軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 サディア⑪

「え……?」

デライザ様とロバート様。お二人が動きを止める。そしてわたしを凝視する。

……まるでごきょうだいみたいに似た動き。

「ど、どうして? ロバートが好きでしょう?」

「はい。初恋だと申し上げました」

「だったら、どうして!」

デライザ様は、ご自分の代わりにロバート様を愛してくれるご令嬢を望んだ。

そして、選ばれたのが、わたし。

選んでくださったのは嬉しい。

だって、わたしは誰かに選ばれたことなんてなかったから。

いつもいつも、選ばれるのはエリオット様だったから。

だけど。

「理由は三つあります」

「聞かせてちょうだい」

「はい。一つ目、ロバート様が愛しているのはわたしじゃありません。デライザ様です」

「で、でもっ! あなたなら! サディアさんならっ! 今はそうでもいつか、きっと、あなたの情熱で、ロバートを振り向かせることだって……」

何度ロバート様に拒絶されても、何度でも愛を告げて、いつか、ロバート様を振り向かせるほどの根性を持ったご令嬢。

デライザ様が求めているのはそんな相手。

わたしは、その相手に選ばれた。選んでもらえた。そのこと自体はとても嬉しい。

「できるかできないかの話ではなく、わたしの初恋は終わったんです」

今はまだ、ロバート様が好きだった気持ちが残っている。

でもそれは、暖炉でハンカチを燃やした後の灰。

もう、ハンカチには戻らない。

「終わったって……」

「それが理由の二つ目です。わたしの初恋は、エリオット様によって無残に踏みにじられました」

無邪気な天使。

わたしはエリオット様に言った。「目を見開いて、よく見なさいよ! イニシャル、あなたのものじゃないの! 間違えじゃないの! 『R』のつく、わたしのホントウの初恋の人に、このハンカチを渡したくて、ひと針ひと針、思いを込めて刺繍をしたの! それなのに、アンタのせいで全部台無しよっ!」と。

怒りをエリオット様にぶつけた。

誰からも、ちやほやとされる天使のようなエリオット様には、きっといつまでもわたしの気持ちは分からない。

だけど、怒りをぶつけても、わたしの気は晴れなかった。

せっかくのハンカチ。心を込めた刺繍。ロバート様への気持ち。

ぐちゃぐちゃにされたわたしの心。

悪いのはエリオット様で、わたしは悪くない。なのに、わたしのほうが加害者みたいで。

ハンカチを燃やしてなかったことにしてしまったくらいに……、わたしの心に苦々しさは残った。

「元々、わたしの初恋が、ロバート様に通じるなんて思ってもみなかった。だから、感謝を伝えるだけでよかった。それも、できずに、エリオット様に全部台無しにされて……。だから、ロバート様への恋心とエリオット様への怒りが、セットになってしまったんです」

「セット……?」

「ロバート様を思えば、エリオット様のことも同時に思い出す。悪霊みたいなモノなんですよ、わたしにとってのエリオット様って」

「あ……悪霊……」

呆気に取られたお二人の顔。

わたしはくすりと笑ってしまった。

「いくらロバート様を好きでも。好きという感情に、べったりと、エリオット様という悪霊がへばりついている状態なんです。悪霊でなければドブのヘドロですね」

「へ、ヘドロ……って」

「ロバート様を思って、ひと針ひと針思いを込めて刺繍をしたハンカチがドブに落ちてヘドロ塗れになった。たとえるのなら、そんな感じで。だから、わたしはハンカチを燃やして、わたしの手でわたしの初恋を終わらせたんです」

本当は終わっていない。

胸の奥には思いがくすぶっている。

だけど、デライザ様の瞳のように美しい思いはもうなくなっているのだ。

「だから、デライザ様がお望みのように、断られても、情熱を持って、ロバート様を愛するなんて無理なんです。ヘドロ塗れ、悪霊付きになってしまった以上、サヨナラするほうが健全なのです」

何故だか、ロバート様の肩が震えている。笑いをこらえているのかしら?

「い、いや、すまない。愛の告白をされているのか、断るための方便なのか、分からなくて。というか、方便なら、すごい断り方だなと」

「いえ、初恋は本当だったんですけどね」

「そ、そうなのか?」

「あのエリオットというヘドロがいなければ。今頃、わたし、デライザ様のお申し出を嬉しく思って、デライザ様を愛したままでいいから、わたしと人生を共にしてください程度のことは言ったかもしれませんね」

くっくっくと笑うロバート様。

「でも、君は、言わない」

「ええ。ハンカチは燃やしました。ヘドロと共に」

強がりでもなんでも、わたしはわたしの手で、初恋を終わらせたのだ。灰は元には戻らない。

デライザ様は「許すまじ、エリオット……」と拳を握られている。あはは……。

「デライザ様には感謝しています」

「え?」

「ヘドロ塗れで、苦しい思いで、家を出た。それが、デライザ様のおかげで、わたしの……ヘドロ抜きの初恋を、少しはロバート様に伝えられた上に昇華できたかなーと思うと、ヘドロ率も下がりました」

「へ、ヘドロ率……」

ロバート様は「なんだそれは」と腹を抱え、デライザ様はポカンと呆れたみたいに口を開けている。

「それから三つ目。わたしは初恋もヘドロもない別の世界へ行くつもりなんです。すべて忘れて……というのは無理だけど。新しい場所で、人生をやり直したい」

苦く苦しい気持ちで、新天地に向かうのではなく。

全て綺麗に燃やして、残った灰は青い空に撒いて。

そんな気持ちで出立できそうだな……と、半分強がりもあるけれど、わたしはデライザ様に感謝をした。