軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔人を……知りました

ゼストの放った魔法を魔力障壁で防ぎながら、俺は思わずオーグたちの方を見た。

オーグと戦っているローレンスが叫んだ言葉に気を取られてしまったからだ。

「なんだと……? 今までのは全部、コイツらの仕業?」

どういうことだ?

あの魔人領攻略作戦のとき討伐した魔人は、シュトロームは完全にやる気を失くしたって言ってたじゃないか。

「どこを見ている? シン=ウォルフォード!!」

「! くっ!!」

オーグとローレンスの会話に気を取られている隙に、ゼストが俺に近寄り、ナイフで斬りつけてきた。

咄嗟に躱し、ゼストから距離を取った。

危ねえ……。

だけど、思わず意識をそっちに向けてしまうほどの話だった。

「お前たち……いや、お前が……今まで全て裏で操っていたってことか?」

「やれやれ、ローレンスめ、余計なことを……」

俺の質問に対し、ゼストはローレンスに対する苦言をこぼしたものの、否定はしなかった。

「どういうことだ? シュトロームは、帝国を滅ぼしたことで全てに対してやる気を失くしたんじゃなかったのか?」

俺がそう言うと、ゼストはフッと溜め息を吐いた。

「全く、あの無能どもめ。役に立たないだけでなく余計な情報まで漏らしおって」

「む、無能? 仲違いしたとはいえ、元の仲間を無能だと!?」

「仲間? 笑わせるな。 シュトローム様に力を与えて頂いた恩を忘れ、自分勝手な欲望のために暴走した輩など、仲間でもなんでもない」

「……アイツらを使ってスイードやクルトを襲撃したんじゃなかったのかよ?」

「そうなるように誘導したまでだ」

「だから、それになんの意味がある?」

俺がそう言うと、ゼストは口元を歪めて嗤った。

「お前たちの力を量るための駒にするためだ」

「こ、駒……!?」

「お陰で良い情報が手に入ったよ。お前の婚約者……シシリーとか言ったな、あの女がお前の弱点。それが害されれば、お前は……」

「お前があっ!!」

「おっと」

コイツのせいで!

シシリーは二度も! 危険な目に遭ったっていうのか!!

俺は、ゼストの言葉の途中で思わず魔法を放ったが、奴に簡単に避けられた。

くそっ!

怒りのあまり、単調な攻撃をしてしまった。

俺の魔法を避けたゼストは、そのまま俺の方に突っ込んできた。

「くっ!」

「ほらほら、どうしたシン=ウォルフォード。お前の剣は剣聖仕込みなのだろう? 押されっ放しではないか?」

「うるっ……せえ!!」

ミッシェルさんの訓練は、いつも剣対剣だった。

ナイフを使っての訓練なんてほとんどしたことがない。

街のチンピラ程度ならどうにでもなるけど、コイツ……相当な手練れだ。

ゼストは俺の懐に飛び込んでナイフを振るっている。

それはナイフの間合いであって、剣の間合いとしては近すぎる。

とにかく、なんとか間合いを取らないと!

「! この至近距離で爆発魔法だと!?」

「おらあっ!!」

「くっ!!」

ゼストは、目の前で発動された爆発魔法を見て驚き、距離を空けた。

これは普通の反応だ。

この世界の魔法は、ゲームの魔法とは違う。

巻き込まれれば、自分の魔法でダメージを受けることもある。

超至近距離の相手に爆発魔法を放つというのは、自爆と同じ意味だ。

だが、それは俺には適用されない。

俺から距離を取ったゼストが、忌々しそうに口を開いた。

「そうか……スイード、クルトで使っていた妙な魔法……」

「……ホントに全部見てやがったのか……」

俺は、スイードとクルトで魔人を討伐するために、指向性爆発魔法を放っている。

その戦いを裏で操っていたのなら、戦闘の様子を見ていてもおかしくはないか。

「まったく、避ければよかったものを、自爆かと思って反射的に飛びのいてしまったよ」

そういえば、こいつは元軍人だと言っていた。

染み付いた戦闘技術が仇になったみたいだな。

「もう、懐には飛び込ませねえよ!」

「それは困ったな。私は剣は不得意でね、距離を空けられると何もできなくなってしまうんだよ!」

「ちっ! またか!」

ゼストは、またも俺の懐に飛び込もうとダッシュしてきた。

これ以上距離を詰められたくない俺は、剣を大振りに振って、ゼストが間合いに侵入するのを防ぐ。

「ちぃっ!」

「アンタ、元軍人なんだろう? 剣じゃなくナイフを振り回す軍人なんていんのかよ!」

「ふっ、子供の君には分からんか。騎士や魔法使いだけが軍じゃないのだよ!」

コイツ……懲りずにまた!

