軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

双子再来(2)

それからイヴォンさんとシルヴァンさんは夕食の前くらいまでいてから、宿へ帰っていった。

セレストさんが「うちに泊まればいい」と言ったけれど、二人は揃って「やめとく」と首を振った。

「ここはもうセス兄とユイの家だしな」

「それに二人のそばにいたらずっとイチャイチャしてるのを見なくちゃならなくなりそうだしね」

と、いうことで、グランツェールにいるうちは近くの宿屋に泊まることにしたようだ。

ちなみにグランツェールには数日滞在するらしい。

「前回来た時は時間がなかったから、今回は色々回ってから帰ろうと思ってさ」

このグランツェールはイヴォンさんとシルヴァンさんにとっては生まれ故郷であり、幼い頃に過ごした思い出深い街なのだそうだ。

だから、この機会にあちこち行きたいのだとか。

セレストさんもわたしも昼間は仕事があるし、その間、二人はのんびりグランツェールをぶらついてみると話していた。

宿へ帰る二人をセレストさんと玄関まで見送りに出る。

ふと、思い出した様子でシルヴァンさんがセレストさんに手紙を差し出した。

「そうだ、セス兄、はいこれ」

差し出されたそれをセレストさんは受け取った。

裏表を確認しつつ、セレストさんが問う。

「誰からだ?」

セレストさんの手元にある手紙には宛名も差出人も書かれていなかった。

「父さんと母さんだよ」

思わずといった様子でセレストさんが「え?」と目を瞬かせた。

それから持っている手紙に目を落とした。

「なんでまた二人のところに? 前回返事をしたから、ここの住所は知ってるはずだが……」

「なんか色々あって手紙が届かなかったみたい。僕達が王都から送った手紙は届いたから、こっちに送ったみたい」

「それじゃ、また明日」と片手を上げて、シルヴァンさんは出て行った。

残されたわたしとセレストさんは顔を見合わせる。

「とりあえず、荷物と上着を置いて夕食にしましょうか」

それに、うん、と頷いて手を繋ぐ。

二階へ行き、それぞれの部屋に荷物と上着を置いて、夕食を済ませる。

セレストさんは手紙を気にしているようだった。

わたしが入浴してから二階の居間へ行くと、セレストさんはいつもの揺り椅子に座って手紙を読んでいた。

気付いたセレストさんに手招かれて近付く。

そばに行けば、ひょいと抱き上げられて、セレストさんの膝の上に座った。

「ユイも読んでください」

差し出された手紙を受け取る。

「いいの?」

「ええ、もちろん」

頷かれたので、手紙を読む。

家族の手紙とは思えないくらい簡素なものだった。

こちらは元気なので心配はない。

今、海を渡っている最中で、もうしばらくしたらそちらの大陸に着くので、息子とその番に会いに行く。

恐らく今年の末、遅くても来年の春前くらいには会いに行けるだろう。

そういう内容だった。

あまりに簡素だったので、つい、便箋を裏返して続きがないか確認してしまったほどだ。

「セレストさんのお父さんとお母さんが来るの?」

セレストさんが頷いた。

「そのようですね。手紙を送った時に海を渡っているなら、まだ、グランツェールへ着くまではかなり時間がかかるでしょう」

「そうなんだ」

「父も母もゆっくり旅をする人達なので」

だそうで、すぐには来ないだろうとのことだ。

……想像するだけで緊張する。

