軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

常識の齟齬

~Side 竜馬~

……どうした? 質問に答えてから周りの、特に公爵家の大人の目が怖いんだが、何かやらかしたか?

「素晴らしい」

は? どうしたんだ? 素晴らしいって何がだ?

「凄いわリョウマ君! あなたは今まで世の従魔術師が抱いていた謎を解き明かしたのよ!」

「!?」

どうしたこの人達!? 目に力がありすぎるし、話に食いつき過ぎ……てか色々怖っ!

「奥様、ラインバッハ様、落ち着いて下さいませ。リョウマ様を怯えさせてしまいます」

「あっ! ごめんなさい、怖がらないで」

「悪かった、つい興奮してしまった」

「大丈夫、です……」

「2人がこうなった理由を話すとだね……君の話したビッグスライムがテイム出来ない理由は今まで何人もの従魔術師が調べて解明できなかった謎だったんだよ。

ビッグスライムは凄く強い訳じゃないけど、戦いづらい魔獣だから敵の足止めとして使うためにテイムしようとする人は多かったらしい。今でも時々居るそうだよ。でも……」

「さっきも言った通り、成功例はない。そして失敗した者や、従魔術の要である『従魔契約』が効かない事を問題視したプライドの高い従魔術師によって“ビッグスライムをテイム出来ない理由”は昔から研究されていたんじゃ。

しかし成果が出ずに現在では研究の規模は大幅に縮小し、未だにその研究成果は出ておらん。そんな謎を、君は1人で突き止めたのじゃよ」

うわ……何かすごい事になってんな。

「む~、反応薄いわね……こう言えば分かるかしら? “ビッグスライムをテイム出来ない理由”の研究が始まったのは、従魔術がこの世界に広まったのとほぼ同じ頃とされているわ。

あまりにも成果が出ないから今の研究機関でこの件は、体の良い閑職扱いなの。長い間研究されても解けず、誰もが諦めた謎を、あなたが解いたの。これが興奮せずにいられますか!」

嘘だろ? 完全に偶然なんだけど、面倒臭い事になりそうだ。どうすっかな……

「どうしましょう?」

「テイマーギルドに登録して、発表すべきよ!」

あ~そういう情報集めた機関があるんだっけ? しかしこの人達の反応からすると、発表したら大騒ぎで面倒そうだな……でも森から出る良い機会かも……

「街か……」

つい口から出たその言葉に、4人と後ろに控えるメイドと執事が反応する。

「ごめんなさい、街は嫌だったわね……」

「登録と発表は無理強いせん、じゃが、これは本当に大きな発見なんじゃ。それは分かってくれ」

「分かり、ました。あ……」

スライムが合体した事で入口への道が開いていた。

「とりあえず、中、どうぞ」

外は獣とか居るし、立ち話もあまり長いと危ない。

俺は家の中に全員を案内し、奥に行って紅茶を淹れる。紅茶は前に襲って来た盗賊の持ち物で、同じ銘柄の茶葉が何個も荷物に入っていたからおそらく盗品だろう。それをこの前ヒューズさんに渡す槍を見繕っていた時に偶然見つけた。

お金は必要なかったし、殺した相手の物に手をつけるのも気分的に微妙だったから放っておいたら、そのまま忘れてたんだが……お茶があるならさっさと確認しとけば良かった。

とりあえず上物の茶葉のようだし、賞味期限も問題なさそうだからこれはいいだろう。問題はカップ。椅子などの家具もそうだったけど、俺を入れて12人分は無いから急いで土魔法で作った。

お茶を淹れ、一昨日見つけた蜂の巣から採ったはちみつと、同じく一昨日見つけた生姜にレモンのような果実の汁で作った運動部のレモン風シロップを持って戻っていく。砂糖替わりになる物はこれしか無いが、大丈夫だよな……?

