軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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翌日、クワンロン側が用意してくれた朝食を食べたあと、いよいよ国交樹立のための話し合いが持たれた。

場所は割とこじんまりした会議室。

かなり内密な話なので、大きい会議室に大人数でとはならなかった。

一通りお互いに挨拶をしたあと、早速話し合いに入った。

まず話し合われたのは、お互いの国の国民が国の行き来をすることについて。

観光とか、仕事とか、場合によっては移住なんかだな。

飛行艇でも一日では辿り着かないので、中継地点にお互いが出資して宿場町を作ることとか、あとは入国審査など。

お互い、邪な考えの人間は国に入れたくないので、お互いの国に大使館を作って大使を常駐させること。

その大使館で入国審査が行われ、ビザが発行された人間だけが行き来できることなどを決めて行った。

これは、ほぼナバルさんとオーグの主張通りになった。

というのも、現状クワンロンと西側の国とを結ぶ移動手段が飛行艇しかないからだ。

歩いていくと一年かかるのはシャオリンさんや、今までお互いの国に辿り着いた人たちの証言から明らかだからね。

そして交易の話の前に、為替についても話し合われた。

これは、西側で流通している貨幣とクワンロンの貨幣をどのレートで交換するかという話。

クワンロンもまだ紙幣は流通していないらしく硬貨が貨幣だった。

なので、こちらの銅貨一枚がクワンロンのなにと同等なのか、市場価値と照らし合わせて決めていった。

ここまではお互いに分かり切っていた話だったので話し合いはスムーズに進んでいった。

その様子が変わったのは、交易に関して話し合いをしているときだった。

ナバルさんは、お互いの国の品についての全てを交易の対象とする旨を伝えた。

クワンロンもエルス側も、お互いかなり文化が違うし新しい物が入ってくるのはお互いにいいことであると思われたので、ハオさんも了承しかけたのだが補佐官の耳打ちでその提案は却下された。

『全てというわけにはいかない。いくつかの品には制限をかけさせてもらう』

その言葉を聞いて、ナバルさんだけでなく俺たちもピンときた。

「その制限をかけるという品とはなんですか?」

ナバルさんの質問に、ハオさんは当たり前のように言った。

『竜の革だ』

やっぱり、思った通りだ。

竜の革は、現在クワンロンで禁止素材となり流通がストップしてしまっている。

それを輸出するわけにはいかないと言ってきたのだ。

「そうですか……せやけど、おかしな話ですなあ」

『おかしいだと? 我が国で流通を禁止しているものを制限してなにが悪いのだ?』

「いやいや、道中話を伺わせてもらいましたけど、竜の革は結構な量の在庫があるとか?」

『それがどうした?』

「いえね、在庫があってそれが流通に乗せられへんということは、それって不良在庫っちゅう話ですやろ?」

『ふ、不良在庫だと!?』

「そうでっしゃろ? うち等は、その不良在庫の処分をして差し上げると、こう言うてますねんで? なんで反対しはりますの?」

『そ、それがこの国の定めた法だからだ!』

「そもそも、その法って『国内』の流通を制限するものでっしゃろ? 国外に輸出することを禁じるものとちゃいますな」

『な、ならば法案の改正を進言する!』

「おっと、それはなしでっせ。そんな後出しじゃんけんみたいな真似、許すわけにはいきませんな」

おお……法の不備を突いてきたぞナバルさん。

そもそも、竜の禁猟と竜の革の流通制限自体、シャオリンさん曰くおかしい法だそうだから、叩けばなにか出てくるのかもしれないな。

ナバルさんをしばらく睨んでいたハオさんだったが、やがて厭らしい笑みを浮かべて反論してきた。

『そうか、ならば竜の革の交易を認める代わりに、こちらも飛行艇の権利を譲ってもらおう』

勝ち誇った顔でハオさんがそう言った。

そうきたか。

ナバルさんはどうするんだ?

