作品タイトル不明
第331話 祝勝会
シューツ州、プレキド。
総督のブランと、軍師のヴァルトは、軍が無事撤退できたという報告を聞いていた。
「ご苦労だった。追撃を受けなくて何よりだ」
ブランは労うようにそう言った。
撤退をする際、追撃を受けてしまうと、大勢の犠牲が出る可能性がある。
今回サイツ軍は、下手に追撃はせずに、城の守りを固めることを選択したようだ。
「しかし、このような結果になるとはな……どうするヴァルト。再びサイツに攻め込むか?」
「……いえ、やめた方が良いでしょう。飛行船を失った以上、勝利は難しいかと」
ヴァルトは気落ちしたような様子でそう言った。
「カナレからの援軍が来たことで、計算が狂いました。強い魔法兵が乗っているとは聞いていましたが、あそこまでなすすべなく、我々の飛行船が堕とされるとは……」
「そうだな……カナレの郡長はかなりの功績を残し、出世を果たしたというではないか。侮れんな」
「はい。アルス・ローベント。絶対にその名は忘れませんよ」
ヴァルトは恨みを込めるように、そう呟いた。
「ハイネを使いましょう」
「やつを? 何のために?」
「もちろん飛行船の開発を進めてもらうためです。今は別の研究をやっているとのことですが、飛行船の研究をさせます」
「飛行船の研究……」
「今の飛行船は機動力があまりなく、さらに大きい。これでは乗っている魔法兵の性能で勝負が決まります。強力な魔法兵を持っているカナレが、圧倒的に有利です。機動力がありさらに小型の飛行船を作れれば、飛行船を操縦する技量なども、大事になってきます。勝ち目も出てくるでしょう」
「なるほどな……確かに今の飛行船は射程圏外から魔法を撃たれたら、避けようがないみたいだからな。小型の飛行船なら操縦士の腕次第で、避けられるようにはなる……」
ヴァルトの説明を聞き、ブランは納得する。
「しかし、ハイネが従うだろうか」
「嫌でも従ってもらいますよ」
ヴァルトはニヤリを笑みを浮かべながらそう言った。
「何をするつもりかは知らんが、あんまり酷いことはするなよ」
「分かっていますよ」
ヴァルトはそう言って、ハイネのいる研究所へと向かった。
○
客室で休み夜になった。
早速祝勝会が開かれていた。
皆で酒を飲んでいる。相変わらず、ミレーユが飲みまくっていた。まあ、奴が飲んでいるのは、いつものことのような気がする。
レングも機嫌良く酒を飲んでいた。
私は食事を取った後、満腹にあった。バルコニーに出て、星を眺めていた。
「アルス殿。こんなところにおられましたか」
「アシュド殿」
声をかけてきたのはアシュドだった。この前、クランにアシュドとの関係を疑われたので、彼とはどう接すればいいのか少し悩みどころである。
この場にはレングも来ているので、下手に親しくしていると勘繰られるかもしれない。
「レング殿ならあのように、だいぶ酔っているようですから、気にしなくてもいいと思いますよ」
私が戸惑っていると、それを察したようにアシュドが言った。
頭の回る男である。
まあ、レングはあの様子だと何も覚えていないだろうが、レングの部下などはいるだろう。部下たちにも見られたくはないので、結局あまり仲よくしすぎない方が良さそうではある。
「お酒などは飲まなくても良いのですか?」
「十分飲みましたので」
アシュドはそう言ったが、酔っているようには見えない。
「しかし、今回援軍に来てくださるとは……センプラー奪還をすぐに行い、それから援軍に来るその速度、感服いたしますね」
「いえ……飛行船の力が大きいです」
センプラー奪還は、飛行船がなければあれほど早くは成し遂げられなかった。
「飛行船も全てアルス殿のお力ですよ。これでさらに名を挙げられましたな」
「……」
確かにやったことだけでいえば、かなりの戦果を上げたことにはなる。
センプラーを奪還し、シューツ軍の撃退にも貢献した。
「アルス殿はどこまで出世するのでしょうかね?」
「それはどこまででしょうかね?」
「すでにアルス殿はミーシアンのナンバーツーです。となると、これ以上となると、国王になってしまいますね」
「そんなことはありませんよ」
「ははは、そうでしょうね」
アシュドは愉快そうに笑う。
「ただ、アルス殿の存在は今後どんどん大きくなっていくでしょう。そうなった時、クラン殿がどうするか。気になるところですな」
「……私はクラン様に忠誠を誓っています。特に問題など起こるはずはありません」
「そうだといいですね」
不吉なことを言う男だな。
確かに今の私はかなりの勢力を保有しているが、それでもミーシアンを統率しているクランに比べれば、全然弱い。
クランが私を脅威に思って潰しに来るメリットなどない。
こちらが忠誠を誓い続けさえすれば、争いが起こったりはしないだろう。
「ま、もし、困ったら私を頼ってください。何とかしてあげますよ。今回の件で借りを作ってしまいましたからね」
そう言ってアシュドは去っていった。
何とかするってどう言う意味なんだ。
助けてくれるってことか?
