軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

慟哭

エリー暗殺未遂事件から数か月後。

結局、仲介者を逮捕することはできなかったけれど、入国審査を厳しくしたことで国外から不穏分子が流入することを防ぐことに成功していた。

入国審査が厳しくなっていることを知らずに、違法な物をアールスハイド国内に持ち込もうとして国境で逮捕される者が続出したとのことだ。

入国審査の厳格化は国内の治安上昇にも寄与したらしく、犯罪発生率が減少したそうだ。

思わぬ副産物だったとオーグが言っていたな。

とんでもない大事件が起きたけど、結果的に国内の治安が良くなったので、街を歩いていてもとくに危険な目に遭うことはない。

なので、今は秋口になり過ごしやすくなったある日の休日。

安定期に入ったシシリーと、最近益々やんちゃになっているシルバーを連れて散歩をしているのである。

「おさーんぽ! おさーんぽ!」

俺とシシリーに手を繋がれ、シルバーは上機嫌に歩いている。

シシリーは安定期を過ぎてまた魔法が使えるようになったので、現場復帰した。

護衛として一緒にいるナターシャさんはいつも心配そうだ。

今も、俺たちに付き従ってオロオロしている。

「あ、ああ、シルバー坊ちゃま! そんなに聖女様のお手を振られては……」

「う?」

「もう、大丈夫ですよナターシャさん」

「し、しかし……」

創神教の司教で、教皇であるエカテリーナさんを敬愛しているナターシャさんは、エカテリーナさんが聖女認定したシシリーのことも同様に敬っている。

それにしても、これはちょっと敬い過ぎではないだろうか?

そう思ったのは俺だけではなかった。

「はぁ、いい加減にしろよナターシャ。過保護過ぎたらシシリーのストレスになるって」

シシリーが魔法を使えるようになっても、なぜか護衛として一緒にいるミランダがナターシャさんに苦言を呈する。

まあ……ミランダはミランダで大雑把過ぎる気はするんだけどね……。

「はあっ!? 私はただ、聖女様をお守りしたい一心なだけです!」

「それはいいけど、やり方が過干渉すぎるっていってんのよ!」

「なんですって!?」

この二人、護衛として一緒にいる間に随分仲良くなったなあ。

最近は、口を開けば喧嘩ばっかだ……。

正直、このやり取りがシシリーのストレスになっているような気がしてならない。

実際、シシリーも苦笑してるし。

もうそろそろ二人を止めようかと、そう思ったときだった。

「けんかは、メッ!」

シルバーが俺とシシリーから手を離し、後ろを振り向いて二人を諫めた。

「え、あ、ち、違いますよシルバー様!」

「そ、そうだぞー。アタシたちは喧嘩なんかしてないぞシルバー」

ナターシャさんとミランダに向かって、頬を膨らませているシルバーに、二人は慌ててしゃがみ込み喧嘩はしていないと弁解していた。

「むー!」

しかし、さっきのやり取りを聞いていたシルバーは、その言葉を信用せず、まだ二人を睨んでいる。

「「うっ……」」

純真無垢な子供にそんな目を向けられた二人は、激しく動揺し気まずそうにお互いを見た。

「あの、すみません。ムキになり過ぎましたわ」

「いや……アタシも言い過ぎた。ゴメン」

そう言ってお互いに謝ると、それを見ていたシルバーは首を傾げた。

「なかよし?」

そうシルバーに訊ねられた二人は、急に肩を組んだ。

「ええ!」

「アタシたちは仲良しだぞ!」

さっきまで喧嘩していたとは思えないほどニコニコとシルバーに向かって笑顔を見せる二人。

それを見たシルバーは、ニパッと笑った。

「よかった!」

うわ、ナニコレ、滅茶苦茶可愛いんですけど!

