作品タイトル不明
修羅場
「紙が足りねえぞ! チリ紙でも何でも持ってこい! 図面書くのに必要だ! ペンもあるだけ……もういい! 壁でも何でも書け! 思いついたら書け! そんで全部記録しろ!」
「記録媒体追加早くしろ! システムパターンが多すぎて用意してた分じゃ足りない! あと湿布とエナドリと糖分追加だ! 脳みそがオーバーヒートする前に頭冷やせる奴も持ってこい!」
現在ドックは修羅場となっていた。
おやっさんも俺も、とにかく手が足りていない。
いや、正しく言うなら何もかもが足りていない。
俺の意見を聞いてからおやっさんはずっと図面を描き続けているし、俺はシステムにマシン語でため口きいているような状況がずっと続いている。
要するにどっちも出力し続けていて、その記録道具やら指先が限界を超えて稼動しているのだ。
俺もおやっさんも頭を冷やせるようにシートを張りながら、手首から先は湿布だらけである。
腱鞘炎もそうだが一瞬でも気を緩めるとぶっ倒れそうになるようなデスマーチだが、これが不思議と心地いい。
言うなればランナーズハイ。
「くそっ、次のペンを持ってこい! インクがなけりゃオイルでも血でもいいから持ってくるんだよ!」
「キーボードがまたぶっ壊れた! 交換頼む! 10秒だけ飯食うから頼んだ!」
一瞬時間ができて、そのわずかな時間に手元にあるカロリーの高そうな物を口へ運び嚥下する。
俺もおやっさんも一言も話さないが、互いの状況を見比べればだいたいわかる。
互いに佳境だなぁ……楽しくなってきた。
「おし、次の図面描くぞ! 学生共から奪ってでも紙とペンを用意しろ!」
「キーボード交換終わったな、続き書いていくぞ! とにかく記録媒体持ってきてくれ、スクラップになってる機体から引っこ抜いてきてでもだ」
「そっちの図面は出来上がってる。スクラップ使ってフレームだけでも作っておけ!」
「おやっさんがやってる機体のシステムを最優先で組むから空のデバイスを用意してくれ、形にするのにシステムがなきゃ動かしようがない。バックパックの操縦訓練してるパイロット科連中使ってでも完成間に合わせろ!」
「坊主のシステム組み込んだ時エラー出ねえように図面通りやれ! 手抜きしたら殺すからな!」
「エラー確認済ませたな、済んでないとかエラー見逃したとか言ったらぶち殺すぞ!」
一番楽しい所、つまり機体のくみ上げを始める。
だがそちらに目を向ける余裕は俺達にはない。
整備士にもメカニック科にも全力で動いてもらうし、使えるものは何でも使うのでパイロット科の連中も動かす。
なんなら一般科からも人員引っ張ってきてるし、文句を言おうとした教員も使っている。
なおその教員は開始1時間でぶっ倒れて使い物にならんくなったのでドックの外に放り出してもらった。
「右腕エラー出てるぞ坊主!」
「おやっさんも左腕の形状が違うぞ!」
「初歩的なエラーじゃねえかなにやってんだ!」
「そっちこそ図面取り違えとかヒューマンエラー出してんじゃねえよ!」
「おいそこの! ため息ついてる暇あったらさっさと図面変えて直せ!」
「そこのパイロット科! エラーチェック手伝え! しらみつぶしにエラーとバグ直していくぞ!」
結局のところ、俺はパイロットもできるメカニックなのかもしれんな。
だが儲けられて安全な場所から指示を出せる将校の立場はメカニックだと得難いだろう。
というわけで、今後も全力でパイロットアピールをしていくぞ。
今更と思われるかもしれないが、こうして新機体の製造まで手掛けているのは俺の出世のためだ!
ついでに機体の性能が上がって部隊の練度が上昇すれば俺が生き残る可能性も上がるからな!
いざという時エースだから狙われて死にましたじゃ洒落にならねえよ……そういう意味じゃツクヨミ改が型落ちになるまでおやっさん達に頑張ってもらうべきだな、うん。
なぁに、見た目が型落ちでも中身が最新鋭なら問題ない。
つーか現状ツクヨミ改のリミッター解除状態を動かせる人間の方が少ないみたいだし、ある意味ではあれが最先端なのかもしれねえな。