セレストさんのご両親に会う。

わたしは人間で、しかもこんな小さくて細くて、子供で、元奴隷で、良いところよりも欠点ばかり思い浮かんでしまう。

「わたし、会っても大丈夫かな? 歳も離れてるし、見た目も子供っぽいし『セレストさんと釣り合わないから番として認めない』とか言われない?」

セレストさんがふふ、と小さく笑う。

「そのようなことはありませんよ。父と母も番同士で結婚していますから、反対されることはないでしょう」

宥めるように頭を撫でられる。

……それならいいんだけど。

セレストさんの手に促されて寄りかかる。

「大丈夫ですよ。ただ顔を見に来るだけです」

そう言ったセレストさんにわたしは頷いた。

もしセレストさんのご両親に反対されたとしても、わたしはセレストさんを諦められるのだろうか。

そう考えて、きっと無理だな、と思う。

セレストさんがいなければ今のわたしはいなかったし、セレストさんがいなくなるなんて想像出来ないし、したくない。

ギュッと抱き着けば、セレストさんは抱き締め返してくれた。

* * * * *

次の日、仕事を終えてセレストさんと第二警備隊を後にする。

ヴァランティーヌさんとディシー、それからウィルジールさんも一緒である。

ディシーはイヴォンさんとシルヴァンさんとは前回も少しだけ顔を合わせているので、そこまで気まずくはならないだろう。

むしろ二人とディシーは仲良くなれそうな気がする。

ディシーももうすぐ十六歳になるし、イヴォンさんとシルヴァンさんは見た感じ、年齢が近い──あくまで見た目の年齢だけど──。

「イヴォンもシルヴァンもついに近衛騎士か」

「早いな」と言うウィルジールさんに、ヴァランティーヌさんも「そうだねえ」と頷いた。

「昔はどうしようもない悪戯っ子だった二人が、もう騎士の最高峰の近衛にまで上がるなんてねえ」

「確かに昔のあいつらは凄かったしな」

イヴォンさんとシルヴァンさんの昔のやんちゃぶりはセレストさんから聞いているので知っている。

ウィルジールさんもやんちゃだったけど、あの二人もなかなかの悪戯っ子だったようだ。

あまりに手を焼くので、いっそ騎士団に預けて規律と我慢を覚えさせたら良いのではと両親が王都の騎士団へ連れて行ったのかもしれないとセレストさんは考えているらしい。

そうだったとしても、この二人には騎士という仕事は天職だったのだろう。

五人で『酒樽の集い』へ向かえば、先に着いていただろうイヴォンさんとシルヴァンさんが既にもう飲み始めていた。

「おー、こっちこっち!」

「仕事お疲れ様」

大きなテーブルに座っている。

八人がけのそこにわたし達も行く。

適当に席に着くと、タイミング良く料理が運ばれてくる。どうやら先にいくつか頼んでいたようだ。

「この間はちょっとしか会えなかったからな」

「飲んで騒いで終わったよな」

「まあ、今回もそうなるだろうけど」

ウィルジールさんの言葉にイヴォンさんとシルヴァンさんがおかしそうに笑った。

仕事中のことについては抜きらしい。

……まあ、それもそっか。

仕事中だと王子と騎士という立場になってしまって、職務上で必要なこと以外は話せるような関係ではない。

そう思うと不思議な光景だ。

この国の第二王子のウィルジールさんに、騎士である双子のイヴォンさんとシルヴァンさん、そしてウィルジールさんの親友であるセレストさんとウィルジールさんの新人の時から付き合いのあるヴァランティーヌさん。

