軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔人

「お前の相手はこの私だ!」

ゼストに続いて襲いかかってきたローレンスの前に立ち塞がったのは、シンに指名されたアウグストだった。

自分の進路上に立ち塞がったアウグストを見たローレンスは、ニヤリと口元を歪めた。

「王子様が御相手して下さるとは、俺も偉くなったもんだぜ!」

ローレンスはそう叫ぶと、アウグストに対し、先制攻撃とばかりに炎の魔法を撃ち込んだ。

「「殿下!!」」

護衛であるトールとユリウスが叫び声をあげるが、アウグストは魔力障壁でローレンスの魔法を防ぎきっていた。

「お前たちは来るな! コイツとは私が戦う!」

「し、しかし!!」

トールが尚も食い下がるが、アウグストはその言葉を敢えて無視し、障壁でローレンスの魔法を防ぎながら新たに魔法を発動させた。

「はああっ!」

「なに!? 障壁を維持しながら!?」

アウグストが魔法を防いでいる間に、回り込んで攻撃をしようと企んでいたローレンスは、思わぬ反撃に回避を余儀なくされた。

「くそ……分かっちゃいたが、強い……本当に王子様なのかよ」

「フッ、立場など問題ではない。今ここにあるのは……やるかやられるかだけだ!!」

アウグストはそう言うと、左右の手から次々と属性の違う魔法を放ち始める。

「どうしたローレンスとやら、魔人たちの幹部とはそんなものか!?」

「くそっ!!」

必死に逃げ回るローレンスに対し、アウグストはこれまで見せたことがないほど好戦的だった。

それはなぜか?

