軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結論

どうするか……と考えたが、結論はすぐに出た。

話そう。正直、俺にとって重要なのは結果よりも過程だ。研究を始めたのはスライムに興味を持ったから。研究する過程が楽しかったから。成果はわりとどうでもよかったりする。なによりもう知ってるという事は言ってしまったんだから、今更隠しても遅いだろう。

「大丈夫です……スライムの進化条件は、食事。

食生活で……違う種に進化します……

スティッキースライムならグリーンキャタピラー……

ポイズンスライムなら毒草……

スライムには1匹1匹に嗜好があり、それがスライムに向いている進化です。

嗜好と違う物を食べさせ続けた場合……進化が遅くなり……

物によっては、死んでしまいます……」

「なるほど、それがスライムの進化の条件なのですね?」

興味津々といった様子のお嬢様に、俺は一度頷いて言葉を続ける。

「栄養があると、進化しやすいです。食事を与えると、進化早まります。……選別は毒草、グリーンキャタピラー、洗った動物の骨……を使います。……それぞれに集まるスライム、ポイズンスライム、スティッキースライム、アシッドスライムになれます……」

「リョウマさんが選べないと言っていたのは何というスライムですの?」

「クリーナースライム、スカベンジャースライム、ヒールスライム。ただ、能力は申し分ない」

俺の挙げたヒールスライム以外の2種類に聞き覚えが無かったようで、公爵家の4人が顔を見合わせていた。

「クリーナースライムとスカベンジャースライムはどんなスライムなの?」

「持つスキル……“清潔化”と“消臭”に特徴、あります」

「清潔化と消臭? 聞いた事無いわね」

「消臭はまだ分かるが、清潔化とは?」

「……見て貰った方が……早いです……待ってて下さい……」

俺は奥に行き、手頃な布に厨房で血抜きをしていたウサギの血を塗りつけて、クリーナースライムを1匹連れて部屋に戻る。

「お待たせしました……これがクリーナースライムです。……こちらをご覧下さい……」

「血まみれの布? それをどうするの?」

「こうします」

頭の中で横にいるクリーナースライムに指示を出す。スライムは俺の持っている布をとって、体に取り込み、核の周りをぐるぐると回している。……何度も見ているが、洗濯機みたいだといつも思う。

そして十秒後。スライムが吐き出した布を触手のように伸ばした体の一部で掴んで俺に渡し、俺が広げてよく見えるようにする。それを見た公爵家の4人は珍しい物を見た程度の反応だったが、執事とメイド2人の目がギラリと光った。

「血が無くなっているね? それに少し色が変わっているが、溶けたか?」

「スライムに吸収されたのね、これだけなの?」

「いいえ奥様、それだけではございません」

「アローネ?」

公爵夫人の言葉に2人のメイドの内、少しお年を召した人が口を挟む。どうやら彼女がアローネと言うらしい。

「リョウマ様、そのスライムは、“汚れ”を食べるのですね?」

「その通りです」

「どういう事?」

「そちらの布の素材からして、先程までの布は血だけではなく色々な物で汚れていた事が見て取れました。今の布の色が本来の色です。

汚れと言う物は、放置すればするほど落ち難くなるのです。そしてそれを放置していたのが先ほどの状態ですわ。汚れがこびりついていたあれを手洗いした場合、時間をかけても元の生地の色に戻るとは限りません。つまり、清潔化のスキルとは頑固な汚れを落とす能力、ですね?」

「それもあります……正確に言えば……汚れ“のみ”を落とす能力です……」

俺はスライムに指示して布を持っていた手をスライムの体に取り込ませる。

「なっ!?」

「何ともありません……」

普通のスライムは取り込んだ物を全て消化しようとする。だから俺の手が溶かされると思ったんだろう。部屋にいた全員の顔が強ばっていた。しかし俺の右手は溶かされず、5秒でスライムは手から離れる。

