作品タイトル不明
落し物は美少年ですか?
それから暫くメルは充実した錬金術生活を送っていた。彼女の日課は錬金したポーションをギルドに納品し、得たお金で必要なものを買うことだ。
その帰り道。何となく、いつもと違う道を歩こうと思った彼女は海岸沿いに出た。
柔らかい砂浜を鼻歌を歌いながら歩いていると、向こう側に何かが落ちている。
メルはピタリと立ち止まった。
違う、あれは物じゃない。人が波打ち際に倒れている。
血の気が引くのを感じた。
こんな場所で人が倒れているとすれば、それは十中八九生きていないと思ったからだ。
メルは目をそむけたくなるのを我慢して、恐る恐る近付いた。未だ生きているならば救助しなければならない。
薄目を開けて確認すると、服がぐっしょり濡れている。金色の髪は波に揺れている。結構長い。肩の高さまであるようだ。
最初は女性かと思ったが、それにしては少し肩幅が広い気もする。まだ区別が付かなかった。
その時、手先がピクリと動いた。
い、生きてる!
メルは荷物を放っぽり出して駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
メルは横向きになっていたその人物を仰向けにした。体つきからして、青年の色が見え始めた少年のようだ。
次に顔を確認する。
「きゃあっ!!」
思わずメルは顔を背けてしまった。とてつもなく深い傷があったから、ではない。だがとても直視していられなかった。
その顔貌が、あまりに眩しかったからだ。もちろんメルのように物理的に光っていたのではない。美少年特有のキラキラオーラが遺憾なく発散されていて、目が潰れそうだったのだ。
素晴らしく綺麗な顔をしていた。格好いいというより、美しいという印象の脳が圧倒的に強い。
「うっ……」
少年が呻き声をあげたことでメルは我に返った。駄目だ、恥ずかしがっている場合ではない。こんな時、どうすれば?
メルは急いで辺りを見回した。
誰も居ない。誰にも見られていない。
よし、連れ帰ろう。
メルは自分より背の高い少年を軽々担ぎ上げた。
「別にいかがわしいことを目的にではないわ。こんな所に放置していたら、飢えた野獣の餌食になってしまうもの。それだけは阻止しないと! ウチには治療用のポーションもあるし、歯ブラシも二つあるし、ベッドも頑張れば二人寝られるしグヘヘェ!」
まるで自分に言い訳するように早口で言った後、家へと走った。
◆
「ん……」
少年は目を開けた。秋の空のような、澄み切った青い瞳がメルを見つめる。
「あっ、気が付いた? 治癒のポーションが効いたみたいね。良かった」
少年はメルの顔と、部屋を交互に見て目をぱちぱちさせている。まだ状況が分かっていないらしい。
「えっと、ここは何処ですか?」
「ここはホーリーアーク王国のあるニシハッテという街よ」
少年は顎に手を当て、暫しの間思案しているようだった。
「つまり僕はあなたに助けてもらったのですね」
「そう、あなたが海岸に倒れていたから。悪い獣に襲われたらまずいから仕方なく、仕方なく私の家まで連れて来たの」
すると少年は、急にメルの手を両手で握った。いきなりのスキンシップで心臓が飛び出しそうになる。
しかも顔が近い。美しすぎる顔面が間近にある。顔から火が出そうだ。心臓が出たり火が出たり忙しい顔面だなと、変な思考が過る。
「助けて下さってありがとうございます! このご恩は忘れません」
「ああ、待って! そんなに密着されたら私浄化されちゃう!」
「ふふっ、面白い方ですね。確かに僕は退魔の力を持っているので邪な者が触れるとダメージを受けますけれど」
「じゃあ危ないと思う!」
一旦、距離を取って仕切り直す。
「私はメル・アンブローズ。あなたの名前は?」
少年が答えるまで、一瞬、間があった。
「僕はセラと申します。そう呼んでください」
「分かったわ。セラはどうして海岸に倒れていたの?」
「それは……言えません」
セラはゆるゆると首を振った。
「そう、じゃあどこに住んでいるの? それさえ分かれば送り届けてあげられる」
セラはバツが悪そうに視線を逸らした。
「ごめんなさい、それも言えません。言えばメルさんのことも危険に晒すことになってしまう」
急用を思い出したように、セラは勢いよく立ち上がった。
「こうしてはいられない。僕はいつまでもここに居るわけにはいきません」
メルに向かって、ペコリとお辞儀をする。
「助けて頂いてありがとうございました。このご恩は必ず後でお返ししますから」
「ま、待ってよ!」
メルは出て行こうとするセラの手を掴んだ。
「治療用のポーションで傷は治したけれど、体力はまだ回復していないと思うの。もうすぐ日が暮れるし休んでいかないと危ないわ」
「いいえ、先ほども言いましたが、そうするとメルさんを危険に晒すことになってしまいます」
「関係無いわ! だって歯ブラシ二つあるもん!」
そうやって押し問答をしていた時だった。急に激しい音を立て、扉が何度も叩かれる音がした。
こんな時間に誰だろう。
メルが扉の方を確認しに向かうと、勢いよく扉が開かれた。
「メル・アンブローズは居るか!」
そこに立っていたのは、意外な人物だった。