軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話 サディア⑬ (サディア編 最終回)

「おーい、ベスー! 探してた海藻、あったよー!」

「え、ホント! どれどれ見せてっ!」

わたしはスカートをたくし上げ海岸を走る。

海岸に打ち上げられた緑色の海藻。それを目指して。

海側の子どもたちに頼んで探させた海藻。それが見つかったというのだから、当然急ぐ。

打ち上げられなければ、海の中にでも潜って採取しようかとも思ったけど……、どうやらこの手の海藻は海の深いところに生息しているらしく、潜って取るのはなかなか難しいとのこと。

と、言うか、おぼれて死ぬ。

わたしはまだ死ぬ気はないので、それは却下。

海藻探しを手伝ってくれた子どもたちは、嵐の後とか、海岸に打ち上げられた海藻を探して取って、干して売り物にしているそうだ。

「ベスってホント貴族なのか? 足出して走って」

「貴族令嬢だったのは何年も前のことね! そんなもの、もうとっくに捨てたわ!」

「じゃあ、今はー?」

太陽に照らされて、真っ黒に日焼けした子どもたちがわたしに聞く。

そういうわたしも日焼けで結構浅黒くなってきている。

海に入ったり、山に登ったり。

そんなことばかりしているから、美容なんてどうでもよくなった。

「病人の身体をよくするための食材を探して東奔西走している冒険者みたいなものよ!」

太陽にも負けない明るさで、わたしはにっかりと答えた。

あれから……わたしの失恋から五年近くの年月が経過した。

わたしはサディア・マーガレット・ラズダンの名を捨てて今ではエリザベスと名乗っている。

通称はベスだ。

何故エリザベスにしたかというと、デライザ・エリザベス・ティルベリー侯爵令嬢のミドルネームをいただいたのだ。ふっふっふ。

新しい人生にまい進しているわたしの毎日はとても忙しい。充実している。

わたしの初恋が終わったとき、ロバート様から提案されたのは、デライザ様の側について働いたらどうかというものだった。働くというか、話し相手として側に居てほしいと。

「俺への初恋の気持ちが……、もう吹っ切れているのならという提案なのだが」と、ロバート様がわたしに気遣いつつ提案してくれたのだ。

「デライザは一人で、ベッドの上で療養ばかりしているからあんな余計なことを考えるんだ」

「お一人……なのですか?」

「ああ。この屋敷はデライザの療養のために建てられたものだ。ティルベリー侯爵家のタウンハウスもマナーハウスも別の場所にあるし、ティルベリー侯爵も侯爵夫人もこちらには滅多には来ない」

「そう……。もしかして、側に居らっしゃるのは使用人と医師をロバート様だけ?」

「ああ。友人の一人もいない。俺が学院に行っている間など、完全に一人だな」

「なるほど……」

それはお寂しいな。

わたしはありがたく承諾した。

馬車の家門から、ティルベリー侯爵家にたどり着いたとしても。きっと尋ねるのは王都のタウンハウスの方だろう。

わたしはティルベリー侯爵家のタウンハウスには居ないし、ここはデライザ様の療養のためのお屋敷だから、探されたとしてもよっぽどのことがなければ見つからないはず。

実にありがたかった。

念のため、髪色を黒く染めた。髪形も変えた。

一見したところでわたしとはわからないだろう。

いや……、ラズダン伯爵家のお父様もお母様も、別にわたしが居なくなっても探しもしないかもしれない。

どうせわたしはエリオット様という天使が大好きなお父様とお母様が、義理でいいからエリオット様をご自分の子にしたいという希望を叶えるためだけの者。ラズダン伯爵家を継ぐのはわたしじゃないし、エリオット様に嫁入りできなければ、わたしに価値はない。

なーんて、卑屈すぎることも、一時期は考えたりもしたけど。まあ、そんな過去の話は、わたしにとってはラズダン伯爵家などは、もはやどうでも良いのだ。

最初は戸惑っていたデライザ様も、わたしが側付になることは受け入れてくれた。

「だって、おもしろいもの、サディアって」

それから、お話し相手をしばらくはしていたんだけど……。病状が悪化するたびに暗くなるデライザ様が、またわたしにロバート様をなどと言い出さないようにわたしは手を尽くすことにした。

「いいですか、デライザ様。どこかの誰かにロバート様に宛がおうとはしないで、デライザ様が生き延びればいいんです」

「……無茶言わないで」

「お医者様にも聞きました。デライザ様のご病気について、わたし、学ばせていただきました。無理のない程度の運動で体力を保ちつつ、血圧が上がるようなことは絶対にしない。十年生き延びたら、次の十年。そうやって、デライザ様がお婆ちゃんなるまで生き延びていただきます!」

「無理っ! 無茶よ!」

「無理でも無茶でもありません! このサディア、いえ、もうエリザベスですね、わたしが何としてでもデライザ様を生きのびさせますとも! そのうち、仮に妊娠出産をしたとしても、お子様とデライザ様お二人が共に生き延びる未来を掴んでみせます!」

「ええええええー⁉」

デライザ様には生きて、ロバート様としあわせになっていただくのだ。

だから、わたしは国を出て、他国を回ったりもしている。

今は、デライザ様のお食事……病人食では気も滅入るということで、美味しくも体に良い食材や料理法を学んでいるのだ。

とにかくデライザ様のお体に一番悪いのは塩だそうだ。

全く食べないというのも駄目のようだが、とにかく減塩だ。

かといって、塩なしの料理はおいしくない。

だが、今わたしがやってきているこの国では『出汁』というものを取って塩分を減らすというのが主流らしいのだ。

その『出汁』の元が、小魚を乾燥させたものや海藻らしいのだ。

わたしはそれを実際に試したくて、この海までやってきた。

子どもたちが「ここにあるよー」と言ってくれたあたりに向かって突進して、子どもたちが手渡してくれた大きな海藻をがしっと掴む。

「よーし! この国で海藻を取って、減塩食を学んで。次の国では医療も学んで! 長生きしてもらいますからねー! デライザお嬢様!」

わたしは海藻を手に、太陽を見上げる。

眩しくて、目を閉じる。

初恋は終わっても、失恋をしても。

わたしの人生は続く。

もう、失恋の傷は痛まない。

ロバート様に対しても、今では初恋の人というよりは、デライザ様を共に生き延びさせる相棒のようなものだ。

親愛の気持ちはもちろんあるが、もう恋ではない。

いつかまた、別の人に別の恋をするかもしれないし、しないかもしれないけど。

今はただ、思う。

ねえ、人生って楽しいですね、デライザ様。共に長く生きましょうよ!

失恋を乗り越えて、わたしは行く。

遠く遠く、どこまでも。

サディア編 終わり。