軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

相談 / お祝い

「里の長老達は『これも精霊様がお決めになられたこと』と言っていますが、精霊樹にはいまだ精霊様が宿っています。もし精霊様が里を見捨てたとすれば精霊樹から抜け出ているはずです。弱った精霊樹に残ってくださっているのは、枯れてしまわないように尽力しておられるのではとあたしは考えています」

とりあえず、精霊樹が枯れてしまわないように余分な枝を払い、幹に力が残るようにした。

魔道具に使われていた精霊樹の枝がそれで、ベランジェールさんが研究の資金を得るためにこっそり持っていたものを売り払ったそうだ。

その売り払った精霊樹の枝が再生した。

しかも、その原因だと思われる人物──……つまり、わたしについて情報を得た。

精霊樹の枝と霊花の話を聞き、もしかしたらという望みを抱いてベランジェールさんは来た。

「ユイちゃんの無属性の魔力は、名前の通り性質を持たない純粋な魔力に近いんです。実際に霊花を見て、再生した精霊樹の枝を調べて、確信しました。……ユイちゃんの無属性の魔力が精霊樹には必要なんです」

ベランジェールさんがわたしを見る。

「魔道具に使用された精霊樹の枝が反応したのも、本体が魔力不足だった名残りではと思っています」

これまでの出来事が頭の中でカチリと噛み合った気がした。

わたしが魔道具に触れて、精霊樹の枝がわたしの魔力を吸って再生したのは、元の木が魔力不足だったから枝が魔力を集めようとした。魔力を集めても幹がないから再生したけど、ただの木になってしまった。

霊花は、わたしの無属性の魔力を得て元気になり、格が上がり、精霊が宿った。

……それなら、精霊が元から宿っている精霊樹にわたしは魔力を注げるかもしれない?

黙って聞いていた隊長さんが口を開いた。

「だが、エルフは精霊樹に他種族を近づけるのを嫌がるだろう」

「それについてはヴァランティーヌにも声をかけて、共に説得するつもりです。ハイエルフのヴァランティーヌの言葉なら長老達も無視できないはず」

ベランジェールさんが頭を下げる。

「お願いです。バルビエの里まで一緒に来て、精霊樹に魔力を注いでください」

セレストさんが静かな声で返す。

「ユイが魔力を注いだとしても変化がない……もしくは悪化した場合、責任は取れません」

「責任はあたしが取る! ……元々、あたしが精霊樹の管理を担うはずだったんだ。もしも失敗して精霊樹が枯れたとしても、無理を言って来てもらうんだ。最初から二人に責任はない」

セレストさんが問うようにわたしに顔を向けた。

多分、わたしの好きにしていいということなのだろう。

魔道具の件を考えると怖い部分もあるけれど、ヴァランティーヌさんの故郷がこのまま荒れてなくなってしまうのは嫌だ。わたしはセレストさんだけじゃなく、ヴァランティーヌさんにも大きな恩がある。

ディシーのこと、読み書きを教えてくれたこと、事務員になる時の口利きもそうだ。

わたしが事務員になったのはヴァランティーヌさんが言ってくれたから、この道を知った。

ヴァランティーヌさんも大切な人なのだ。

……わたしができることがあるなら、やらなくちゃ。

拳を握り、顔を上げて、自分の口で言う。

「わたしはバルビエの里に行きたいです」

「はい」

「失敗するかもしれないけど、何もしないで後悔するのは嫌です」

セレストさんが微笑んだ。

「ありがとうございます、ユイ」

「?」

「ヴァランティーヌのことも気遣ってくれたのでしょう? 私としても、ヴァランティーヌとベランジェールの故郷に何かあっては悲しいです」

そして、セレストさんがベランジェールさんと隊長さんに顔を向けた。

「番のそばを離れるわけにはいかないので、私も同行します」

「まあ、そうだよな。幸い、今は討伐遠征とも時期は被らないし、ユニヴェールとヴァランティーヌが抜けても問題はないだろう。あの辺りの土地が荒れるとグランツェールにも影響が出るしな」

