軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

81 フランシス隊長

(・・・この音は何かしら?)

「襲われたって聞いたが、大丈夫か!?」

声を張り上げながら、まさしく巨人と呼ぶに相応しい大きな男の人が駆け寄ってきた。

どうやら街の人の話を聞いて、心配して来てくれたのだろう。

筋肉が鎧のように盛り上がっていて、いかにも強そうだ。

これ以上お説教されるのは嫌だったので、ダニエル様の視線がふと逸れた隙に、肩に置かれた手をそっと振りほどき、ダニエル様から距離を取った。

大きな男の人は、ダニエル様を見て驚くように声をあげた。

「何だ!ダニエルじゃないか!!こんなとこで、どうしたんだ?」

「ああ、フランシス隊長じゃないですか。お久しぶりですね。友人と舞台を観ていたんですよ。フランシス隊長は、今日は非番ですか?」

フランシス隊長は、平民のようなリネンのシャツを着ていた。

騎士の制服を着ていたら頼もしく感じるのだろうが、私服だと申し訳ないが強盗の親玉に見えてしまう。

「ああ、まあ、そんなとこだ。それよりこれは・・・」

ひったくり犯の苦し気に唸る声が、夜空に響いていた。

フランシス隊長は、まだ目を押さえて蹲るひったくり犯を確認し、次に、傷一つないダニエル様を、訝し気に見てきた。

これでは、どっちが加害者かわかったものではない。

「正当防衛です」

ダニエル様が、しれっとした顔で庇ってくれたが、申告しないわけにはいかないだろう。

「・・・・・・申し訳ありません。私がやりました」

フランシス隊長は、私が声をかけたことで、ようやく私の存在に気付いたようだ。

私の悪行に驚いたのか、私の顔を見たまま固まっている。

確かにやり過ぎたような気もするが、オリバー直伝の目潰しがこんなに効くとは思わなかったのだ。

目潰しの性質上、自分で試せなかったから、どのくらい撒けばいいかわからず、あるだけ全部ぶちまけてしまった。

「すみません、ちょっとやりすぎました」

フランシス隊長が、まるで信じられないものを見たかのように私を凝視してくるので、犯罪を疑われているのではないかという不安がよぎり、背中から嫌な汗が流れてくる。

小さくなって恐縮しているところに、後ろから別の声が響いてきた。

「捕まえてくれて、ありがとうございます~」

「みなさん、大丈夫ですか?」

鞄の持ち主だろうか。

太った体を左右に揺らしながら、よたよたと額に汗を流しながら走ってきている。

その隣には、ひょろひょろと細く、頼りなさそうな騎士が気遣うように並走していた。

笑顔でこちらに向かってきたが、二人共、痛みに呻くひったくり犯を見て、何とも言えない顔をした。

「・・・・・・フランシス隊長が捕まえてくださったのですか?」

被害者に並走してきた細い騎士が、未だに蹲って呻き声を上げ続けているひったくり犯を見て、責めるような眼差しでフランシス隊長を見てきた。

鞄の持ち主は、盗られた鞄の中身を確認しながらも、ひったくり犯と私たちをちらちらと見やり、そのたびに肩をすくめるように怖気づいている。

「いや、ダニエルと、こちらのお嬢さんだ」

「え、ダニエルさんが!?へぇ!ダニエルさんが、ここまで痛めつけるなんて珍しいですね」

「あ、いや・・・」

「いえ、すみません。私がやりました・・・」

「またまたご冗談を。こんな綺麗なお嬢さんが、大の男を病院送りみたいなこと、できるわけないじゃないですか!こんなに痛めつけるなんて、何をやったんです?」

「・・・・・・まあ、ちょっとな」

「ちょっとどころじゃないような気がしますけどね。でも、まあいいですよ。痛い目見なきゃ、こんな奴らは反省しませんからね」

細い騎士は、会話をしながら、鮮やかにひったくり犯を縛っていく。

慣れているのか、随分と手際が良い。

「・・・ダニエル、悪いが、今から事情を聞かせてもらえるか?」

フランシス隊長がダニエル様に身を寄せて、ダニエル様の肩を、分厚い手のひらでがっしりと掴んできた。

筋肉の塊のようなフランシス隊長が、ダニエル様にぴったりと寄り添う様子は、圧迫感しか感じない。

ダニエル様は、嫌そうに目を細めながら、フランシス隊長の肉厚な手を見ている。

フランシス隊長の身体に包まれているダニエル様を見て、若い騎士は苦笑いしているが、ダニエル様の瞳を覗き込んだフランシス隊長の目は真剣だった。

(・・・フランシス隊長は、私たちが悪いと思ってるわよね?)

