作品タイトル不明
第342話 眼の力
「あなたの持つ鑑定眼。それは古来から持ち主が現れる不思議な目です。人の潜在能力、現在の能力を見抜くことができる。中々優れた力と言えるでしょう」
昔から鑑定スキルを持っていたものが、この世界にはいたのか。
鑑定眼。前もそう言っていた気がするが、正式名称はそうなんだな。
「ただ、その目を持つものが全員あなたのように活躍したわけではなく、悪徳な商人や、悪徳な貴族になったものも多い。持っている人の資質も試される能力と言えますね」
資質……か。
この眼だけ渡されても、活躍できない人は出来ないかもしれないな。
結局、自分の能力を上げるのではなく、人の力を見抜く能力だから、人の力に頼ることになる。
私は前世で三十五歳の記憶があった。
つまり大人だ。
人の力に頼ったり、他人と協調して生きることの重要性は流石に知っている。若いうちにそれに気づかないと、鑑定眼を持って生まれてきても、あまり生かせずに終わるのかもしれない。
「それでどんな方法なんだ? 私の鑑定眼を誤魔化すにはどうすればいい?」
「今、私は持っていないのですが、とある紙に偽の数値を書き、それを保有していれば誤魔化すことができます。効果には制限時間があるみたいですね。それは私も知らなかったのですが」
「紙……今は持っているのか?」
「使えなくなったので捨てましたよ。二度は使えないので、今はただのボロボロの紙です」
紙か……本当なのか?
もしそうなら、家臣になると言ってきた者のボディチェックを徹底すれば、誤魔化されることはない。
もう一つ制限時間があるという点だ。念のためボディチェックをした後、少し時間を置いて再鑑定するなどすれば、完璧かもしれない。
「ちなみにこの紙ですが、私が鑑定眼を知った時に書かれていた本に、挟まっていました。どうやら鑑定眼をもっていた本人が紙の作り方を見つけたようですね。まあ、中々それ以外の人には発見できないでしょうけど」
「そうなのか……」
「ちなみにその紙の製法や材料は私も知りませんし、恐らく現代にも伝わっておりません。私の手に入れた紙もかなりレアな代物なので、そうそう持っている人物はいないでしょう」
そんな紙を開発できるのは、鑑定眼の持ち主だけなのは、間違いなさそうだな。
自分の弱点を探していて、偶然発見したとかそんなところだろうか?
「話したので拘束を解いてくれませんか?」
「ファム、ベン、解いてやってくれ」
「いいのか?」
私が指示を出すと、ファムがそう聞いてきた。
「約束したからな」
ここで嘘はつきたくない。
確かにリスクがあるのは分かるが、約束した以上、守りたい。
甘いかもしれないが、それでもそうしたかった。
あと、彼女は私の鑑定眼についても知っていたし、ほかにもたくさんの知識を知っていそうである。
あれだけ本を読んでいるロセルですら、鑑定眼というのが昔からあると言うことは知らなかった。
それを知っていると言うことは、普通の本を読んでいたのでは知らない知識を大量に保有しているからだろう。
ここで仲良くなっていれば、教えてくれるかもしれない。
家臣にしたりはできないが、力を貸してもらうことは出来るかもしれない。
ファムは私の指示に従い、ゼツの拘束を解いた。
「ありがとうございます」
素直にお礼を言ってきた。
「言っておくが脱獄を試みたら、処刑するからな。やらない方が身のためだぞ」
「そうですね。中々この城を出るのは難易度が高そうです。リスクが高いのでやめた方がいいかもしれませんね」
素直にそう言ったが、本当のことを言っているのかは分からない。
拘束を解いたが、見張りはしっかりさせないといけないだろう。
「拘束を解いてくれたお礼に、良いことを教えてあげますよ」
「良いこと?」
「あなたは、このまえエレノア・ブレインドと一戦交えましたね。彼女は戦術眼の持ち主です。あなたと同じく特別な眼を持ったものなのです」
「戦術眼……?」
私と同じく特別な眼を持つ。
確かに彼女は戦の運びが恐ろしく上手だった。先を読んでいるとしか思えないくらいだった。
何か特殊能力を持っていたとしたら説明はつくが……
「どんな能力なんだ?」
「戦場を俯瞰視点で見渡せる能力らしいですね。ほかにもいくつか効果はあるようですが、それ以上のことは書かれていませんでした」
戦場を俯瞰で視点見渡せる……それは戦をする上では、相当強いな。誰がどこに動いたのかが、丸わかりになるということだろうから。
その上、ほかにも能力があるのか。
「とにかく戦場においては無敵の存在になるようですが……今回は結果、最終的にエレノアは敗退しましたね。飛行船の存在が、今の戦場には大きな影響を与えているようです。ただ、もし飛行船をエレノアが手にすれば、再び無敵の存在になるでしょうね」
飛行船をエレノアが持つ。考えたくないことだったが、絶対にないことではなかった。
「教えてくれてありがとう」
「いえいえ。またここにきてくだされば、情報をあげますよ。約束を守ってくださればですがね」
ゼツは微笑みを浮かべながらそう言った。
私の狙い通りにはなったな。
思ったよりいいやつなのかもしれない。
まあ、油断しすぎるのは禁物だな。
警戒は引き続き行おう。
私は情報を聞いた後、外に出た。
ベンが見張りに残り、ファムと私だけで地下牢を出る。
「本当に拘束を解いてよかったのか?」
「ああ。もし解いても、シャドーがいれば脱獄はさせないだろ?」
「そりゃまあな」
ファムは当然のことを言うようにそう言った。
「しかしまあ、鑑定眼だの戦略眼だの俄には信じ難い話をするな、あの女は」
「信じられないのか?」
「普通なら信じないが、お前は一眼で俺の変装を見抜いたからな。実際特別な眼を持っているのだろう。そして、そんな特別な眼を持っている奴がいるなら、ほかにも特別な眼を持つ者がこの世にいてもおかしくはない」
そういう考え方もあるか。
確かにそれは尤もかもしれない。
不思議な眼の力を持って私は生まれてきた。
他にも不思議な眼の力を持つ者が、世の中にいてもおかしくはない。
それこそ鑑定眼と戦略眼だけでなく、ほかの眼もあったりするかもな。
「俺は難しいことは考えず、お前に仕えるだけだ。今回はゼツに借りを返すことができた。それだけで十分だ」
ファムはそう言った。どうやら、前に私がゼツに毒殺されかけたことに、責任を感じているようだった。
「今回はよくやってくれた。ありがとう」
私は改めてファムにお礼を言った。
その言葉にファムは返事をしなかったが、どこか嬉しそうな様子だった。