「はわぁ……シルバー可愛いです!」

シシリーも俺と同じ気持ちだったらしく、さっきまでの苦笑から一転、蕩けるような笑顔をシルバーに向けている。

俺は、二人の喧嘩を仲裁したシルバーの頭を撫でて褒めてあげる。

良いことをしたときは褒めてあげないとね。

「シルバー凄いぞ。お姉ちゃんたちを仲直りさせてあげたな」

俺がそう言うと、頭を撫でられてくすぐったそうにしていたシルバーが顔をあげて「うん!」と微笑んだ。

「はぁ……シルバーが可愛すぎて辛い」

「分かります」

「う?」

俺の呟きに、シシリーが即答で同意した。

当のシルバーは意味が分かってなさそうだけどな。

「親馬鹿夫婦……」

そんな俺たちを見て、ミランダがそんなことを言った。

「親馬鹿って、そんなことないだろ」

「そうですよミランダ。シルバーが可愛いのは事実です。事実を言っているだけで決して親馬鹿ではないですよ」

「発言がもう親馬鹿だろ……」

むう、なんでミランダはゲンナリしてるんだ?

シルバーが良い子で可愛いのは事実だろうが。

「確かに、シルバー様が良い子で可愛いのは事実ですが……それはあれですか? お母さまが妊娠していると、上の子が親の愛情をお腹の子に取られたと勘違いするので、そうさせないためにシルバー様を構われているのですか?」

「「え?」」

「あ、素だわ。コレ」

そういえば、お腹の子にばかりかまけてシルバーを蔑ろにしないように気を付けようってシシリーと話したことがあったわ。

すっかり忘れてた。

「まぁ……シルバー様がお二人の愛情を感じられているのであれば問題はないですね」

ナターシャさんからもお墨付きを貰ったし、問題ないな。

「さて、こんなところでゆっくりしてないで、そろそろ行こうか」

「そうですね。公園でシルバーのお友達も待っているでしょうし」

「あい! おともあち! あしょぶ!」

友達と公園で遊ぶのが楽しみなのか、シルバーは再び俺たちの手を取り、グイグイと引っ張って歩き始めた。

おお、随分力が強くなってる!

「シルバー、そんなに急ぐと、公園に着いた頃には疲れちゃって遊べなくなっちゃ……え?」

「う?」

一生懸命俺たちを引っ張って行こうとするシルバーを、シシリーが優しく宥めていたのだが、その途中でなにかを見つけたのか、言葉を切って歩みも止めてしまった。

「まま?」

「シシリー、どうした?」

「あ、あれ……」

なにかを見つけたシシリーは、ある一点を指差した。

その手は、若干震えている。

シシリーが震えるようなことがあったのかと、俺は警戒心マックスで指差す先を見た。

すると……そこで、俺も驚愕する光景が目に入ってきた。

「な……なん……だと?」

あまりの事態に、声が掠れた。

目の前の光景が信じられなくて、呆然としてしまう。

言葉が上手く出てこない。

なんだこれは?

俺は……一体なにを見ているんだ……?

信じられない光景に言葉も発せずにいる俺とシシリー。

二人とも動くことすらできない。

そんな沈黙と硬直の時間を打ち破る声が後ろから聞こえた。

「ああああっ!! マリアァッ!!??」

ミランダが急に大声を上げて突撃していった。

「ん? げっ! ミランダ!? シンにシシリーまで!!」

大声で駆け寄ってきたミランダを見て、その場にいた人物……俺らの仲間でシシリーの幼馴染で親友のマリアがメッチャ嫌そうな顔をした。

「お、おまっ! お前ぇっ!! これは一体どういうことだあっ!!」

そんな嫌そうな顔をしているマリアの胸倉をつかみ、ある一点を指差すミランダ。

そう、その指差す先には……。

「あれえ? シンさんやないですか。奇遇ですねえ」

アルティメット・マジシャンズの事務員、カルタスさんがいた。

ようやく俺も現実が受け入れられてきた。

二人がいたのはカフェのオープンテラス。

俺たちが見たのは、そこで二人仲良くお茶している光景だったのだ。

え? いつの間に?

二人ってそういう関係になってたの?

全く気が付かなかった!

