軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハオの思惑

「はあ……心臓に悪いわ。なんでいきなり人斬り殺すんや! アホかっちゅうねん!」

「まあまあ、ナバルさん落ち着いて」

馬車に乗りこむなり、ナバルさんがそう吐き捨てた。

「平静装うのがどんだけ大変やったと思てんねんな! それが狙いやろうから精一杯虚勢張ったったけどな!」

結構な剣幕だけど、言ってることはちょっと情けないぞナバルさん。

「しかし、中々やるではないかナバル外交官。三国会談のときとは大違いだ」

「い、嫌やなあ、あのときのことは忘れて下さいよ殿下」

そういえば、三国会談のとき、ナバルさんが出してきた要求にオーグが随分怒っていたことを思い出した。

何を要求してきたのか詳しくは知らないけど、まああんなときでも利益を追求するくらい商人根性が逞しいってことなんだろうな。

「それで、このあとはどうするのだ? ナバル外交官主導で話を進めるのか? それとも、私も話に参加した方がいいか?」

「とりあえず、私だけで話しますわ。こういう交渉を二人で進めるときは、さすがにもうちょっと連携とれてないと……」

「まあ、大まかな打ち合わせをしただけだからな。了解した。ただ、竜の革の交易はなんとしても取ってもらいたい」

「今はご禁制の品やっちゅう話ですからな。まあ、そこはうまいこと言い包めますわ」

「というわけだ、シャオリン殿、通訳のほどよろしく頼むぞ」

「わ、分かりました」

こうして馬車の中で交渉についての打ち合わせをしたあと、大きな建物に着いた。

大きいとは言っても、縦にはそんなに大きくない。

とにかく横に広いのだ。

道中に見た建物もそうだったけど、建築様式はアールスハイド付近ではあまり見られない形式だった。

どっちかっていうと、昔の日本に近いのかな?

