作品タイトル不明
第335話 戦の後
カナレ城に戻って、私はのんびりとした時間を過ごすことできていた。
何と、ローファイル州がアンセルを制圧したことで、征伐軍は瓦解。
クランはローファイルに睨みを効かせるため、ミーシアン北の防御を固めているようだが、私たちは今の所は来なくても良いと言われた。
シューツ軍がまた動く可能性もゼロではないし、サイツが完全に信頼できるわけでもないので、なるべく私たちにはカナレにいてほしいようだ。
まあ、ローファイルが攻め込んできたりしたら、援軍に向かう必要はあるかもしれない。
当分は、ローファイル州はアンセルの支配を強めることで精一杯で、攻め込んでくる余裕はなさそうである。
しかし、ローファイル州か……エレノアを思い出すな。
あの化け物みたいな女なら、アンセルを完全に支配下におくことも可能かもしれない。
これからどうなることやら……
完全に支配下においたら、ミーシアンの北に厄介な勢力が爆誕することになる。
そうなると、また何らかの形で戦が起きる可能性が高い。
エレノアとも戦うことになる……
前に殺されそうになったのを思い出して、背筋が凍る。
あの時はなぜか私を連れ去ろうとして助かった。
恐らくだが、どこかで鑑定スキルのことを耳にしたのだろう。
確かに有用な能力だ。連れ去って、使いたくなる気持ちもわかる。
もし連れ去られていたら、奴隷みたいな扱いを受けていたかもしれない。
危なかった。
もう二度とエレノアと戦うのはごめんなので、なるべくローファイルとは仲良くしてほしい。
とにかく今はあまり暗いことは考えず、領地運営に勤しもう。
今日は領地運営の会議があるので、早速向かった。
すでに家臣達が集結していた。
領地についての情報が次々に上がってくる。
カナレは人口がどんどん増加していた。作物の収穫量も年々上がっているようだ。
新しく治めることになった、元サイツの二郡も人口が増加し、経済も好調らしい。
特にクアット郡の伸びは凄いようだ。
この前、私がクアットの都市に行ったことで、ギルドが統治に協力してくれるようになった。
色んな政策を行いやすくなり、それがいい結果を産んでいるようである。
あと、サイツからの移民がかなり大勢いるというのもある。
サイツはミーシアンに負け、実質属国のような状態になってから、あまり国内の状況は良くないようだ。
アシュドが元帥になったが、あくまで元帥は軍を動かすだけなので、国内の統治にはそこまで口は出せないようである。
サイツを見限って、景気が良さそうに見える、クアットやカナレに移住してくるものも多かった。
人口が増えるのはいいことなのだが、いいことばかりではない。
治安の悪化、食糧不足、原住民との対立などが発生しやすくなり、元々住んでいた住民が不満を持ってしまう。
その辺を何とか解決しつつ、増やさないと逆に領地の力を落とすことに繋がるので、何とかバランスを保つ必要がありそうだ。
「俺から報告がある」
ファムがそう発言した。
彼はシャドーの面々を使って、様々な情報を集めている。最近ではシャドーの人員も増え、情報収集能力が上がったようだ。
最近だと、ファム自身はカナレにいて、私の護衛をしながら部下への指示を行なっている。
ちなみに私の鑑定スキルは使わず、独自のルートで増やしたようである。
まあ、私の鑑定スキルでどのステータスが高ければ、密偵に向いてるかは正直分かりづらい。
あまりファムの手助けはできないかもしれない。
「以前、アルスを暗殺しようとした、ゼツの居場所を探っていたのだが、手がかりが掴めた。どうも、現在はパラダイル州にいるらしい」
「ほ、本当か?」
私は少し動揺しながら、そう言った。
ちょっと前に私は毒殺されかけたのだが、その犯人がゼツという女だった。
鑑定結果を欺く方法を知っており、騙されて家臣にしてしまった。