「近寄らせねえって言ってんだろ!!」

「ぬうっ!?」

突進してくるゼストに向かって、今度は地面から杭を発生させその足を止めた。

その間に、俺はゼストの言葉を反芻する。

騎士や魔法使いじゃない軍人……ということは。

「諜報部隊……」

「ほう? やはり頭も切れるか」

それなら、コイツの素早い動きも納得できる。

前世のように通信手段がまだ発達していないこの世界では、諜報活動において素早い身のこなしは必須。

それにしても……魔人化して色々と能力が底上げされているとはいえ、こんな優秀な諜報部員がなぜ帝国を裏切ったりするんだ?

それに、初めて会った時、他の魔人はゼストのことを隊長って言っていた。

ということは……。

「お前、諜報部隊の隊長だったんだろ? 他の魔人がそれに付き従っているということは……他の魔人たちも元諜報部隊か?」

「やれやれ……たったあれだけのやり取りでそこまで推測してしまうとは……やりづらいはずだ」

「一体、どれだけの数がシュトロームに寝返ったんだ?」

「……全員だよ」

「な、なに?」

全員?

諜報部隊が全員丸ごと寝返ったってのか!?

「馬鹿な!? 諜報部隊といえば、軍において最も重要な部隊のはず! その全員が裏切るなんて!!」

俺がそう叫ぶと、ゼストは自嘲気味な笑みを浮かべた。

「いやはや、まさか敵の方が我々を評価してくれているとは……皮肉なことだ」

「なに?」

「シン=ウォルフォード、我々諜報部隊が帝国でなんと呼ばれていたか知っているか?」

「知らねえよ」

「……ネズミだ」

「ネ……」

ネズミ?

「力によって敵をねじ伏せる騎士ではなく、華麗な魔法で敵を殲滅する魔法使いでもなく、地を這い、コソコソと敵の弱味を探る我らは……ネズミなのだそうだ」

な、なんだ、それは……。

「部下たちが命がけで敵国の情報を入手してきても、軍上層部を占める貴族共から掛けられる言葉はまず罵声だ『コソコソと泥にまみれ、人の弱味を探る行為はまさに平民にお似合いだ』『本来なら、薄汚い貴様たちなど、私と口を聞けるだけでも名誉なことなのだ』『使ってやってるだけ感謝しろ』……そして散々私たちを罵倒した挙句、情報だけは全て吸い上げていく」

「……」

さっき、ローレンスには余計なことを喋ったと言っていたゼストの言葉が止まらない。

俺は、ずっと冷静だったゼストが怨念を吐き出すようにしゃべり続ける光景に、声を掛けることができなかった。

「任務中に部下が死んでも、奴らには痛くも痒くもない。我ら平民など、壊れればいくらでも補充の効く道具としか見ていなかった!!」

「だから……お前は……」

「そうだ! 部下たちを、その苦しみから解放してやりたかった! ネズミから……人間にしてやりたかった!!」

「その結果がこれか!! 結局、シュトロームも、お前たちのことを道具としか見ていないじゃないか!!」

「うるさい!!!!」

ゼストたちの、あまりに無残な結果に、俺は思わず叫ばずにはいられなかった。

だが、ゼストから返ってきたのは、俺以上の絶叫だった。

「貴様になにが分かる!? 賢者と導師という、これ以上ない祖父母から十分な愛情を与えられ! 周囲の人間にも恵まれ! 幸せな人生を歩んできたお前に我らのなにが分かる!!」

「そ、それは……」

ゼストの言葉に、俺はぐうの音も出ない。

「蔑まれ! 見下され! 奪われ続け! 最後は使い捨てにされる! そんな我らの気持ちなど、分かるはずもない!!」

「……」

「シュトローム様だけが、我らを必要としてくださった! 我らのもたらす情報を! 帝国上層部の馬鹿どもに偽の情報を流すことを! 帝国中を混乱に陥れるために、情報を錯乱させることを! シュトローム様だけが必要としてくださった!」

ゼストはそう言うと、ゆらりとナイフを構えなおした。

「シュトローム様は、我らの救い主だ。神だ! そのシュトローム様の御意志ならば、我らの命など……」

そう言ったゼストは、またもこちらに突っ込んできた。

「いくらでも使い捨てる!!」

「くっ! このっ!」

またナイフで斬りつけてくるのかと思いきや、今度は魔法を放ってきた。

なんとかその魔法を魔力障壁で防ぐと、そのまま突っ込んできたゼストがナイフを振るった。

「ちっ! はあっ!!」

ナイフは小さいので、剣で受けづらい。

なのでナイフは避け、カウンターでバイブレーションソードを振るう。

だが、その攻撃をゼストはしゃがんで避け、ナイフを振り上げる。

「くそ、ちょこまかと!」

「どうしたシン=ウォルフォード! もっと躍れ! 我が主の最期の舞台に相応しく、もっと踊って見せろ!!」

「なに!?」

シュトロームの最期の舞台?

