軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔力調査(2)

「ユイはあんまり植物に関わらないほうが良さそうだねぇ」

「そうですね、これからは気を付けようと思います」

ヴァランティーヌさんの言葉にセレストさんが真剣な表情で頷いた。

……お花、可愛いのに。

でも、また霊花になっても困るので仕方がない。

「霊花はもういいよ」「分かりました」というやり取りがあり、チューリップが持ち出される。

エルフの男性がわたしを見た。

「調査が済んだから、あれは薬にしてもいいか?」

「はい、お願いします」

そうして、ベランジェールさんが立ち上がった。

「じゃあ、次は魔道具を見に行こうかね」

わたしも席を立ち、全員で魔道具部を出る。

魔道具は二つあるけれど、今日は新人教育用の部屋のほうを見にいくことにした。

この時間だと訓練場には多くの人がいるので目立ってしまう。

話を聞かれたくないということもある。

「しかし、精霊樹が再生……ねぇ」

ベランジェールさんが含みのある言い方をした。

見上げれば、ベランジェールさんと目が合った。

「精霊樹は生命力が高いけど、繊細で、本体の樹木から切り落とした枝は媒体には使えても、再生するほどの力はないんだよね〜。何年か経つとただの木になっちゃうし」

「精霊樹って、どういう木ですか?」

「ん? どうって……ああ、そっか、他の種族は精霊樹のことをあまり知らないんだっけ」

小さく笑ったベランジェールさんが精霊樹について教えてくれた。

精霊樹は元々、この世界の中心にある世界樹から枝分けしたものらしい。

世界樹は膨大な魔力を宿した水晶のような見た目の樹木で、巨大で、様々な魔法の媒体となる。

エルフの里には精霊樹が必ずあり、里を守り、周囲の森の自然を支えている。

エルフにとっては信仰対象に近い存在で、代々守るべき大切な木でもある。

「……精霊樹が枯れれば、周囲の森も弱り、荒地になってしまうんだよ」

そう言ったベランジェールさんの表情はどこか陰があった。

けれども、目が合うとニッと笑って、ベランジェールさんが顔を前に向ける。

「精霊樹ってのはあたし達エルフにとっては命と同じくらい大事なものなのさ」

そうして、新人教育用の部屋に着いた。

ヴァランティーヌさんが鍵を開けて、中に入る。

以前と同じまま、室内には木が生えていた。

……これ、どうするんだろう……。

木は伸び伸びと枝を広げているけれど、幹に魔道具の人形が埋まっていてやっぱりちょっと怖い。

わたしが近づけずにいるとセレストさんに抱き寄せられる。

「これはまた、随分と派手に生えたもんだね〜!」

と、ベランジェールさんが愉快そうに笑った。

何の躊躇いもなく木に触れて、魔道具を調べ、枝や葉、幹を確認する。

ベランジェールさんと魔道具部の人達が楽しそうに話していて、わたしはセレストさんとヴァランティーヌさんと出入り口の辺りで遠巻きに眺める。

「それにしても、セレストとユイが付き合うとは。もう少し先かと思っていたけど、アタシの勘も鈍ったかねぇ」

ヴァランティーヌさんの言葉に、わたしは顔が熱くなった。

「……わたしが、勘違いしたから……」

「ん?」

「ベランジェールさんが、セレストさんとすごく仲が良さそうで……嫉妬して……その、セレストさんの恋人にしてって泣いてお願いしました……」

ヴァランティーヌさんがわたしを見て、セレストさんを見て、またわたしを見た。

セレストさんが嬉しそうにニコニコしていたのがおかしかったのか、ヴァランティーヌさんが「あはははは!!」と声を上げて笑った。

「なるほど! そこで頷かない竜人はいないだろうね!」

ヴァランティーヌさんがセレストさんの肩を遠慮なく叩く。

その仕草がベランジェールさんとよく似ていて、面白い。

「私が臆病なばかりにユイを不安にさせてしまったので」

「ああ、そこはセレスト、アンタが悪いよ。今までユイに好意を向けて、番として愛情を与えてきたのに、いざ恋人にってところで一歩引かれたら不安になるのは当然さね」

「はい、反省しています」

セレストさんが苦笑し、わたしを抱き締め直す。

ヴァランティーヌさんに頭を撫でられる。

「それでも、アンタ達が無事付き合ってくれて嬉しいよ」

温かな眼差しで見つめられ、何となく照れくさくなる。

セレストさんに抱き着いて顔を押しつけて誤魔化した。

それに気付いているのかヴァランティーヌさんもセレストさんも何も言わなかった。

木の調査を終えたベランジェールさん達が振り向いた。

「ユイちゃん、ちょっといいかい?」

手招きされて、ちょっと躊躇った。

……あの魔道具と木は……。

セレストさんがベランジェールさんに返事をする。

「そちらにユイが行って、急に魔道具が動き出したり木が成長したりしませんか?」

「精霊樹は成長しきって、ただの木になってるからもう何も起きないよ。……あ、もしかしてちょっと怖い? そうだよね、こんな見た目だと何か呪物って感じっぽいよね〜」

ベランジェールさんが枝を折ってこっちに持ってくる。

「この枝に触ってごらん」

恐る恐る手を伸ばし、指先でチョンとつついてみる。

……何も起きない?

