軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カーナン王国最強は羊飼いでした

トラブル体質は伝染する。

って、そんな訳あるか!

あらぬ嫌疑を掛けられてしまい、かなり凹んだダーム王国への訪問を終えた翌日、次は牧畜が盛んだと言うカーナン王国へと向かう。

一応、夜に一度アールスハイドに戻り魔人の情報が入っていないか確認しに行っている。

今の所は何も無い。

それにしても、一々戻らないといけないのは面倒だな……。

どうにかして無線の通信機が作れないかな?

「シン……お前、またよからぬ事を考えていないか?」

「そんな事ないよ。それより、カーナン王国は織物で有名なんだよな?」

「ええ、そうです。特に魔物化した羊の毛で作った生地が有名ですね。それがどうしたんですか?」

「いや、このマントさ、温度調整と光学迷彩は付与してあるけど、治癒は付与してなかったなって」

「治癒? ……ああ、スイード王国での一件ですか……」

そう、施されている付与は、基本的に着用者の身を守る為のものだ。だがその為、別の誰かにその付与の恩恵を与える事が出来ない。

もしマントに制服や戦闘服と同じ『自動治癒』の付与がされていれば、スイード王国でシシリーがあんなに苦しむ必要はなかった筈だ。

この世界の人間は、全て魔力を持っているから、魔法は使えなくても魔道具を起動させることは出来る。マントを使ってるエリーみたいにね。

そうすれば、シシリーではまだ治療出来ないような重症の患者でも、誰かが『自動治癒』が付与されたマントを起動させ続けるだけで治癒が出来る。

以前は制服だったからブレザーを脱げばそれが出来たけど、戦闘服じゃな……シシリーも周りに止められたし。

「マントに新しい付与を施したいんだ。でも今のマントは文字数が一杯でさ、裏地か中綿として治癒を付与したものを追加出来ないかと思ってさ」

「新たに購入はしないのですか?」

「魔物化した大蜘蛛の糸で作った生地で作れれば良かったんだけどな。マントにも裏地にも向かないってさ。マントとして耐えれる生地であの文字数の物を探すのは苦労したんだ」

「そうだったんですか」

「そういう訳でさ、カーナン王国に着いたらマントの素材になる生地を探しに行きたいんだけど、いいかな?」

「いいんじゃない? カーナン王国は織物が有名なだけあってファッションも多様だからね。私もアチコチ見て回りたいんだ」

「そ、そうか……」

女子の買い物……この世にこんなに心の折れる言葉があるだろうか?

買い物に付き合わされた時の疲労感と言ったらもう……。

「悪いけど、シシリーもオリビアもエリーさんも貸して貰うわよ? 今回は女子だけで回りたいから」

なんという福音! 女性陣だけで行ってくれるとは!

「いいんじゃないか。生地探しにシシリーを付き合わせるのはどうかと思ってたし、女の子同士の方が買い物は楽しいだろ。シシリーはそれでいい?」

「いいですよ。皆さんとのお買い物は楽しいですし」

内心の歓喜を悟られないようにシシリーに訊ねれば、それでいいと言う。

「メイちゃんは?」

「私もお姉ちゃん達に付いていくです!」

「メイの事を頼むぞ。昨日も言ったが、シンのせいでトラブルに巻き込まれ易くなっている。気を引き締めてな」

『はい!』

……綺麗にハモったな……。

もうこの認識は覆せないのかと絶望に浸っている内にカーナン王国との国境を超えた。

「わあ! 羊さんです! 沢山いるです!」

国境を徒歩で超え、再び空へ飛び立った俺達が見たのは、広大な草原一杯に存在する羊の群れだった。

「こうして上から見るのは初めてだけど……凄いわね」

「あ、羊飼い」

リンがマッチョな羊飼いを見付けたらしい。昨日からツボに入ってんな。

「確かに凄い身体してる! 強そう!」

「実際に強いでしょう。羊の魔物は一応中型に分類されます。それを倒せないと羊飼いにはなれないといいますから」

「マジか? 兵士並みじゃん」

「ねえ……あれって……」

カーナン王国の羊飼いは兵士並みに強くないとなれない、というトールの説明に気を取られている内に、マリアが何かに気付いた。

その方向へ注意を向けてみると……。

「……羊飼いの話をした途端にこれだ。やはりシンはトラブルを呼び寄せる体質なのではないか?」

「イヤイヤ! 今、俺以外にも一杯いるじゃん!」

魔物化した羊を倒せないと羊飼いになれないって話をしてたら……羊が魔物化した。

これは俺のせいじゃなくね!?