「どういう意味だ!?」

「言ったはずだ! 知りたくば、力ずくで聞きだしてみろと!!」

ゼストはそう叫ぶと、次々と攻撃を仕掛けてくる。

その攻撃をなんとか避け、バイブレーションソードを振るうと、初めてその一撃がゼストの右肩に入った。

「ぐっ……がああっ!!」

「なっ!? コイツ!?」

バイブレーションソードが肩に入ったことで、ゼストの右腕が肩口から切断された。

なのにコイツは、突進をやめない。

コイツ……完全に防御を捨てて攻撃してきてる!

これは……。

「特攻かよ……」

自分の命を顧みない、捨て身の攻撃。

現に今も、左手にナイフを持ち換えてさらに攻撃してきている。

「シン=ウォルフォードォォォ!!」

そう叫びながらナイフを振るうが……利き腕ではないんだろう、動きがぎこちない。

俺は、その腕を下から逆袈裟に切り上げ、ゼストの左腕も切り落とした。

「ぐぅ……ああああああああ!!!」

それでも、なお突進を止めないゼストに俺は……。

振り上げた剣を、そのまま袈裟斬りに振り下ろした。

「がふっ……」

「……」

左の肩口から、右の腰まで斬り裂かれたゼストは、ようやくその突進を止め、地面に倒れ伏した。

俺は……今まで人類の脅威だと思っていたコイツら魔人が、ただの被害者にしか見えなくなり、なんとも言えない気持ちで倒れたゼストを見ていた。

「シン君!」

「シン!」

ゼストが倒れたことで、戦闘が終結したと判断したんだろう、シシリーやマリアたちがこちらに駆け寄ってた。

「シン君! お怪我はありませんか!?」

「ああ、大丈夫だよ」

相変わらず、俺のことを真っ先に心配してくれるシシリー。

ひょっとしたら……コイツらは、そういった存在まで奪われてきたのだろうか?

もし俺が、シシリーを奪われたら……。

過去に一度、フラーからシシリーを差し出せと言われたときのことを思い出した。

俺はそんなことにはならなかったけど、コイツらは実際に奪われたのかもしれない。

「シ、シン君? どうしたんですか?」

「え? ああ、いや。なんでもない」

「?」

ジッと顔を見ていたからだろう、シシリーの顔はちょっと赤くなっていた。

そのあと、言葉を濁した俺に不思議そうな顔を見せるその仕草も、全てが愛おしい女性。

そんな存在を奪われたら……ゼストたちみたいに、全てを滅ぼしたくなるかもしれない。

なんか、コイツらに同情してしまっている自分がいる。

けど、明らかに俺たち人類に向けて敵意を見せ、滅ぼすとまで宣言した魔人たちだ。

討伐しない訳にはいかない。

そんな複雑な思いを抱いていると、足元から掠れた声が聞こえた。

「やは……り、われらでは……およばぬか……」

「ゼスト……」

「ふ……勝ったというのに、なんだその顔は……」

瀕死のゼストに複雑な感情を抱くが、コイツらは人類を脅かす敵だと思いなおした。

「聞かせてもらうぞ、シュトロームの目的を」

「シュトローム様の……御意思……か……」

ゼストは少し溜めたあと、こう言った。

「そんなものは……知らぬ……」

「し、知らないだと!?」

馬鹿な!?

「なぜだ!? なぜ目的も知らないのに命を捨てることができる!?」

俺がそう叫ぶと、ゼストはフッと笑った。

「それは……な、シン……ウォル……フォード……我らに……」

「お前たちに、なんだ?」

「……われらに……みらい…が……ない……から……だ……」

「魔人に未来がない? どういう意味だ!?」

ゼストの放った言葉の意味が理解できず、思わず問い質すが……。

「……駄目ですシン君……もう……亡くなってます……」

「くそっ!!」

ゼストを倒せばシュトロームの真意が分かると思ったのに!

だけど……真意は分からないけど、魔人たちの行動が今までと変わった理由は分かった。

「シン!」

ようやく魔人たちの行動の変化について結論が出たところで、ローレンスを倒したオーグが合流してきた。

「どうだった? なにか聞き出せたか?」

「なんとかな。魔人たちの行動の理由が分かったよ」

「なに!?」

俺は、オーグにゼストの遺した言葉を伝えた。

「未来がない……」

「ああ。なにが起こったのかまでは分からなかったけど……魔人たちの未来に対して、なにか絶望的なことが起こった」

「そして、未来が無くなった故に自暴自棄になった……か」

「おそらくな」

俺とオーグは、ゼストの亡骸を見ながらお互いになんとも言えない気持ちになった。

「……人類の脅威を排除したはずなのだがな……」

「ああ……この後味の悪さは……なんなんだろうな……」

それにもう一つ分からないことがある。

「シュトロームの最期の舞台って……どういう意味なんだろうな……」

その俺の呟きに、答える者は誰もいなかった。