軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔力調査(1)

セレストさんとベランジェールさんと三人で第二警備隊に来た。

休日でも用事があれば入ることはできるが、手続きをする必要があり、受付に声をかける。

そこにはディシーもいた。

「ユイ? お休みなのに珍しいね」

「うん、この間の件でちょっと……」

「そうなんだ」

それから、ディシーがニコリと笑みを浮かべる。

「グランツェール第二警備隊にようこそお越しくださいました。どなたかとご面会のご予定でしょうか?」

仕事モードのディシーにセレストさんが答える。

「いえ、予約はありません。ヴァランティーヌ=バルビエに面会したいのですが、繋いでいただけますか?」

「かしこまりました。少しお時間がかかりますので、あちらのお席でお待ちください」

ディシーが受付の対応をしているところをちゃんと見るのは初めてだ。

大人びたディシーの対応に思わず「おお……」と声を漏らしてしまう。

そうするとディシーがパチリとウィンクしてくれた。可愛い。

近くに置かれたソファーで待っていれば、少しして、ヴァランティーヌさんがやって来る。

こちらに気付くとディシーのほうに軽く手を上げつつ、近づいてくる。

「セレスト、ユイ……ああ、ベランジェールと会ったんだね」

と、訳知り顔で言うヴァランティーヌさんに三人で立ち上がる。

「ベランジェールが魔道具などを確かめたいそうで……時間はありますか?」

「ああ、大丈夫だよ。魔道具部にもベランジェールが来ていることは伝えてあるから、そっちに行こう」

そういうわけで四人で魔道具部に向かうことになった。

セレストさんは長身だけど、エルフもみんなわりと背が高い。

……わたしが一番小さい。

そして当たり前のように前にヴァランティーヌさんがいて、わたしと並んでセレストさん、後ろにベランジェールさんがいる。わたしとセレストさんは手を繋いだままだ。

「そうでした。ヴァランティーヌ、今日からユイとお付き合いすることとなりました」

「何だってっ?」

バッとヴァランティーヌさんが振り返った。

そうして、わたしとセレストさんを見て嬉しそうに笑った。

「そうかい、そうかい。やっとだね! 今夜はみんなで飲みに行くよ!!」

「ええ、ベランジェールも来ていますし、ウィルやシャルルにも声をかけようと思いまして」

「ウィルとシャルルにはアタシが声をかけとくよ。せっかくだから、第三救護室の仲の良いのにも声をかけてきな。お祝い事ってのは人数が多いほど良いものだよ!」

ヴァランティーヌさんがわたしの頭を優しく撫でる。

「ユイもセレストも良かったねぇ」

それにわたしとセレストさんは揃って頷いた。

……ウィルジールさんにちゃんと謝っておかないと。

でも、こうしてヴァランティーヌさんが嬉しそうにしてくれることに胸がポカポカする。

ご機嫌になったヴァランティーヌさんが歩き出し、魔道具部に到着した。

ヴァランティーヌさんが魔道具部の扉を叩くと、見覚えのあるドワーフの男性が出てきた。

わたし達を見てすぐに察した様子で扉を開けてくれた。

「ああ、ヴァランティーヌさん達でしたか。……中へどうぞ」

室内には何人か知らない人もいたけれど、こちらに振り返ることはなく、何やら自分の手元に集中している。どことなくピリピリとした空気を感じる。

「ここでは話しにくいので、隣に行きましょうか」

ドワーフの男性が苦笑し、いつもの素材などが置いてあるところとは別の部屋に通される。

そこそこの大きさのテーブルは四人掛けで、応接室のようだった。

「少しお待ちください」と言ってドワーフの男性が出ていき、セレストさんが椅子を引いてくれたので座る。ベランジェールさんが横の席に座った。セレストさんとヴァランティーヌさんは後ろだ。