ゼツの居場所はファムに探るよう、指示を出しておいた。
恨みを晴らしたいという理由ではなく、鑑定結果を欺く方法を知っている人物を野放しにするのは、非常に問題だからだ。
現状鑑定結果を完全に信用できなくなっているので、新しい家臣を簡単に登用できなくなってしまっている。
人材発掘のペースも正直落ちている。
治める領地が増えたので、新しい人材は欲しいところだ。ゼツを捕まえて、方法を聞き出せば、刺客を見破りやすくなるかもしれない。
まあ、探させてはいたが、凄腕の刺客を見つけるというのは、至難の業だ。
簡単には見つからないと思っていたが、シャドー達は予想以上に優秀だった。
「見つけたか! それではさっそくパラダイルに行って、ゼツを捕まえるぞ!!」
リーツが興奮した様子で言った。
彼は私以上にゼツを恨んでいる様子だった。ゼツのこととなると、冷静さを一瞬で失う。
「待て待て、まだパラダイルにいるとは分かったが、具体的にどこかまではわからん。捜索しているうちに、別の州に逃げられるかもしれない。行ってもすぐには捕まえられん」
「そ、それでも、ゼツは僕が捕まえてみせる!!」
「自分で捕まえる気かよ。お前みたいな名前の知れている奴が、鼻息荒くしてパラダイルに行ったら、速攻でバレて逃げられるぞ」
興奮状態のリーツを、呆れた表情でファムが眺める。
中々珍しい光景ではある。
「く……」
「ゼツは俺が捕まえるから、てめぇーはここで待ってろ」
「ファムが捕まえに行くのか?」
彼は基本はカナレ城にいるが、自ら捕まえに行く気なのだろうか?
「まあな。相手は凄腕の暗殺者だ。部下だけでは手に余るかもしれん。俺が行くしかない。お前の護衛には新しい者を付ける」
「え? 誰だ」
「ちょうど連れてきた。入れ」
部屋に子供が入ってきた。
メイド服を着ている。黒髪ショートカットの少女だ。
「俺の弟子のリツだ。ガキに見えるが、15歳。結構、技術は仕込んだから、護衛くらいは出来るはずだ」
「……よろしくお願いします」
リツと紹介された子は、小声でそう言いながら会釈をした。
目が合う。
吸い込まれそうな真っ黒な目だ。少し怖い。
15歳には正直見えない。鑑定してみる。
リツ 15歳 ♂
・ステータス
統率 5/7
武勇 75/75
知略 65/65
政治 2/2
野心 0
・適性
歩兵 C
騎兵 D
弓兵 B
魔法兵 C
築城 D
兵器 D
水軍 D
空軍 D
計略 D
帝国歴百九十九年二月月六日、サマフォース帝国ミーシアン州センプラー郡センプラーで誕生する。父親と母親はどちらも死去。引っ込み思案な性格。にんじんが好物。趣味はない。女性の好みはない。師匠であるファムには全幅の信頼を寄せている。
本当に15歳だったということ以上に、男であるということに驚いた。
見た目はどう見ても女の子である。
まあ、ファムの弟子なので、そこも色々学んだということか。
「しばらくはこいつをこき使ってくれ。それじゃあ俺は準備が終わり次第、パラダイル州へと向かう」
「りょ、了解」
ファムは部屋にリツを残して、去っていった。
どこで弟子にしたとか、本当に男なのかとか気になることは色々あるのだが、あまり聞かない方が良さそうだな。
「よ、よろしく」
私がそういうと、リツは無表情でペコリと頭を下げた。
ちょっとコミュニケーションは、取りづらいタイプの子かも知れない。
彼と仲良くなれるかは置いておいて、ゼツについて情報が入ってきたのは良かった。
このまま捕まえることができればいいが。
難敵ではあるが、ファムなら何とかしてくれそうだと、私は思った。
「こんにちは〜」
会議室に、聞き覚えのある声が響き渡る。
飛行船開発者のシンだった。
「会議中すまん! 報告があんねん!」
「報告?」
「新型の飛行船の開発に成功したんや!」
嬉しそうにシンはそう言った。