作品タイトル不明
第328話 バルット城防衛戦
「坊や、しばらく見ないうちにちょっと背伸びた?」
会った瞬間ミレーユはそんなことを言ってきた。
そんなに久しぶりというわけではない。まあ、今は成長期なのでちょっと伸びたかもしれない。
ただ、ミレーユが背が高いので、だいぶ見下ろされているのは、前とあんまり変わらない。
「もっと他に言うことはないのか?」
「いや〜、危なかった〜。良いタイミングで来るもんだね〜。助かったよ!」
一応お礼は言ってきた。
「アルス・ローベント!!」
大声で名前を呼ばれて、少しドキッとする。
私の名前を呼んだのは、クランの息子である、レング・サレマキアだ。
前会った時より、ちょっとだけ精悍な顔つきになっている。
鑑定してみる。
前は全体的に低い数値だったが、統率が69、武勇が70、政治が78と成長している。
知略は相変わらず低く49だ。これでも前より高くなったはずである。
トータルだと中々の数値である。
十分、兵を率いて戦える能力は持っているだろう。
前がバカ王子だったことをかんがえると、驚くべき進歩である。
「君のおかげで助かった!! 君に助けられるのは、正直ちょっぴり悔しさもあるんだが、それでも君のおかげで勝てたことは変わりない。感謝する!!」
私の肩を取って、レングはそう言ってきた。
「レング様のお力になれたようで、誠に嬉しい限りです」
私は跪いてそう言った。
彼はこのまま行けば、クランの後を継ぎ、次期国王になる男ではある。
高い評価を受けておけば、何かと得も多いだろう。
「敵を撃退した直後だが、戦はこれからです。早速軍議を始めましょう」
リーツがそう提案した。
「そうであるな!! クーハ城を守り抜いたが、敵の本軍はバルット城を狙っている! 奴らを追い払わない限り、戦の勝利はない! 早速軍議を開こう」
リーツの意見を聞き、レングは軍議を開いた。
○
「クーハ城に攻め込んだ部隊が壊滅しただと!?」
シューツ。
報告を聞いたヴァルトは、焦ってそう言った。
「なぜそうなった!」
「飛行船が落とされてしまったようで……」
「なに? 敵の飛行船はこちらが落としたのではないのか!?」
「どうやら、カナレの兵たちがセンプラーをすぐに取り戻し、飛行船を持って援軍に来た様子です」
「カナレだと……」
ヴァルトは苛立ったような表情を浮かべた。
「ちっ……キャンシープの連中め。使えん」
「ど、どうする?」
総督のブランが不安そうな表情でヴァルトに尋ねる。
「カナレの飛行船は強力だという話ではないか。現に飛行船は落とされてしまったし……撤退も考えるべきでは?」
「確かに厄介な連中です。ただ、現状でもまだ兵数はこちらが上。今撤退はしない方がいいでしょう」
「しかし、クーハ城が取れなかった現状、不利な戦になってしまうのでは? 相手には飛行船もある。これに対応する手段はない」
「……そうですね。しかしこのまま撤退するのも」
ヴァルトは悩む。
これだけ大勢の兵をあげて、戦果もなく撤退するという判断は、下したくはなかった。
どこかに勝ち筋がないか、ヴァルトは脳をフル回転させて考える。
「クーハ城からの援軍が来る前に、バルット城を落としてしまいさえすれば……」
「それはそうだが……バルット城は堅牢な城だ。そう簡単には落とせないだろう」
「力押しだとそうなりますが……方法はあります」
「方法?」
ヴァルトの言葉を聞き、ブランは戸惑う。
「私は密偵を使い、敵の将複数と内通を行なっております。前はまだ寝返ってはくれませんでしたが……上手く使えばバルット城の防備を内側から崩せるかもしれません」
「やれるのか?」
「やってみます」
ヴァルトは密偵を呼び、指示を送った。
○
シューツ軍、本陣。
「クーハ城は落とせずか……まずいことになったな」
軍の指揮を任されている、グイス・ファランツェは苦々しい表情で呟いた。
彼は総督ブランの従兄弟にあたる人物だ。兵を指揮する能力は認められており、戦でも様々な戦功を立てている。
(クーハ城が取れないとなると、面倒なことになったな。ミーシアンからの追加の援軍も非常に厄介だ。こちらの飛行船をあっさり落とした、強力な魔法兵の乗っている飛行船が敵にはある。撤退も視野に入れるべきか……しかし、まだこちらには大勢の兵がいるし、士気も十分。戦えるとは思うのだが……)
グイスは今後どうするかを悩んでいた。
「グイス様! ヴァルト様からの書状が届きました!」
「ヴァルト殿からか……ありがとう」
グイスは書状を受け取り、早速中身を読んだ。
「こ、これは誠か!?」
書状に書かれていることを読み、グイスは目を見開いた。
サイツ州の将の調略に成功した、という内容が、書状には書かれていた。
(調略した将は二名。バルット城の城門を開ける手筈になっている。敵は今、籠城しているし、これが本当ならこの戦勝てるぞ!)
