作品タイトル不明
第334話 帝都事変
帝都。
エレノアはランバス城の最上階のバルコニーに立ち、城下の景色を眺めていた。
「思ったよりあっさり落とせましたね」
「エレノアの力があってこそだ! 兄として誇りに思うぞ!」
エレノアの呟きに、隣にいた兄のガットが返答した。
「ただし、ランバス城はこうして落とせたが、これから先が大変だぞ。アンセルの貴族達が、大人しく従うわけはないからな」
ガットは真面目な表情を浮かべて、そう言った。
「従わせますよ。力づくでも」
表情を一切変えずに、エレノアは断言した。
「そ、そうだな……エレノアなら出来るかもしれない」
ガットはたじろぎながら返答した。
「それでは一旦、あの男と話をしに行きましょうか」
「あ、ああ分かった」
エレノアはそう言って、バルコニーから城の中に入る。
階段を降りていき、地下へと向かった。
到着したのは地下牢だった。
薄暗く、湿気の溜まっていた。空気も澱んでおり、生活するには最悪の場所だった。
地下牢の一番奥にある、大きい牢の前にエレノアは向かった。
「貴様……」
牢の中にいる男は、エレノアを見るなり睨んだ。
すっかりやつれ、服もボロボロになっていたが、牢に入れられていたのは宰相のシャクマだった。
「気分はどうですか?」
「何のようだ」
エレノアの言葉に、シャクマは怒りに震えたような声で返答した。
「やれやれ随分と嫌われたようですね」
「当たり前だろうが。この私をこんなところに閉じ込めておくなど、許されんぞ!」
「誰が許さないのですか?」
「皇帝陛下とアンセルの貴族達だ! 貴様らのような逆賊は、そのうち討たれるだろう! 覚悟しておけ」
「少なくとも皇帝陛下は今のところ、私たちに文句はないようですよ。あなたが良い教育をしてくれたからでしょうかね? とても優しくて良い皇帝になられたようです」
「貴様……」
シャクマはエレノアを睨む。
「あなたはこれから裁判にかけられます。そして裁かれるでしょう」
「私が何の罪を犯したと言うのだ!」
「調べたら色々出てきましたよ。横領、暗殺、裏切り、外国との裏取引。いろんなことをして、宰相の地位までのし上がったんですね」
「しょ、証拠はあるのか!?」
「証言してくれるものはいっぱいいますよ。証拠の書状もいくつかでてきました。言い逃れは出来ないでしょう」
「く……」
シャクマはエレノアを睨む。
「もし、罪状を全て認め、自ら宰相の地位を返上することを、皇帝陛下の前で宣言すれば、助けてあげますよ。それなりに頭はいいようですし、ローファイルのためにその知恵を使ってください」
「ば、馬鹿なことを言うな! 誰がそんなことをするか! 貴様らに力を貸すなど、死んでもごめんだ!」
「最後にもう一度だけ聞きます。罪を認めなさい」
「……」
シャクマは少しだけ言葉に詰まる。
「二度は言わん。貴様の下につく気はない」
エレノアを睨みながら、シャクマはそう言った。
そんなシャクマをエレノアは、無表情で見つめる。
「そうですか。まあ、いいでしょう。兄上、裁判を始める準備を行いましょう」
「そうだな」
エレノアとガットはシャクマのいる牢に背を向け、歩き始める。
「それではさようなら」
最後にそう言い残して、地下牢を出た。
その翌日に、シャクマの裁判が始まった。
結果は有罪。死罪が言い渡される。
刑は数日後に執行された。
縛られた状態で馬に乗せられたシャクマは、その状態で帝都の町中を周り、晒し者にされた。
宰相として実権を握っていたシャクマは、もちろん帝都では広く知られた存在であった。
そのシャクマが罪人として処刑されると言うことを、帝都中の人々に知らしめる必要があった。
最後は帝都の中央広場に運ばれる。
事前に処刑台が作られおり、台の上には斧を持った処刑人と、罪人を押さえつけるための助手の二人が立っていた。
広場には野次馬が大勢集まっていた。
シャクマほどの権力者が死ぬ様を、大勢の人間が見たがっていた。
シャクマは処刑台の上に運ばれる。
そして、無事刑が執行された。
シャクマの首は高々と掲げられた。帝都の人々はシャクマが罪人として処刑されたことを知ることになった。
シャクマの処刑の後、すぐに後任を誰にするかという話になった。
皇帝陛下の号令のもと、アンセルの貴族達がランバス城に集結した。
皇帝が玉座に座り、貴族たちに直接下知を下した。
「次期宰相はセドリック・ブレインドにする。そして、ローファイル総督に、ガット・プレインドとする」
その言葉を聞き、貴族達はざわつき始めた。
セドリック・ブレインドはローファイル総督を務める大物であるが、皇帝家には従わず、独自で領地運営をしてきた人物である。それがいきなり宰相とは、流石に納得はいかないだろう。