そんな事はともかく、魔物がいるなら討伐した方が良いのだろうか?

それとも羊飼いが来るまで待った方が良いのか?

「とにかく下に降りよう。羊飼いが近くにいなかったら討伐しないと」

「そうだな」

全員が地上に降りた時点で浮遊魔法を解除する。

そして近くに羊飼いがいないか確認しようとした時……

「どおらああああああ!!」

近くの草むらから筋骨粒々な男性がデカイ斧を振りかぶって飛び出してきた。

あれ何て言ったっけ?槍と斧が一緒になったような武器。

ハ、ハ……。

「ハルシオン!」

「ハルバードだ」

「……」

うおお! 恥ずい! 思いっきり声に出しちまった!

男性の持ってる武器を間違えてしまった事に赤面している内に、男性は魔物化した羊の首を切り落とし、仕留めてしまっていた。

ムッキムキな身体に、羊飼いが持ってる杖の代わりにハルバードを持ち、魔法使いとは違うローブを着ている男性。

うん、間違いない。あれが羊飼いさんだね。

「おう! 旅の人か? 大丈夫だったかい?」

「ああ、はい。大丈夫です」

「それにしても危ねえな。何でこんなところに?」

「いえ、羊が魔物化したのが見えたもんで、羊飼いさんがいなかったら討伐しとかないと不味いかなって思って来てみたんですよ」

「おいおい、無茶言っちゃちゃいけねえよ。見たとこ成人したばっかの子供だろう? 魔物を狩るにゃあちと早えよ」

「そんな事ないですよ。ホラ」

さっきから索敵魔法に魔物化しかかってる羊が感知されてたんだけど、それが今さっき魔物化した。

それに向かって風の刃の魔法を放つ。

魔物化した羊は、あっという間に首を切断され、その場に崩れ落ちた。

「ね? 大丈夫でしょ?」

その光景を唖然として見ていた羊飼いさんだったが……

「アーハッハッハッハ!」

突然大声で笑いだした。

「なんだボウズ! 強えじゃねえか! それに魔法使いだったのか!?」

「え、ええ、まあ」

俺の背中をバシバシ叩きながら楽しそうにそう言う羊飼いさん。

凄い力だな! 背中が痛いよ!

「そうかそうか、だが悪いな、魔物化した羊はいくら仕留めてもやれねえんだよ……」

「ああ、別にいいですよ。羊が欲しくて狩った訳じゃないので」

「悪いな。魔物化した羊は、俺達みたいな資格を持った『 国家養羊家(こっかようようか) 』でないと扱っちゃいけない事になってんだ」

「へ、へえ……」

羊飼いが国家資格!? そんな資格があるのかカーナン王国!

