作品タイトル不明
第336話 新型飛行船
「新型の飛行船の開発に成功したんや!」
嬉しそうにシンはそう言った。
一同から歓声が上がる。
「もう成功したのか」
今ある飛行船の開発が終わってから、それほど時間は経っていない。かなり早いペースだといえる。
「凄いですわ。流石シンさんです」
リシアが手を拍手しながら褒める。
「なんや、敵にも飛行船を開発したやつがおるちゅー話を聞いて、やる気が倍増して、うまく作れたってわけや。一隻落とされたって話やしな。絶対負けてられん。是非ともここにいる皆さんにも、早く新型の飛行船を見てもらいたい」
「会議もほとんど終わっていたし、見にいってもいいんじゃないか?」
私がそう言うと、リーツが頷いた。
「おお、それでは見に行きましょうか!」
私たちはシンの工房へと向かった。
「出来たのはどんな飛行船なんだ?」
道中、歩きながらシンに尋ねた。
「今回は小型の飛行船や。ただ、小回り効くタイプで、スピードもかなり早い。こいつと旧来の飛行船を戦わせたら、間違いなく新型が勝つで」
「ほう。それは凄いな」
「なるほど……機動力があるのはいいね」
ロセルが話を聞いて、そう呟いた。
その後、シンに質問をする。
「欠点はないの?」
「飛行距離があんまり長くないちゅうことやな。あと、旧型の飛行船みたいに、多くの魔力水を載せられんから、城を攻撃したり、兵士を攻撃したりするのにも向いてない。戦以外やと、物を輸送したりするのもあんまり向いてへんな。ただ、急ぎで近場に行くとかなったら、かなり使えると思うで」
「空中戦で使うのが主な目的かな」
「そうやな。今回敵も飛行船を作って、こっちの飛行船が落とされてしもたからな。これがあればもう大丈夫やで」
「そうだね……まあでも同じものを開発してくるかも知れないけど……」
「そうなったら、飛行船を操縦する者の腕で戦いは決まりそうやな」
シンはそう予想した。
現状、飛行船同士だと、強い魔法兵が乗っている方が勝てるようだが、操縦の腕が必要となってくるとどうなるか分からないな。
私の鑑定では空軍適性が測ることが出来る。
恐らくこれが高ければ高いほど、飛行船の操縦も上手なのだろう。
今後は空軍適性が高い者も、積極的に探し出していきたいな。
話しているうちにシンの工房に到着した。
私たちは中に入る。
シンの話あった通り、小型の飛行船があった。
大きさは人間3人が乗れるくらいと小さい。
「じゃあ、さっそく乗ってみよか〜。三人乗りで、わいが操縦するから、二人までなら乗れるで」
シンがそう言ってきた。
「えーと……墜落の危険性はないのか?」
「ゼロとは言い切れんが、テストはしたから大丈夫や。まあ、いざという時のために、魔道具がある」
落下速度を減少させる魔道具か。確かにそれがあれば墜落死はしないか。
ただ、それでも怖いものは怖い。万が一はある。
「わたし乗ってみよーっと」
声を上げたのはシャーロットだ。
「だ、大丈夫か?」
「うん。ていうか、今後戦になったら、わたしが乗ることになることもあるでしょ? 今のうちに乗ってみてた方がいいでしょ」
確かに敵機を攻撃するために、魔法兵は乗っていた方がいい。シャーロットが乗ることもあるはずだ。
「アルス様一緒に乗ろうよ〜。楽しいよ」
「わ、私か!?」
「うん」
「ま、待ってください! 危ないです! ここは僕が……!」
リーツが止めてきた。
正直、行きたくない気持ちもあるが、乗ってみたいという気持ちもありはする。
どんな感じか興味がある。
危ないけど、乗ってみてもいいかも知れない。
「そうですわ。危ないです!」
リシアも心配そうな表情で止めてきた。
「いや、大丈夫だ。私が乗ろう」
「アルス様!?」
「アルス!?」
リーツとリシアが、困惑して声を出す。
「わいとしては、アルス様に乗ってもらうのは大歓迎や。乗ってもらえば、一瞬でこの飛行船の有用さを理解してもらえるからな。ぜひ乗ってほしい」
シンはそう言って乗るように勧めてきた。
「ア、アルス……あとで感想聞かせてね」
ロセルはガクブルとしながら言ってきた。
自分では乗りたくはないが、どんな飛行船かは知りたいのだろう。
「分かった」
「ほ、本当は俺も乗りたんだけどなぁ。今日はほんのちょっとだけ体調が悪くて……」
絶対嘘だ。さっきまで元気そうに喋っていただろ。
「じゃあ、行ってくる」
「ア、アルス様……危なくなったら絶対魔道具を使ってくださいね」
「なるべくすぐに戻ってきてください」
リーツとリシアがめちゃくちゃ心配そうにそう言ってきた。
私はシャーロットと一緒に飛行船に乗り込む。
一番前が操縦席。
そして、縦並びで座席があり、私は真ん中シャーロットは最後尾に座った。
「この席いいね〜」
そんなことを言いながら、シャーロットは私のほっぺをフニフニと触ってきた。
変な悪戯を……
悪寒を感じ、私は飛行船の外を見る。
「何イチャイチャしてるんですか?」
リシアが笑みを浮かべながら、そう言ってきた。目が全く笑っていない。
「ご、誤解だ! これはシャーロットが勝手に……」
「そうですか? ちょっと嬉しそうじゃなかったですか?」
