軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 サディア⑫

長々と話をしてしまって、疲れたデライザ様は少し休まれるとのことだった。

わたしはもう、ここにいる必要はないんだけど……。

デライザ様から「起きたら、また、話をさせて……」と言われたし、長々と話をしているうちに日も暮れてしまった。

なので、そのまま客室に泊めさせてもらうことにした。

ありがたいことに湯あみもさせてもらって、のんびりと夜を過ごした。

「ふう……」

胸の中にべっとりと張り付いていたヘドロのような感情が、少し薄れている。

完全にはなくならないだろうけど、それでも。

「どさくさ紛れの告白みたいなものだけど、ロバート様に初恋だと告げられたからかな……」

あ……、そういえば、途中からわたし、ハードウィック子爵令息とお呼びしないで、ロバート様とお呼びしてしまっていた。

失礼だったな。

でも、咎められなかったし。

「……咎めるどころじゃなかったのかもしれないけど」

くすりと笑う。

気が、少し楽になった。

「デライザ様のおかげかしらねぇ、やっぱり……」

女神様、いや、妖精さんかな、やっぱり。

なんてことを考えて、一人、笑う。

さて、そろそろ夜着に着替えて眠ろうか。

そう思った時にドアをノックする音がした。

「はい?」

ドアを開けたら、そこにいたのはロバート様。

「ご令嬢の部屋を訪ねる時間ではないことは承知しているが……、少し話してもよいだろうか?」

「は、はい……」

わたしのお借りしている客間にロバート様を入れることはできないから、廊下に出た。

「すまない。それほど時間は取らせないが……」

「はい、えっと?」

ロバート様は、わたしに頭を下げてきた。きっちりと、手を横に、頭も深く下げて。

「え、え、え? ロバート様⁉」

「あれから……デライザは目を覚まして、それから、つきものが落ちたみたいだった」

「へ?」

「サディア・マーガレット・ラズダン伯爵令嬢、感謝する」

「えっと、あの……。つまり、それは、ロバート様とデライザ様の婚約破棄は行わないということで……?」

「ああ……」

ロバート様は頭を上げて、ほっとしたみたいに柔らかく微笑まれた。

「デライザとしては、俺を君に託してきれいに死ぬつもりだったんだろう。君に拒否されるとは思ってもいなかったから、今、デライザはすごくがっくりしている」

「えーと、えーと……。がっくりですか……」

何といっていいのやら。

「これでしばらくは大人しくしているだろう。他のご令嬢に俺を託すという計画は駄目になった。また、何かを考えて、俺のために婚約を無くすとか言いださないとも限らないのだが……」

「デライザ様は、ロバート様に……しあわせになってほしいんですよ」

「知っている」

ふっと笑う顔が、なんだか赤くなって。なんだかなー、惚気かなー?

「まあ、そのうちデライザも認めざるを得なくなる。寿命がどうであれ、デライザの側に居ることがしあわせだと。いつか先に逝かれる、その悲しみさえも受け止めて、側に居るんだと」

強いなあ、ロバート様。

「さすがわたしの初恋の人。カッコイイですロバート様」

思わず、素直に言った。

「ありがとう。君の思いには答えられずに済まない」

「いいんですよ。元々両想いになるなんてそんな夢想、したことは……、ほんのちょっとしかしてなかったですし」

「ほんのちょっと……」

「はい。乙女の妄想みたいなものです」

ロバート様はくすくす笑う。

「……君とはもっと早く知り合いになりたかったな。こんなにおもしろい人だとは想像もしていなかった」

「そうですか?」

「ああ。あれでもデライザは人を見る目があるということだ」

「ありがたいですね、デライザ様。わたし、デライザ様、好きです」

「俺の方が好きだが?」

ロバート様は即答した。

「好きの種類が違います」

わたしはそう答えて……、そして、二人で笑った。

ああ……、よかった。

苦い気持ちのまま初恋が終わらなくてよかった。

失恋なのは変わらなくても。

わたしの初恋が、ロバート様でよかった。

ロバート様はわたしに右手を差し出してきた。

「ありがとう」

「どういたしまして」

わたしも右手を差し出して。

そして、ぎゅっと握手をした。

初めて触れるロバート様の手。

わたしより大きくて……あったかい。

「これから君はどうするんだ? 家には……」

「帰りません」

「行く先に当ては……」

「ありません」

ロバート様は黙った。手を放して、そして……考え込んだ。

「貴族のご令嬢が……一人で、後ろ盾も当てもなく……」

「それでも。わたしはヘドロな天使とそれを愛好する人たちの元には帰りません」

ロバート様は考え込んだ後、わたしに言った。

「では……、こういうのはどうだろう?」

ロバート様のご提案。

それは私にとってはとてもありがたいもので……。

わたしは「ありがとうございます。よろしくお願いします」と頭を下げたのだった。