どうだろうか。信用してはいけない。
ただ、勘ではあるが、嘘は言っていない気がした。
よほどやばい状況になったら、頼ると言うのも手だが、そう言う状況にならないよう努力しよう。
祝勝会は終わり、私は眠りについた。
〇
それから約1ヶ月後。
陥落していた砦の修復も、ある程度終了し、防衛体制をサイツ軍は整え終わった。
流石にこれ以上、駐留するのも嫌なので、帰還することになった。
「此度は助かりました。もし、ミーシアンに危機が訪れれば、その時はすぐに馳せ参じます」
アシュドがお礼を言った。
レングとアシュドは硬く握手を交わす。
「うむ。今回は守れてよかった! お互い協力していこう!」
レングは元気よくそう言った。
「アルス殿もありがとうございました」
今度は私とアシュドで握手をした。
「レング殿の言う通り、助け合っていきましょう」
「そうですな」
にっこりとアシュドは笑った。
手を離した後、私たちはバルット城をあとにした。
カナレ城に帰還する。
途中までであるが、レングとレングが連れていた兵士たちと一緒に帰還することになった。
「そういえば、君はセンプラーを取り戻したのか?」
「もちろんです」
レングに尋ねられたので、そう返答した。
「センプラーは私の領地だった。ありがとう。心より感謝する」
真剣な表情でレングはお礼を言ってきた。
そういえばレングに与えられたんだったな。
「本当なら自分で取り戻したかったところであるが、どのような形であれ、キャンシープから取り返せてよかった」
「そうですね。キャンシープもそれほど略奪は行っていませんでした。被害が少なく幸いでした」
「おお! それは良いことだ!」
レングが喜んでいた。
「センプラーの活躍といい、此度の援軍といい、君の活躍は止まることを知らんな! ミーシアンには欠かせない人材だ!」
屈託のない笑みでレングは私を称賛した。こう真っ直ぐ褒められると、結構嬉しい。
「いえいえ、サイツ防衛はレング様がいなくては、成し遂げられなかったと思います。大きなことを成し遂げられました」
「お、そ、そう思うか! そうだよなぁ。私も結構頑張ったんだぞ! あの時なんて、私の声がなければ、兵の士気が落ちて、そのまま負けてたかも……」
私が褒めたらやたら嬉しそうに、自分の活躍をぺらぺらと語り始めた。こう言うところは変わることはないんだろうなと思った。
それからしばらく進み続け、レングとは別れることになった。
「それではアルス・ローベントまた会おう!」
「道中お気をつけて」
レングは手をブンブンと降り、去って行った。
それから数日経過。
私はカナレに帰還した。
「おかえりなさい。アルス」
リシアが優しく微笑みながら、出迎えてくれた。
「ただいま帰った」
そう言った後、私は馬から降りて、リシアと抱き合った。