ディシーはウィルジールさんのことを知らないから、違和感はないようだ。

「それで、ヴァランティーヌさんとこのディシーだっけ? この前は挨拶してなかったよな? 俺はイヴォン=ユニヴェール」

「僕はシルヴァン=ユニヴェール、双子の弟だよ」

「よろしく」と重なる声にディシーが頷いた。

「ディシー=バルビエです、よろしくお願いします」

「ディシーは何歳? 成人してる?」

「十五歳です。まだ成人前なので、お酒は飲めないです」

「そっか、そりゃ残念」

予想通り、ディシーはすぐにイヴォンさんとシルヴァンさんと仲良くなれたようだ。

元々ディシーは誰とでも仲良くなれるタイプなので、その辺りの心配はない。

通りかかったお店の人に二人分のジュースと追加の料理を頼み、それらが来るまで、先に運ばれていた料理を食べて過ごす。

「──……それで今は第二警備隊の受付にいて」

「そうなのか、ディシーも大変だったんだな」

「ウィルジールさんは最近の仕事はどう?」

「この間、大捕物があってさ。なあ、ヴァランティーヌ」

「ああ、あれは大変だったねえ」

気付けば賑やかになっていた。

七人も集まれば当然賑やかになるものだけれど、なんというか、すごくいいなあと思うのだ。

この穏やかな時間がずっと続いてほしい。

横を見れば、セレストさんも和やかに微笑みながらお酒を飲んでいる。

わたしも真似て、運ばれてきたジュースを飲んだ。

「そうそう、父さんと母さんがしばらくしたらこっちに来るらしいよ」

シルヴァンさんの言葉にウィルジールさんとヴァランティーヌさんが正反対の表情を見せた。

「げ」

「おや、そうなのかい?」

ウィルジールさんはちょっと嫌そうで。

ヴァランティーヌさんは嬉しそうだ。

それにイヴォンさんが、ははは、と笑った。

「ウィルジールさん、うちの父さんと母さんによく叱られたもんなあ」

それに驚いた。

「そうなの?」

「ん〜、まあ、セレストに悪いこと教えたのは俺だし? セレストと一緒に色々やったしな」

「私を連れ回した、の間違いでしょう」

呆れた顔をするセレストさんにウィルジールさんがニッと口角を引き上げた。

「でもお前だって嫌がらなかっただろ?」

それに反論しないところに、子供の頃のセレストさんもそれなりにやっぱりやんちゃしたい盛りだったのかもしれない。

「ですが、ウィルがイヴォンとシルヴァンに色々と教えたおかげで私も一緒になって両親に怒られることになりましたけどね」

「あはは、それは悪かったって」

首を傾げるとセレストさんが教えてくれた。

イヴォンさんとシルヴァンさんは確かに元々やんちゃな子供だったけれど、悪戯っ子になったのは、ウィルジールさんが悪戯を教えていたかららしい。

ウィルジールさんも最初はちょっとしたものくらいしか教えていなかったのだが、それを幼いイヴォンさんとシルヴァンさんは実行したり、更に応用してやったりして、主にその被害者はセレストさんとその両親だったようだ。

……それはウィルジールさんも怒られるね。

自業自得である。

「元から元気のあったイヴォンとシルヴァンが悪戯っ子になってしまって、本当に大変でしたよ」

セレストさんが苦笑するとイヴォンさんが首を傾げた。

「そのわりにセス兄はあんま怒らなかったよな?」

「最初は怒ってた。でも怒れば怒るほど、お前達は反発して悪戯をするから怒るのをやめたんだ」

「あれ、そうだっけ?」

シルヴァンさんまで首を傾げている。

それにセレストさんが小さく息を吐いた。

「そうですよ。ちなみに私がされたことで一番酷かったのは、暖炉の炭でめちゃくちゃに部屋中落書きをされたことですね。寝ている間に私の顔まで真っ黒にされました」

それは酷い。炭の汚れは落ち難いのに。

「あー、ごめん?」

「ごめんなさい?」

と二人が謝ったけれど、覚えていないようだ。

そんなことあったっけという顔をしていた。

「いい、どうせ覚えてないんだろう?」

「あはは、うん、まあ……」

シルヴァンさんが頭を掻く。

「イヴォンさんとシルヴァンさんから見て、小さな頃のセレストさんってどんなだった?」

セレストさんとヴァランティーヌさんからは聞いたことがあるけれど、弟二人から見たら、また違うのかもしれない。

二人が「うーん」と首を傾げた。

「優しいけど、優しくない?」

「あんまり僕達に興味なかったよね、セス兄って」

「そうなの?」

見上げれば、セレストさんも思い出すように視線を斜め上へ動かした。

「そう、かもしれませんね。嫌いというわけではありませんでしたが、好きというほどでもなかった気がします」

言いながら、セレストさんが何かに気付いた様子で「ああ」とこちらを見る。

「弟達が双子で、しかも手がかかっていたので父も母も、どうしても弟達の世話で忙しくてあまり構ってもらえなかったからかもしれませんね」

ああ、なるほど、と納得した。

わたしは前世で一人っ子だったから良かったけど、もし兄弟姉妹がいたとしたら、父も母もわたしのことばかりで兄弟姉妹と扱いに差が出たかもしれない。

そうなれば、兄弟姉妹もきっとわたしのことを良く思わなかっただろう。

セレストさんも子供時代に弟達に両親を取られて、いい気はしなかったのだ。

「わたしはセレストさんが一番だよ」

隣にいるセレストさんの手を握る。

「私も今はユイが一番ですよ」

わたしの手をセレストさんが握り返してくれる。

「ありがとうございます」と言われて嬉しかった。

それに一番だと言ってもらえるのも。

「はいはい、セレストは番にご執心ですからね」

ウィルジールさんがからかうように言って、他のみんなが「確かに」と笑った。

……わたしの一番はセレストさんだけど、わたしの中にはみんなもいるけどね。

でも、それは恥ずかしくて伝えられなかった。

だけどいつか、伝えられたらいいな。

わたしはみんなのことも好きだって。