作品タイトル不明
第322話 サイツ兵の士気
サイツとミーシアンの連合軍は、順調に進軍を続け、バルット郡のバルット城に到着した。
敵軍はなお進軍中。
アシュドは城に着くとすぐに軍議を始める。
大勢の兵を州境にある、ローグ砦に布陣させた。
砦の防御も堅めて、堅守する構えを取った。
本隊はバルット城を守る構えである。砦が破られれば、バルット城で敵軍を迎撃する構えだ。
ミーシアンからの援軍は、バルット城付近にある、支城であるクーハ城に布陣していた。
この支城を取られると、さらに不利になるので守る必要がある。
ただ、敵軍がクーハ城を陥としに来ず、バルット城に全軍を投入すれば、シューツ軍を奇襲する手筈になっている。
飛行船もクーハ城に配備する。
もし敵が飛行船を飛ばして来たら、すぐさま飛ばして迎撃に向かう。
敵軍が飛行船を飛ばして来なかった場合、一旦クーハ城で待機。
砦が破られてしまった後に飛ばして、敵軍へ攻撃を行う。
戦の方針を決めた後、すぐに兵たちを布陣させた。
布陣を終えた後、アシュドはボロッツとラダスを呼び、話をしていた。
「面倒な時に呼び出されたものだな」
うんざりしたような表情でアシュドはそう言った。
「そう言わないでください。サイツ州にはアシュド様のお力が必要です」
ボロッツが宥めるようにそう言った。
「どうだろうかな。こうも兵の士気が悪いとな」
アシュドは難しい顔を浮かべながら、腕を組んだ。
「まあ、やるだけはやった方がいいだろう。今回は降伏もできん。もし、ペンドラがシューツの手中に落ちれば、ミーシアンは取り返すために戦を仕掛けるだろう。そうなればサイツで大きな戦が起こる」
「もしそうなると、アルス・ローベントと再び敵対することにもなりそうですね」
「それは避けたいところだな」
アシュドは苦笑いを浮かべてそう言った。
「ただ、全力でやっても今回ばかりは勝てるかどうか……まあ、飛行船の勝敗次第ではあるが、もし負ければ一気に不利になりそうだ」
「そうですね……飛行船が落ちれば、味方の士気はさらに下がるでしょう。勝てればいいですが、過去に飛行船同士での戦いは行われたことがないので、どう作戦を立てれば良いのやら」
ラダスが心配そうな表情でそう言った。
「飛行船の性能がどちらが上かも分かっておらんし、情報を集めるにしても、敵が飛ばしてくれないことには、それも難しい。あとは飛行船そのものを何とか密偵を放って壊したいが……」
アシュドは悩む。密偵を使い飛行船を壊そうとはすでにしていた。
ただ、成功の報告は来ない可能性が高いとは思っていた。
飛行船が非常に大事だと思っているのは、敵も同じなので、厳重に守ってくるだろう。工作で壊せる隙は与えてくれないだろう。
「まあ、不利だろうと何とかするしかないな。勝てなくとも、時間さえ稼げば、援軍が来るかもしれん」
「ミーシアンがこれ以上の援軍を出すでしょうか」
「分からん。ミーシアンは、アンセルから征伐軍の侵攻を受け、さらにキャンシープにセンプラーを奪われている。相当追い込まれている状況だ。ただ、征伐軍がこのまま仲良く手を繋いで、ミーシアンを攻め込み続けるとは思えんし、一波乱あるだろう」
「そうですね……それに期待しましょうか」
「今回は私も前線に出る必要もありそうだな。全く、面倒なことになったものだ」
うんざりした表情でアシュドはそう言った。
○
シューツ州。
軍師ヴァルトは、兵達から報告を聞いていた。
「中々良い。ですね。狙い通り敵軍の士気を下げることができました」
ニヤリと笑みを浮かべて、ヴァルトはそう言った。
「密偵を使い、偽の噂を流して、サイツ兵の士気を下げるという作戦。うまくいったようだな」
シューツ総督のブランがそう言った。
「元々サイツ兵達はミーシアン相手の敗戦。そして、サイツがミーシアンの傀儡となってしまったことで、士気が落ちていましたから。ちょっとゆさぶれば士気が下がるのは目に見えていました。ただ、本当は敵将を寝返らせたかったのですが、それはうまくいかなかったようですね」
「まあ、まだ戦いが始まってもいないしな。どちらが優勢になるかも分からないのに、寝返るのは難しいだろう」
「そうですね。こちらが優勢になって来れば、寝返る敵将も増えて来るでしょうね。今のサイツ国王のために戦いたくないと思っているサイツの貴族は、決して少なくないですからね」
「ミーシアンも強引に傀儡国家を作ったのが、裏目になったな」
ヴァルトの話を聞き、ブランはニヤリと笑みを浮かべる。
「そうですね。有利な条件で講和するくらいが、一番良かったかもしれませんね。そうすれば、このタイミングで征伐軍が組まれることもなかったでしょう。ミーシアンは結局やりすぎたということですね」
ヴァルトは得意げな表情でいう。
「勝てるつもりのようだが、結局飛行船同士の戦いで負けてしまえば、結構不利ではないか?」
「飛行船は強いですが、一隻ではそこまで絶対的な存在とはなり得ない。まあ、最強クラスの魔法兵が乗っていれば話は別ですが、ミーシアンにいる最強の魔法兵たちは、来ていないみたいですしね」
「そうか……それなら仮に空戦で敗北しても大丈夫というわけだな」
「はい。もちろん、敵の飛行船を落としたほうが、楽に勝てるでしょうけどね」
ヴァルトは余裕の表情でそう言った。
今回の戦に関して、負けるとは思っていないような表情だった。
「今は大チャンスです。このまま攻め込んで、ペンドラを陥としサイツを手中に収めましょう。必ずやこのシューツをサマフォース大陸の中で最強の州にするのです」
強い野心を秘めた瞳で、ヴァルトはそう言った。