「霊花の時みたいにユイちゃんが『元気になれ〜』って魔力を込めない限り、この木は変化しないよ。魔力は少し残ってるけど、魔道具の媒体に使われてるからか精霊も宿ってないし、このまま放っておけば魔力がなくなってしばらくすれば枯れるから」

「そうなんですね」

セレストさんも警戒を解く。

「この木で魔道具を作り直せそうですが……」

魔道具部の人の言葉にベランジェールさんが振り返る。

「うん? ん〜、そうだね、普通の木より頑丈だから作れば強度の高い魔道具になるよ」

「それなら、切って素材にしてしまおう」

「すぐに斧持ってくる!」

「こんな良い木を枯らして捨てるのはもったいない!」

ドワーフの一人が部屋を飛び出していった。

ヴァランティーヌさんが「木が無駄にならなくて良かったねぇ」とのほほんと言う。

……部屋の中が荒れちゃったけど……。

それについては誰も何も言わない。

「あの、わたしのせいで部屋が荒れて──……」

ヴァランティーヌさんが首を横に振った。

「ユイもわざとやったわけじゃないからお咎めなしさ」

「むしろ、今回ユイの魔力特性について知ることができて良かったです」

セレストさんもそう言ってわたしの背中を優しく撫でた。

ベランジェールさんが枝を片手に笑う。

「いやあ、面白いものを見せてもらったよ。精霊樹にこんな特性があるとはね〜」

と、何故かとても満足な様子だった。

「原因は分かったかい?」

「大体はね。ただ……うーん……ヴァランティーヌ、ちょっと耳貸して」

ベランジェールさんの表情が曇り、ヴァランティーヌさんに何やら耳打ちする。

ヴァランティーヌさんが驚いた顔で「それは本当かい?」と訊き返し、ベランジェールさんが「うん、その件もあって来たんだよね」と困った様子で頭を掻いた。

「まあ、それは置いといて、結論だけ言うと『精霊樹がユイちゃんの魔力を吸って、一時的に急成長した』ってところだね。でも、成長しても精霊はもう宿っていないから普通の木になったってわけ」

「ユイの無属性の魔力ですか……」

「そう。人間には『魔法適性はないけど魔力はある子』が結構いるでしょ? 無属性は滅多に聞かないから、ユイちゃんと同じような現象は起きにくいと思うよ〜。精霊樹は純粋な魔力を好むし、多分他の属性持ちの子が触れてもこういうことにはならないだろうね」

それに魔道具部の人が訊く。

「では、魔道具については改良すれば問題ないと?」

「精霊樹を媒体から外すか、魔力を勝手に吸わないように安全機構を作るかすれば運用は問題ないんじゃないかねぇ。精霊樹の代わりに月光石を使うとかね。あれも魔力循環がいいし、木材との相性も悪くない。精霊樹より手に入りやすいから制作費も抑えられるんじゃない?」

「なるほど、月光石は盲点だった」

魔道具部の二人が頷いていると扉が叩かれた。

さっき出ていった人が大きめの斧を持って戻ってきた。

もう調べることはないそうなので、あとはこの木を切って終わりだ。

「アタシらはもうここにいる必要はなさそうだねぇ」

「そのようですね」

魔道具部の人達も伐採に夢中である。

部屋を出るとヴァランティーヌさんが「それじゃあ、また後で」と言う。

それにセレストさんも「終業後は『酒樽の集い』に行きます」と返した。

廊下にわたしとセレストさん、ベランジェールさんが残される。

「さて、二人ともこの後、まだ時間ある? あたしが街に出てきた『本題』を話したいんだよね」

ベランジェールさんに言われ、セレストさんと顔を見合わせた。

「ええ、私は大丈夫ですが……」

「わたしも大丈夫です」

「良かった。実はうちの里と関係する話でユイちゃんにお願いしたいことがあるんだけど、それについては第二警備隊長さんにも説明したいから、一緒に来てもらえるかな?」

わたし達はもう一度顔を見合わせて、そして頷いた。

ベランジェールさんが「助かるよ」と言い、三人で第二警備隊の隊長室に向かう。

第二警備隊隊長は竜人で、名前はジェラール=ルクレールさんという。話したことはないけれど、遠目に何度か見かけたことがある。四十代くらいの、雄々しい感じの男性だ。セレストさんより背が高くて体格も良いので覚えている。