そう思っていると、澄ました顔でナバルさんは言った。

「そらできませんな」

『なんだと! 一方的に要求だけしておいて、こちらの要求は呑めないというのか!!』

「そういう話とちゃいますねん」

『ならばなんだと言うのだ!』

「そもそも、あの飛行艇はうち等のものとちゃいますねん」

『は?』

「あれは、とある人物が個人で作ったものでしてな。私らも貸与ということで使わしてもろとんですわ」

『こ、個人だと……』

ハオさんが信じられないといった表情になった。

まあ、そうだよな。

飛行艇なんてもの、本来なら国が所有しているものだと思うよね。

でも、あれ、一応個人……っていうかアルティメット・マジシャンズの所有物なんだよね。

「というわけでしてね。飛行艇は交渉の材料にならんのですわ。ほんで、竜の革についてですけど、今認めるって言いましたな」

『な!? あれは飛行艇と交換ならばということだ!』

「これまたおかしな話しよりますな」

『なにがおかしいというのだ!?』

「『飛行艇と交換なら竜の革は交易してもいい』そう言いましたな」

『それがなんだ!』

「おかしいでしょ。てっきり、希少なもんやから外国には売れんって言うのかと思たら、交換条件次第なら売ってもエエって」

『そ、それは……!』

「ということは、竜の革自体は売っても別に構へんと、そういうことでっしゃろ?」

『だから! 飛行艇と引き換えだと言っているのだ!』

「分かれへん人やな。アンタ、さっきからなにかと引き換えやったら竜の革売ってもエエって言うとんのやで?」

『な、は?』

「ただ、こちらが飛行艇は個人の所有物やから売れんって言うとるだけで、アンタ交易には応じるって言うたんやで?」

『……!』

うわ、完全に丸め込んだ。

ハオさん、怒りで顔を真っ赤にしてるけど、言い返せなくて黙り込んじゃったよ。

ナバルさんは、涼しい顔して出されたお茶飲んでるし。

隣のオーグも、感心したような顔してナバルさん見てるな。

「言うた言葉は呑み込めん。ということで竜の革は取引させてもらいますよって」

結局、ナバルさんは最後まで表情を変えず、最後はにこやかにそう言って竜の革の交易を突き付けた。

そんなナバルさんを睨み付けていたハオさんだが、最後の足掻きなのかまだ文句をつけてきた。

『……だが、そちらはなにも対価を示していないではないか!』

「そらこれから竜の革を取り扱うてるとこと、ウチが交渉することですわ。お宅がとやかく言うことやおまへんな」

『ぐぎぎぎ……!』

最後の足掻きも軽くあしらわれ、ハオさんは歯ぎしりして悔しがっていた。

そのハオさんだが、補佐官からなにかを耳打ちされたあと、急に通訳であるシャオリンさんを睨み、怒鳴りつけた。

シャオリンさんはなにか言いたそうだったが、結局なにも反論せず、その言葉をこちらに通訳もしなかった。

なんだ?

そう思ったとき、オーグがシャオリンさんに話しかけた。

「どうしたシャオリン殿。その言葉は通訳してもらえないのか?」

シャオリンさんは、少し困った顔をしたあと、ハオさんが叫んだ内容を通訳しだした。

「あの……私があなた方に情報を流したんだろうと……そう言われました」

まあ、完全に事実だけどね。

結果としては、シャオリンさんの情報で国が交渉に負けた形になる。

だけど、そもそもシャオリンさんがその国の決定に納得していない立場なのだから、こうなることは必然だろう。

ただ、自分の国の人間に口汚く罵られたら悲しくはなるよな。

「こちらからは以上ですな。まだなにかありますか?」

『……認めん』

「は?」

『竜の革の交易は認めんと言ったのだ! この交渉は無効だ!』

この期に及んでまだそんなこと言ってるのか。

ただ、ハオさんが納得しないと交易が認められない。

勝手に取引をすれば、それこそ密輸入になってしまい今度はハオさんに大義名分を与えてしまうことになる。

これ、交渉はどうなるんだ?