「お待たせ……しました、紅茶です」

「あら、ありがとうございます」

「良い香りね、いただくわ」

「ふむ、随分良い葉を使っておるようじゃの?」

「襲って来た盗賊……の、荷物に沢山ありました」

「なるほどのぅ……ほう、旨いな」

「ええ、本当に」

「茶葉の香りがよく出ています。リョウマ様は何処かで淹れ方を習ったのですか?」

前世、とは言えんよな……

「祖母……お茶が好きでした……」

理由:祖父母=万能。この言い訳を与えてくれた神々には感謝だ。俺は自分で考えた嘘とかすぐバレるからな……前世じゃバカ正直と言われたなぁ……自分ではそうは思わないがな? 何故かただ事前に決められた事を言うだけなら、嘘でもスルッと口から出てくるんだ、これが。おまけに神様の手紙には祖父母役の方の魂を呼び出して許可をとってくれたと書いてあった、本当に感謝が尽きない。

「お好みで、蜂蜜もどうぞ……」

「いただきますわ」

「俺も貰うぜ、蜂蜜なんて高級品、中々口にできねぇからな」

「ちょっ、ヒューズさん!」

「一昨日、蜂の巣からとりました……ただですから……カミルさんもどうぞ」

「え、そう? じゃあちょっとだけ」

「お前も俺と変わらねぇじゃねぇかよ」

そこでエリアリア……だったかな? お嬢様がお茶を飲んで何かに気づく。

「あら? このハチミツ、ただのハチミツじゃありませんね? 何か入ってますか?」

執事がすぐさまチェックする。ジジャ(生姜)とラモン(レモンもどき)ダメだったか?

「ラモンの実の汁を混ぜてありますな、爽やかで良い味です。しかし、それだけではない様です」

良かった毒物とか思われなくて! ここは素直に答えとこう。実際毒は入れてないし。

「ジジャの根……入れてます」

「この風味はジジャでしたか。辛味のある薬草としか思っていませんでしたが、このように味を引き立てるとは」

「……ジジャ、料理に使えます……肉、サカナ……臭み消えます……」

「これは良い事を聞きました。今度屋敷の料理長に教えてみましょう。ありがとうございます、リョウマ様」

「どういたしまして」

「……さて、少々、いやかなり驚いて本題を忘れていたけどリョウマ君、今日は先日のお礼の意味を込めて色々と持ってきたんだ。ぜひ受け取ってもらいたい。セバス」

「はい、『アイテムボックス』」

お茶を飲んで一息つくとラインハルトさんがお土産の話を切り出してきて、後ろに座っていた執事さんが立ち上がって魔法を使うと、空中に黒い円が現れた。そしてその中に手を突っ込んで、中から物を取り出している。

『アイテムボックス』

名前の通り物を収納するための空間を作る空間魔法で、難易度の高い空間魔法の中では基本の一つ。だから俺も使えるけど……御礼の品が多くないか?

目の前の机には果物の詰まったバスケットに、紙や布の包みが5つ6つとどんどん出てくる。

「あの、こんなに?」

「ああ、君に何を贈れば喜ばれるか分からなかったから色々と持ってきたんだ。遠慮せずに貰って欲しい」

そう言いながらラインハルトさんは包みを開けていく。

中身は保存食だったり服だったり、筆記用具や灯りの魔法石と同じ魔力で動く置き時計など色々。全部俺の家には無い実用品だった。

どうも前回来た時に見て、この家に足りないものを持ってきてくれたらしい。

「服の大きさは大体の予想で持ってきたから着てみて、大きさが合わなければ……アローネ、リリアン」

「「はい」」

「この2人に頼んでくれればすぐ調整してもらえるからね」

何でメイドさんがこんなところまで来たのかと思えば、まさかそのために? なんか悪い気がするが、実際替えの服は少ないからありがたい。とりあえずお礼として出された物はもらっておく事にした。

「本当に、ありがとうございます。こんなに、持ってきていただいて」

「たいした事はないさ、それにこの辺りを通る用もあったからね」

「用? そういえば……森に何かあると」

「ああ、この前我が家は代々従魔術師の家系だと話したのを憶えているかい? 娘のエリアはこれまで勉強だけだったけど、そろそろ実際に従魔を持っても良い年頃だからね。初契約のためのスライムを捕まえにきたんだよ」

