軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

双子再来(3)

イヴォンさんとシルヴァンさんは、グランツェールに五日ほど滞在した。

帰りは王都に向かう荷馬車に乗せてもらって行くそうだ。

「帰ったら忙しくなるな〜」

二人は騎士団の寮で暮らしているのだが、近衛騎士になると、今度は近衛隊用の寮に移動するようだ。

引っ越しもして、制服も新しいものになり、近衛隊に配属先が変わって、先輩達にしばらくはついて仕事を学ぶそうだ。

「休みがあんまり取れないっていうのもね」

「どうしても王族の生活に合わせてこっちも動くことになるからなあ」

近衛騎士というのも色々あるのだろう。

二人はこの五日間で子供の頃によく行った場所や、遊んだ人達などと会っていたらしい。

ほぼ毎日飲み歩いていたみたいだけど。

王都へ帰る時も少し眠そうだった。

「それじゃ、またな」

「またね、セス兄、ユイ」

今度はいつ会えるか分からないけれど、二人の挨拶はさっぱりしたものだった。

「ああ、またな。頑張れよ」

セレストさんも似たようなものであった。

「あの、また会えますよね?」

なんとなく不安に感じて訊けば、イヴォンさんとシルヴァンさんは頷いてくれた。

「ああ、会えるよ。会おうと思えばいつだって。ユイは成長が早いからな、また見に来る」

「でもしばらくは忙しいから、もし良かったらセス兄とユイも会いに来てくれたら嬉しいな」

少し身を屈めてわたしを見る二人に頷き返す。

「はい、会いに行きます」

二人が笑う。

出立する荷馬車の後ろに乗って、段々と離れて行く二人を見送るのは寂しかった。

だけど最後にイヴォンさんが大きな声で叫ぶ。

「次会う時はもっと砕けた話し方にしろよ! ユイはもう俺達の妹なんだからな!!」

大きく手を振る二人にわたしも精一杯、振り返す。

道の向こうに荷馬車が消えても、わたしはしばらく手を下ろせなくて、セレストさんが繋いだ手をギュッと握ってくれた。

「そうだよね、イヴォンさんとシルヴァンさんはわたしのお兄ちゃんみたいな感じになるんだよね」

セレストさんの兄弟なら、わたしがセレストさんと結婚したら、義理の家族になるのだ。

「本当はユイが 義姉(あね) ですけどね」

やがて、わたしはイヴォンさんやシルヴァンさんより外見年齢が上になる。

そうなったら今度は姉と呼ばれるのだろうか。

それはそれで良いのかもしれない。

「さあ、私達も仕事に行きましょうか」

セレストさんと手を繋ぎ直して歩き出す。

いきなりのことで驚いたけれど、イヴォンさんとシルヴァンさんに会えて良かった。

……あとはご両親だよね。

いつ来るか分からないのはちょっと落ち着かないが、楽しみでもあった。

* * * * *

「あーあ、もう見えなくなった」

グランツェールの街が木々の隙間に消えて、イヴォンが残念そうに呟いた。

それにシルヴァンが苦笑する。

「あっという間の五日間だったね」

「ああ、もうちょっと長居したかったなあ」

ガタゴトと荷馬車に揺られながら二人はグランツェールのある方向を眺めた。

今回の休暇は本当は溜まっていた休日の消化などではなく、近衛騎士になる者ならば全員に与えられる猶予期間みたいなものだ。

近衛騎士となれば王族を守護する立場になる。

騎士を目指す人々からすれば近衛というのは一番目指す場所なのだろうが、同時に、近衛は危険な仕事でもある。

確かに給金も良く、華やかな印象のある仕事だが、実際は常に王族のそばで控え、何かあれば自分の身を呈してでも王族を守らねばならない。

普段、毒見役は別にいるものの、場合によっては毒見役を兼ねることもある。

この休暇には『何かあった時のために家族と別れを済ませておくように』という意味も含まれている。

兄セレストも、ウィルジールやヴァランティーヌも、誰も何も言わなかったが、皆、それを理解していた。

父と母も反対はしないだろう。

二人が決めたことなら、祝福してくれるだろう。

「ユイに言わなくて良かったかな」

シルヴァンが訊き、イヴォンが頷く。

「言わなくていいだろ。もしかしたら死ぬかもしれないから挨拶しに来た、なんてさ」

「そうだよね」

イヴォンもシルヴァンも、近衛騎士にならないかと声をかけられた時にとても悩んだ。

悩んで、二人でよく話し合って決めたのだ。

だから、もしものことがあっても後悔はない。

今回、兄とその 番(つがい) に会いに行けて良かった。

二人のことが気になっていたが、ユイが兄の番であることを受け入れてくれたなら、きっと心配する必要はないだろう。