部屋の棚にもよく分からない魔道具らしきものがいくつか飾られていた。

少し待っていると部屋の扉が叩かれ、いつものエルフの男性とドワーフの男性が二人入って来る。

「いやあ、今日は一人休みでして」

と、いうことらしい。

ドワーフの男性の片方がチューリップの花瓶をテーブルに置きながら言う。

「ヴァランティーヌから話は聞いています。ユイさんの件ですよね?」

「ああ、そうだよ。あたしはベランジェール、バルビエの里で植物研究をしてる」

ドワーフやエルフの人達とベランジェールさんが握手を交わす。

そうして、エルフの男性が少しホッとしたような表情を見せた。

「来てくれて助かる。精霊樹が予期しない動きを見せて、困っていたんだ」

「あたしも今回みたいな事例は聞いたことがないけど、起こった以上、何かしらの原因はあるだろうね〜」

そうして、全員が集まった。

「さぁて、じゃあまずは先に霊花を見させてもらおうかな〜」

ベランジェールさんが目の前に置かれたチューリップを観察する。

懐から取り出した小さな何か、小さな紙の束みたいなものを一枚ピッと破くと、長方形の細長いそれの先端をチューリップの葉に触れさせた。柔らかなオレンジ色の紙が白色に変わっていく。

その変化にベランジェールさんが目を丸くした。

「白? これはまた珍しいね。普通は宿った精霊の属性が出るんだけど……」

それは『魔力紙』と呼ばれるものでベランジェールさんが手作りしたものらしい。

ある植物を使って作られた魔力紙は、触れさせたものの魔力属性と量を大まかに測れるそうだ。

「白ってことは純粋な魔力が多い……でも、精霊が宿った気配は感じるんだよね〜」

と、言いながらチューリップを観察している。

「そうだ、ユイちゃんが声かけをしてるって手紙に書いてあったけど、いつもどういうふうにやっているか見せてもらってもいいかい?」

「はい」

頷き、チューリップに手を伸ばし、いつもの声かけをする。

可愛いお花。綺麗なお花。がんばって咲いてくれてありがとう。

セレストさんが買ってくれた大切なお花だから、もう少しがんばってくれると嬉しいな。

チューリップは買った時のまま、綺麗に咲いている。

声かけを終えてチューリップから手を離すと、ベランジェールさんがまじまじとわたしを見た。

「これは驚いた。もしかしてユイちゃん、魔力が無属性だったりする?」

セレストさんを見上げれば、肩に手を置かれた。

「ええ、そうです。ユイは魔法適性のない無属性魔力の持ち主です。……このことは内密に」

「 他人様(ひとさま) の属性について喋ったりしないさ。……でも、そっか、無属性の魔力……それなら……でも属性のありなしで効果が変わるってこと? いや、属性がないからこそ……」

ベランジェールさんがブツブツと呟き、チューリップに視線を戻す。

忙しなく花や葉に触れ、確かめ、水にも魔力紙を差し込んでいる。

「どうやらユイさんはこの花に魔力を譲渡しているようです」

「うん、そうみたいだね〜。植物に魔力を譲渡するなんて珍しいけど、前例はないわけでもないし……ただ、属性を持たない霊花はあたしも初めて見たよ」

そうしてしばらくブツブツと呟いていたベランジェールさんだったけれど、不意に顔を上げた。

「…………そうか、なるほど」

何かに気付いた様子でベランジェールさんがチューリップから手を離した。

ヴァランティーヌさんが訊く。

「何か分かったかい?」

「ん〜、他は憶測に過ぎないけど、この霊花を作ったのはユイちゃんだってことは確かだよ」

「霊花を作った?」

ヴァランティーヌさんだけでなく、わたし達も首を傾げた。

霊花は人が立ち入らない深い森にあるとヴァランティーヌさんが言っていたけれど……。

「そう、一般的に魔力を持つ人はそれぞれ得意な属性を持ってる。あたしなら土属性に秀でてるし、セレストなら水属性って感じでね。でも、ユイちゃんは無属性で『どの性質も持たない』純粋な魔力ってわけ」

それは前に聞いたことがある気がする。

「植物も実は同じようにそれぞれ、属性を持っているんだよ。ほら、火吹き草があるでしょ〜? あれを使った薬で一時的に火魔法が使えるようになるのは、そういうことでさ、属性にあった魔力でないと基本的に受けつけないの。そこは普通の魔力譲渡と条件は同じ」

そういえば、前にセレストさんに魔力譲渡した時に聞いた

魔力譲渡は同じ属性を持つ人とするのが普通らしい。

たとえば、セレストさんは水属性に優れているから同じ水属性に優れている人でないと魔力が反発して魔力の効率が落ちる。できなくはないけど互いに負担がかかるし、魔力を十渡したとしても、属性が違うと使える魔力は五とか三とかになってしまう。