「平気なのか?」

「汚れのみを溶かしますから……人間は勿論、動物の肉も普段は……命令しないと食べないスライムです」

「そんなスライムがいるのか……」

「心臓に悪いですわ、脅かさないでくださいまし」

「申し訳ありません……何時もの事ですし……あまり触りたくない布でしたから……」

「確かに綺麗とは言い難い布でしたわね」

「元はゴブリンの腰布ですから」

俺がそう言うと護衛とお嬢様方は顔をしかめ、メイドさん達は更に興味を示したようだ。何でもこの世界には『ゴブリンの汚れはこの世で一番落ちにくい』という言葉があるらしいからな。

「このスライムがいればどんな状況でも清潔な状態を保てます……旅の間、水浴び……出来ないでしょう?」

「ええ、体を拭くくらいしか出来ませんね。私、今回が初めての長旅なのですが、1日お風呂に入れないだけで気持ち悪い気がして……」

「このスライムが居れば……その問題……解決します」

その言葉にお嬢様がすごい勢いで俺の顔を見た。怖いって、目とか色々! 奥様とメイド2人も目に力が入ってるし。

「服と体……汚れと臭い……全部食べてくれますから……」

「それ! そのスライム、クリーナースライムでお願いしますわ!」

……やべ、俺何で自分でダメだっつった奴の利点を売り込んでんの!? しかも一番言いづらい奴を! あぁ、スライムの話に熱が入りすぎたのか……せめてスカベンジャーにしろよ俺!

「コレは選別方法が……」

「そんな! ここまで素晴らしいスライムを見せて、それは酷いですわ!」

「リョウマ様、私もジャミール公爵家に代々仕える家系出身のメイドとして、従魔術の基礎は学んでおります。どうか私めにもクリーナースライムの選別法をご教授下さい」

「私も知りたいわ~」

女性陣にとってはかなりの大事なのか、食いつきがもう、ね。男性陣がちょっと引いているし、護衛の4人はもう我関せずって雰囲気を醸し出している。

「リョウマ君、今の女性陣を刺激しないでほしいな……」

「女性に、言いづらいです……」

「女性には教えられないと?」

「いえ、教えるのは構わない。ただ、言いづらい」

「お嬢様達が知りたいって言ってるんだから、良いんじゃない?」

俺の視線に気づいて場を取りなそうとしたのか、カミルさんが適当な事を言い出したのでカミルさんを筆頭に護衛の4人とラインハルトさんを部屋の隅に連れて行き、こっそり選別方法とその方法を知った経緯を話してみた。

「……君が言いたがらない理由が分かった」

「そんな方法なのか」

「確かに、男から女には言いづらいね」

「女同士でも言いづらいと思いやすぜ……?」

「ま、なるようになるだろ」

そう簡単に言い切ったのはヒューズさんだった、彼はそのまま後ろを向いて

「お嬢! 奥様! 方法が分かったぜ! ついでにアローネもな!」

女性陣に宣言した。

何言ってんのあの人!? 何とかうまく言えるのか?

「本当ですか!?」

「ああ! お嬢、体洗え! そんで、汗で汚れた水を餌にしておびき寄せろ!」

言ったーーーー!! あの人超ストレートに言った!! って、あー……女性陣から綺麗な平手が……

その後、女性陣が落ち着いたのを見計らったラインハルトさんが、ヒューズさんの話した結論に至るまでの経緯を説明してくれた。

ただの水と体を洗った水を用意して並べると、普通のスライムは綺麗な水に行くのに、クリーナースライムになれるスライムは何故か汗で汚れた水に集まるんだよな……

無事クリーナースライムになると、普通の食事は一切取らずに汚れと水のみで生きる変わったスライムなんだよ、クリーナースライムって……一番好むのがそれだから、たぶん汗とか皮脂なんだろうな……

「まさか、そんな性質を持つスライムだったなんて……」

「すみません」

「あ、えっと、リョウマさんの責任ではありませんので」

「クリーナースライム……女性が捕獲するには……辛いと思います」

「リョウマさん」

「?」

「私、やはりクリーナースライムがいいです」

どうやら、お嬢様はクリーナースライムを諦めきれないようだ。

「では、護衛の誰かに……」

「それはなりません、見習いとはいえ、これから従魔術師になるんです。人に頼ってはいけませんわ」

「……全て一人でやる事が……良い事とは……限りませんよ……?」

「それでも、最初の一歩は自分の足で踏み出したいですわ」

「……決めるのは……お嬢様です……」

「私は……私……っ! やりますわ! お水を、いただけますか?」

その宣言に涙を流す周りの皆さん。お嬢様は顔を真っ赤にして堪えている。そんなに無理せんでも良いのに……というか何だこの空気は、スゴイ決断したみたいなのにやる事は、なぁ……?

