作品タイトル不明
最終話 終わらせたはずの初恋
ざわめきが、すっと引いた。
炎の爆ぜる音も、遠くなる。
残されたのは、張り詰めた空気と、向けられる視線だけだった。
「アリステラに政略結婚は望んでいない」
カリスターラが静かに言う。
「婚姻に頼らずとも、我がヴァルディスは殿下を支える剣となる」
鋭い視線。
「ヴァルディスが内外に敵を抱えている事は、殿下もご存知でしょう」
ルシエルドは頷く。
「アリステラには、心のままに笑顔でいられるようにと仮の姿を与えた」
ふと、アリステラを見る。
「大事に守り育てた、最愛の娘だ」
それでもなお、娘の意思を尊重すると決めたのは、カリスターラ自身だった。
「あなたに、娘を託していいのか」
この先に待つのは、穏やかな日常ではない。
守られるだけではいられない場所。
命の危険も、選択の重さも、すべて背負うことになる。
――それでも、この娘を連れていくのか。
「――必ず守る。全てを」
その言葉に、カリスターラは何も言わなかった。
――王子としての覚悟は、十分に伝わっていた。
「…言ったな。その約束違えるなよ」
アルベルトが言う。
「無論。」
そして アリステラに歩み寄る。
膝をついて、仮面を取った。
「――アリステラ」
視線が重なる。
「何があっても、お前を守る。全部背負ってやる」
一瞬、息を吸う。
「――だから俺の隣に来い」
言い切ったはずの言葉に、違和感が残る。
「いや……違うな」
そう呟くと、
「俺の隣は、お前しかいない」
瞳に強い力を宿して
「ずっと――アリステラがいい」
ルシエルド――レオ自身の声がまっすぐに届く。
(…レオ)
アリステラの瞳から涙が零れ落ちる。
「うん…。私の隣もルシエルドしかいない。
ずっと貴方の側に…」
ルシエルドは立ち上がると、アリステラを強く抱きしめた。
そして、耳元でそっと囁いた。
「すっげー嬉しい」
少し、くすぐったいその言葉にアリステラはその腕のなかで、笑顔の花を咲かせる。
「でもね…」
声のトーンを落とす。
「全部背負わせない。困難には、一緒に立ち向かう。」
ルシエルドを見上げて、少しだけ笑う。
「レオなら、分かってるでしょ?」
「ああ…」
フッと笑う
「リナはそう言う奴だった」
そして二人は笑い合う。
「じゃ」
ルシエルドはアリステラの手を取る
「夫婦初めての共同作業、襲撃の後処理に向かうか」
「え、仲良く手を繋いで?」
アリステラは吹き出した。
「まって…まだ夫婦じゃない。結婚式してないもの」
「もう、プロポーズ受けた時点で夫婦みたいなもんだろ」
笑いを交わしながら、二人は歩き出す。
繋いだ手が、自然と強くなる。
確かめるように。
離さないように。
その様子を、少し離れた場所から見ていたカリスターラは、小さく息を吐いた。
「……ようやく、か。」
アルベルトが肩をすくめる。
「長かったな。まぁ、あれなら問題ないだろう」
二人の背を、カリスターラとアルベルトは静かに見送る。その眼差しは、どこまでも穏やかだった。
◇
終わらせたはずの初恋でした。
何度も忘れようとして、それでも、できなくて。
あなたがどんな姿をしていても、惹かれてしまう。
きっとこれからも、ずっと。
どんなあなたでも。