう。

「ところで、最後に行くクルト王国ってどんな国なんだ?」

カーナン王国王都を出てしばらくしてから空中移動に切り替えた頃、最後の訪問地の事をまだ聞いていなかった事を思い出した。

「クルト王国は穀物、特に麦の大生産地ですね」

「食料自給率が三百パーセントを越えているらしいからな。クルト王国から麦を輸入している国も多いぞ」

「そのお陰で麦が安いからね、パンの種類が豊富なのよ。今世界中で作られてるパンの発祥の殆どがクルト王国らしいわ」

「へえ、やっぱり詳しいんだな」

「全部中等学院で習ったからねえ」

中等学院までに世間一般の教育はほぼ終わるらしい。高等魔法学院の入試に地理・世界史は無かったから全く勉強しなかったわ。

「そういう意味では、メイ姫様は実地で地理のお勉強が出来てますね」

「授業は眠くなるですけど、このお勉強は楽しいです!」

「メイ、お前はちゃんと勉強してるのか?」

「あわわ、失敗したです!」

失言でオーグに突っ込まれているメイちゃんを見てホッコリしていると、マークが意外な事を言った。

「クルト王国は、賢者様と導師様でいうと、導師様の方が人気があるッスね」

「え? そうなんだ?」

「ああ、確かにそうかもねえ」

「まあ……ばあちゃんも昔は派手に活躍したらしいから、人気があってもおかしくはないか」

「そういうんじゃなくて、もっと実利的な事ッスね」

「実利的?」

なんだろう? 魔道具が関係してんのか?

「まあ、クルト王国に行ったらすぐに分かると思うッスよ」

そう言って詳しく教えてくれなかった。

むう……気になる。

そしていつも通りに国境を超え、クルト王国に入りまた空へと飛び立ったのだが……。

「おお、カーナン王国と違って穀倉地帯が……」

「これまた凄い光景ね。上から見るとこんなに印象が違うのね」

「麦の絨毯です!」

まだ収穫までに日がある麦畑は、小麦色では無かったけど、緑色の絨毯みたいに辺り一面の麦畑だった。

「こりゃ凄いな……食料自給率が高いのも分かるわ」

しかし、ここで疑問が一つ。

「こんだけ広大だと……収穫とか大変だろうな……」

これを人間の手で収穫するのか……無理じゃね?

「そこでさっきの話ッスよ」

「ばあちゃんが人気あるってヤツ?」

「そうッス。これだけ広大な畑の収穫なんて人間の手では無理ッスよね?」

「そりゃ無理だろ」

そこまで言って分かった。

「つまり、ばあちゃんが収穫するための魔道具を開発したのか?」

「その通りッス。後は畑を耕す魔道具もッスね。クルト王国は肥沃な土地が多くて、それまでも麦の生産は盛んに行われてたんス。けど人員的な問題で収穫高を増やす事が出来なかったッス。そこに、導師様が畑を耕す魔道具と、収穫と脱穀を同時に行う魔道具を開発した事で、畑を拡げる事が出来て収穫高が劇的に増えたんス。今でも賢者様より導師様の方を英雄視する声が多いのはそういう理由ッス」

なるほどな。畑の面積を拡げたい、でも拡げても収穫が追い付かない。そこに所謂トラクターとコンバインを開発したと。

ばあちゃん凄いな。必要は発明の母とは良く言ったもんだ。

「今でもハーグ商会クルト支部の売上の半分は、耕運機と収穫機とそのメンテナンス費用だってお父さんに聞いた事あるよ!」

「民の為になる魔道具を創る……さすがはメリダ様ねぇ。益々尊敬しちゃうわぁ」

戦闘に使う魔道具より生活に使う魔道具の方が一般市民にとっては有り難い。

じいちゃんは、まあ所謂英雄で、ばあちゃんは生活を向上させてくれた市民の味方なんだろうな。

そんな二人の孫である事が改めて誇らしくなった。

「そんな英雄達の孫は、非常識でトラブルばっかり起こしてるがな」

「意図的に起こしたトラブルなんてねえよ!」

トラブルは俺が起こしてるんじゃない、勝手に起きるんだ!