城門さえ開いて、城の中に入ってしまえば、兵数の多いシューツ軍はかなり有利になる。
時間もかからず陥落させることができるので、クーハ城からの援軍も脅威ではなくなる。
調略した将から、連絡があるそうなので、ひとまずそれを待てと、書状に書かれていた。
グイスは、ヴァルトの指示を守り、一旦、連絡を待つことに決めた。
翌日の夜。
サイツ兵が、シューツ軍の陣を訪れていた。
目立たない服装をしている。こっそり来たのだろう。
ボディチェックをして、武器などを持っていないことを確認して、中に招き入れ、話を聞いた。
「明日の深夜、城門を開くとのことです」
「夜か。なるほどな」
夜の方が奇襲は成功しやすい。
敵軍も眠っている時間帯だろうし、そこで軍隊が侵入してきたら大混乱に陥ることは間違いない。
「何かほかにして欲しいことがありましたら、何なりとお申し付けください」
「そうだな……」
グイスは考える。
事前に混乱を起こすよう流言を流す、武器を壊す、などなど色々工作は出来るのだが、それらをしてしまうと、怪しまれて城門を開けられなくなると言うリスクがあった。
そうなると本末転倒である。
「いや、大丈夫だ。夜に城門を開けてくれさえすればいい」
「承知しました」
「報告助かった。城門が開き次第突入すると、お前の主に伝えてくれ」
「承知しました」
サイツ兵は話を聞くと、すぐさまシューツの陣を離れる。
「……信用していいのでしょうか?」
そう尋ねたのは、クーハ城攻めを行っていたロブだった。
彼の率いていた部隊は壊滅してしまったが、何とかロブは逃げることが出来ていた。
逃げる際、負傷しており、腕に包帯を巻いている。
「そうだな……調略に成功したとは、ヴァルト殿の書状に書いてあったことだ。書状も本物だったし、ヴァルト殿が成功したというのなら、成功したと思っていいだろう」
グイスはヴァルトをかなり信用していた。
「それはそうですが……ここまで上手くいくと、少し疑ってしまいますね」
「気持ちは分かる。ただ、この作戦が失敗すれば、この戦は負ける可能性はだいぶ高まってしまう。やるしかないだろう」
「……そうですね」
グイスの言葉に、ロブは頷いた。
それから数時間経過。
深夜になった。
グイスは事前に兵士たちに、夜動けるよう休養を取っておくよう命令をしていたので、兵たちの準備は万端だった。
斥候の兵士を城門付近に置き、開いたら合図をするように命令をする。
しばらくして、合図があった。
バルット城の門が開いたようだ。
「よし、突入する!」
グイスは合図を出し、兵士たちは次々に城に突入していく。
「本当に開いたな! はは、敵軍は大混乱に陥るだろう! どんどん敵兵を討ち取って、バルット城を陥とすのだ!!」
城門が開き、グイスは高揚してそう叫んだ。
兵たちがどんどん城に侵入していくが、しばらくすると悲鳴が上がり、兵たちが城から撤退してくる。
「な、なんだ! なぜ撤退しておる!」
すると、バルット城の城門から、弓と魔法の攻撃が次々に放たれ、撤退する兵士たちを次々と討ち取っていった。
「ば、馬鹿な! 何が起こっている!?」
グイスはその様子を見て、しばらく呆気にとられる。
「わ、罠です!! 敵の罠でした!! 奴ら待ち伏せをしていました!」
「何ぃ!?」
兵の報告を聞き、グイスは目を見開いて叫ぶ。
「撤退を! このままだと兵を大勢失いかねません」
ロブがそう提案した。
「ぐ、仕方ない!」
ロブの提案を聞き入れ、グイスは撤退の指示を出した。