へぇ、初契約か。そろそろ良い年頃ってことは、今までは許可されなかったんだろうな。生き物だから世話の事とか、魔獣によっては危ない。まぁ何かしら認められたんだろう。

「おめでとうございます」

俺がそう紅茶を飲んでいたお嬢様に言うと、お嬢様ははにかんでありがとうと言っていた。しかし、聞くとまだ契約はできていないらしい。

「ここに来るまで探していたのですが、肝心のスライムが見つからなくて」

「スライムも魔獣、生き物じゃからな。見つからん時は見つからぬものじゃ」

「……なら、ここ」

俺は席を立って壁に描いた森の地図の一点を指す。

「川。ここに、スライムはよくいます」

そこはこの家から程近く、俺もよく生活用水を汲みに行く場所で、野性のスライムもよく水を飲みに来る。だからその辺を重点的に探せば1匹か2匹はおそらく見つかる。ちなみに俺は水を汲みに行ったついでに14匹捕まえた事がある。流石にそんなに居たのは一度だけだが。

そう伝えるとお嬢様は笑顔になり、周りの大人に許可をとっていたが、その後、何かを思い出したように俺に質問をしてきた。

「リョウマさん、とお呼びしても?」

「どうぞ」

「ではリョウマさん。差し支えなければスライムの選び方を教えていただけませんか」

「選び方?」

「はい。捕まえるスライムは一匹だけでいいのですが、そんなに沢山居る場所でしたら、どのスライムを捕まえたら良いか迷いそうで……」

あ、そういう意味か。でも、スライムに良い悪いは無いんだけどなぁ……

「選ぶなら……進化させたいスライムを選んで適したスライムを選ぶべき。

……でも、時間がかかります。……戦力にするなら……他の魔獣にすべき。

長く飼う気がないなら……手間をかけて選ぶ必要、無いです……

……それでも選びますか?」

「はい、初めての従魔ですから。末永く大切にしますわ」

純真な笑顔を向けてきたな……まぁ、この子なら本当に大切にしそうだし、手伝うか……

ん? 何で“この子なら本当に大切にしそう”なんて思ったんだ? 今までそんな事分かった事無いのに……俺、騙されてる? 色気? 精神的には40年以上生きてるオッサンがこんな子供に? …………考えるのをやめよう。

「ダメでしょうか?」

まぁ、教えるのは別に構わないけど、今の口調で教えるのはなぁ。言葉遣いだけでただでさえ不安だってのに……せめてもう少しスムーズに喋れないもんかね。

「僕で良ければ、ただ、今選べるのは……3種類、だけです」

「何故その他の種はダメなんですの?」

「進化条件が未確定、1つ……餌が無いのが1つ……女性にはさせづらい方法が1つ……です。能力的には、1番ですが……」

「ちょっと良いかしら?」

お嬢様と話していると、今度は奥様が話に加わってきた。しかもその表情は真剣そのもの。

「お母様……今は私が話しているのです、初めての契約の準備ですから、邪魔しないでくださいまし」

「それは分かっているけど、どうしても気になるのよ。リョウマ君、話を聞いているとスライムの進化条件を知っているように聞こえるのだけど……」

「ある程度は」

そう答えると、奥様はやっぱり……と呟いてラインハルトさんに目を向ける。ラインハルトさんが首を軽く振ったところを見ると……

(聞いてないわよ!)

(僕も研究をしてるとしか聞いていなかった!)

ってところだろうか?

「もしかして、これもビッグスライムと同じく……」

「ええ。スライムはどこにでも居るけれど、実は謎の塊なの。だから教える相手は気をつけたほうが良いわよ?」

簡単な事だと思うけど……まぁ現代日本にも解明されてない事なんていくらでもあるしなぁ……いつかスライムを研究している人が居たら話を聞いてみたいな。とりあえず、今はどうしようか……