「そんな事より、クルト王国に着いたらどうする? 何か目的はあるのか?」

「いや……これといって思い浮かばないな……」

料理に情熱を燃やしてる訳じゃないし、特別米が食いたい欲求がある訳でもないから米を探す気もないし……どうしようかな?

「じゃあ、土産にクルト王国産のパンでも買ってどこかで待機していろ。今日王都に帰るんだ、最後くらいトラブル無しで終わらせたい」

「……もう朝からトラブルに巻き込まれたけどね」

「最後くらいは、だ。大人しくしていろよ?」

まるで俺が進んでトラブルを起こしてるみたいに言いやがって。

ただ、この旅行中にトラブルが起きなかった日は無いんだよな……

クルト王国に着き、オーグ達がいつものように王城に向かった後、今日帰るので宿を取る必要も無くやる事がない俺達はとりあえず街に繰り出した。

「おお……良い匂いがする……」

「アチコチでパンの焼ける良い匂いがしますね」

「お腹空いたです」

今回は各々やりたい事は無いとの事なので、皆で街を見て回っている。

街に出ると、辺りに良い匂いが漂っている。街を歩いているだけでお腹が空いてくるな。

「あ! サンドイッチ売ってる! 皆で買って食べようよ!」

周りを見ると、サンドイッチやクレープなんかを歩きながら食べている姿をよく見掛ける。この国じゃあこのスタイルが一般的みたいだな。

サンドイッチの屋台が各種並んでおり、肉メインの店、野菜メインの店、フルーツサンドの店など、各店舗差別化を図っており正直色々と目移りしてしまった。

女性陣は野菜とフルーツの店で、男性陣は肉メインの店でサンドイッチを購入。

俺は各種ハムにキュウリとレタスを挟んだサンドイッチを買った。

キュウリとハムとマヨネーズのコラボは、個人的に最強だと思う。

「イヤイヤ、ベーコンとトマトとレタスが最強だよねえ」

「イヤイヤ、オニオンにオリーブのコラボと言ったらもう……」

「イエイエ、レタスとハムにチーズでしょう?」

「イヤイヤ」

「イエイエ」

うん、皆それぞれこだわりがあるのは分かった。全く結論が出ない。

サンドイッチは食パンに挟んだ物ではなく細長いパンに挟んだ物なので、食べ歩きをしながらいかに自分のサンドイッチが美味しいか熱弁を振るっていた。

十一人も一斉に主張し出すと、もう何が何だか……。

食べ歩きをしながら街をフラフラしていると、街角に本屋があり、軒先には若い男女の絵が吊るされていた。

「あ、賢者様と導師様だ!」

「な……なんだと……?」

若く挑発的な笑みを浮かべた黒髪のワイルド系のイケメンの絵と、眼鏡を掛け理知的だけど、どこか妖艶な感じの赤毛の女性の絵を見て、アリスがそんな衝撃的な事を言った。

これが爺さんとばあちゃんの絵だと?