「マリア! お、お前! いつの間にそんな……か、彼氏なんて……」

ミランダのその言葉に、マリアは慌てて立ち上がった。

「だあっ! ち、違うわよ! 大体、私がカルタスさんと一緒にいるのはアンタたちのせいなんだからね!」

「はあっ!? 意味の分からんことを言うな!」

なんだよ、俺たちのせいでカルタスさんと一緒にいるって。

俺ら、二人のキューピッドなんてした覚えねえぞ?

すると、マリアは俺たちにジト目を向けてきた。

「シシリーは妊娠してるし、ミランダはそのシシリーの護衛でずっと一緒にいるし、一緒に出掛ける人間がいなくなっちゃったのよ!」

ああ、そういえば、この三人って学生時代から仲良かったっけ。

あれ? でも……。

「それなら他の人間誘えばいいじゃねえか。なんでカルタスさん?」

俺がそう言うと、マリアは憮然とした顔をした。

「オリビアはシシリーと同じで妊娠してるし、休日は大体マークと一緒にいるでしょ。ユーリは彼氏とずっと一緒にいるし、リンは暇さえあれば魔法学術院に行ってるし、アリスはなんか用事があるらしいし」

そして、マリアはなんも予定がないらしい……。

「カ、カタリナさんとかアルマさんとかは……」

「あの二人はなんか仲良いし、割り込みづらいのよね……シャオリンさんも忙しそうだし」

ああ、そっか。

カタリナさんは憧れの先生と友達付き合いができて嬉しいらしく、休日になると二人でよく一緒に出掛けていると聞いたことがある。

アルマさんも、初めて全部曝け出せる友人が出来て嬉しそうにしてたな。

「で、残ったのがカルタスさん? イアンさんとアンリさんはなんで除外?」

「イアンさんは筋肉で暑苦しいし、アンリさんは変態だから」

……そういや、イアンさんはともかくアンリさんは初対面から飛ばしてたな……最近はそういうこと言わないから忘れてたけど。

「で、消去法でカルタスさんしか休日に誘えるような人がいなかったってわけよ」

「消去法って、寂しいこと言わんといて下さいよマリアさん」

「ああ、ゴメンねカルタスさん。まあ、カルタスさんなら一緒にいても不快な思いはしないし、私も一人で休日ブラブラしてるとなんか死にたくなるし、聞いたらカルタスさんも休日は大抵一人でいるって言うから、なら一緒に出掛けないかって誘ったのよ」

「そうだったのか」

なんだ、ようやくマリアにも春が来たのかと思ったのに。

けどまあ、今まで男っ気が全くマリアからしてみれば大きな進歩か。

今はまだ職場の同僚って立場でも、こうやって休日ごとに一緒に出掛けたりしていれば仲が進展するかもしれないしな。

そのとき「ギリッ!」っと何かを擦り付けるような音がした。

音のした方を見てみると、そこには歯を食いしばり、血涙を流しそうな顔をしたミランダがいた。

「ミ、ミランダ? どうし……」

「休日に……」

「え?」

「休日に男と一緒ってだけで羨ましいんだよ! コンチクショウがっ!」

ミランダはそう言うと、グスグスと泣き始めた。

……ええ!?

なんで泣くの!?

「ちょ、ちょっとミランダ」

マリアも慌てて寄って来てミランダの背中を摩り始めた。

「うう……クリスお姉さまもご結婚されてしまうし、マリアは男友達と仲良さそうにしてるし……なんでアタシだけ……」

うわ、ミランダガチ泣きしてる。

そんなに悔しかったのか……。

「わ、私もそんなんじゃないから。それに、ミランダにもいつか休日を一緒に過ごせる人ができるって」

「……マリアが上から目線になったぁ」

「ちょっ! 違うって言ってんでしょ!!」

ミランダを宥めたり怒ったり、マリアは忙しいな。

そんな二人を見ていると、カルタスさんがいつの間にか俺の側に寄ってきていた。

「シンさん、ちょっとエエですか?」

「はい? なんですか?」

するとカルタスさんは、二人には聞こえないように声を潜めて話し始めた。

「マリアさんはああ言うてますけど、ホンマのところはどうなんですやろ?」

「本当のところって?」

俺がそう訊ね返すと、カルタスさんはマリアたちを見てさらに声を潜ませた。

「マリアさん、脈無しですやろか?」

「!」

こ、これは……!