父と母も、あの人達なら大丈夫だ。

「ユイ、大きくなってたなあ」

少し前に見た時はもっと小さかった。

そのユイが成長して、女性らしくなりつつあり、兄がその横に並んでいる姿は微笑ましくて、安心した。

「大きくなっても可愛いままだったけどね」

小柄で可愛らしいユイを兄が大事そうにする姿は、父を思い起こさせる。

父も母をよくあんな風に大事にしていた。

同じ竜人で親子なので、溺愛の仕方も似るのかもしれない。

「他の奴らにも会えたしな」

「でもみんな結構歳取ってたね」

グランツェールには獣人が多い。

だから自然とイヴォンやシルヴァンの幼少期の悪友達も獣人が多く、大半はもう子や孫が出来ていたが。

それでも百年ぶりの再会は楽しかった。

五日間、毎日飲んで回ったが、近衛騎士になればそんなことも出来なくなるので良い思い出になった。

「……そう簡単には死なないけどさ、ユイがまた会いたいって言ってくれたし、ほんと頑張らないとな」

何も知らないからこそ、ユイは心からまた会いたいと言ってくれたのだろう。

純粋なその気持ちが嬉しかった。

死なないでくれとか、生き延びてくれとか、そういう言葉よりもずっと胸に響いた。

「可愛い妹の頼みだから仕方ないよ」

やや引っ込み思案なユイだけれど、イヴォンとシルヴァンを見る目には親愛の情があった。

兄の家族だからという欲目もあるだろう。

それでも構わなかった。

きっと、兄とユイが家に帰ったら驚くだろう。

王都から持ってきた土産を山ほど送ったから。

「お土産、喜ぶかな?」

「喜んでくれたらいいな」

兄は怒るかもしれないけれど。

二人は顔を見合わせて、ははは、と笑った。

* * * * *

家に帰ると玄関先に沢山の荷物が積まれていた。

セレストさんと驚いていると、わたし達に気付いたセリーヌさんとレリアさんが振り返った。

「お帰りなさいませ」と声をかけられて頷き返す。

「これは?」

セレストさんの問いにセリーヌさんが微笑んだ。

「イヴォン様とシルヴァン様からでございます。荷物には『王都のお土産』と書かれておりました」

セリーヌさんとレリアさんの二人で荷解きをしてくれているが、荷物が多くて間に合っていないようだった。

セレストさんと顔を見合わせた後、頷く。

「わたし達もやる」

「とりあえず、一階の居間に運び入れましょう」

そうして荷物を家の中へ引き入れる。

物凄く大きな荷物は一つだけで、他はそこそこの大きさだったため、大きな箱はセレストさんが運び、他はわたしとセリーヌさん、レリアさんとで運び込む。

箱は全部で十五個もあった。

一体、どれだけお土産を買って来たのやら。

「大きいものから開けましょうか」

特に一番大きい箱は場所を取っている。

セレストさんが包んである布を外し、箱を開ける。

箱はどうやら長方形だったようで、開けると、そこにはもふもふの大きなクマのヌイグルミが入っていた。

……可愛いけど、大きい。

立っているわたしの腰よりも座った高さがある。

試しに抱き着いてみると、すごくもふもふする。

首にピンクのリボンが結んであって可愛らしい。

少しの間、抱き着いてもふもふを堪能していると、セレストさんがふふと笑った。

「ユイ、可愛いですよ」

ヌイグルミごとセレストさんに抱き締められた。

「おや、とても触り心地が良いですね」

ヌイグルミに触れたセレストさんが毛並みを撫でる。

サラサラもふもふで、大きいので、抱き着くと丁度良い大きさなのだ。

「もふもふ気持ちいい」

「そうですね」

セレストさんもしばしヌイグルミとわたしを堪能してから、ヌイグルミはわたしの部屋へ移動された。

それから次に大きな箱を開ける。

中には布の巻いてあるものが何本も入っていた。

その布に触ったセレストさんが、呆れた顔をする。

「これでは結婚祝いですね」

中に入っている布は色々な魔獣から取れるもので作られた布だそうで、どれも丈夫で長持ちするのだとか。

こういうものは大抵結婚のお祝いで贈るらしい。

次の箱を開ければ、今度は男性ものの小物が大量に詰め込まれていた。

セレストさんがそれを見て、少し悲しそうな顔をした。

「セレストさん? ……大丈夫?」

セレストさんの背中に手を添えれば、ギュッと抱き締められた。

「……ユイ、近衛騎士の仕事を知っていますか?」

抱き締められたまま訊かれて、頷いた。

「うん、王族を守護するんだよね?」

「ええ、そうです。近衛騎士は華やかな印象を持つ人が多いですが、実際は王族のそば近くで仕え、いざという時には自分の命を投げうってでも守護対象を守りぬかねばなりません」