「はぁ……格好いいなぁ、メリダ様」

「こっちの賢者様も上手く描けてますわね」

「それにしても、さすがはクルト王国ッスね。賢者様関係より導師様関係の本の方が多いッス」

「え? 本って一種類じゃないの?」

「そんな訳無いじゃない。賢者様と導師様の本は、今でも毎年数冊ずつ新刊が出てるわよ」

「最初の一冊目がオリジナルと言われてますけど、知られざる裏話を書いた物から、完全な二次創作まで、ありとあらゆるジャンルの本が出てますよ」

マジか……じいちゃん、ばあちゃん、大変な事になってるよ……。

「うーん、今のお二人も老成した感じが素晴らしいけど、この絵姿も素晴らしいよねえ」

「俺は生まれた時から老人の二人しか知らねえよ……」

今よりちょっと若かったけど、昔から爺さんとばあちゃんだったんだ。

身内の昔の絵を見せられて、モゾモゾする感じがする。

「アンタ達、アールスハイドから来たのかい?」

「え? ええそうですけど。何で分かったんですか?」

店先に吊るしてある絵を見ながら話し込んでいると、本屋のおばちゃんが話し掛けてきた。

「そこのお兄ちゃんが、最近の御二人を見たような事を言ってたからねえ。御二人が御孫さんを連れてアールスハイドに戻ったって話は知れ渡ってるから、アンタ達もアールスハイドで見たのかと思ってね」

「ああ、そういう事ですの」

その話、外国にまで知れ渡ってるの?

「え? 御二人を見たって?」

「なんて羨ましい!」

「一度で良いから御目に掛かりたいわあ」

話を聞き付けた周囲の人達も集まってきた。

皆口々に爺さんとばあちゃんの事を誉めちぎっている。

何とも言えないむず痒い感じになっていた時、メイちゃんがウッカリ喋ってしまった。

「シンお兄ちゃん照れてるです」

「何でアンタが照れるんだい?」

「シンお兄ちゃんはマーリン様とメリダ様のお孫さんです!」

その瞬間、周りの空気が止まるのを感じた。

皆、今聞こえた言葉を頭の中で整理し、ゆっくりと俺の方を向いた。

「御二人の御孫さん?」

「マジか?ガセじゃねえのか?」

「いや……あんな小さい子がそんな事言うとは思えん」

「それに、御二人のお話を恥ずかしそうに聞いていたって」

「じゃあ……」

ゴクリ……。

『ほ、本物の御二人の御孫さんかあ!』

一斉に俺に詰めよって来た。

「はわ!」

「スイマセン! 失礼します!」

「ちょっ! ちょっと待って!」

「サイン! サインを!」

「握手! 握手して下さい!」

サイン? 握手? そんなアイドルみたいな事やった事無いわ!

俺は傍らにいたメイちゃんを小脇に抱えると、詰めよって来た民衆から逃げ出した。

「もう! メイ! あんな所であんな事言ったらこうなるに決まってるじゃありませんか!」

「あぅ……ごめんなさい……」

「あんまりメイちゃんを責めてやるなよエリー、悪気があった訳じゃ無いんだから」

「シンさん! あなたのせいですからね!」

「俺じゃ……俺か?」

「この騒ぎは確実にシンのせいね」

「それよりエリー大丈夫?」

「はあ! ふう! もう限界ですわ!」

結局皆で逃げ出した。

あの場に残っていても問い詰められるのは必至だったからな。

そんな中で、唯一魔法で身体強化が出来ないエリーが早々に体力の限界に達した。

ちなみにメイちゃんは俺の小脇に抱えられたままだ。

「ちょいと失礼!」

「え? きゃあ! ア、アリス?」

「これで行けるでしょ!」

このメンバーの中で、メイちゃんを除けば一番小柄なアリスがエリーを横抱きに抱えて走り出した。

小柄な女の子が女の子をお姫様抱っこしている光景は不思議な光景だな……。

「それにしても……」

「どうしたんですの?」

「さっきからポヨポヨ、ポヨポヨと! 嫌味か!」

「わざとじゃありませんわよ!」

「もぐぞ!」

「もがないで下さいまし!」

何をしているんだ……。

それより、なんかどんどん人数が増えていってる気がする。

ヤバイな……どうしよう?

「ウォルフォード君、マント」

「! そうか! 光学迷彩!」

あまりの事に思い至らなかった。マントに付与されてる光学迷彩を使えば良いじゃん!