そして、息子のガットが総督になると言うことは、アンセルとローファイルの二州を手中に収めるという意味でもある。
「そして、元帥にエレノア・ブレインドを任命する」
その言葉で少しざわつく。
宰相が軍事権も握っていたので、最近は空位となっていたが、元々は元帥の地位が存在していた。
これからはアンセルの軍事に関しては、エレノアが担うという意味であった。下知はこれで終わった。
皇帝の御前ということで、貴族達から不満は上がらなかったが、内心ではよく思っていないものが、過半数を超えていそうだった。
一旦貴族達は自分達の領地へと戻っていった。
貴族達の様子を見て、エレノアはやはり一悶着ありそうだなと、思っていた。
「本当に良かったのか、総督になるのが俺で」
貴族達が帰った後、エレノア、セドリック、ガットの3人で今後の方針について話し合っていた。
「別に構いませんよ。元帥の地位の方が何だか楽しそうですしね」
「それなら良かったが……」
ガットとしては少しだけ不安そうな表情だった。今の時点で自分が総督になるのに、少し不安を持ってそうであった。
「今後はアンセルの軍はエレノアが動かしてもらう。軍事以外のことについては、わしに任せてもらおう」
「そうですね。面倒なことは父上がやってください」
「面倒なこととはなんだ……」
セドリックはエレノアには甘いので、あまり強く注意は出来ない。
「さて、実は事前にアンセルについては調べておきました」
「流石我が妹。準備がいい!」
ガットが褒めながらエレノアの頭を撫でようとする。バシッとあっさりと手を払われる。
「アンセルでシャクマの次に権力を持っていたのは、マックス・トレントです。アンセル州、二番目の都市、ラマノア郡の郡長をしています。権力も大きく、さらに好戦的で、シャクマも手に焼いていたらしいですね」
「ほう……」
「まずはこのマックス・トレントを潰します」
「つ、潰す!?」
セドリックとガットは、エレノアの言葉を聞き驚愕する。
「潰すより、説得して仲間にする方が良いぞ!」
「無駄ですよ。どうせ生かしておいたら、ずっと反発して我々の足を引っ張ってきます。早めに潰しておいた方が得です」
セドリックの意見をすぐに反対意見をエレノアはいう。
「しかしだなぁ……」
「ここでマックスをあっさりと潰してしまえば、ほかの貴族達も逆らうことをやめると思います」
「我が妹ながら、とても野蛮な考えであるな。まあ、それでこそエレノアだ」
うんうんと、ガットは頷く。
「お前、もしかしてさっさと戦がしたいだけじゃなかろうな?」
「違いますよ。失敬な。確かにマックス率いる、ラマノア郡の兵は、アンセルの中でも強力であると知られていますが、だからと言って戦いたいというわけではありません」
「絶対嘘じゃろ」
セドリックはあっさりとエレノアの魂胆を見抜いた。
「……確かに戦ってみたいですが、マックスを潰せば、アンセルの領地運営は安定するというというのも、また事実でしょう。邪魔者は消さなければいつまでも邪魔をしてきますからね」
「むう……」
セドリックは悩んでいるような表情を浮かべる。
エレノアの言うことも一理あると、思っている様子だった。
「分かった。今回はそうしよう」
「ありがとうございます」
セドリックの決定を聞き、エレノアは嬉しそうに礼を言った。
「だが、マックスを潰した後は、なるべく戦は避ける方針に切り替えるぞ。戦いは避け、領地を強くするのだ」
「承知しました」
エレノアは頷いて、早速戦の準備をするため、兵舎へと向かっていった。
それから、エレノアはラマノア郡に密偵を派遣し、探りを入れた。
流石に何の理由もなく攻め込むことはできない。
マックスは今回の決定には納得しておらず、自分が宰相になるため、工作をしてくると、エレノアは予想していた。
密偵に探らせると、実際にその動きを感知する。
その後、裁判をするため、帝都に出頭するようマックスに書状を出すが、それを拒否。
マックスの身柄を確保するという名目で、ラマノア郡に向かって、エレノアは出陣した。
自らが先陣に立ち、兵を指揮し、わずか数週間でラマノアの軍隊を打ち破り、マックスを捕らえた。
マックスは裁判で有罪となり投獄される。
ラマノア郡は、ブレインド家に固く忠誠を誓っている、ローファイル州の貴族が治めることになった。
あまりにも圧倒的な力を目にした、ほかのアンセル貴族達は、一旦ブレインド家に従う姿勢を見せる。
次々と、宰相と元帥就任を祝う書状が届いてきた。
エレノアの武力の下、アンセルは一応であるが統一されることになった。