「と、とにかく、俺達は魔物を放置しておけなかっただけなんで、お気になさらず」

「そうか? 悪いな。ボウズ達はこれから王都に向かうのか?」

「ええ、そうですけど」

「なら、王都に着いたら『シェパード服飾店』がお薦めだぞ。ボウズ達みたいな旅人向けの服や装備が揃ってるからな」

「へえ、そうなんですか。ありがとうございます」

「なーに、いいって事よ。こっちは労せずに魔物化した羊を一頭確保出来たんだからな。礼を言うのはコッチってもんよ」

「あはは、それじゃあそろそろ行きますんで」

「おう、俺はガラン、機会があったらまたな!」

「俺はシンです。またご縁があれば」

そう言ってガランさんと握手し、その場を離れた。

それにしても良い情報が聞けたな。シェパード服飾店ね。カーナン王国に着いたら行ってみよう。

「それにしても、凄い身体してたね!」

「ああ、一撃で仕留めた腕といい、この国は兵士より羊飼いの方が強いのかもしれんな」

「国家養羊家って言ってましたし、ひょっとしたらカーナン王国の羊飼いってエリートかもしれませんね」

前世の知識では、羊飼いの社会的地位って低かったらしいけど、この国では違うのかもしれないな。

カーナン王国の国家養羊家との邂逅を終え、俺達はカーナン王国の王都に辿り着いた。

入場門でダーム王国の時と似たようなやりとりをした後、同じように宿を取ったのだが……。

「凄い! フカフカです!」

「これは凄いですわね。私の家で使っている物と比べても羊毛の量が格段に多いですわよ?」

前回と同じく八人の大部屋を二つ取ったのだが、その内の一室に集まった時、メイちゃんがベッドにダイブしてそう言い、エリーがベッドに使われている羊毛の量を見てそう呟いた。

王家や公爵家で使ってる寝具より羊毛の量が多いって、さすがに人口より羊の数が多いって言うだけはあるな。

「そういえば……シン君のお家の寝具は羊毛を使ってないですよね?」

「なによシシリー。もうシンの家の寝具まで知ってるの?」

「え? あ! ちがっ! お婆様! お婆様のお部屋に行った時に見せてもらったの!」

「なあんだ、てっきりもうシンの家の寝具の使い心地とか知ってるのかと思った」

「も、もう! マリア!」

シシリーとマリアがじゃれ合ってるけど、ばあちゃんの部屋?