セレストさんと隊長さんの言葉に、ベランジェールさんの表情が明るくなる。

「っ、ありがとう! 本当にありがとう!!」

「感謝の言葉はまだ早いですよ」

「いいんだ、里に来てくれるってだけでも十分ありがたいことなんだから!」

と、ベランジェールさんが笑った。

わたしはエルフの里──……バルビエに行く。

* * * * *

その後は終業時間まで訓練場で警備隊の人達の訓練を見て過ごした。

ベランジェールさんと顔見知りの人もいくらかいるようで、訓練中でも何人かがこちらに気付くと手を振って、ベランジェールさんも笑顔で振り返していた。

わたしも久しぶりに訓練の様子を見学した。

セレストさんは第三救護室に行ったけれど、すぐに戻ってくると、わたしを膝の上から離さなかった。最初の頃はちょっと恥ずかしかったのに、今はこれが当たり前だ。

終業後、ヴァランティーヌさんとシャルルさん、そしてウィルジールさんが来る。

シャルルさんともベランジェールさんは知り合いらしい。

七十年前はグランツェールにいたそうなので、結構知り合いは多そうだ。

「ウィルジールとシャルルも久しぶりだね〜」

「ああ、里で植物研究するって言ってたけど、順調か?」

「まあ、そこそこね」

ウィルジールさんとベランジェールさんが握手を交わし、シャルルさんとも行う。

「シャルルも相変わらず新人の訓練に精が出るね」

「強い戦士を鍛え、共に戦うことはリザードマンの誇りだからな」

そんな話をしていると、建物からこちらに人影が走ってくる。

振り向いたわたしに気付くと影が手を振った。

「ユイ〜!」とわたしを呼びながら駆け寄ってきたディシーがわたしに抱き着く。

「お疲れ様!」

「ディシーもお疲れ様」

体を離したディシーがニコリと笑い、それからシャルルさんのところにも行って「お疲れ様〜」とその腕に抱き着いて、シャルルさんが「ディシーもな」と返している。

それをヴァランティーヌさんとセレストさんが微笑ましいという顔で見守った。

ベランジェールさんが驚いた様子でディシーとシャルルさんを見た。

「何だい、シャルルも将来を決めた相手がいるのかい?」

それにシャルルさんが頷いた。

「ああ、ディシーという。ヴァランティーヌの養い子で、付き合っている」

「初めまして、ディシー=バルビエです! よろしくお願いします!」

「こちらこそ初めまして、ベランジェール=バルビエだよ。七十年前はあたしもヴァランティーヌのところで世話になってたんだ。……ヴァランティーヌ、生活能力が全然ないだろう? 大丈夫かい?」

やや声を落として訊くベランジェールさんに、ディシーがおかしそうに笑った。

「大丈夫です! 私がやってるので!」

「そうかいそうかい。どっちが養われてるか分かったもんじゃないね」

「アタシだって多少はやってるよ。……まあ、料理に関しては完全にディシー任せだけど」

「あはは、ヴァランティーヌの料理は死ぬほどまずいからね!」

「確かに!」

ベランジェールさんとディシーが顔を見合わせて笑い、珍しくヴァランティーヌさんが気まずそうな顔をした。

そういえばヴァランティーヌさんは料理が苦手だと、前に聞いていたが、そんなに下手なのだろうか。それはそれでとても気になる。

「その話はともかく、店に行くよ!」

と、誤魔化すように言うヴァランティーヌさんにみんなで笑って頷いた。

お店までの道、ヴァランティーヌさんを挟んでディシーとベランジェールさんが楽しげに歩いていて、それをシャルルさんが静かに眺めていて一歩後ろについていく。

わたしとセレストさん、ウィルジールさんも並んだので声をかけておいた。

「ウィルジールさん、昨日はごめんなさい。ありがとうございました」

「ん? ……ああ。結局、何だったんだ?」

「わたしが勘違いしちゃって……」

昨日と今日のことについて説明すると、ウィルジールさんが「なるほどな」と言った。

「ベランジェールはここ育ちだから、エルフにしてはかなり人懐っこいもんな」

「ええ、私も迂闊でした。……ウィルにもご迷惑をおかけしました」

「いや、俺は別にいいけど。それで、誤解も解けて付き合うことになったってわけか」

「はい」

「まあ、セスが幸せなら俺はそれでいいさ」

ウィルジールさんがセレストさんの肩を叩き、セレストさんが微笑む。

二人は愛称を呼び合うくらい仲の良い親友だ。少なくとも、セレストさんがウィルジールさん以外を愛称で呼んでいるところは見たことがないし、その逆もそうだ。

わたしもセレストさんを愛称で呼ぶことはない。

……ウィルジールさんが嫌がりそうだし。

親友大好きなウィルジールさんだから、わたしがセレストさんの愛称を呼んだら、きっと不満そうな顔をするだろう。セレストさんを『セス』と呼ぶのはウィルジールさんとセレストさんの家族だけ。