「じゃあ、あそこの路地に入った所で光学迷彩を起動!」

『了解!』

そして、路地に集団が入った所で……。

「あ、あれ? どこ行った?」

「そんな馬鹿な! さっきまでいたじゃないか!」

「こんなあっという間に姿を消すとは……さすがは御二人の御孫さんと言うべきか……」

「あーあ、折角サイン貰おうと思ったのに」

「しょうがない、諦めよう」

……はああ、どうにか逃げ切った……。

実は光学迷彩を起動して、彼等の目の前にずっといたのだ。

俺達からは皆が見えているので、光学迷彩を起動しているとはいえずっとドキドキしていた。

「皆、いるか?」

「はい」

「いますわよ」

「はあ、スッゴいドキドキしちゃったよ!」

「本当ですね、見えてないのは分かってるんですけど……」

「追いかけられる有名人の気持ちが理解出来たッス……」

各々光学迷彩を解除しながら姿を現した。

さっきの盛大な追い駆けっこの感想を言い合ってる中、メイちゃんだけションボリしていた。

「どうした? メイちゃん」

「……シンお兄ちゃん、ごめんなさいです……」

ああ、どうやらさっきの事を気にしているらしい。

王族とはいえまだ小さい女の子だからな、発言に気を付けなくちゃいけない場面も無かったんだろう。

そんなメイちゃんを責めるのは酷というものだ。

俺は小脇に抱えていたメイちゃんを下ろし、頭を撫でてやりながら語りかけた。

「気にしなくていいよ。あんな騒ぎになったのは、俺がじいちゃんとばあちゃんの孫だからだし」

「でも! それをウッカリ喋っちゃったのは私です……」

「いいじゃん。メイちゃんは今日失敗しちゃったね?」

「……はいです」

「じゃあ、これでもう同じ失敗はしないよね?」

「もうしないです!」

「うん。ならメイちゃんは一つ成長したね?」

「ハイです!」

「じゃあ、この件はもう終わりだ。俺は気にしてないし、メイちゃんも気にしなくていいよ」

しばらく俺の顔をじっと見ていたメイちゃんが目を潤ませながら抱き付いて来た。

「ごめんなさい、シンお兄ちゃん」

「うん。次からは気を付けようね」

「ハイです」

そんなメイちゃんを皆温かい目で見ていた。

「何故こんな所にいるんだ?」

「お? おお、お疲れ。終わったのか?」

そんな場面に会談の終わったオーグ達が顔を見せた。

索敵魔法で魔力を探知してきたのだろうが、路地裏にいるとは思ってもみなかったのだろう。

「ああ、滞りなくな。後はエルスとイースの協力を取り付けるだけだ。所で何故こんな所に……」

「おし、じゃあボチボチ帰るか」

「おい」

理由を話せば、またトラブルがどうのとか、メイちゃんが怒られたりとかする可能性があったので、オーグの言葉を強引に遮り門に向かって歩き出した。

「お前達……何か隠していないか?」

「いや? 別に? アチコチ見て回ってる内に迷い込んだんだよ」

「……本当か?」

「本当だよ」

「また妙なトラブルに巻き込まれていたのではないのか?」

「俺の行動はトラブル前提か!?」

「それはそうだろう。今までの……」

相変わらずのやり取りをしながら城門に向かっていた時、突如王都中に鐘の音が鳴り響いた。

そして、城門から兵が馬に駆けてやって来た。

「緊急警報発令! 魔人襲来! 総員速やかに避難せよ! 繰り返す、速やかに避難せよ!」

魔人襲来と避難勧告を叫びながら。

「……トラブル体質、ここに極まれりだな」

「自分でも本当にそんな気がしてきたよ……」

今日はこれで三つ目だぞ!? どうなってんだ!