「ばあちゃんの部屋に何しに行ったの?」

「お婆様、トレーニングで腰を少し痛められたらしくて、その治療の為に伺ったんです」

「ばあちゃん……」

もう歳なんだから自重しようよ……。

「それでベッドに横になってもらって治療をしたんですけど……その時、マットレスが違うなって気付いて。あれなんですか? お婆様も知らないって言ってましたし」

「ああ、あれね。あれは森の中で低反発な木の皮の素材を見付けてね。集めてベッドの上に敷いたんだよ」

コルクも木の皮だけど、それより柔らかくて低反発な皮が剥げる木があったのだ。前世で低反発ベッドに憧れてたから真っ先にマットレスを造ったんだよね。

「低反発? そんなんで寝れるの?」

「それが凄いの。お婆様に試してみるかって聞かれたから横になってみたんだけど……危うく寝るところだったわ」

「そうなの?」

「なんて言うか……身体が浮いてる感じがするというか……包まれてる感じがするというか」

「そ、そんなに?」

「そういえば、上に掛ける寝具も凄く軽かったですけど、何であんなに軽いんですか?」

「え? シン君の家、お金持ちなのに……」

アリスがそう疑問を呈するのには訳がある。

この世界の寝具は羊毛を使った物が主流であり、その量が多ければ多いほど高級品となる。

エリーやメイちゃんが驚いていたのは、その量が凄かったからだ。

そして、量が多ければ寝具は重くなる。軽い寝具って事は、一般的には安物って認識だ。

「ああ、家の寝具は羊毛使ってないから」

「それはさっき聞いたけど……じゃあ何使ってるの?」

「羽毛」

「鳥の羽……」

皆が怪訝そうな顔で俺を見てる。

この世界じゃ、まだダウンの有効性は知られてないんだよなあ。

「ま、いつか使ってみるといいよ。ビックリするから」

「そうかしら? まあ、シシリーはもうすぐ実感すると思うけど」

「マリア!」

そんなウォルフォード家の寝具事情は置いておいて、この国での各々の目的に向かって動き出した。

女性陣はお買い物に、俺は羊飼いのガランさんが教えてくれたシェパード服飾店に行ってみる事にした。

皆のマントはオーグ達の分も含めて既に預かっている。

その場で加工してもらいたいからね。

「ウォルフォード君、自分も一緒に行って良いッスか?」

宿を出ようとした所でマークに呼び止められた。

「良いけど、マークも素材探しか?」

「それもあるッスけど、ウォルフォード君がどういった素材を選んでどういった加工を施すのか興味あるッス」

さすがに工房の息子だけあって物作りには興味があるみたいだ。

「という訳で僕一人になっちゃうから僕も一緒して良いかい?」

「良いよ。じゃあ三人で行くか」

結局男性陣と女性陣の二手に分かれただけになっちゃったな。

シェパード服飾店は宿の人に聞いたらすぐに分かった。

なんでも、このカーナン王国でも有名な服飾店らしい。

流行の服等はあまり置いていないが、旅をする上で必要な服や外套、その他、オーナーが国家養羊家なのだそうで魔物化した羊の羊毛を使った生地や服などが豊富に取り揃えられているらしい。