カルタスさんもしかして本気か?

「え、ひょっとして、マリアのこと……」

俺もヒソヒソとそう言うと、カルタスさんはちょっと苦笑した。

「エエと思うんですけどねえマリアさん。可愛いし、仕事も真面目やし、なんで今まで彼氏が出来へんかったんか不思議なくらいですわ」

「それは……なんというか、男運が悪いというか、碌なのが寄ってこないというか……」

マリア自身は男嫌いではない。

常々彼氏が欲しいと堂々と宣言しているし、俺たちなどパートナーがいる人間のことを羨ましそうに見ていることも多い。

しかし、マリアに声をかけてくる男は、結構非道いナンパが多いんだよなあ。

そんなことを簡潔にカルタスさんに話すと、フムと少し考える素振りをした。

「ちゅうことは、性急にことを運ぶのは逆効果ですか?」

「でしょうね。彼氏は欲しいけど、ガッツいてるのは嫌いみたいですから」

そう言うと、カルタスさんはニコッと笑った。

「いやあ、エエ話が聞けましたわ」

「そ、そうですか?」

「ちょっと、男二人でなにコソコソ喋ってんのよ?」

丁度話が終わったころ、マリアが俺たちに声をかけてきた。

「ああ、シンさんに、アールスハイド王都でお薦めのスポットとか聞いとったんですわ」

「そ、そうそう!」

さっきまで話してたことをマリアに言うわけにもいかないので、カルタスさんの話に乗っかって話を合わせた。

「はあ? シンって王都住まいだけど、そんな詳しくないでしょ?」

「う……」

しまった、いきなり破綻した。

「だ、だから、聞かれても分かんないって謝ってたんだよ」

「いやあ、残念ですわ。男目線で面白いとことか知らんかと思ったんですけどねえ。っちゅうわけで、スンマセンけどマリアさん、引き続き案内お願いしていいですか?」

カ、カルタスさん……!

まさか、あの流れから自然とマリアにエスコートを頼むように持っていくとは!

カルタスさんって、元々メッチャ仕事出来る人だし、これ、マリア陥落させられてしまうんじゃ……。

ま、いいか。

それはそれでマリアにとってもいいことだろうしな。

……ミランダには申し訳ないけど……。

「そういえば、シンさんたちはお子さん連れてお散歩ですか?」

「あう」

カルタスさんは、俺たちの足元にいるシルバーに目をやり、頭を撫でながらそう訊ねてきた。

シルバーは、初めて見るカルタスさんを不思議そうな顔で見ていたが、頭を撫でてくれたことで良い人だと判断したらしい。

ニコニコしながらカルタスさんの手を受け入れていた。

「ああ、はい。公園まで散歩して、シルバーを遊ばせようかと思いまして」

「エエですなあ、幸せそうな家族団欒。俺も子供欲しなってきたなあ」

カルタスさんがそう言うと、マリアの顔がちょっと赤くなった。

……もう大分陥落してねえか?

ともかく、シルバーをあんまり待たせるのも悪いので、二人に声をかけてその場を離れることにした。

カフェが見えなくなると、ミランダが深い溜息を吐いた。

「うう……マリアの裏切り者めぇ……」

「あはは……」

ミランダの溢した言葉に、俺たちは苦笑しかできない。

今のところまだそういう関係にはなっていないみたいだけど、カルタスさんは本気みたいだし、そうなるのも時間の問題かもしれないな。

「騎士団にはそういう相手っていないのか?」

一応ミランダの思考の先を誘導しようとそう訊ねるが、俺の顔を見てきたミランダの顔は、なにか渋いものを口に入れたような顔をしていた。

「……同期からは、相変わらず女に見られてない」

「そ、そうか……」

「じゃ、じゃあ、先輩とかは? ミランダだって可愛いんだし、先輩はそんな風に見てこないでしょ?」

シシリーも俺に同調して話しかけるが、ミランダの表情は冴えない。

「先輩方は……なんというか、可愛がってはくれるのだが、異性に見られている気がしないんだ……」

「どういうこと?」

「なんというか……同期の他の女子を口説いてるのを見たことがあるけど、アタシはそんなのされたことないんだ……その同期の女子との扱いを比べると、アタシはなんていうか、妹扱いされてる感じがするっていうか……」

「「ああ……」」

実際に他の女子との扱いの差を見てしまって、差が歴然と分かってしまったということか。

それにしても、なんでミランダだけ妹扱いなんだろ?