セレストさんの説明にうんと頷く。

「近衛騎士になると、最初に長期の休暇をもらうんです」

「忙しくなるから?」

「……いいえ、家族と別れの挨拶を済ませるためです。近衛騎士は魔獣討伐にも頻繁に駆り出されることもあって、想像しているよりもずっと危険な仕事なのですよ」

それにハッとする。

つまり、イヴォンさんとシルヴァンさんが今回会いに来たのは、もしもの時のために挨拶を済ませようと思ったからで。

でもそんな気配全く感じられなかった。

「皆、分かっているんです」

セレストさんの声が悲しそうで、わたしはセレストさんの体を強く抱き締めた。

この沢山のお土産も、その話を聞いた後では意味が違うものに感じられる。

まるでこれからの分も一気に贈ったような。

そんな気がしてしまう。

「大丈夫だよ、セレストさん。イヴォンさんもシルヴァンさんも『またね』って言ってた。だからまた会えるよ。二人が忙しいならわたし達が会いに行けばいいんだよ」

「……そう、そうですね、ユイ」

小さく「ありがとうございます」と言われて首を振る。

「さあ、他のも開けてみよう? お礼の手紙、一緒に沢山書こう。封筒に入りきらないくらい」

「ええ、こんなにあると分厚くなってしまうでしょうね」

小さく笑いながらセレストさんが体を離す。

それから箱を全部確認したけれど、色々入っていた。

王都の流行りだろうお化粧道具もあったし、セレストさんへのものだろう男性ものの服もあって、なんだかよく分からない絵画や美術品が入っているものもあれば、石鹸などが大量に詰まっているものもあった。

でも最後二つの箱は問題だった。

箱の開封作業をしていたセレストさんが、開けて、中身を確認した瞬間に閉じた。

「セレストさん、どうしたの?」

声をかけるとセレストさんが困った顔をした。

「変なものだった?」

「変なものと言えばいいのか……」

言葉に迷っているようだった。

「中、見てもいい?」

ややあってセレストさんが頷いた。

大きな手が退かされて、わたしが再度箱を開ける。

中にはレースのものが沢山入っている。

……レースの服、かな?

試しに一枚持ち上げてみる。

「?!」

それは透け透けのワンピースだった。

いや、前世で言うところの裾の長いキャミソールみたいな形をしていて、レースで出来ていて、まじまじと見なくても向こうが透けて見える。

「あら」「まあ」とセリーヌさんとレリアさんが小さく声を上げて、セレストさんが口元に手を当てて視線を逸らした。

……これって、あれなのでは?!

思わず箱に押し込んだ。

最後の箱も開けてみたけれど、そっちは可愛らしいパステルカラーにフリルたっぷりのものが入っていたけれど、やっぱり生地は薄い。

「……これは仕舞っておいてください」

セレストさんが箱の蓋を閉じると、セリーヌさんとレリアさんにそれぞれ箱を渡した。

もらったものなので捨て難い。

イヴォンさんとシルヴァンさんからだと余計に。

……これも実は悪戯なのでは?

こんな『勝負下着です!』と言わんばかりのものを贈られても困ってしまう。

ただ色々と応援してくれる気持ちは伝わってくる。

だからこそ扱いに迷うのだけれど。

「セレストさん、ああいうの好き?」

試しに訊いてみたら、セレストさんがごふっとむせた。

慌てて背中をさすったけれど、しばらく咳き込んだセレストさんの顔は赤くなっていた。

「な、ユイ、何を……?!」

驚きと羞恥と、むせた苦しさもあるだろう。

「ああいうの、嫌い?」

もう一度訊くとボソッと返された。

「嫌い、では、ありませんが……」

「じゃあ大きくなったら着るね」

セレストさんの頭の上に今、絶対「!!?」と出たと思う。

着たら、すごく恥ずかしいだろう。

でも、セレストさんが喜ぶなら着てもいい。

珍しく顔を赤らめて混乱している様子のセレストさんに、わたしは思わず笑ってしまった。

「ユイ、冗談はやめてください」

……冗談じゃないんだけどな。

でもセレストさんの赤い顔を見たら、それ以上は言わないほうが良さそうだったので黙っておいた。

最後の二つはともかく、他はどれもいいお土産だった。

「セレストさん、手紙書こう?」

沢山の感謝の言葉と気持ちを込めた手紙を送ろう。

あの服はちょっと困っちゃうけれど。

二人がセレストさんとわたしの関係を認めてくれているのだということは強く伝わってきた。

でもやっぱりこれは悪戯の類いだろう。

「そうですね、あと抗議もしておかないと」