これは良い店を教えてもらったな。正に俺が求めてる物が置いてある店だ。

シェパード服飾店に向かう道すがら、他の店も冷やかしていった。

「流石カーナン王国ッスね。服飾店や生地店が多いッス」

「さっき見たお店は男性物の専門店だね。ざっと見ただけでも欲しい服がいくつかあったよ」

「なら帰りに寄って行こうか。俺も良さげな服見つけたし」

「良いねえ、そうしようか」

そんな風に少し寄り道をしながら目的の店を目指す。

そして着いた店は……。

「デッカ!」

「これは凄いッスね……」

「四階建てだねえ」

こう言っちゃ悪いけど、マークの家の工房よりデカイ。敷地面積も、階数もだ。

そんなシェパード服飾店に早速足を踏み入れる。

「いらっしゃいませ」

店内は、さっき来る時に冷やかして来た店と違い、高級感に溢れていた。店員さんも上品な感じがするし。

それにしても店が広いので、目的の物を探すのも一苦労だ。ここは店員さんに案内して貰おう。

「あの、すいません」

「はい、いかがされましたか?」

俺はこの店に来た目的を告げ、その条件にあった生地が無いか聞いてみた。

「魔法の付与が出来る、マントの裏地か中綿になる素材ですか……」

「あ、マントはこれです」

「拝見致します」

俺は自分のマントを店員さんに見せ、それに合うものを見繕って貰う事にした。

「これは……随分と良い素材を使ってらっしゃいますね……」

「ちなみに八文字付与してます」

「マ、マントで八文字ですか!」

マントに使われるのは丈夫さ最優先だからな。付与文字数が多いものはあんまりない。

「裏地も良いものを使ってますし……そうなると中綿を増やすしかありませんが、夏場は熱いですよ?」

「ああ、その点は大丈夫です」

そのマント、エアコン効いてるから。

「左様でございますか。ただ、魔法付与が出来る中綿となると魔物化した羊の羊毛しかありませんが……」

「それで良いです。この枚数分加工してもらえませんか?」

異空間収納から全員分。エリーとメイちゃんのも含めた十三着のマントを追加で出す。

「こ、こんなに?」

「合計十四着ですね。お願い出来ますか?」

「それは構いませんが……そうなるとお値段の方が……」

「そいつらにはオマケしてやんな」

「オ、オーナー!」

「オーナー?」

合計十四着分の素材と加工費の話を店員さんがしようとしたとき、後方から声を掛けられた。

あれ? ついさっき聞いたような……。

「あ、やっぱり、ガランさん」

「おう、早速来てくれたんだな。歓迎するぜシン」

「オーナーのお知り合いの方でしたか」

「おう! このシンは凄いぜ。なんせ魔物化した羊を魔法一発で仕留めちまったんだからな」

「ま、魔法一発!? そんな高位の魔法使いだったのですか?」

「高位って……高々羊ですよ?」

「ウハハハ! やっぱりそういう奴だったか。羊の魔物位じゃ物足りなさそうだったからな」

「羊の魔物をそんなに簡単に……」

え? だから羊だろ? 中型に分類されるって言っても猪や狼じゃないんだから。

そう思っていると、マークに袖を引っ張られた。

「ウォルフォード君の認識では高々羊の魔物かもしれないッスけど……一般的には中型以上の魔物は相当な脅威の対象ッスよ」

「まあ……最近僕らも虎とか獅子とか相手にしてるから、若干感覚がおかしくなってきてるけどねえ……」

「おう、どうした?」

「いえ、なんでも無いッス!」

「そうか、まあそんな高位魔法使いだからな、ウチで装備の加工をしたとなれば、ウチの店の箔も上がるってもんよ。それに、羊も狩ってもらったしな」

ウチの店ね。

「オーナーの国家養羊家ってガランさんの事だったんですね」

「おう、ガラン=シェパードだ。羊を狩ってもらった礼にな、少しでもまけてやろうと思って店を紹介したんだよ」

それで自分の店を紹介してくれたのか。運が良かったな。

「それはどうも、ありがとうございます。枚数が多いですから助かります」

「おう、じゃあ材料費と加工費で……こんなもんでどうだ?」

「オ、オーナー! それだとほぼ原価です! それに加工費も含もが……」

ガランさんが騒ぐ店員さんの口を塞ぐ。

「いいから黙っとけよ。じゃあ、これでいいか?」

さっきまで暴れてた店員さんがグッタリしてきた。

だ、大丈夫か?

「こ、こっちとしては願ったりですけど……良いんですか? 儲けは殆ど出ないんじゃ?」

「なーに、儲けは何も金銭だけじゃねえ。シン達ならいずれ名の知れた魔法使いになる。そうなった時シン達の装備を加工したのがウチとなれば……その時に精々稼がせて貰うさ」

ガランさんはそう言ってニヤリと笑って見せた。

カッケー、ガランさん超カッケー。

「分かりました。ではそれでお願いします。ガランさんの期待に応えられるよう頑張りますよ」

「おうよ! 頑張ってくれよ!」

ガハハと笑いながら俺達の装備の加工を引き受けてくれた。

店員さんの話によると、明日には加工は出来るそうなので出発前に取りに来ることにした。

良かった……店員さん、生きてたんだね……。

「いやあ、ラッキーだったな。もっと大きい出費を覚悟してたわ」

「それにしても……良いんスか? あんな方法で安くしてもらったりして……」

マークがそう疑問を投げ掛けてくる。確かにこの世界ではあんまりこういうのは聞いた事ないけど。

「良いんじゃねえの? いわば広告塔になってくれる代わりに安くしてくれるって話だろ。双方にメリットがあるんだから、後は俺らが名を上げればいい話だ」

「いや、もう十分名は上がってると思うけどねえ」

しかし、そうなると企業ロゴでも入れた方が良いんだろうか?