そう思っていると、ナバルさんは溜め息を吐いて言った。

「今日の所はこれまでにしましょか。どうもそちらは冷静な判断ができてへんみたいですし」

ナバルさんはそう言うと席を立った。

「再度の話し合いは……そうでんな、そちらも協議とかあるでしょうから三日後に再開しましょか」

『……何度話し合いをしても変わらん!』

「子供同士の話し合いやないんやし、一回の交渉で全部纏まるわけあらしませんやろ? 一遍よう考えて、それから結論出しましょうや」

『……』

「ほな、三日後、また来るよって。それまで別のとこで宿取らせてもらいますから」

そう言って、ナバルさんは会議室を出て行った。

その後を俺たちとシャオリンさんも追おうとしたのだが、ハオさんがシャオリンさんにまたなにか叫んだ。

シャオリンさんは、今度は冷静に言い返すと俺たちに付いてきた。

「シャオリンさん、なにを言われたんですか?」

付いてきたものの、ちょっと悲しそうな顔をしていたので、何を言われたのか聞いてみた。

「その……お前は一緒に行くことを許さんと言われたので、私がいないとこの国の言葉も分からない人たちを放っておけないと言って出てきました」

そう言って、笑いかけてくれた。

「そうですか……でも、良かったんですか? 結果としてクワンロンの国相手に喧嘩を売った形になると思うんですけど」

「いいんです。今回に関しては、私は完全にナバル殿側です。あのハオを言いくるめたとき、顔がニヤけるのを我慢するのが大変なくらいでした」

「……なにか、個人的に恨みでも?」

「あいつなんです」

「なにが?」

「あいつが、竜の禁猟と革の流通禁止を決定した張本人なんです!」

そう言うシャオリンさんの顔には、憎々し気な表情が浮かんでいた。

「なにを考えてるかは知りませんが、アイツが嘘の報告書を作成して法案を可決させてしまったんです」

「シャオリンさん……ミン家にとってハオさんは敵ってことか」

「はい。国がどうこうではなく、アイツ……ハオの思い通りにはさせたくありません」

「なんとも、子供っぽい理由だな」

「……」

オーグの皮肉っぽい物言いに、シャオリンさんは唇を噛んで黙り込んでしまった。

「まあ、そのお陰でこっちは有利に立てたんや。それでエエやないですか」

一瞬流れた微妙な空気を払拭するようにナバルさんがオーグとシャオリンさんの間を取り持った。

「それにしても、凄かったですよナバルさん。完全に丸め込みましたね」

「いやあ、はは。恥ずかしながらアレ、アウグスト殿下の真似ですねん」

「オーグの?」

どういうこと?

「実は、三国会談のとき私もあのハオと同じような要求をしましてなあ……そのとき言われたんですわ。あれは個人の所有物やから交渉には使えんて」

「そういえば、あったな。そういうの」

「アイツらはこっちのことをよう知りません。現状どうしても欲しがるもんっちゅうたら飛行艇ですやろ? でも、あれは魔王さん……っちゅうかアルティメット・マジシャンズのもんや。それを利用させてもろたんですわ」