……ちょっと緊張する……。

セレストさんが屈んで、わたしに囁く。

「無属性の魔力については以前、ジェラール隊長に報告をしました。今回についても口頭のみで伝えているので隠す必要はありません」

「うん、分かった」

隊長室に着き、セレストさんが扉を叩く。

犬が二本足で立ち上がったような小柄な魔族──……コボルトが中から扉を開けた。

セレストさんの後ろからベランジェールさんが「エルフの里の件で来ました〜」と言えば、コボルトさんが頷き、扉を開けて脇に避けた。

室内は広くて、横に応接用のスペースもあった。

出入り口の真正面に大きな机が置かれていて、そこに第二警備隊隊長さんがいた。

真っ赤な髪に少し青みがかった金色の瞳をした、雄々しい顔立ちの竜人で、セレストさんとは正反対だ。だけど、威圧的な雰囲気はなくて、緊張はするけど怖くはない。

「ああ、ヴァランティーヌと同郷のベランジェールだったな。手紙は読んだが……ん?」

隊長さんがセレストさんとわたしを見ると目を瞬かせた。

「すみません、こちらの二人にも関係することなのでついて来ていただきました」

「……話が長くなりそうだな。とりあえず、そっちに座るといい」

隊長さんがペンを置くと、立ち上がりながら目線を応接用のスペースに向けた。

三人掛けのソファーが向かい合って置かれていて、間にローテーブル、そしていわゆるお誕生日席の位置に一人掛けのソファーがある。隊長さんは一人掛けのところに座った。

セレストさんとわたしが三人掛けのソファーの片方に、ベランジェールさんは向かいに腰掛けた。

隊長さんがコボルトさんに「少し席を外してくれ」と言えば、コボルトさんが一礼して出ていく。

「さて、話を聞く前に自己紹介をしておこう。俺はジェラール=ルクレール。グランツェールの第二警備隊隊長だ。……ユニヴェールの番と話すのは初めてだな?」

隊長さんから視線を向けられた。

……うん、敵意はない。

セレストさんが頷き返す。

「はい。改めまして、私の番のユイです」

「初めまして、ユイといいます。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく。……少し前に第四事務の室長が優秀な人材が入ったって喜んでいたから、知ってはいたが……こうして元気な姿を見ると嬉しいものだな」

隊長さんの言葉に首を傾げれば、セレストさんがこっそり教えてくれる。

「ユイがいた賭博場の摘発はジェラール隊長が自ら指揮して、現場にも出ていました」

「……覚えてない……」

「あの時は乱戦状態でしたからね」

向けられる視線が穏やかなのも、優しいのも、四年前のわたしを知っているからだ。

あの頃より背も大きくなったし、言葉も普通に話せるようになったし、読み書き計算もできる。

……それでも、隊長さんからしたら小さいかもしれないけど。

「助けていただいてありがとうございました」

「気にするな。このグランツェールで暮らす者は皆、俺達警備隊の守るべき存在だ。それに若いユニヴェールが番を得られたのは一竜人としても喜ばしいことだ」

笑みを浮かべた隊長さんに、セレストさんも微笑んだ。

それから、隊長さんがベランジェールさんに視線を戻す。

「バルビエの里のベランジェールです。両親は精霊樹の管理をしています。私は植物学を専門に研究していて、今回はユイちゃんの無属性魔力の件もあってここに来ました。……セレストとユイちゃんへの説明も兼ねて、事の経緯についてもう一度お話しします」

エルフの里には必ず、精霊樹がある。

それは村を守り、周囲の森の生態を整えて、森を維持してくれている。

エルフは代々その精霊樹を守り、管理を担ってきたため『森の人』と呼ばれるそうだ。

しかし、数年前からバルビエの里の精霊樹が弱り始めた。

精霊樹は他の植物と違い、日差しや土、水で育っているわけではない。

大切なのは魔力で、里のエルフが代わる代わる魔力を注ぎ、精霊樹を何とか元気にさせようとしたけれど、あまり効果がなかったらしい。

とてもゆっくりではあるが、精霊樹は段々と弱っている。

このまま精霊樹が枯れればバルビエの里の守護は消え、周辺の土地も荒れ、もしかしたら森がなくなってしまうかもしれない。そうなれば森にいる動物や魔獣が近隣の村や街まで出てきてしまう。

魔力を注ぐと一時的に幹が活力を取り戻すことから、ベランジェールさんは『精霊樹は魔力不足に陥っているのでは』と考えた。