そのことを不思議に思っていると、意外なことにナターシャさんがその答えと思われることを話し始めた。

「恐らく、ミランダの経歴のせいですね」

「え?」

予想外のことを言われたのか、ミランダがキョトンとした顔になった。

「シシリー様の護衛を一緒にすることになってから、色々と調べさせてもらいました。一緒に仕事をするわけですから、為人を知ることは必要でしょう?」

「そうですね」

「その際に、ミランダが学生の頃からシン様たちと一緒に行動し、学生としては破格の実力を身に着け功績をあげていることを知りました。剣聖ミッシェル=コーリング様のお弟子さんであるということも」

「へえ、そこまで調べたんですか」

凄い情報収集能力だな。

「シシリー様に教えていただきました」

……知ってる人間に聞いただけだった。

「そして、あの魔人王戦役で魔人王シュトロームに対し、シン様たちと一緒に戦い勝利したことも」

「あ、あれは……アタシはただあの場にいただけで大して貢献は……」

ナターシャさんから告げられる内容に、ミランダは恥ずかしそうにしながらそんなことを言った。

「そんなことねえよ。実際スゲエ助かったし」

「そうですよ。謙遜しちゃダメだよミランダ」

「あう!」

俺とシシリーは、ミランダに謙遜するなと言うが、シルバーが訳も分からず同意してくる。

可愛い。

「貢献度合いがどうあれ、あの場にいたことは事実でしょう? しかも、あの場にいた騎士は貴女一人。騎士団としては、あの場に騎士が一人でもいたという事実が重要なのです。その結果、先輩方は貴女のことを騎士団の面子を保ってくれた人物として見ているのですよ」

「そ、そうなのか?」

「ええ。騎士団の方に聞きましたから間違いありません。同期の方は……やっかみですかね?」

「やっかみ?」

ミランダが意味が分からないという感じで首を傾げた。

その様子を見て、ナターシャさんは驚いて目を見開いた。

「貴女、本当に分かっていませんの? 騎士団入団前から先輩方にそういう目で見られていたことに加えて、今度は聖女様の護衛ですわよ? 騎士団に入団したばかりなのにそんな大抜擢を受ければ、嫉妬されるに決まっているではありませんか!」

ナターシャさんの言葉を聞いて、今度はミランダが目を見開いた。

「え? アタシが選ばれたのって、元々シシリーと友達だったからじゃないの?」

そんなことを言うミランダに対し、ナターシャさんは今度は怒りを露わにした。

「なにを言っているのですか貴女は! 聖女様の護衛ですのよ!? この世界で一番大事にお守りしなければいけない御方の護衛に、仲がいいだけで選ばれるわけないじゃありませんか!」

「そ、そうですか……」

ナターシャさんのあまりの剣幕に、ミランダが思わず敬語になってる。

……実は、俺もミランダと同じことを考えていたけど、黙っておこう。

隣を見ると、シシリーもびっくりした顔をしているので、俺と同じ考えをしてたな。

ミランダが護衛についてくれるっていうのを嬉しがっていたし。

「まあ、そんなわけでですね。ミランダは騎士団の先輩方からは、騎士団の面子を保ってくれた恩人と見られています。そんな恩人に手を出すのは憚れるということで、結果的に妹的な扱いになっているんだと思いますよ」

「そうだったのか……」

自分に対する事実を知って、ミランダは喜んでいいのか女子扱いされていないことを嘆いていいのか分からない、複雑な表情をしていた。

でもまあ、騎士団の先輩たちからは変な目で見られているわけじゃないんだな。

今は妹扱いでも、将来はどうなっているか分からないし、そんなに悲観しなくてもいいんじゃないだろうか?