木と漆喰で作られていて、高くても二階建てまでのものが多い。

「ここは 悠皇殿(ゆうこうでん) 。皇帝陛下のおわすクワンロンの中心です」

シャオリンさんが、目の前の大きな建物について説明してくれた。

「ここは、皇帝陛下のお住まいであると共に、クワンロンの行政の中心でもあります。私も今まで来たことはありません」

そう言うシャオリンさんの目は、なんだか感激しているようだ。

今まで来たことないって言ったし、それも当然か。

珍しい建築様式の建物をキョロキョロと見回していると、ハオさんが近付いてきた。

『こちらでお部屋を用意しております。一旦お休みになられたあと、皇帝陛下への謁見と晩餐の用意があります』

とのことだ。

そこで俺たちは、まず建物内にある一室に集められた。

そこで、声がかかるまで待つのだそうだ。

一同が部屋に入った際、オーグが口を開いた。

「シン。例のアレをナバル外交官たちにも渡しておけ」

オーグはそう言うと、自分の胸元をトンと叩いた。

ああ、アレね。

「ナバルさん、皆さんも、これを身に着けておいて下さい」

そう言って取り出したのは『異物排除』の付与がされている魔石付きのペンダントだ。

部下の暴走を装って俺たちを襲ってくるような連中だからな。

用心はしておくに越したことはない。

「なんでっか? これ」

「これは……」

ナバルさんが聞いてきたので、その効果を説明しておいた。

ナバルさんたちも、シャオリンさんたちも、目を見開いて驚いてたな。

さっきから、クワンロンを信用していないような言動ばかりだけど、シャオリンさんもリーファンさんも一言も文句を言わなかった。

まあ、シャオリンさんのお姉さんにはまだ会ってもいないし、今機嫌を損ねられると困るとか思ってるんだろう。

昨日のこともあるし。

こうして皆さんにペンダントを着けてもらい、このあと皇帝にあったときどういう接し方をすればいいのか訊ねた。

シャオリンさんはこの国の人間なので、皇帝には敬意を表す必要があるらしいが、俺たちは他国の人間。

特別な敬意を表す必要はないが、最低限の礼儀だけは保ってほしいとのこと。

とりあえず、腰を折って頭を下げておけばいいらしい。

そんなレクチャーを受けたり、今日は家に置いてきているシルバーのご機嫌を伺いに戻ったりしていると、扉がノックされ準備が整ったと声がかかった。

迎えに来た兵士のあとについて行くと、やたらと大きな扉の前に連れていかれた。

その両脇には、完全武装の兵士がいる。

ここが謁見の間か。

俺たちが到着すると、すぐにその大きな扉が開いた。

中には、豪勢な服を着た人が左右に沢山並んでいた。

この国の貴族かな?

そもそも、貴族制度があるかどうかも知らんけど。

大勢の視線に晒されながら謁見の間を進んでいく。

俺たちはある程度慣れたし、他国だからそこまで緊張していないけど、シャオリンさんとリーファンさんの緊張具合がヤバイ。

顔は真っ青で、歩いている足も震えている。

今にも倒れそうだ。

そして、玉座の前まで行くと、そこで止められた。

玉座にはまだ誰も座っていない。

すると、役人の一人が大きな声をあげた。

それと同時に、一斉に跪く周囲の人々。

シャオリンさんも跪いている。

さっきのは皇帝が来た口上だったのか。

それに気づいた俺たちも慌てて頭を下げる。

そうして少し待っていると、誰かが現れ玉座に座った。

『------』

なにか言葉が聞こえると、周りの人たちもシャオリンさんも立ち上がった。

立ち上がったってことは「楽にせよ」かなにか言ったんだなと思い、俺も顔をあげた。

すると、先程まで空だった玉座に、一人の男性が座っているのが見えた。

歳は……かなり若い。

もしかしたら、俺たちより年下ではないか?

そんな、男性というより少年が玉座に座っていた。

『----』

『----』

その少年がなにかを告げると、シャオリンさんが緊張気味に返事をした。

「通訳することを依頼されましたので、これから皆さんと陛下の通訳をします」

なるほど、さっきのは「自分の言葉を伝えろ」とかそんな言葉で、シャオリンさんは了承の返事をしたのか。

ここから、クワンロン皇帝との会話が始まった。

『遠路はるばるご苦労であった。まさか、砂漠の向こうから使者がくるとは夢にも思わなかったが』

「今日、このように皇帝陛下のご尊顔を拝謁できたこと、心より嬉しく思います」

『うむ。今まで交流のなかった国と繋がりができることは余としても嬉しい限りである』

「ありがとうございます」

『ついては、詳しい話し合いをしたいと思う。そちらの外交担当のものと十分に協議せよ』

「はっ、ありがとうございます」

以上、皇帝とナバルさんの会話でした。

いやあ、エルス弁じゃないナバルさん、違和感しかないね。

そして、短い挨拶をしたあと皇帝はすぐに引っ込んでしまった。

てっきり、このあとの協議にも参加するものと思っていたけど、本当に顔見せだけだったのね。

なんだか肩透かしを食らった気分だ。

そのあとの晩餐会には出てきたけどね。

当然、俺たちとの会話なんてなし。

本当に、夕食の場に同席しているだけって感じだったよ。

ちなみに、晩餐会で出された料理は、中華料理っぽい料理だった。

当然使う道具は箸だ。

砂漠との境界の村で箸があることは分かっていたので、滞在している間ずっと練習してきた。

俺は元々使えるけどね。

なので、皇帝の前で恥を晒すことはなかったと思う。

ご飯は久しぶりに見たな。

白米は出なかったけど、炒飯は出た。

凄く美味しかったので、変な毒などは入っていなかったけど、どうなんだろ?