「ここでシンの責任を追及していてもしょうがない。皆、戦闘服に着替えて迎撃するぞ」

『はい!』

「まあ、私達がいる時に襲撃があったのは、クルト王国にとっては幸いだったな」

「私達にとっては災難ですけどね……」

クルト王国中が大騒ぎになり、民衆達は国民も観光客も含めて予め設定されている避難場所まで一斉に駆け出していく。

そんな喧騒の中、俺達は再度路地裏に入りマントの光学迷彩を起動し、戦闘服に着替えた。

地味にこういう時にも役に立つな。

完全に偶然だけど……。

着替え終わって城壁外に向かうが、メイちゃんとエリーはどうしよう?

「メイとエリーは朝と同じく城壁の上で待機していろ。クルト王国軍の中から護衛を付けて貰うように言っておく」

「良いのかよ? 危なくないか?」

「防御魔道具もあるしな。防御に専念すればそうそう危険な事はないだろう」

「凄いです! 特等席です!」

「何を言ってますのメイ! 魔人は人類の脅威ですのよ!?」

「シンお兄ちゃん達なら全部やっつけられるです!」

メイちゃんが期待に満ちた目で俺達を見ている。

「これは格好悪い所は見せられませんね」

「任せといてメイ姫様! あたしの格好良いとこ見せちゃうよ!」

「はぁ……魔人と戦うっていうのに緊張してない私っておかしいのかしらぁ」

「私も同じですよユーリさん。私、普通の街娘だったはずなんだけどなあ……」

スイード王国で一度魔人との戦闘を経験している面々は、皆余裕の表情だ。

緊張するより良いけど……。

「油断するなよ? 前回はシュトロームがいなかったからあの程度で済んだんだ。今回も同じとは限らないんだからな」

オーグが上手く引き締めてくれたな。

この短い期間での襲撃にどんな意図があるのか?

それが分からない以上油断するべきじゃない。

そして城壁までやって来ると、俺達に気付いた兵士さんが駆け寄って来た。

「おい! お前達、何をしているんだ! 緊急警報を聞いていなかったのか!?」

「それを聞いたからここに来たのだ。責任者はいるか?」

「な、何を言っている!?」

「なんだ? どうした?」

オーグと兵士さんのやり取りを聞き付けた歳嵩の兵士さんがこちらに寄ってきた。

「ああ、貴殿か、ちょうど良かった」

「ん? こ、これは! アウグスト殿下!」

「え? え?」

そう言って歳嵩の兵士さんが膝をついた。

「頭を上げてくれ、どうやら大変な事になっているみたいだな」

「は! 先程、城壁の哨戒兵が赤い信号弾を確認致しました。その後も続けて信号弾が上がりましたので間違い無いかと」

「そうか。我々がこの国に来ている時に襲撃があるとは……運が良いのか悪いのか……」

「我々クルト王国民にとっては間違いなく運の良い事で御座います。そして、魔人共にとっては運の悪い事でしょう」

「あ、あの……長官? こちらの方は……」

「ああ、丁度我が国を訪れていたアールスハイド王国王太子のアウグスト殿下とアルティメット・マジシャンズの方々だ」

「アウグスト殿下!? アルティメット・マジシャンズ!?」

そう叫んだ兵士さんはあんぐりと口を開けた後、慌てて膝をついた。

そうか、この兵士さん長官なのか。軍の偉いさんだな。オーグを知っていたし、会談の場にもいたのかな?