「別に嬉しくない」
「えーそれはちょっと酷いな〜」
弁明しているとシャーロットから抗議された。
「い、いやそれは……」
「ぷぷ、アルス様からかうのおもろい」
「おい……」
からかっていたようだ。
いや、冗談ですまない可能性があるから、やめてくれ。
「あー、イチャイチャはもうええか? 飛ぶで」
少しイライラした様子で、シンが言ってきた。
さっきまでのやりとりは、側から見たら確かにイラつくかもしれん。
反省しないと。
「あ、ああ。飛んでくれ」
「よし。飛ぶ前に、席に紐があるやろ。それで体を固定してくれ」
よく見ると、座席にシートベルトみたいなものがある。
結んで体を固定した。
「固く結んでな。下手したら落ちるからな」
「……分かった」
シンの言葉を聞き、紐を触って解けないか再確認する。
「よし、じゃあ、天井を開けろ!」
シンの合図で、工房の天井が開く。
ゆっくりと飛行船が浮上し始めた。
高度は旧型の飛行船と変わらないくらいだ。ただ、前までは大きめだったので、安心感があったが、今回は小さいので結構怖い。
「それでは出発するで!」
シンはそう言って、飛行船を発進させた。
最初はあまり早くないが、徐々に加速していく。
数秒経つとかなりスピードができた。
思ったより早い。何キロかは分からないが、早くて結構怖さを感じる。
「おおー凄い〜」
後ろの席に乗っているシャーロットは、無邪気にはしゃいでいた。
どんな心臓しているんだ。
戦で活躍するには、このくらい肝が太くないと無理なのかも知れない。
「曲がったりもできるで!」
シンは飛行船を操縦する。
右に旋回した。それからしばらくして左に旋回する。
小回りもかなり効くようだ。
曲がったりして飛行すると、さらに怖い。
落ちないだろうなこれ。大丈夫なのか?
「おおー、こんなの飛んできたら、魔法当てにくそうだね」
シャーロットは一切不安を感じていないようだった。
「そうやろ。操縦が上手いとこうして避けられるから、どんだけ強い魔法兵が乗っ取っても、旧型の飛行船じゃ勝てんちゅうわけじゃ」
「そういうことかぁ」
新型の飛行船の凄さが分かったのか、シャーロットは感心したようにいった。
「じゃ、そろそろ戻ってもええか」
「あ、ああ。戻ってくれ。今すぐ」
飛行船に乗って、精神的にだいぶ疲れてしまった。
早く戻ってほしい。
「了解。ほな帰還するで!!」
シンは飛行船の方向を変える。
工房がある方へと向かった。
工房の真上まで到着し、速度を緩めて、静止する。その後、下降した。
前世の飛行機だと、着陸する時は滑走路が必要だったが、飛行船は要らないのは便利ではあるな。
ゆっくりと下降して、工房に無事降り立った。
「ただいま〜」
シャーロットが呑気な声で言いながら降りた。
私も後に続く。
「どやった?」
シンも降りており、感想を聞いてきた。
「かなりすごかったな。これならば、飛行船同士の戦いでも、勝てるだろう」
「うん。早かったし。大型の魔法触媒機は乗せられないけど、わたしなら小型のやつでも威力出せるから、バンバン飛行船落とせると思う」
確かにこのサイズだと、大型の魔法触媒機は乗せらない。中型なら乗組員を一人減らせば、搭載可能だろう。ただ、それをするなら、小型の魔法触媒機を持った魔法兵を二人乗せた方が、強そうだとは思う。
ただ、そこまでの威力で魔法打てなくても、炎属性の魔法で飛行船を攻撃すれば、燃やして落とせそうではある。
「そう思うやろ。ただ、一つだけ問題があんねん」
「問題?」
「ああ、操縦者の問題や。旧来の飛行船は正直、そこまで操縦者の腕はいらんかったが、この飛行船はうまいやつしか操縦できへん」
「確かにこれだけスピードがあると、操縦は難しいかもな……シンはだいぶ練習して乗れるようになったのか?」
乗ってみた限りでは、シンは自由自在に飛行船を操っていたようには見えた。
「ああ、わいは何か乗る方も才能があったみたいで、あっさり乗りこなせた。ほかの奴らがやったら全然で、まともに曲がれへんし、スピードも怖くて出せへんいうし、ダメダメや」
シンは呆れた表情でそういった。
確か彼は空軍適性が高かったな。
空軍適性が高いものは、操縦の才能もあるということだろう。
「わいは、飛行船づくりをせなあかんし、前みたいに戦場に行くのは正直ごめんや。もし、こいつを運用するつもりやったら、乗れる人材を探した方がええと思うで。ま、アルス様にとっては、一番得意なことやったな」
シンがそう言ってきた。
空軍適性が高い人材は、早めに発掘したいな。
正直、ゼツを見つけてから、人材発掘はしたいと思っていたが、その余裕はないかも知れない。
鑑定だけでなく、ちゃんと身辺調査をしたりして、家臣にすれば大丈夫ではあると思う。もちろんそれだと、効率は悪くなるが、この際仕方ない。
効率良く見つけるのは、ゼツを捕まえてからにしよう。
「よく開発してくれた。今後も飛行船開発頼んだぞ」
「もちろんや。開発資金の援助よろしく頼むで」
最後にちゃっかりお金を要求してきた。こういうところはしっかりしているな。
開発資金を増やすと約束し、私たちは城へと帰還した。