作品タイトル不明
第332話 ミーシアン防衛戦
帝都。
宰相シャクマは家臣の報告を城で待っていた。
「シャクマ様! ゼート城を陥落しました!」
「よくやった。このままの調子で進軍し、アルカンテスを陥落させよ!」
兵士の報告を聞き、シャクマは笑みを浮かべてそう返答した。
ゼート城は、ミーシアン北部にある城である。
ミーシアン征伐軍は、ミーシアンの北から侵攻を始め、短い期間で複数の城を陥落させていた。
(飛行船……どれほどのものかと思ったが、大したことはないようだな……恐らくだが、飛行船に乗っている魔法兵の力量次第で脅威度が変わってくるのだろう)
ミーシアン北部の防衛にも飛行船はいるのだが、それほど大きな戦果は挙げていなかった。
(このままアルカンテスを陥とせば、敵軍の勢いは一気に落ちて、勝てるだろう。征伐に成功すれば、皇帝家の力も戻ってくるはずだ……ククク……そうなれば実質的に私がサマフォース帝国の支配者となるわけだ)
シャクマは黒い笑みを浮かべながら、この先どうなるか考えていた。
「シャクマ様!!」
伝令兵が慌てた様子で駆け込んできた。
「何があった」
「ローファイル州の兵士たちが、アンセルに向かって進軍を開始しました!!」
「何!?」
予想外の報告に、シャクマは驚愕する。
「どういうことだ? 侵攻を仕掛けてきたのか?」
「その可能性が高いとのことです!」
「……」
シャクマは苦しげな表情を浮かべながら口を閉じる。
(ローファイルは怪しいとは思っていたが、このタイミングで来るか……こちらの旗色が悪くなったら攻め込んでくることもあり得ると思っていたが……今ミーシアンを攻めている兵を撤退させ防衛に回すか……? しかし、ミーシアンとの戦は今は優勢……このまま撤退すれば、一気に戦況は変わり、奪った城を取り返されるかも知れぬ)
シャクマはどう動くか悩む。
「ローファイルの兵の数は? 誰が兵を率いている?」
「全部で3万ほどだそうです。戦女神エレノアが総指揮を取っているようです」
「3万か……しかし、エレノアが率いているのか」
エレノアの戦績はシャクマも知っていた。
(今、アンセルに残してある兵数を考ると、3万なら撃退は可能だが……しかし、エレノアが率いているのか……場合によっては負ける可能性もあるが……ただ、ここランパス城まで陥とされることは流石になかろう……サマフォース帝国内でも最高の守りを誇るこの城だ。いかにエレノアといえ、陥落させる方法を思いつくのは至難。ランパスさえ守り通せば、ほかの城が落とされようとも問題はない。一旦、アルカンテスを陥として、ローファイル州の兵はその後、処理しよう)
シャクマはそう戦略を決めた。
「一旦、ほかの城を守っている兵達に、ランパス城へと撤退するよう命じよ。まずはこの城の防衛を固める」
「しょ、承知いたしました」
シャクマの命令を聞き、伝令兵は即座に動き始めた。
「ふん、ローファイルめ。余計な真似をしおって。後悔させてやる」
シャクマは険しい表情を浮かべながら、そう呟いた。
○
「アルス殿がセンプラー奪還に成功した模様です!!」
「おお!! 流石アルスだ!!」
クランはアルカンテス城で吉報を聞き、大喜びをしていた。
「こんなに早く取り戻すとは……流石アルス殿ですね」
隣で聞いていた、クランの右腕ロビンソンは感心したように呟いた。
「センプラーは戻りましたが、北のゼート城が征伐軍に奪われてしまいましたな。そちらはどう対処するべきか」
歴戦の軍師、リーマスは浮かれずにそう言った。
「そうですね……敵軍の数は我が軍を上回っております。飛行船の存在は優位には働いているようですが、飛行船に乗っているのがシャーロット殿のような、規格外の魔法兵ではない限り、思ったよりの戦果は上げられないようです……そう簡単には取り返せないかも知れません」
ロビンソンは不安げな表情でそう言った。
「取り返せねば、アルカンテスに大軍が攻めてくるかも知れませんな。もし、この城が陥されれば、戦は大きく不利になりましょう」
「うむ……」
クランは腕組みをして考える。