わたしは無属性の純粋な魔力に近いから、誰にでも魔力譲渡ができる。

だけど、それは他の無属性の魔力持ちにとっても危険な事実なので伏せられている。

……悪い魔法士が、無属性の人から魔力を奪うかもしれないから。

「で、ユイちゃんは無属性のほぼ純粋な魔力だから、どの植物も魔力を受け入れられる。声かけと一緒に供給された魔力を植物が取り込んで、それを毎日繰り返すことでただのチューリップに魔力が宿る」

「だけど、魔力が宿るだけじゃあ霊花にはならないはずだよ」

「そう、そこが重要!」

ビシッとベランジェールさんがヴァランティーヌさんに指を向けた。

「霊花になるには精霊が宿る必要がある。精霊は自分の属性に合った魔力を持つ植物に気まぐれに宿るものだけど、このチューリップはユイちゃんの無属性の魔力を大量に持っている。……つまり、どの精霊も宿ることができるってこと! 弱い精霊だったとしても、毎日代わる代わる精霊が宿ることで、短期間でただのチューリップが精霊の影響で霊花になったってわけ!!」

ズズイッとベランジェールさんが前のめりになり、わたしの両手を取った。

「この辺はまだ仮定の域を出ないけど、この霊花に魔力を与えると多分植物系の魔獣になる!!」

その言葉に全員がギョッとした顔でチューリップを見た。

「ねえ、今はどれくらいの頻度で魔力を与えているんだいっ?」

「えっと、今は三日に一度、です……」

「毎日あげたらきっと変質して、生き物としての格が上がるはず! ただの花が霊花に格上げしたように、今度は植物から意思ある生き物に……属性がないから、何になるかは分からないけど! ユイちゃん、三日じゃなくて毎日やってみてくれない!? 研究者としてすごく興味が──……んぎゃっ!?」

ガツンとヴァランティーヌさんの拳がベランジェールさんの脳天に落ちた。

セレストさんが、ベランジェールさんからわたしを椅子ごと引き離す。

「第二警備隊で魔獣を生み出すなんて冗談じゃない!」

「うう……でも、もしかしたら新種のトレント族とかが生まれるかも……」

「そんなことしたら里からの追放どころじゃ済まなくなるよ!」

ヴァランティーヌさんがもう一度拳を握ると、ベランジェールさんが慌てて両手を振った。

「ごめんって! やらない、やらないから!!」

「エルフの名に誓って?」

「う……ち、誓ってやらない……!」

「それなら良し」

ヴァランティーヌさんが拳を下ろす。

それにベランジェールさんが安堵した様子で小さく息を吐く。

「とにかく、ユイちゃんは霊花を意図的に作り出せるってこと。水を替えたり眺めたりするくらいは問題ないだろうね。だけどさっきみたいな声かけはやめたほうがいいと思う。無意識に手や声に魔力を込めちゃってて、それを花が受け取って、精霊の拠り所になって霊花に変わるから」

「では、ユイが育てた植物は全て霊花になる可能性が高いということですね」

「極論、そうなるね。無属性の魔力持ちって魔法が使えないし無意味って思われていたけど、無属性は魔力そのものの流れを宿した自然に最も近い力を持つ存在なのかも?」

……何だか、壮大な話になってる気がする……。

理解が追いつかなくて目を瞬かせているとベランジェールさんがわたしに気付いて笑った。

「簡単に言えば『無属性の魔力を持つユイちゃんは霊花を作れる特別な人』ってことだね〜」

シン、と室内が静まり返る。

「……これは絶対に秘匿したほうがいい話だね」

深刻そうな顔のヴァランティーヌさんにみんなが頷く。

その中で、ベランジェールさんだけがいつも通りだった。

「エルフは欲しがるかもしれないけどさ、竜人から番を奪おうなんて思わないでしょ? そんなの自殺行為だって分かってるだろうし、歴史的に見ても竜人の番に手を出した種族や国がどうなったか誰もが知ってるし」

「そうですね……竜人の番に手を出した者は、他の竜人からも敵視されますから」

思わず見上げれば、セレストさんが続ける。

「竜人にとって番は至宝であり、己の命よりも尊い存在です。そうと理解した上で手を出すということは、他の竜人の番にも危害を加える可能性がありますから」

「確かに」

竜人全員で団結して攻撃されたら、どう考えても勝てる気がしない。

「だからさ、少なくともこの竜人の国でそんなことをする馬鹿はいないって」

ベランジェールさんの笑い交じりの言葉に全員が頷いた。