……何かのユニフォームみたいになっちゃうな。その辺はまた考えよう。マント自体はアールスハイド王都の店で買ったものだしな。

とりあえずこの国での目標を終えた俺達は、行き掛けに見た服屋で、普段着る為の服を見ていく。

普段着は魔法の付与とか考えなくていいから気軽に選べていいな。

予定していた金額が大分浮いたので、その分色々と見て廻った。

「どうだ? 目当ての加工は出来そうか?」

何軒目かの店を見て廻っている時に会談を終えたオーグ達と合流した。

会談の様子はダーム王国とほぼ同じだったらしい。特筆する事も無いので男三人を加えてまた店を巡り、屋台で昼食を食べ、お土産やその他の買い物も済ませ宿に戻った。

「ふう……買い物って楽しいけど疲れるな」

「そうッスね。自分の買い物でもこんなに疲れるのに……」

「女の子達との買い物だけは、僕も勘弁して欲しいかな?」

マークとトニーも同意見か……オーグ達は婚約者と二人で買い物とかあり得ない立場なのでピンと来ていないらしい。

俺は何度かシシリーとクロードの街に買い物に行った事がある。

……女の子の買い物はどこも同じだったとだけ言っておこう。

「ところで、マントはいつ取りに行くんだ?」

「明日、出発前に取りに行く事になってる。店の工房を借りてそのまま魔法付与するわ」

「分かった」

「ただいまです!」

明日の予定を話している内に女性陣が帰って来たらしい。

皆異空間収納が使えるから手ぶらだが、その異空間収納にはどれだけの服が詰まっているのか……。

「はあ……楽しかったですわ。こんなに沢山のお店を回ったのも初めてですし」

「またちょくちょく行こうよエリー!」

「護衛は私達がいる。心配無用」

「フフ、そうですわね。また行きましょう」

「私も行きたいです!」

「心配しなくてもメイも連れて行ってあげますわよ」

「やったです!」

……女性陣は元気だな……。

俺達は他に用事もあったから女性陣より買い物していた時間は短いんだが、それでもかなりグッタリしてるというのに……。

「……買い物の話題を振るのは止めておこう。付き合ってくれと言われたら堪らん」

「あ、アウグスト様」

「どうしたエリー?」

「アウグスト様は何かお買い物をなさいまして?」

な! 向こうから振ってくるだと……?

「あ、ああ……会談が終わった後シン達と合流してな、いくつか店を廻ったが……」

「そうですか……ねえアウグスト様?」

「な、なんだ?」

「今度は……二人でお店を廻りませんか」

「そ、そうだな……」

あ、オーグの顔が引きつってる……。

「あの、シン君?」

「え? お、おお。どうした?」

こっちもか? お買い物のお誘いか?

「あのこれ……お買い物の途中で見付けたんです。シン君に似合うかなって思って」

そう言ってシシリーは、異空間収納から黒いジャケットを取り出した。

「シン君、黒い上着をよく着てるから、好きなのかなって思って」

「シシリー……」

やっべ、超嬉しい。

「着てみて良いかな?」

「はい! 是非!」

そうして袖を通したジャケットはサイズピッタリだった。

「うん、格好良いな。気に入ったよ。ありがとうシシリー」

「いえ、喜んでもらえて良かったです」

そう言って微笑むシシリー。

俺も買っといて良かった……。

「シシリー、俺も渡したい物があるんだ」

「え?」

そう言って異空間収納から何枚かのスカーフを取り出した。

「シシリーに似合うと思って……どうかな?」

「わあ……ありがとうございます!」

シシリーも早速スカーフを広げ、肩を覆うように身に付けた。

「ありがとうございますシン君、嬉しいです」

「喜んでもらえて良かった」

「シン君……」

「シシリー……」

「ちょっと! ここ食堂! 公共の場!」

マリアの突っ込みで我に返った。

うお! 危ね!

俺とシシリーのやり取りを見ていた他の客達から冷やかしの声が上がる。

「もう! 見てるこっちが恥ずかしいわよ!」

すまないマリア。予期せぬプレゼントに舞い上がってしまった。

「あぅ……あぅ……」

我に返ったシシリーは当分復帰出来ないだろう。

ご飯食べられるか?

「ところで、今日私達の方には特にトラブルなど無かったのだが、エリー達の方は何も無かったか?」

「ええ、流石に八人の集団ですから、声を掛けてくる男性もいませんでしたわ」

「フム……このままトラブル無しで終わるとも思えん……皆最後まで気を抜かないようにな」

『はい!』

くそ! トラブルがあって当然って顔してやがる! 何も言い返せないのが辛い!

「あぅ……あぅ……」

シシリーの援護は無い!