必死に法律書に書いてあった正当防衛の条件を思い出す。

命の危険を感じて、身を守るために反撃したなら許されるが、反撃していい範囲は、危険に対して相当だと決められていたはずだ。

過剰防衛は、許されない。

(・・・・・・いや、これ、ダメじゃない!?)

急にナイフで襲われたから、身を守るつもりで応戦したが、やりすぎているような気がする。

私の目潰しは、確実に急所を狙ったと言われても仕方がない。

現にひったくり犯は、目を押さえながら、未だに痛そうな呻き声を上げている。

(でも、確かに急所を狙ったんだけど、こんなに効くとは思わなかったのよ!)

オリバーの優秀さが恨めしい。

ダニエル様は、眉間に皺を刻み、露骨に気乗りしない声を出しながらフランシス隊長の手を押し退けようとしている。

「・・・・・・それ、今でないといけませんか?」

「悪いな。他にも聞きたいことがあるんだ」

「あ、あの、すみません、ダニエル様は蹴っただけで、目潰しをしたのは私です」

ダニエル様は悪くない。

なぜならダニエル様は蹴った時、急所は狙ったかもしれないが、息一つ乱していなかった。

多分、手加減して蹴ったはずだ。

そうでなければ、ひったくり犯がすぐに起き上がれるはずがない。

ひったくり犯をここまで酷く痛めつけたのは、私の目潰しだ。

「いえ、ダニエルを責めるわけではないので、ご安心ください。ただ、状況を聞かないといけないだけです」

だが、フランシス隊長はそう言いながらも、しっかりとダニエル様の肩を押さえたままだ。

肩を押さえて逃げれないようにするのは、騎士団の十八番なのだろうか。

「いえ、それなら、私もダニエル様と一緒にいます!」

私が余計なことをしたせいで、ダニエル様にあらぬ嫌疑がかかったら申し訳ないと必死に言い募るが、フランシス隊長の手は動かない。

「私のせいです。私がやったんです。ダニエル様は、全然悪くないんです。本当にごめんなさい」

「いえ、どうかお嬢さんはお気になさらずに」

「いえ、でも、本当に私の所為なんです」

「アンナ様は、悪くありませんよ。ナイフを持ち出した犯人が悪いんです。正当防衛ですからね」

「大丈夫ですよ。ダニエルに少し話を聞くだけですから」

「でも・・・」

ダニエル様は庇ってくれるが、私の軽率な行動のせいで、お世話になっているダニエル様に迷惑をかけると思うと、涙が滲んでくる。

ダニエル様は、泣きそうになっている私に一瞬目を遣り、大きなため息をついた。

それから、肩に置かれたフランシス隊長の手を無理やり外すと、私の不安を和らげるように笑顔を作った。

「アンナ様、そう気になさらずとも大丈夫ですよ。フランシス隊長とは、旧知の仲です」

「でも・・・」

「アンナ様を送れなくなって、申し訳ありません。夜道に女性の一人歩きは危険ですからね。フランシス隊長、私の代わりに、フレディにアンナ様を宿までお送りするよう頼んでもいいですか?」

「ああ、勿論だ。フレディ、彼女を送って差し上げろ」

「了解しました!」

元気よく返事をするフレディ様に、ダニエル様が口を開くが、フランシス隊長がそれを制した。

「彼女を送ったら、フレディは、宿の名前と送り届けた時間を、必ず私まで報告してくれ」

「勿論です!お任せください!!」

「ダニエルも、それでいいだろ?」

「・・・・・・・・・ああ、わかったよ」

ダニエル様が、私に「帰りなさい」と言うように目配せをしながら頷いてくる。

フレディ様が、私を案内するために横に立ち、腰の剣を見せながら安心させるように微笑んできた。

ここまでされたら、ダニエル様のことは気になるが、宿屋に帰るしかないだろう。

仕方なく、ダニエル様に頭を下げて宿屋へ向かう。

(・・・・・・王族じゃあるまいし、そこまでしてもらわなくてもいいんだけど)

フレディ様が、剣の柄に手を添えながら私に寄り添うようについてきた。

残されるダニエル様が心配で何度も振り返るが、ダニエル様は、護衛付きで宿屋へ帰る私を気遣わし気に見つめるだけで、もう何も言わなかった。