「はあ……やっぱ国の代表になるだけあって、すごいですねナバルさん」

「褒めてもなんも出ませんで?」

ナバルさんには茶化されてしまったけど、これは嘘偽らざる本心だ。

法の穴を突く交渉、こちらの情報を隠して相手から言質を取ってしまう手段。

どれも見事だった。

そう思っているのは俺だけではなかった。

「まったく、あのときにもこれくらいの交渉をしてくれていれば、話は早かったのだがな」

「そ、それは言いっこなしでっせ殿下。それにあのときは、あの生臭坊主がおったせいでちょっと感情的になってましたし」

「まあ、そういうことにしておいておこう」

「そういうことやのうて、そうなんですって! ちょっと、殿下!」

ハオさんとの交渉では無敵感のあったナバルさんも、オーグ相手だと形無しだな。

まあ、友好国の王太子だし、あまり強気には出られないか。

そんな話をしながら悠皇殿を出ると、来たときに乗った馬車は一台も停まっていなかった。

「ふむ、我々に貸し出す馬車はないということか」

「エエんちゃいます? こんだけ敵対してくれた方が分かりやすうてエエわ」

俺たち、一応賓客になると思うんだけどな。

それにこの仕打ちって、かなり敵対視されてない? 俺たち。

とはいえ、馬車なしでどうしようかなと思っていると、シャオリンさんが声をかけてきた。

「皆さん、歩きになってしまいますけど、我が家へいらっしゃいませんか? 宿泊もウチでして頂ければ結構ですので」

「おお、ホンマかいな。この様子やと宿が取れるかも怪しいと思とったから丁度ええわ」

「はい! どうぞお泊りになってください。それでは、こちらです」

シャオリンさんはそう言うと、俺たちの先頭を歩き始めた。

流石に勝手知ったるというのか、迷いなくドンドンと進んでいくシャオリンさん。

そのすぐ後ろを使節団の人たちが続き、その後ろに俺たちが続いた。

警戒しながら。

「オーグ……」

「分かっている」

オーグに声をかけたのは、俺たちに敵意を向けている集団がいるから。

交渉が上手くいかなかったとはいえ、いきなり実力行使に出ようとするとはね。

「それにしても、全く敵意を隠そうとしてないな」

「本当にな。この国には索敵魔法がないのか? こんなに気配を駄々洩れにしていてはすぐに気付かれるぞ」

敵意を察知してから、俺たちはシャオリンさんと使節団の皆さんを取り囲むように展開した。

そして、分かっているぞと、刺客たちのいる方向へ視線を向ける。

一見すると誰もいないように見えるが、索敵魔法にはしっかりと相手の魔力が見えている。

まさかバレているとは思わなかったのか、視線を向けると驚いたように魔力が揺らぎ、離れていった。

逃げたな。

「? シシリー殿、どしたのですか?」

シャオリンさんの隣で警戒に当たっていたシシリーに、シャオリンさんがなにごとかと訊ねている。

訊ねられたシシリーは驚き顔だ。

「なにって……シャオリンさん、狙われていましたよ? いつ襲ってくるかも分からないので警戒してたんです」

「ね、狙われて!?」

「!? ど、どういうことだ!?」

シャオリンさんだけでなく、歴戦の戦士っぽいリーファンさんも驚いている。

こりゃあ、本当に索敵魔法、知らないな。

「俺たちは、離れた場所にいる者の魔力を感知することができます。この周囲に、敵意を持った魔力がたくさんあるんです」

「魔力を!?」

「ええまあ。ただ、敵意に囲まれているのが分かってから、すぐに警戒しているところを見せましたし、隠れている刺客に視線を向けたら驚いて逃げていきましたから、もう大丈夫だとは思うのですが」

その俺の言葉にシャオリンさんよりリーファンさんの方が驚いている。

「そ、そんな術が……」

「どうやら、俺たちとは大分違う魔法の文化が育ってるみたいですね」

「どうやら、そのようですね」

「しかし、こうなるとシャオリンさんの家でも警戒は怠ることができないみたいですね」

「そう……ですね」

国から理不尽な法案を突き付けられ、さらに国から命を狙われる。

シャオリンさんは今どんな心境なんだろうな?

とりあえずの危険が去ったあとも、シャオリンさんは落ち込んだままトボトボと歩き続けた。

そして、やがて大きな家が見えてきた。

ただ……。

「着きました。あれが……え?」

シャオリンさんが指さしたのは、その大きな家だったのだが、その家の前でなにやら揉み合いが起こっている。

片方は兵士っぽいけど、もう片方は……。

「な、なにをしているんですか!」

その揉み合いを見たシャオリンさんが一目散に走っていく。

すると、兵士と揉み合っていた方の人が叫んだ。

『シャオリンお嬢様!?』

なんと言ったかは分からないけど、シャオリン、ってのは聞き取れた。

ってことは、あれってシャオリンさんの家の人かな?