最後に凹まされて迎えた翌日、出発前にマントを取りにシェパード服飾店に向かった。

「おう! おはようさん!」

「おはようございます。外套の加工は出来ております」

「ありがとうございます。すいませんが工房を貸して頂いても良いですか?」

「工房……でございますか?」

「ええ、早速魔法を付与しようと思いますので」

怪訝な顔をしている店員さんにそう伝えると、今度は目を見開いた。

「付与を御自身で掛けられるのですか?」

「スゲエな、あれだけ魔法を使えるのに付与まで出来んのかい?」

「ええ、まあ」

「ほえー」

感心しているガランさんは置いておいて、自動治癒を付与する為に工房を借り、十四着分の付与を終わらせた。

「お、もう終わったのか?」

「はい、ありがとうございました。では俺達はこれで」

「おうよ、またいつでも……」

「た、大変だガランさん!」

別れの挨拶をしていた所へ、若い羊飼いさんが血相を変えて飛び込んで来た。

「なんだ? どうした!」

「ひ、羊が……」

「羊がどうしたって?」

「羊が……大量に魔物化したんです!」

「な、なんだと!」

最後の最後にこれか……。

「やはりあったな、トラブルが……」

「こうなってくると……益々信憑性が出てくるわね」

「俺のせいじゃない!」

違うよね? そうだと言って!

「悪いシン、厄介事が起きちまった。行かなきゃならん」

「あ、俺達も行きますよ」

「え? いや、それはありがたいんだが……良いのか?」

「ええ、それにここで活躍すれば多少は名前が売れるでしょう?」

そう伝えると、ガランさんは一瞬呆けた顔をした後、豪快に笑い出した。

「ガハハハ! 確かに違ぇねえ! そんじゃあ頼めるか?」

「はい、任せて下さい」

「ちょっ! ちょっとガランさん! 何考えてんですか!?」

「ん? ああ大丈夫だ、シン達は強えからな」

「一頭や二頭じゃ無いんですよ!? こんな子供に何が出来るって言うんですか!?」

まあ、確かに成人したばっかだけどね。ガランさんが言ってるんだから信用してもいいのに。

「そんなに俺の言う事が信じられないか?」

「え……あ、いえ……そういう訳じゃ……」

「心配しなくても、シン達の実力はこの目で見てる。戦力としては申し分無い。むしろ俺達の方が足手まといにならないか心配だな」

「ガ、ガランさんが足手まとい?」

「おっと! こんな所で立ち話してる暇はねえな、じゃあシン行こうか」

「分かりました。じゃあ……メイちゃんとエリーは城壁の上で見学な。オーグ、一緒にいてくれるか」

「フム……後から来る国の人間への説明もいるか。分かった、私が二人を護衛しよう」

「お兄様が護衛って、何か変です」

「そうですわね……普通逆の立場ですものね」

「ホラ、行くぞ」

「はわ! 待って下さい!」

「それでは皆様、後程」

「おう。じゃあ行くか」

「はーい!」

「何でそんなに気軽に……遊びじゃねえんだぞ……」

呼びに来た若い羊飼いさんがブツブツ言ってるけど、羊だろ? 今や虎とか獅子とか狩ってるこのメンツに緊張感は生まれませんって。

それを言うとまた面倒臭そうなので、言わずに城壁の外へ出る。

するとそこには、ガランさん以外の羊飼いさん達が大勢いた。

「おう、来たかガラン」

「お疲れ様です! ガランさん!」

「お疲れ様です!」

おおう、ガタイの良い羊飼いさんがガランさんに向かって一斉に頭を下げた。

下げてないのはガランさんとタメ口聞いてた人だけだ。

それにしても、ハルバードを手に持ちローブを纏ったガチムチの集団……これだけでも恐ろしい光景だな。

持ってるハルバードは皆同じ物だ。

まさかそれが国家養羊家の証なんじゃ……。

「ところで、その小僧共はなんだ?」

ガランさんとタメ口聞いてた人がこっちをギロっと睨みながら質問した。

こえーよ!

