軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6 合体と私

真っ暗な山道を照らして私たちを先導しているのは、宙に浮くカンテラだ。一見普通のカンテラに見えるけど勿論魔道具で、鉄枠の中に火の玉が揺れている。じっくりと近くでのぞき込めば、その火の玉は魔法陣がぐるぐる光りながら回っているのがわかるだろう。これも非常にお高いに決まっている。理屈はさっぱりわからないけど宙に浮いてるくらいだ。

ほぉ、ほぉ、と響くふくろうの鳴き声。道の両脇に密集して立つ木々に遮られているけど、空から葉擦れの音が降ってくるからそれなりに風が吹いているはず。

そして時折梢が揺れるリズムとは別のそれで下生えの草がなびいていくのがわかる。

最後の登山は小学校の遠足だったけれど、入学前に住んでいたじいちゃんの家の庭は裏山に続いていた。庭からのびる細いけもの道をあがっていけば、小川沿いに拓けた小さな畑。

ここの山に比べれば少し大きな丘みたいなもんだったと今なら思う。

だけど小さな私にとっては、じいちゃんとふたりだけの息がしやすい広い世界だった。

ごつごつしたしわだらけの温かい手に引かれ、その辺の草花を指さしては名前を聞く私にゆったりと答えてくれるじいちゃん。後で知ったけど全部じいちゃん命名で、テラテラ草で図鑑を引いても載ってなかった。

市井さんの広い背中が、カンテラの明かりを遮っている。

道から一歩ずれれば呑み込まれそうな闇が広がっていて、その奥では小さな異形たちがひしめきあっている。

「んー、さつきぃ」

「はい」

「怖いとことか方向はないのかよ」

たまに市井さんはちらりと私のほうを振り返って確認する。ついでのように脇の地蔵の頭を撫でたりもしてた。

「ないです」

「だよなー。そんなツラしてねぇし。やっぱ人間――いや、討伐するまでもない雑魚ってことか」

もう一度振り返った市井さんに首を振って見せた。

いることはいる。たくさん。アリくらいのサイズの異形が大移動していて、ケムは一定の間隔ごとにざくっと掬って食べ歩きしている。彼もケムだけは見えるようになったから、その行動から い(・) る(・) のはわかったのだと思う。

「えっと」

「うん」

「怖くはないんですけど、嫌な感じがします」

「ほお」

「なので帰りませ「で?」……ですよね」

食い込みそうになる肩紐の位置を整えて、歩みを止めない市井さんの後についていく。

進むごとに、少しずつ、下生えのざわめきが増していく。

よ、よし、見えたことを伝えるのが私の仕事! 尻込みしてる場合じゃない!

「ちょ、ちょっとおかしいなーって。こういう山にはあんまりいないのがいるなーって」

「……は? お前、町から出たことないんじゃなかったか」

「そっ、そそそそれはっそそそうなんでっすが」

「まあいい。で?」

「ちょちょちょっと長く、なるんですけどっ、その、鐘守さんに憑いていたのと同じっぽくて、で、あの人はもう長くないと思うんですけど」

「んん?」

ほらまた唐突な切り出し方になっちゃう。足を止めた彼は首をかしげながら振り向いた。

「ゆっくりでいいぞー」

どうして私は上手に説明ができないんだろうとへこみかけたところに、そう声をかけてくれる。いつもはすごく雑なのに。

じいちゃんと畑までの道を歩いていた時のように息がしやすくなった気がした。

「普段そこらにいるような妖とは違う、人間の病に憑くやつがいるんです」

山道の真ん中で二人向かい合ったまま説明をした。

断続的だった下草の揺れる音は、いつしか途切れることなく続いていく。

ざざざざざ。

異形たちが発する声や音が聞こえることはほぼないけれど、そいつらによって動くものの音は当然聞こえてくるわけで。

ケムが私と市井さんの周りをぐるぐる囲むように前転を繰り返していく。

「病が先か、妖が先かはわからないんだな? でも病人に憑いてるところしか見たことないやつがそこら中にいると」

「ははははい。ふ、増えてます今もだからかかか帰りませんか」

あの先日の白い手をもつ妖は怖いものだった。今周囲を駆け抜けていくこいつらそのものは怖くない。

だけど数が。

いるはずのないものが大量にいて、しかもどんどん増えていくって現象は、直接的な恐怖感とは違う薄気味悪さがある。

「んー、俺にも見えりゃ斬れるかどうかわかるんだがな。お前も俺がどこまでできるかまだわかんねぇだろうし」

まあ、それはおいおいってことだな、なんて呑気にしているけれども。

ざざざざざざ。

おかしいな。この音は聞こえないんだろうか。

私は他人が見えないものは見えるけれど、聞こえないものが聞こえたことはないのだけど。

どっちの方角に妖たちが向かっているかと問われて指で指し示した。山頂だ。ちょうど私たちが向かっていた方角。

「ま、俺もお前も健康だしな」

こともなげにその方角へと向き直った市井さんが一歩踏み出した瞬間、こんな季節なのにぶわりと熱い草いきれが立ち込めた。

「――お?」

最初は遠くから軽く響いてきただけの音。

……ぉん……ぉん。

それは近づいてくるほどに、重く空気と地面を震わせる。

どぉん、どぉん。

「ががががが合体した! 市井さん合体した!」

「何が⁉」

「きき来ます! 来ます来ますはやく!」

市井さんの制服の裾を両手で力いっぱい引っ張った。

「お? ぉぉぉおおおお⁉」

浮かぶランタンが市井さんの視線に反応したのか、照らす先が遠く広がる。

道なりにぽつりぽつりと立っていたお地蔵さんが、次々と垂直に飛び上がっては宙返りをして地面に頭から刺さっていく。

それはまるで巨大な子どもが人形遊びをしているようだけれど。

でも私には見えている! あれはあのミミズの集合体! いやあああ!