今の俺たちに毒や薬は効かないので、なんとも言えないな。

無味無臭の毒だったら分かんないし。

こうして、皇帝との謁見を終えた俺たちは、用意された宿泊用の部屋へ案内された。

二人一組ということで、俺とオーグ、トールとユリウス、トニーとマーク、シシリーとマリア、アリスとリン、ユーリとオリビアに分かれる。

使節団の方も二人一組に分かれた。

部屋に入る際に『侵入防止』と『防音』を付与してある魔道具を渡しているので、女性だけでも大丈夫。

まあ、まさか皇帝に謁見までした使者になにかするとは思えないけど、念のためね。

さて、明日はいよいよハオさんとの交渉か。

俺がするわけじゃないけど緊張してきた。

はあ、寝れるかな?

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

シンたちが、宛がわれた部屋で休んでいるころ、ハオは自分の執務室に補佐官を呼びつけていた。

『おい、奴らの料理には例の薬は入れたのだろうな?』

『はい、間違いなく。私がこの目で確認しましたから』

『ではなぜ奴らの様子に変化が見られないのだ?』

『そ、そう言われましても……』

『本当に間違いないのだろうな?』

『はい、この国でも一番効果の強い媚薬を混ぜ込みました。無味無臭で気付かれる恐れもありませんし、間違いなく奴らは食しておりました』

『くっ……これは、なにか対策を施されたか?』

『あの媚薬に対して……ですか? しかし、媚薬は毒物ではありませんし、そもそも奴らは魔道具を起動した素振りも見せませんでしたが』

『ならばなぜ……』

『ほ、報告します』

ハオが喋っている途中に、ドアがノックされ扉の向こうから部下の声が聞こえてきた。

『なんだ!』

『はっ! あ、あの……奴らの部屋に侵入できません!』

『なっ!? 馬鹿な! 鍵は持っているのだろう!?』

『それが……鍵が開かないのです!』

『そんな馬鹿な話があるか! 鍵を間違えているのではないのか!?』

『い、いえ! 間違いなく、奴らの部屋の鍵です! それが、どの部屋も開けられないのです!』

部下のその報告を聞いたハオは、呆然と呟いた。

『馬鹿な……一体なんだというのだ……』

ことごとく目論見が外れ、ハオは力なく椅子に座り込んだ。

ハオが仕掛けようとしていたのは、ハニートラップである。

シンたちの料理に媚薬を混ぜ、性的興奮状態に陥らせる。

男女が揃っていたので、性的興奮状態であれば何組か性行為に及ぶと見込んだ。

そして、その現場をハオたちが抑えれば、神聖な宮殿でなにをしているのかと追及することができる。

そうすれば、交渉を有利に進めることができると踏んでいた。

だが、部下からの報告でシンたちが男女別々の部屋に入ったと報告が入った。

しかも、性的興奮状態にはなっていないらしいとの報告もあった。

この時点でおかしいと思い始めたハオだったが、少しでも交渉を有利に進めたいと思っていたハオは次の手を打った。

万が一のために、この国の娼婦、男娼の中でも特に見目麗しい者を厳選して待機させていたのだが、それを各々の部屋へと送り込もうとしたのだ。

だが、結果として部屋にも入れず、ここで計画は全て頓挫してしまったのだ。

二週間前に、砂漠の向こうから国交樹立のための使者が来ているとの報告を受けてから、この日のために準備してきたことが全てご破算になり、ハオは力が抜けてしまった。

ハオがここまでするのは、その使者たちが空飛ぶ乗り物に乗ってやってきたとの報告を受けたから。

どうしても、その乗り物が欲しかったのだ。

それがあれば、砂漠の向こうにあると分かっている国や、クワンロンのさらに東にある島国にも侵攻することができる。

クワンロンが世界中に覇を唱えることができると考えていたのだ。

その計画が全て潰えてしまった。

しばらく放心状態にいたハオだったが、しばらくすると身体を起こした。

『上等ではないか。ならば、正攻法で色々と利権を貪ってやる』

深夜の執務室で、ハオはほの暗い決意を新たにした。