軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2."異能"の秘密

「おっしゃる通り、公爵は姫の手柄を横取りしていました。しかも"幽霊姫"の異能は"先見"なんてレベルじゃなく、もっと強大な 能力(チカラ) だったのです」

《異能無し》と蔑まれた公爵家の長女ローレラ。

彼女の本当の力は、"時戻し"。

進んだ未来に不都合があれば、時間を巻き戻す力。

強力であるがゆえに公爵によって伏せられ、公爵のみが娘の力を搾取した。

しかし時を戻せば、術者以外、未来の記憶は消えてしまう。記憶を保持できるのは、ローレラのみなのだ。

ゆえに公爵は自分に宛てて、置き手紙をしたためた。

クレバン家を公爵の地位まで押し上げた、祖先のアイテム"精霊の石板"を用い、どの選択によって、どんな未来を招くかを書き残したのだ。

"精霊の石板"はあらゆる次元の干渉も受け付けない。ローレラの"時戻し"も対象外で、ただ、目的を果たせば文字は消える特性を持っていた。

公爵は石板にある自分からのメッセージに従い、たびたび国王に進言。

"先を 視(み) た"と語り、より良い未来を掴み取ってきた。

けれど"時戻し"は行使するたび、術者の生気を奪う。

ローレラの金髪はいつしか色を失い、肌は瑞々しさを失くし、すっかり貧相にやせ細った少女を、屋敷の誰もが恥ずかしいと見下した。

公爵家の姫として外に出せない 見窄(みすぼ) らしさ。

クラーラの母は、ローレラをそう評して、屋敷の奥に閉じ込めた。

クラーラとローレラの母は、違ったのである。

ローレラの生母はすでにこの世になく、クラーラとは異母姉妹。

後添えとなったクラーラの母は、先妻の娘と自分の娘の間に、明らかな姉妹格差を生じさせていた。

クラーラには数えきれないほどのドレスを仕立て、流行りの宝石を次々と。夜会にお茶会、園遊会、あらゆる場所に連れ出した。

一方ローレラはどうせ表に出さない。使用人にも劣る古着を数枚を与えたきり、十分だろうと放置した。

けれどそれを咎める人物は、誰もいない。父公爵さえ、煩わしさを嫌って関与しなかった。

ローレラが身を削って異能を使っている事実は、父のみぞ知る。

屋敷における彼女は、ごく 潰(つぶ) しの役立たず。

周囲からは馬鹿にされ、本来、彼女を守るはずの婚約相手フィルベルトも、さっさと妹姫に乗り換えた。

王子は妹姫と婚姻を結び、妊娠までも爆速だった。

彼女は身近な人間すべてに裏切られたのだ。

「様々な要因が重なって、ローレラ姫はこれまで通り公爵に従うことが嫌になっていた。だから彼女は街に出た」

いつしか道は、誰もいない細道へと変わっていた。ぴたりとルトが足を止め、ローレの心を探るようにのぞき込む。

「そ、」

「このお話は創作です。そのまま聞いて」

「そして街で戸惑う令嬢は、小さな出版社の編集部員を名乗る男に、声を掛けられた」

「……ルト……」

「そう、この僕に」

「その頃わが国では、クラーラ姫の異能、"植物を鉄に変えるチカラ"で大量の武器を生産し、戦力増強の状態にあった。軍部は調子に乗り、国境戦を軽く見て、あげく。歴史に残る大敗を喫した」

いつもなら、そこに至るまでに公爵が強要し、何度かローレラが時を戻してやり直したはずだ。

けれど今回。ローレラは、"時戻し"を行わなかった。

公爵も彼女に命じなかった。その理由は?

「ここからは僕の完全な推測ですが……。"時戻し"の異能は、記憶を消すチカラも司っているのではありませんか? ローレラ姫は公爵から、"時戻し"に関する記憶も抜き去った」

時を戻す際、記憶を消すチカラも発動する。

ローレラは何度も未来に進み、術を試し、そして繊細に記憶のみを弄るスキルを身に付けて、それをクレバン公爵に行使した。

見事、時戻しの異能に関する記憶を消した後、ローレラが巧みに仕掛けた結果、公爵はこれまでの"先見"を自分の異能と錯覚。

その上で妹のクラーラを少し 煽(あお) れば……。

逆上したクラーラは、あることないこと話を盛って父に訴え、クレバン公爵はローレラを追い出した。

解放と逃亡が、ローレラの真の目的だと気づかずに。

クレバン公爵は不思議がったことだろう。

"精霊の石板"にあった、"先見"のメモがまったく記されなくなったことを。

さらに不幸が重なって、あれよあれよと投獄されてしまった現状を。

父親が大罪に問われれば、クラーラの妃としての地位も危ういことになる。

万一城に残れたとしても。以前のような権勢や影響力は望めないだろう。

針の 筵(ムシロ) のような視線の中、生き抜いていかなければならなくなったクレバン家の面々がその後どう過ごすか。

ローレラを失った以上、クレバン家はもうやり直しがきかない。

彼女は実家に、見事なしっぺ返しを見舞ったのである。

「ふぅぅ、突拍子もない話ですね、ルト」

「いかがでしたか、作家の目から見た、僕の推理は」

「推理? 創作でしょう? あなたが自分でそう言ったのではないですか」

観念したように下を向くローレだが、その口元は喜びを表すかのように、ほんのり綻んでいる。

「ちなみに僕の設定では、ローレ先生はローレラ姫──うぷッッ!」

「それ以上は、ダメ!!」

ローレの白い指が、ルトの口を塞ぐ。

「それ以上言ったら、私もあなたの素性を推理しなくちゃいけなくなります」