「センプラーの奪還には成功した。サイツの防衛はアルスと、サイツ国内のもの達に任せれば、我々は北部から来る征伐軍の対処に、集中することができる」
クランが立ち上がる。
「私が直接前線で指揮を取って、奪われた城を奪還する!!」
勇ましい顔でクランはそう宣言した。
「クラン様……しかし、それは危険であるかと……」
ロビンソンがクランを諌める。
「この国に私以上に兵を統率できるものはおらぬ。敵軍は烏合の衆で、兵達の士気はそれほど高くはないはずだ」
「それはそうですが……」
「危険は承知である。しかし、ミーシアンの存亡がかかっているこの戦で、逃げるような男を国王とは呼べぬだろう」
「クラン様……」
ロビンソンはそれ以上の反論はしなかった。
「流石クラン様じゃ勇ましいのう。わしも久しぶりに出るとするかの」
リーマスも立ち上がりそう言った。
「リ、リーマス殿も!?」
「前線におった方が、戦の戦術は練りやすいからのう。腕がなるわい」
「……わ、分かりました。心強いです」
ロビンソンは諦めるようにそう言った。
「それではすぐに準備をして出陣するぞ!!」
「は、はい!」
クランはアルカンテスから精鋭を率い、北部奪還へと向かった。
クラン達はパラド城へと入城した。
ミーシアン北部にある城である。
奪われたゼート城の近くにある。
アルカンテスにも近く、この城を奪われると、アルカンテスが危険に晒される。
大事な城なだけあって、規模も大きく、堅牢な作りをしている。
クランは入城後、すぐに軍議を開いた。
「現在の状況を報告してくれ」
「はい。現在、敵軍はゼート城はじめ四つの城を占拠しております。ゼート城防衛戦では両軍それなりの兵を失いました。敵軍の方が損害は大きかったようですが、それでもまだまだ敵軍の方が、我が軍より兵数は多いです」
「敵軍の士気はどうだ」
「勝利したことでだいぶ士気が上がっているようです」
「ふむ……そうか」
クランは報告を聞いた後、腕を組み考える。
(士気は上がっているのか……どうせ烏合の衆だから、士気は低めだと思っていたが……まあ、今のところ城を陥とされ続けているし、敵が勢いづくのも無理はない。数で負けているうえ、士気も高い。有利とは言えない状況だな)
クランは険しい表情を浮かべる。
「わが軍の士気はどうだ」
「自軍の士気も落ちておりましたが、クラン様が来ていただいたおかげで、皆の士気は高まっております」
「そうか」
自分が出陣するという選択は間違っていなかったと、クランは思う。
場合によっては、パラド城もあっさりと陥とされていた可能性もある。
いかに、堅牢な造りをした城とはいえ、守る兵の士気が低ければ、陥落させられる可能性は高い。
「リーマス。この状況、どう打開すべきだと思う?」
一緒に来ていた軍師のリーマスに、クランは意見を求めた。
「流石にそのまま出撃して、城が取り返せるほど、甘くはないでしょうな。ただ、敵軍は近いうちにこの城に攻め込んできますでしょう。所詮寄せ集めの軍隊。攻めるのが遅れれば、士気もどんどんと下がっていくでしょうから、勢いのままに攻め込みたいと思っておるはず。敵が攻めてきた時、撃退し、その後、城を取り返しに行くのが、良いでしょうな」
「今は一旦静観せよと?」
「わしはそう思います」
リーマスは頷く。
「ロビンソンはどう思う?」
「私もリーマス殿の意見には賛成ですが、何もせず待つより飛行船は使っていた方がいいと思います」
ロビンソンがそう発言した。
「飛行船か」
「今のところ、アルス殿が使っている飛行船ほど、戦果は上げられていないようですが、全く何もできないというわけではないようです。向こうが攻撃できない場所から、攻撃をできるというアドバンテージは間違いなくあります。飛行船で嫌がらせを続けていけば、敵軍は焦って出陣してくるかもしれません。そこを撃退するのがよろしいかと」
「敵軍の士気も下げられるだろうし、いい考えだ」
クランはロビンソンの策に賛成した。
「それでは飛行船を飛ばす準備を始めよ。兵達にはいつ戦もしても良いように、準備をするようにと厳命するのだ」
クランはそう指示を飛ばした。