作品タイトル不明
第113話 ファングラン公爵家の現状
「ですが、その直後に魔力の暴走が起こったのですよ」
魔力の暴走?
普通は幼い子供が魔力の扱いに失敗して、魔力暴走を起こすのですが、それは大人が手を貸してあげれば、事が済むのです。
しかし、あと数年で成人するというレクスが魔力暴走とは、何故起こったのかも問題ですが、普通では止められないでしょう。
あ、だからグレンバーレルが呼び出されたと。
「私に止めるようにと要請が来ましてね。嫌々ながら向かったのでよく覚えています」
それはグレンバーレルからすれば、魔力暴走など起こすほうが悪いというものでしょうからね。
「なんというか、自暴自棄になっている子供の相手をしているようで、それを止められない周りの者達に反吐がでましたね」
あれ? 周りのふがいなさに飛び火しています。
「それでファングラン公爵は再起不能。鼻で笑ってしまいました。それに当てつけたのか、次期当主の変更を命じたという噂を耳にしまして、ファングラン公爵家も落ち目だなと思ったものです」
あれ?この言葉からするとグレンバーレルはレクスのことをそれなりに認めているということですか?
「ふーん。グレンバーレルはレクスに才を見出したのか?」
「は? 貴女が半年であそこまで育て上げたのでしょう?」
育て上げたのかと言われると首をかしげるしかないです。
「いや、そもそもレクスには基礎的なことしか教えていない」
「その基礎が普通ではないと自覚するべきです」
普通が何なのか問いただしたいです。そもそもグレンバーレルの基準もおかしいでしょう。
「まぁ、それでですかね。結局のところはファングラン騎士団団長が公爵代行を担っているゆえに、体裁を保てているというところですか」
「公爵代行……ああ、それでか」
だからあのような命令も躊躇無く出せたのですか。全てはファングラン公爵家として動いたと。
私は納得して、グレンバーレルの隣に腰を下ろす。
「なので、私がこれに参加する必要はありません」
グレンバーレルは、私に協力要請書を突き返してきました。
しかし、そんなことで私が諦めるわけないではないですか。
ローテーブルに要請書をバンと置き、グレンバーレルの右手にペンを持たせます。
「サインをお願いします」
ニコリと笑みを浮かべて、グレンバーレルの右手を用紙に押し付けました。
「フェリラン! そういう実力行使はいただけませんね!」
「サインをするか。するか。するかの選択しかありません」
「だから! それは選択肢がないといつも言っているではないですか!」
「そういうワガママは駄目だと思いますよ? ルクスファラン?」
「よく言いますね。ユーフィア。ああ、今はシエラメリーナでしたか?」
「うえ? 名前を覚えられている」
グレンバーレルに、今の名前を覚えられていることに鳥肌が立ちました。
「おや? 名前を覚えてくださいと言ったのは貴女のほうでしたよね?」
あのパーティー会場のことですか?
確かに言いましたけど。
「マルトレディルしか名乗っていないはずですが?」
「おや、噂の半殺し伯爵令嬢だと名乗っていたではありませんか?」
その言葉に思わずグレンバーレルの胸ぐらを掴みます。
「あ?」
「そうやって、すぐに脅すから言われるのですよ」
グレンバーレルから手を離し、舌打ちをしながら、ソファーに座ります。
「ちっ! だいたいジュアシルト侯爵の孫が弱すぎるのが悪い」
「貴女が強すぎるという結論には至らないのですかね?」
「だったら、グレンバーレル。今更その力を手放せるのか?」
私に問われたグレンバーレルは即答で答えました。
「無理ですね」
「そういうこと。ということでサインをしろ」
「これ、サインするまで居座るつもりですか?」
フェリランなら居座るのですが、残念ながら私にも予定があるのでそういうわけにもいきません。
「たぶん、そろそろ迎えがくると思う」
「番犬ですか?」
「前から聞こうと思っていたのだが、その番犬ってなに?」
するとグレンバーレルは、珍しく意地悪な笑みを浮かべて言いました。
「フェリラン中隊は中隊長の忠犬の集まりだと有名でしたよ?」
「なにそれ?」
思わずクツクツと笑ってしまう。
あいつらが忠犬って可愛らしいものか?
私が笑っていると、突然勢いよく扉が開かれました。
「隊長。もうお昼はとうに過ぎているのですが?」
なにやら、怒りを顕にしたレクスが部屋の中にカツカツと入ってきました。
「番犬が迎えにきたのでそろそろ戻ったらいいと思いますよ」
いや、このまま帰ると絶対にサインせずに要請書がゴミと化すと思います。
「レクス。ちょっと待て、今交渉中だ」
「楽しそうな笑い声が聞こえていましたが?」
赤い隻眼が私を見下ろしてきました。
それはグレンバーレルがおかしなことを言うからですよ。