しかしこうなるとただ水を出して終わりじゃ申し訳ない気がするので、風呂を使うよう勧めてみよう。元日本人として湯に浸かりたくなる時もあるから、奥に割としっかりした風呂を作ってある。まさかこんな事になるとは思わなかったけどな。

「お風呂、あります、使って下さい」

「お風呂がありますの? ありがとうございます!」

そして俺は水魔法で湯船に水を張り、火魔法で湯を沸かす。更に水魔法で丁度いい温度にしてからお嬢様に湯が沸いた事を伝えた。所要時間はほんの数分、魔法が便利すぎる。

お嬢様とメイドの2人が風呂場へ行くのを見送った俺は他の人達と合流する。

「アイタタタタ……ひどい目にあった」

「自業自得だ」

「流石にアレはないですよ……」

確かに、アレはデリカシーが無かった。俺も前世ではデリカシーが無いと言われていたが、そんな俺でもあそこまで酷くは無かった、はずだ。俺もいい年になって、下手な発言がセクハラに取られかねないからそこはしっかり気をつけていたからな。というか、気をつけなきゃ社会的に死んでいただろう。

「あ、リョウマ君、おかえりなさい」

「奥様……何というか……」

「いいのよ、本人が決めた事だし。それに、嘘を教えた訳じゃないのでしょう?」

「勿論です」

「ならいいじゃない。それに、内容はどうあれあの子が従魔術師として真摯な姿勢を見せてくれるのは嬉しいわ。クリーナースライムを手に入れたいだけなら、リョウマ君と相談して一匹譲って貰えば良いだけだもの」

…………イマナンテイッタ?

「今なんて?」

「リョウマ君に譲って貰えば良いって言ったわ。もしかして、考えてなかった?」

は、ははは……何でそんな簡単なことを思いつかなかったんだ俺は……考えたら何かを手に入れる方法としても基本じゃないか。そんな事も思いつかないって、森に篭り過ぎたのかな? 3年間必要なものは自分で狩るか採取した物で作ってたし。

「全く……」

「いやー、青春してるなーって思ったわ。面白かった。でも、娘の心構えが嬉しかったのは本当よ?」

「そうですか……」

何か、疲れた……その後風呂から出たお嬢様は風呂の湯を汲み、川へスライムを探しに行き、俺はメイドの2人と服の試着とサイズ直しの相談をした。

お嬢様は運が良かったのか意外と早く、俺が全部の服の試着と相談が終わる頃に戻ってきた。当然捕獲したスライムを連れていて、俺を含めた11人が見守る中で初契約を行った。

その頃には少し遅い時間になっていたので、今日お嬢様たちは俺の家に泊まる事になり、俺は他の人に風呂を勧めて料理をする。そこでメイド2人と執事のセバスさんが手伝いを申し出てくれたが、断った。

手伝いはありがたいけど、家の厨房は狭い。大人3人が入るスペースは無いし、調理道具は俺の身長に合わせてあるから、全部子供サイズだ。下手をしたら腰に悪いかもしれない。

ちなみに夕食のメニューは獣の肉をすりおろしたジジャと共に焼いたしょうが焼きもどき。ラインハルトさんがえらい気に入ったみたいだったし、他の人にも概ね好評だったが、元日本人の俺としては微妙なんだよな……慣れたけど。

塩すら崖の中から岩塩がほんの少量しか手に入らないし、鉱物が多めに含まれているから錬金術を使って分離・精製しないと体に悪い。錬金術がなかったら3年もの森籠もりは出来なかったかもしれない。とりあえず命に関わらない程度は確保出来ているが、満足出来る量ではないんだ。

まぁ、とりあえず満足してもらえてよかった。