ゼストが襲いかかってきたとき、恐らくシンは反射的にアウグストの名を叫んだのだろう。

こうした咄嗟の事態で、思わず名前を叫んでしまう相手。

それは、シンからの信頼の証に他ならない。

シンに認められた。

それを感じ取ったアウグストは、身体の奥から沸き上がる高揚感を隠せないでいたのだ。

「くそっ!!」

アウグストが放つ数々の魔法を避けながら、ローレンスも反撃を試みる。

だが、アウグストと違い、魔法の複数同時起動などできないローレンスの攻撃は単調なものになる。

そうすると……。

「はっ!!」

片手で魔法を放ちつつ、別の手で障壁を張るアウグストに簡単に防がれてしまう。

「はあっ! はあっ!」

自分がいくら攻撃しても、魔力障壁で簡単に防がれ、その上で魔法を放った隙をついて攻撃を仕掛けてくる。

一瞬も気の抜けない状況に、ローレンスは早々に肩で息をし始めた。

すると、そのローレンスを見たアウグストは口元をニヤリと歪め、彼に似つかわしくない嫌味な顔を見せた。

「なんともお粗末なことだな。魔人とはこの程度のものなのか?」

明らかに、自分を見下した態度。

大国の王太子という立場も相まって、アウグストのその態度は、簡単にローレンスの逆鱗に触れた。

「うるせえっ! なんの苦労も知らないお坊っちゃんが! 見下してんじゃねえ!!」

「!!」

激昂したローレンスが放った魔法は、アウグストが魔力障壁を両手で二重に張るほどの威力を見せた。

「なんの苦労も知らず! ぬくぬくと育ってきたお前に! 俺たちを見下す資格なんてあるかあっ!」

先程まで逃げ回っていたローレンスが一変し、逆に高威力の魔法を次々と連発し始めた。

「むっ!」

それを自身の魔力障壁と、シンから貰ったアクセサリー型の防御魔道具の障壁も駆使しながら防ぎ続けるアウグスト。

だが、ローレンスの攻勢は止まらなかった。

「スイードを襲撃したことも! クルトに襲撃を仕掛けたことも! あの欲深い大司教をけしかけたことも!! なんにも気付かなかったボンクラの癖によおっ!!」

「なに!?」

激昂しながら叫んだローレンスの言葉に、アウグストが反応した。

「あれらは、シュトロームの指示だったというのか!?」

「シュトローム様じゃねえ! ゼスト様だ!!」

ローレンスは、余程興奮しているのだろう。

アウグストが知らなかった事実をペラペラと話し始めた。

「そこまで裏から手を回しておいて、なぜ今さら正面決戦など挑んできた!? 一体なにを考えている!?」

「シュトローム様のお考えなんて、俺が知るわけねえだろ!」

互いに魔法を放ち、防ぎ、避けながら舌戦を繰り広げるアウグストとローレンス。

高揚感を感じつつも比較的冷静なアウグストに対し、ローレンスの方の興奮は収まる気配がない。

実は、アウグストがローレンスを見下すような態度を取ったのは、わざとだった。

以前に倒した魔人たちは、全て帝国の平民階級の人間だった。

帝国の平民といえば、貴族たちの搾取の対象。

だからこそ、魔人化し力を得た平民たちに皇帝、貴族は皆殺しにされた。

ならば、いまだシュトロームに付き従っているローレンスたちも、おそらくは元平民であろうとアウグストは踏んだ。

そこでアウグストは、彼らの最も忌み嫌う、横柄で嫌味な王子を演じることでローレンスを煽ろうと考えた。

結果、ローレンスはまんまとアウグストの策に嵌まり激昂。

興奮状態に陥り、アウグストが知らなかったことまで話してしまったのだ。

今まで知らなかった事実が聞けたことは収穫だったが、今回の正面決戦に関しては聞けそうもない。

そう判断したアウグストは、攻め方を変えることにした。

「はあっ!」

「舐めんな!!」

アウグストが放ったのは、水の魔法。

特に高圧に収束させているわけでもなく、ただ大量の水で押し流そうとするかのようなアウグストの魔法を見たローレンスは、避けるのではなく、魔力障壁を張って防いだ。

「こんな魔法で、俺が……魔人が倒せると思うなあっ!」

「別に、これで倒そうなんて思っていないさ」

「なに!?」

「はあっ!」

アウグストが続けて放ったのは、アウグストの代名詞とも言える雷魔法。

だが、その魔法はローレンスを避けるように放たれた。

「どこを狙っ……がああっっ!!??」

アウグストが狙いを外したと思った次の瞬間、ローレンスは全身を雷で打たれた。

「ば、ばかな……魔法は外れたはず……」

ろくに防御もできずに雷で全身を焼かれたため、膝から崩れ落ち倒れ伏したローレンスに向かって、アウグストが歩み寄った。

「知らなかったのか? 雷はな、水を伝わるんだ」

「な……なんだよそれ……そんなの……聞いたことねえ……」

「私も知らなかったのだがな、シンが教えてくれた」

「くそ……シン……ウォルフォード……どこまでも俺たちの……邪魔を……しやがる……」

忌々しそうに呟くローレンスに対し、アウグストは先程のローレンスの言葉に対して反論した。

「さっきお前は、私がぬくぬくと育った、苦労知らずのおぼっちゃんだと言ったな?」

「じじつ……だろうが……王子さまなんだ……からよ……」

「帝国ではどう知らんがな。我が国では、あまりに凡庸だと王位に就くことはできないのだ」

「……」

アールスハイドでは、王位継承は長子継承ではない。

王子、王女の中から、才覚有りと認められた者だけが王位に就くことができる。

そのためアウグストは、立太子の儀式が行われるまで王太子を名乗れなかった。

「それこそ、寝る間を惜しんで勉強し、血反吐を吐くほど魔法の訓練をしたさ」

そのアウグストの呟きに、その姿を間近で見ていたトールとユリウスは沈痛な顔をした。

当時のアウグストを思い出したのだろう。

「そうして努力をしてきたのだ。先程、お前を倒した魔法もそうだ」

「ウォルフォードに……」

「そうだ。シンに出会って、私はさらに成長することができた。今後も研鑽をやめるつもりはない。少しでも……アイツに近付きたいからな」

「……」

「それに比べて、お前たちはどうだ? 自分の立場に不満を持ち、あまつさえ魔人化を受け入れるとは……そんな輩に私がやられる道理など無い」

「知った風な口を……聞くんじゃねえ……」

アウグストに見下されたローレンスは、瀕死の状態にありながらも、最期の力を振り絞って反抗してみせた。

「お前に分かるか……ただ平民であるからという理由で、どんなに努力しても……結果を出しても認められない悔しさが……ただ平民であるという理由で、無能な貴族どもからいいように使われる怒りが……ただ平民であるからという理由で……」

ローレンスは、自分の内にある憎しみを吐き出すように呟いた。

「全てを奪われる憎しみが……」

「……」

「帝国ではな……俺たち平民は……人間じゃないんだよ……家畜と一緒さ……」

ローレンスの吐き出す憎しみは、アウグストが気圧されるほどだった。

「そんな俺たちを救ってくださったのがシュトローム様だ……あの御方は、長年積もりに積もった俺たちの憎しみを晴らす手助けをして下さった……俺たちを……人間にして下さった……」

「馬鹿な……お前は魔人……」

「はっ……過程がどうだろうが、そんなことはどうでもいいんだよ……俺たちは……シュトローム様の手で……家畜から人間にして頂いたんだ……」

ローレンスの言葉で、アウグストは悟った。

魔人たちが、自分の命を捨ててまでシュトロームの命に従った理由を。

彼らは、シュトロームによって、初めて自分の価値を認められたのだ。

帝国を滅ぼすため、シュトロームは彼らを必要とした。

例えそれが……シュトロームの駒としてだったとしても……。

今までの理不尽な対応ではない、同じ目標に向かう同士として。

彼らは、初めて必要とされたのだ。

「だから……俺は……俺たちは……シュトローム様の命令には絶対に従う……死ねと言われれば……」

そう言いながら、ローレンスは、上半身を起こし……。

「喜んで死んでやる!!」

そう叫ぶと、最期の力を振り絞り、アウグストに向かって特攻した。

「!!」

ローレンスの吐き出す憎しみに気圧されていたアウグストは、一瞬対応が遅れ、起死回生の一撃が決まるかと思われたそのとき。

「殿下!!」

ずっとローレンスの様子を伺っていたトールが、ローレンスに向かって風の刃を放った。

「がはっ!!」

捨て身で特攻をしかけようとしていたローレンスは、トールの風の刃をまともに喰らい、再度倒れた。

「は……はは……最期はこんなもんかよ……あっけねえなあ……」

「……」

「シュトローム……さま……さきに……地獄で……まって……ま……」

ローレンスは、最期にそう呟くと、そのまま事切れた。

「殿下……」

「……すまないトール、助かった」

「いえ……それが自分の役目ですから」

「それにしても……」

アウグストはそう言うと、シュトロームに対し異常な忠誠心を見せ散っていったローレンスを見下ろした。

「恐ろしいほどの忠誠心だったな」

「ええ。自分も、殿下を御守りするためなら命を捨てる覚悟はできています、しかし……」

トールも、アウグストと同じく、ローレンスを見た。

「こんな意味のないことで死ぬのは耐えられません」

「帝国の闇は、それほどまでに深かったということか……」

「……」

見せつけられた魔人たちの事実に、アウグストとトールは、なんともやるせない気分になった。

それに、アウグストには気になることがあった。

「先に地獄で待つ……だと? それじゃあ、まるで……」

アウグストは思った。

それではまるで、シュトロームもローレンスのあとを追うようではないかと。