「も、ももも申し訳御座いません! 大変な失礼を致しました!」

「よい。民を思っての発言だ、気にするものではない」

「あ、ありがとう御座います!」

スイード王国でもそうだったけど、ホントすぐ他国の兵士を懐柔するよな。兵士さんの目が潤んでる。

「さて、我々がこの国を訪れたのは、正にこのような事態に対抗する為のものだ。存分に戦わせてもらおう」

「御協力感謝致します。しかし、全てを殿下方にお任せするのは心苦しいと言いますか……」

「当然、貴殿らにも働いて貰うぞ。アールスハイドから防御魔道具は届いているか?」

「はい。通信機と共に貸与されております」

「その魔道具は魔人共の魔法を防ぐ。スイード王国で実証済みだ。攻撃は我々が行うから防御は任せたぞ」

「かしこまりました」

「それと、私の妹と婚約者の警護もお願いしたい。まあ、彼女らにも防御魔道具を持たせてあるから形だけになるかもしれんがな」

「そちらもお任せ下さい。万が一も無いように御守り致します」

クルト王国の兵士さんに連れられてこの場を離れるメイちゃんとエリー。

城壁から離れて行こうとする兵士さんに向かって「城壁の上が良いです! 特等席です!」と言っているメイちゃんの声が聞こえた。

「緊張感の欠片も無いな」

「それだけ殿下の事を信頼しているのでしょう」

「私をというより、こっちのシンの方だろうがな」

「おお! 君が導師様と賢者様の御孫さんかい?」

どうでも良い事だけど、本当にこの国ではばあちゃんが先に来るんだな。

この国に爺さんは連れて来れないな……空気化が進みそうだ。

「シン=ウォルフォードです。宜しくお願いします」

「こちらこそ、本当は導師様方の御話を伺いたい所だが……」

「ええ、今はそんな余裕は無さそうですね」

また赤い信号弾が上がった。

そして目視出来る程度の位置まで、魔人の集団が近付いて来ていた。

「さて、この国の民衆に宣言をしたいのだが良いか?」

「はい。是非お願い致します」

そうしてオーグは拡声の魔法を起動し、クルト王国民に向けて宣言した。

『クルト王国国民よ、落ち着いて聞いて欲しい。私はアールスハイド王国王太子、アウグスト=フォン=アールスハイドである。現在この国に魔人の集団が襲来しつつある。皆脅威を感じている事だろう。だが安心して良い。何故なら、本日この国には、我々アルティメット・マジシャンズが勢揃いしているからだ』

国民だけでなく、城壁に集まっている兵士さん達もオーグの宣言に聞き入っている。

『スイード王国での事件は聞き及んでいるだろう。スイード王国を襲撃した魔人共はアルティメット・マジシャンズによって撃退されたと。かくいう私もアルティメット・マジシャンズの一員であり、かの英雄の孫、シン=ウォルフォードもいる。宣言しよう。クルト王国は我々アルティメット・マジシャンズが必ず護り抜いてみせる!』

そう宣言した時……。

『ウオオオオオオ!』

城壁にいる兵士さん達からも、王都の奥からも大きな歓声が聞こえた。

これでクルト王国国民達の不安は大分払拭されただろう。後は、襲来してくる魔人を撃退するだけだ。

「大分近付いて来たな。迎撃準備を始めてくれ」

「分かりました。総員! 防御魔道具起動準備!」

「皆、安心して良いぞ。その魔道具はここにいるシンが造った物だ。シンは祖母であるメリダ殿から直接魔道具造りの指南を受け、自分を越えていると言わしめているからな。魔人の魔法位、簡単に防いでしまうぞ」