「ところで、ナターシャさんが話を聞いた先輩って誰なんですか? 結構詳しいこと知ってるみたいですけど、そんな時間ありましたっけ?」

ナターシャさんは基本シシリーにべったり張り付いているものだと思っていたけど、いつの間にそんな情報収集をしたんだろう?

「クリスティーナ様に伺いました」

……また超身近なところが情報源だったよ。

でも、クリスねーちゃんなら騎士団の詳しい話も知っているし、ミランダのこともよく知っている。

情報収集るすには最適な相手か。

「そういうわけですので、そんなに落ち込まなくてもいいんじゃありません?」

ナターシャさんがそう締めくくると、ミランダはさっきまでの落ち込んだ表情ではなくなっていた。

「そっか……ありがとうナターシャ」

「いえ、どういたしまして」

それにしても、ナターシャさんって落ち込んでる人を救い上げるのが上手いよなあ。

流石は本職の聖職者ってことか。

普段はちょっとポンコツだから、こういう場面を見るとギャップで余計にそう思ってしまう。

そんな生温かい目でナターシャさんを見ていると、ミランダが爆弾を放り込んできやがった。

「ところで、ナターシャ自身はどうなんだ?」

その言葉を受けたナターシャさんの顔が、ピキリと固まった。

「わ、私は神子ですから……」

「え? 神子さんって結婚できるんだよな?」

同意を求めるようにシシリーを見るミランダ。

いや! シシリーじゃなくてナターシャさん見て!

顔に血管浮いてるから!

メッチャキレてるから!!

シシリーもナターシャさんの様子に気付いて顔が引きつってるよ! 気付いて!

この思い、ミランダに届け!

……と、祈るものの、その祈りはミランダに届かなかった。

「なあ、ナターシャ……」

「おりませんわよ!」

それは、魂の叫びだった。

「ええ、そうですわ! 今も、今までも恋人なんていたことありませんけど、それがなにか!?」

「え……あ、ごめ……」

「来る日も来る日も国のために魔物を討伐し続けて……付いた渾名が『野獣神子』の私にそんなお相手ができると思いまして!?」

「す、すまない……知らなかったんだ……」

ミランダが必死に謝るけど、一度火のついたナターシャさんは止まらない。

「同期の中には、もう結婚して子供までいる子だっているのに! なんで私にはなんもないのよ!? 私だって、私だってえっ!!」

ナターシャさんはそう叫びながらしゃがみ込み、顔を両手で覆った。

今までそんな素振りを見せたことがなかったから知らなかったけど、ナターシャさんも彼氏が欲しかったんだなあ……。

そんなナターシャさんの気持ちが痛いほどわかるのか、ミランダが慈愛の表情を浮かべてナターシャさんの肩を叩いた。

「ゴメン、ナターシャ。知らなかったとはいえ無神経なこと聞いたな」

「ミランダ……」

「アタシも頑張るからさ、ナターシャも頑張ろう? そして、いつかきっと素敵な恋人を見つけようよ」

「ミランダァ……」

二人はそうして膝をついて抱き合い、涙を流し合った。

とても美しい光景だけど、内容はメッチャ残念なやり取りをしている二人。

そんな二人を見ていたシルバーが、トテトテと近付いていき、二人の頭を撫でた。

「よちよち」

シルバーに頭を撫でられた二人は、ハッとしてシルバーの顔を見た。

「……こうなったら」

「シルバー様でも……」

二人の目がヤバイ。

俺は咄嗟にシルバーを抱き抱えた。

「幼児になに言ってんだお前ら!」

「そうですよ! 年の差を考えて下さい!」

いやシシリーさん、そういう問題……でもあるのか。

どうやら錯乱している様子の二人をなんとか宥めて、ようやく散歩を再開させた。

はぁ……まだ公園にも辿り着いていないのに、もう疲れたよ……。