軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

終幕

それからひと月、贅肉がごっそり抜け落ちて筋肉ががっつりついた俺達なわけだが、たったひと月でそうなるくらいの重労働を課せられていたと言ってもいい。

新型機を作るというのはそういう事で、本来ならもっと余裕のあるスケジューリングをするべきなのだがおやっさんの一言で方針が決まってしまった。

コンペに出す以上最低限じゃない、最大最強を目指すべきなのだ。

もちろん予算の範囲でという注釈は付くんだけどな。

そうして出来上がったツクヨミの後継機ともいえるバックパックを主軸として四肢と頭部を付け替えできるようにした機体。

その名もスサノオはひとまずの完成を見せた。

まだ詰めの甘い部分や、修正できる箇所、他にもコストバランスや追加装備の案など山ほどあるがそれは全部書面で提出する形だ。

要するにたたき台なわけだが、それが完成した事で久しぶりに俺もおやっさんも、メカニックの皆さんもメカニック科の学生も。

ついでにテストに何度も付き合ってもらったパイロット科の連中や教師陣も、久方ぶりに休みがとれた。

「………………できたなぁ」

「………………だなぁ」

だが休みが取れた俺達は近隣の在庫を軒並み消し去るほど買い占め、それでもそろそろ底をつくぞと言われていたエナドリ片手にスサノオを見つめていた。

換装用パーツも含めて壁に立てかけられたそれらは、まだ塗装もされていない状態だ。

最低限のさび止めが塗布されただけの銀色の機体、それを前にただ立ち尽くす事しかできない。

「……やっと、休めるのね……」

今にも死にそうになっているのは近接戦のテストで散々呼び出されたクリスだ。

ちなみに彼女はギアの操縦系授業の一部を免除されていたが、このテストによって完全に免除という扱いになった。

もちろん模擬戦などは参加するものの、ハンデとして多対一での状況でという事が多かった。

その隙間を縫ってこちらに引っ張ってきたため、見かねた教官が怒鳴り込んできたのだがこれ幸いとテストに付き合わせた結果である。

まぁ、まだ世間に出回っていないピーキーな機体のテストともなれば一流の実力をいかんなく発揮してもらう事になるからな。

それを既存のラインに落とし込むためにクラスが下の連中も駆り出して、気がつけばそいつらもクラス昇級の話が出ているという。

また噂が噂を呼び「昇級に有利になるような事が起こっているらしいぞ」という、半分以上嘘で塗り固められたものにほいほいと釣られた連中も来たので途中からはテストパイロットに困ることは無かった。

なんならギアでの戦闘は苦手だが、バックパック単独の戦闘機型では他より頭一つ抜けた才能の持ち主、なんてのも見つかった。

それを惜しんだおやっさんが「じゃあツクヨミ改もスサノオと一緒にコンペに出しちまおう」と言い始めた結果俺達の仕事は倍増したんだがな。

まぁ結果的に面白いデータは山ほど取れた。

ついでに駆り出されたメカニック科の学生は全員すぐにでも軍直属の部隊に放り込んでも問題ないくらい成長した、というのがおやっさんの言葉だ。

最前線でもここまで過酷なデスマーチは珍しく、納期ギリギリの工場でもこれほど根を詰めることは無いと言っていたのだから本当なのだろう。

まさに一皮むけたというやつだな。

「……胃が痛いから水じゃ駄目かな……」

良平は狙撃手としての腕を見込まれて銃装甲型スサノオのテストをメインで任されていた。

こいつもパイロットの受講科目はほぼ全て完了扱いになっている。

見た目からしてやつれたように見えるのは気のせいじゃない。

ただ優男にしか見えなかった良平も、今じゃいっぱしの戦士に見えるくらいには貫禄がついたように思える。

気のせいだったらすまんな。

「……すぅ……すぅ……」

最後に椅子の上で小さく寝息を立てている凛。

俺が家に帰らないのを心配して様子を見に来たところを確保した。

スサノオのデータを使ったシミュレーターを複数連動させて、俺が考案した鬼畜難易度のシミュレーションをやらせていたタイミングだったのでオペレーターを任せたのだ。

その後は索敵装備を充実させたスサノオに乗せて戦いながらのオペレーティングなど、中学生がやるような内容じゃないと怒られながらもテストに参加してもらった。

ただ体力がなかったため、早々にぶっ倒れてお使い役がメインになっていた。

それでもオペレーターとして優秀な成績を残しつつ、パイロットとしてもそこそこ動ける程度の実力を得たようなので本人も文句は言いつつまんざらでもない様子だ。

ここに来て緊張の糸が途切れて眠ってしまったが、実の所買い出しも含めて俺の着替えもってきてもらったり、差し入れ持ってきてもらったり、暇なときはテストパイロットしてもらったり、ついでに整備とシステムの書き換えも勉強してと滅茶苦茶濃密な時間を過ごしていたのは間違いないだろう。

ここにいる全員から妹のようにかわいがられていたが、お兄ちゃんは俺だ!

それだけは他の誰にも譲らねえからな!

どさくさに紛れてデートに誘った奴は48時間耐久シミュレーターにぶち込んでやったぜ!

おやっさんは娘がいたらこのくらいかとか言いながら可愛がっていたが、整備に関する事では一切手抜きをしていなかった。

滅茶苦茶厳しく叱られてたし、指導も受けていたがそれだけ大切にされている証拠ともいえる。

「なんにせよ、てめえらよくやった! 乾杯だ!」

「「「「「乾杯‼」」」」」

全員の声が重なり、近くにいた奴とエナドリの缶をぶつけ合った。

なおその声に驚いた凜が飛び起きて椅子から落ちそうになったのは余談。

クリスがそれを支えて、「お姉さま……」とか凜が呟いてたのも余談。

余談ったら余談なんだよ!