この国で人気のあるばあちゃんを引き合いに出す事で、クルト王国兵の信頼を得たらしい。皆、不安な顔はしていない。

「っ! 来たぞ! 防御魔道具起動!」

ついに魔人の集団から魔法が放たれたが、起動した魔道具によって全て防がれた。

「うおお! スゲエ!」

「本当に防いじまった!」

「イケる! イケるぞ!」

「さすがは導師様の御孫さんだ!」

皆が魔人の魔法を防いだ事に大騒ぎしているけど……やっぱり、カートに比べても魔法の威力が弱いように感じるなあ……。

「魔人共め、戸惑っているな。シン! 動揺している今の内に攻め込むぞ!」

「おう! 分かった!」

今は魔法の強弱は考えてる暇はないか。まずは魔人共を討伐しないとな。

そして、俺とトニーがジェットブーツを起動し、真っ先に魔人共の下まで切り込んでいく。

「おおおらあああ!」

「シャアアアアア!」

バイブレーションソードを振り、前方にいた魔人を切り裂く。

俺とトニーで一体ずつ魔人を真っ二つにした。

そして、その直後に後方から追い付いて来た他の面々の魔法が魔人の集団に着弾し、魔人共はみるみる討伐されていく。

魔人から散発的に魔法が飛んでくるが、魔道具を起動するまでもなく魔力障壁によって阻まれている。

以前は二人一組でコンビを組んだけど、単独でも大丈夫だなこれは。

皆の成長を実感しながら、周囲にいた魔人共を討伐していると……。

『奴等だ! マズイ! 撤退するぞ!』

以前スイード王国で聞いたのと同じ声が響き、またしても魔人共が撤退をし始めた。

「またかよ! 逃げんの早すぎだろ!」

襲来してきた魔人の半分も討伐していない。

なのにまたしても魔人共は撤退し始めた。

何なんだよ!? 迎撃されたらすぐに撤退するとか! どういう意図があるんだよ!?

街中ではなく、広い城壁外である為、纏めて魔法で吹き飛ばす事が出来ない。

それでも少しでもその数を削ってやろうと、例の指向性爆発魔法を起動する。

「待てシン! その魔法は……!」

オーグが何かを言い掛けていたが、話の途中で魔法が起動し、目の前で大爆発が起きた。

あまりにも散り散りに逃げられたので一部しか捉える事が出来なかった。

また半数以上を取り逃がしてしまったな……。

それというのも、魔人共があまりにもアッサリと逃げ出すからだ。

これで陽動を疑わない方がおかしい。

一応すぐに、俺一人でアールスハイドに戻って確認してみる。

やっぱり魔人の襲撃は無かった。

どうにも腑に落ちない想いを抱きながら皆の下に戻ってみると、皆呆れた様子で俺を見ていた。

「え? 何?」

「シン、お前……あの魔法は使うなと言っておくべきだったな」

「あの魔法?」

「爆発魔法だ」

「何で?」

「後ろを見てみろ」

そう言われて振り向いた先には……。

クルト王国は麦の栽培が盛んな国で……王都の周りにも麦畑が沢山あって……そんな中で戦闘してた訳で……。

「マズイかな?」

「マズイわ! この大馬鹿者!」

広範囲に渡って吹き飛ばされた麦畑を前に、オーグから本気で怒られた。

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シンが麦畑を吹き飛ばし、オーグから本気で怒られていた頃、またしても別の魔人の集団が遠見の魔法でその様子を伺っていた。

シュトロームは腹を抱えて悶絶し、ピクピク痙攣している。

余程魔人達が撃退された様子が可笑しかったらしい。

ミリア達も、今回は別の感想を持っていた。

「前回と変わらず正面から突撃し、同じように迎撃され、今回に至っては相手に被害ゼロですか……」

「何と言うか……お粗末にも程がありますな」

「シュトローム様ではありませんが……喜劇を見ている気分になりますな」

前回は魔人を撃退したシン達に強い警戒心を持った彼等であったが、今回はそのシン達に撃退された魔人達の襲撃のお粗末さに対する感想が多かった。

「ふぅ……はぁ……わ、私を笑い死にさせるつもりですか?彼等は?」

ようやく復活してきたシュトロームが息を整えながらそう呟いた。

「真に強敵なのはウォルフォード君ではなく彼等かもしれませんね。このままでは私は……わ、私は……フウッフフフ、アハ、アハハハハ」

また笑い出したシュトロームを見ていた面々は、元同胞達の情けない姿に何とも言えない気分になっていた。

「……しかしまあ……これで彼等が油断してくれると良いですけどね」

「そうですな。あの余りにも情けない姿を魔人の実力と見られるのは癪ですが……侮ってくれると攻め込まれた際に優位に働きますか」

ミリア達元戦闘員から魔人となった者達は、そう無理矢理納得した。

「も……もうダメです……」

また痙攣しだしたシュトロームは見えていない振りをしながら。