作品タイトル不明
14無実の少女を処刑しようとした王家の末路
妖精の愛し子であり番である獣王ガオンに愛されるメーライ。
家族から虐げられながらも美しく咲き誇る花として祖国としても鼻高々になるはずだった。向こう百年の栄光は約束されている。頬が上がりっぱなしになるのも止まらなかった。建国以来の数少ない快挙だ。
自国の人間が多かれ少なかれ被害を浴びせていたことを責められたものの、そちらに関しては少しずつ土地として近隣に位置している獣王国と今後は深く交流していくつもりなので、特に気にしていなかった。そのはずだった。
獣王の番のいた国の者として勝ちを確信した。途中、断罪によりノンファンが怪我してそれを姉が治したことによってさらに妖精と愛し子と知った時は天にも昇る思いがあった。莫大な利益や国としての大陸で他国より優位になると。
「陛下……またです」
「あそこは友好国なのだぞ……」
人生で一番己が輝いたのはあの日、メーライが愛し子だと知れてメーライの一族の処遇を獣王に全権手放して明け渡した瞬間までのこと。その後のことは思い出したくない悪夢だ。
「それと、他のところからも断られました」
拳がギリリと椅子を握りしめる。
「く……返礼品を用意しておけ」
「もうあまり質良いものが残っておりません」
「自室からなにか探せばいい」
王妃や息子たちの部屋を探せば何かあるだろう。王は俯いたまま目を閉じた。
「ノンファン様は今どこにいるのか」
知ったとしてもそこへ行くことは許されないだろうが、考えない日はない。どう謝ればいいのか。それだけが胸に居来する。
今この国は未曾有の事態に見舞われている。妖精の愛し子だと気持ちが最高潮に盛り上がったのに急転直下で落とされるとはこのこと。
「謝りたいのに謝れない」
日々、上げられる報告書を読むたびにどうしてあの時、小さな少女が地面に血溜まりに倒れたときさえ高揚感で目に留めなかったのかという後悔が過ぎる。
あの瞬間に戻ったとして自分は女の子を助けることはしないともわかっている。それでも差し伸べるべきだった。自分は他でもない王であり、彼女は自国の令嬢だったのだから。
清廉潔白だった相手が引き倒されてしまったとき、手首が異様に細いと知らなくてなんで無様なのだと忌々しく感じた。獣王を怒らせるなんてと。
しかし、再び起き上がった少女はもう貴族令嬢でもなんでもなかった。凛々しく全てを携えるような気配を持つ王だ。
「精霊の愛し子様は怒っておられました。許されることはないでしょう」
文官は諦めたように目を落とす。この国はかつての国力もなく、世間からは姉妹を虐げた国やら他国民に明け渡したプライド無き王のいる国、と毎日のように嘲笑われている。
獣王の権力も今はないに等しく、当時獣の王に自国の貴族を易々と明け渡した腑抜け王、と他国からの呼び声が高いらしい。事実なので否定するところで意味はなく、毎日馬鹿にされて生きている。
「見捨てましたから、我々が救われる日はないでしょう」
厳しい目を向ける側近に王も項垂れる。ノンファンという少女が獣王を威圧して、その国ごと沈めるのを見ているしかなかった。次は自分の国だと思い震えて寝床に入る日々。
「処刑しようとしたのです。我々を恨んでも可笑しくない」
王の近くにいた長男が沈みゆく国に向けて仄暗い瞳をしている。パーティの日は当然ながらその場にいたのだ。長男にだけは獣王の番と番の家族を裁くことは伝えていて段取りも知っていた。
しかし、十二歳の少女が姉を虐げたと聞きそんなことは可能なのかと疑ったが大国の調査なのだから事実なのだろうと納得した。納得してはいけなかったのに。
「父上が処刑などと軽く扱うから、この国の総意だと思われたのです」
国王の第二子が恨みがましく見つめた。
「ああ。そうだな。当主夫婦は当事者として裁き、幼い子供に連座などあまりに残酷な真似をしてしまった」
親に影響されただけの可能性が高く、家庭間のことで残虐なことをしたわけでもない子供に行うことではなかった、と今ではわかる。わかっても手遅れであるが。
「しかも、なにもしてなかったから」
王の子である長女が震える手でドレスを握る。
「何もしてなかったってことは冤罪ではないのですか!我が国はなにもしてない子供を処刑しようとした国って言われてるんですよ!ああああ!今後私はどこにも行けないっ」
次女の王女がポロポロと泣く。次いで泣いているのは、ノンファンと一歳違いの三女。責められるのだそうだ。歳が一番近く、どうして彼女にちょっかいを出す令嬢たちを注意しなかったのだと。
年齢が近いと言うだけで、どの王女よりも厳しい目に晒されていた。令嬢たちを抑えることもできない無能と突かれる。
「聞いたこともないのに、いきなりなんで庇わなかったのって責められた。そんな子今まで知らなかったのに」
目を赤くしてボソボソと呟く。貴族の中に行けば皆にチヤホヤされる王女はスターでありノンファンは最下層の嫌われ者だ。
嫌われる要素は極限に削ぎ落とされているのだが、そこにいるだけで異物扱いをされるほど異様な存在感を放っていた。しかし、教えられなければたくさんいる貴族令嬢の存在など知る由もない。
王が子供たちの責める視線を受け止めて、静かに謝る。この国はもう落ちる一方なのだ。友好国に援助支援要請の手紙を送っているが、どこも突っぱねて来ては「貴国との付き合いは今後控える」と国交断絶の文章ばかりが机に置かれる。
商人も目に見えて減った。王家の資産を各地に分配していかなければどの領地も実入り先がいずれなくなり、統治など出来なくなるだろう。余裕のある生活も夢のまた夢になる。
「ノンファン様は姉のメーライ様より酷い生活を送っていたのに、私たちは殺そうとしたのよ」
王妃がシクシク泣き出して収集が付かなくなる。国際的に制裁を受け始めてしまっていて、再起の目は皆無。
「怒るに決まってます……長年食べ物も服も姉から貰うしかできなかったのに、それすら虐げたと言われてっ。女の子に私たちは処刑する、奴隷として引き渡すと楽しげに目の前で話したのです。悪魔に見えたに違いありません。私たちは魔物なのです。ノンファン様にとって」
一番下の子供が震える手で大人たちの不手際を晒していく。正直何が起きたのかわからないが、自分が言われたならと想像してしまえばとてつもなく理不尽で、希望を一瞬で無くすだろう出来事。
「我々は滅ぶしかありません」
言い訳さえ許さない悪魔の所業だ。王は子供たちの目に晒されながら、最後の友好国からの手紙を力なく手から落とす。
「何をしてももうダメなのか?諦めるしかないのか」
残るは他国に吸収されてしまう未来。それとも、弱小国として話題にも上がらなくなるほどの権威の喪失。わかっているのは、王座から退かされて子供たちも王室から追い出されるのだろうということだ。
「最初から私は間違えていた」
すまない、と実年齢より歳をとった一人の男の声が部屋に響く虚しさは、謝るべき相手に届くことはなかった。