「そう睨むなバラック。コイツはシン、今回の件で手伝ってくれるって言うから連れてきた。ああ、言っとくけどコイツら相当高位の魔法使いだからな。戦えるのかって質問はナシでな」

「お前がそう言うなら、これ以上は追及せんが……何で手助けを?」

まあ当然の質問だわな。魔物化した羊は国家養羊家しか取り扱っちゃいけないんだもの。兵士を除けばこの討伐にメリットはない。

「ガランさんには色々と便宜を図ってもらいましたからね。恩返しですよ」

「フ、フハハハ! そうか恩返しか。なるほどな」

お?何かウケた。睨まれなくてよかった。

「来たぞ! 羊の群れだ!」

バラックさんというガランさんの友人らしい人と話していると、誰かが叫んだ。

おお、凄いな。あれ全部魔物化した羊なのか? ざっと見ただけで百……いや二百はいるな。

「皆怯むなよ! むしろ稼ぎ時だと思いやがれ!」

ガランさんの掛け声で羊飼いさん達の表情が変わった。

皆獰猛な笑みを浮かべて羊の群れを見ている。

だからこえーよ!

「シン、悪いが羊毛にダメージの残る火の魔法は避けてもらえるか?」

「多少の傷は?」

「製糸するからな、傷はあっても問題ない」

「だそうだ、皆火の魔法以外でな」

『はーい』

何とも緊張感に欠ける返事だこと。

そうこうしてる間に羊の群れが近付いて来た。

よし、じゃあ先制しとくか。

そう思い、地面に向けて魔法を放つ。

羊の群れの目の前に、先の尖った杭が地面から突き出した。

『メ゛エエエエ!!!』

先頭を走っていた十数頭が串刺しになり、羊の断末魔が聞こえた。

その光景に羊飼いさん達が呆然としているけど……。

「後続が乗り越えて来ます! 構えて!」

その声に我に返った羊飼いさん達が、後ろから乗り越えて来た羊を次々と討伐していく。

おお、凄いな。ガチムチの集団がハルバードを振り回し羊を狩りまくっている。

対する俺達も、風の刃に水の刃といった魔法で次々と討伐していく。

そうして、あっと言う間に羊の群れは討伐されてしまった。

まあ、羊だしな。

諺じゃ無いけど、狼に率いられてる訳じゃないし。

それにしても、兵士さんも討伐に加わっていたのだが……羊飼いさんの方が圧倒的に強かった。

この国の最強はやはり羊飼いさん達なのだろうか?

そんな事を考えていると……。

「スゲエな! まさかここまでとは思って無かったぜ!」

「本当だな……ほとんど小僧達で討伐しちまったんじゃねえのか?」

「あの……さ、さっきは失礼な事を……」

羊飼いさん達が集まって来た。

「まあ、羊ですしね」

「そう言える事が凄いんだが……小僧達は普段何を狩ってるんだ?」

「はは、まあそれは良いじゃないですか」

「これだけ強いと虎や獅子なんかを狩れると言われても信じそうだ」

「さすがにそれはねえだろ」

「まったくだ」

『ガハハハ!』

あ、やっぱりそういう認識なのね。言わないでよかった。

羊飼いさん達と話していると、オーグ達もやって来た。

さて、これでもう何も無いだろうし、ようやく出発出来るかな?

「今回の事は助かった、俺はバラック。バラック=クルークだ」

「あ、俺はシン、シン=ウォルフォードです」

バラックさんが握手を求めて来たので俺も自己紹介しながら握手に応じた。

そういえば、ガランさんには苗字教えて無かったな。

ガランさんが名前しか名乗らなかったから、俺も吊られて名前だけで自己紹介してしまったからな。

「ウォルフォード? かの英雄と同じ苗字なのか?」

「へえ、アールスハイド以外でも有名なんですか?」

「当たり前だろう。賢者マーリン=ウォルフォードの英雄譚は広く世界中で読まれている。かくいう俺も子供の頃は憧れたものだ」

「へえ……じいちゃんが聞いたら悶絶しそうだな……」

「じいちゃん?」

「あ、マーリン=ウォルフォードは俺のじいちゃんなんで」

「な! え? え?」

「話は終わったか? ではそろそろ出発するぞ」

「ああ、分かった。それじゃあガランさん、バラックさん、失礼します」

ああ、ようやく出発出来た。次はクルト王国か、そういえばこの国の説明はまだ聞いてなかったな。

そんな事を考えながらカーナン王国を後にした。

『えええええええ!?』

後ろから何か叫び声が聞こえてたけど。