軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

自由だー!

メル・アンブローズが前世で日本人だった時の記憶を思い出したのは、王立学園に入学して一年が経っていた頃だ。

そしてここが「メルと聖域学園」という乙女ゲームの中であり、自分が主人公のメルであることを認知した。

が、同時に彼女は頭を抱えた。

既にメインヒーローの一人である、ヴィルター・ノルデンと婚約してしまっていたからだ。どうやら記憶を取り戻した時には物語がかなり進行していたらしい。

ただ頭を抱えたのは、決してヴィルターが嫌いだったからではない。

彼女がこのゲームでやりたいことは、恋愛ではなかったのだ。

前世でやり込んでいたのは、いわゆる「ミニゲーム要素」だった。

木こりや漁師もその一環。それによってスキルを習得したり、アイテムが獲得出来たりする。

中でも彼女が最も時間を費やしたのが「錬金術」だった。錬金術ではゲーム進行に役立つあらゆるアイテムを錬成出来る他、キメラと呼ばれるペットを作ったり、出来上がった品物を売ったりできる。

前世では寝る間も惜しんで錬金して錬金して錬金しまくった。面白くて仕方なかったのだ。「もしこの世界に入れたら、錬金術ライフに没頭したいなー」と思っていた。

しかしせっかくゲーム世界に入れたというのに、既に婚約しているとなると困った困った。ヴィルターは伯爵家の子息で、しかも長男。伯爵家の奥様になった日には、不気味な笑顔で錬金窯をかき混ぜる毎日を過ごすなど、許されようはずもない。

ヴィルターも厳格な性格をしているし、容認してくれるとは思えなかった。

だからと言って、この時メルはヴィルターと婚約を破棄しようとは思わなかった。むしろ彼は好きな攻略対象だったし、婚約してしまったものは仕方ない。伯爵夫人になってからも、どうにか秘密の部屋を作って錬金術を続ける方法を模索しようと考えていた。

そんな時、異変が起こる。

あの女、ユリアーナが現れたのだ。

彼女はメルとヴィルターの間に図々しく割って入り、いつの間にかメルよりもヴィルターと親密になってしまっていた。

彼女の行動は、現代日本の倫理観を知っているメルから見ても、眉をひそめたくなるほどだった。

ユリアーナが現れるまでヴィルターとの仲は悪くなかった。しかし彼女が現れてから、あからさまに彼のメルに対する態度は冷たくなった。

もちろんユリアーナに対する怒りもあったが、それより引っかかるのは、彼女はゲームの登場人物ではない、ということだった。

とすれば彼女はモブということになる。

尚の事、おかしい。

ゲームに登場しないモブでありながら、メインヒーローともいえるヴィルターと主人公の間に割って入ってくるなんて、あまりにもイレギュラーな動きだった。

極めつけは、あの婚約破棄だ。

あんなシナリオはゲームに存在しない。ユリアーナは一体何者なのだろう。そのうち探りを入れてみる必要がありそうだ。

……とはいえ、彼女のお陰で身一つとなり、自由に動けるようになったのも事実。腹立たしさよりも解放感の方が圧倒的に大きいメルであった。

うーん、自由って素晴らしい!