それにわたしにとって『セレストさん』は『セレストさん』なのだ。

セスという愛称だと何だか気安すぎて落ち着かない。

「今日は私の奢りですので」

「おっ、太っ腹だな?」

「番とのことで皆が集まってくれるのですから、それくらいはしますよ」

「ははっ、店の酒がなくなるかもしれないな」

楽しそうなウィルジールさんとセレストさんが微笑ましい。

お店『酒樽の集い』に到着する。竜人はお酒好きが多いらしく、飲み会では定番のお店だ。お酒の種類も量も豊富なのだとか。

竜人が本気でお酒を飲むと店が空になると言われる。

確かに、セレストさんが酔っ払ったところは見たことがない。

お店に入ると見慣れた店員の女性が「いらっしゃい!」と声をかけてくる。

六人がけの丸テーブルにセレストさん、ウィルジールさん、ベランジェールさん、ヴァランティーヌさん、シャルルさん、ディシーの並びで座る。わたしはセレストさんの膝の上だ。

他の席には第三救護室の人や見覚えのある人達もいて、こちらに気付くと軽く手を振ってくれた。

わたしとディシー以外はお酒を注文する。

この世界の成人年齢は十六歳だから飲酒は良いらしい。

でも、何となくいつもジュースだ。

飲み物が行き渡るとウィルジールさんが立ち上がった。

「竜人セレストと番が今日から付き合うことになった! 輝かしい二人の未来に、乾杯!!」

と、ウィルジールさんがお酒のジョッキを掲げると全員が「乾杯!」と掲げた。

その後は代わる代わる人が来て、わたし達に祝福の言葉をかけてくれた。

付き合っただけでこうなのだから、結婚した時のお祝いはもっと大賑わいになりそうだ。

中にはたまたまお店に来ていただけの無関係の人もいたけど「番と付き合えるなんて素晴らしいことだ!」と声をかけてくれた。

まだ番と出会えていない人もいて、でも羨むとか妬むといったこともなく、むしろ『出会った人を祝福することでその幸運を分けてもらおう』みたいな感じらしい。

セレストさんはいつにも増して嬉しそうだった。

「お二人とも、おめでとうございます」

「レミ、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

第三救護室のレミ=ランドンさんは獣人で、賭博場の摘発の際に死にかけていたわたしを助けてくれた恩人の一人だ。メガネをかけた、穏やかで優しい獣人だ。

「お二人が並んでいる姿を見る度に良かったと思います。自分が治療した方が元気に、幸せに過ごす姿ほど治療士として誇らしいものはありませんから」

……良い人だなあ。

そんなふうに色々な人に祝福してもらい、それが落ち着くとディシーが笑った。

「良かったね、ユイ!」

「うん、でも、ちょっと照れる……」

セレストさんとのお付き合いを祝福してもらえて嬉しいが、同じくらい気恥ずかしい。

わたし達が恋人になったことがみんなに広がるのだ。

「そう? ユニヴェールさんは自分の恋人だ〜って堂々としてればいいのに」

ディシーが不思議そうに首を傾げた。

ギュッとセレストさんに抱き締められる。

「ディシーの言う通りです。ユイは意外と恥ずかしがりなところがありますよね」

セレストさんが「可愛いですよ」とわたしの頭を撫でた。

……竜人は照れるとかはあんまりないのかな?

それが何だかちょっと悔しくてセレストさんにキスをした。

ほんのりお酒の匂いがして、ドキッとしてしまう。

でも、それ以上の目の前にあるセレストさんの表情に満足した。

「……セレストさん、顔赤いよ?」

予想外のことをしたからか、セレストさんの目元がほんのり赤くなっていた。

「……訂正します。ユイは意外と大胆ですね……」

そう言って、セレストさんがキスを返してくれる。

それに、 囃(はや) すような歓声と口笛がお店の中に響き渡った。

……みんなから、セレストさんとの関係を認めてもらえた。

とても嬉しくて、幸せで、心が温かかった。