作品タイトル不明
第321話 レングの成長
レング率いるミーシアンからの援軍部隊は、シューツ州から侵攻されているバルット郡に向かって、進軍を続ける。
順調に進軍は続いていた。
夜。部隊は進軍を止め、野営をしていた。
「あ〜、飲みすぎた〜」
ミレーユはいつも通り酒を飲みまくっていた。
飲みすぎて、頭痛がし始めたので、夜風にあたりに外に出ていた。
「はっ……! はっ……! はっ……!」
「ん?」
ブンブンという音と、掛け声が聞こえる。
何かと思って確認しに行く。
そこには剣を素振りしている、レングの姿があった。
「お〜? 真面目だねぇ」
「む、ミレーユか」
ミレーユの姿を見て、レングは素振りを中断した。
「結構良い太刀筋じゃないかい。意外と戦えるんだね」
「意外ととはなんだ!」
ミレーユの言葉に、少し怒り気味でレングは返答する。
「クランの息子の悪評は、結構聞いたことがあったからね〜意外だったね〜」
「あ、悪評だと!? ぐぬぬ、否定は出来ん……」
レングは悔しそうな表情を浮かべる。
「確かに昔の私は何もできぬ男であった。だが、アルス・ローベントが私よりかなり歳下なのに、あれだけの戦果挙げているという話を聞いて、自分を見直すようになったのだ」
「坊やの影響なのかい?」
「うむ。アルス・ローベントとは会ったことがあるが、あまり印象に残らない子供だった。優秀な家臣を見抜いたり、登用するのに非常に長けており、それで戦功を挙げてきたと言うではないか。私は今まであまり他人の意見などを聞いてこなかったが、それはサレマキア家を継ぐものとしては、非常に良くないことだと思い、もっと他人の話もきちんと聞くようにしたのだ」
「ほう。それで真面目になったと」
「まあ……話を聞くうちに自分の駄目さ加減が、徐々にわかるようになってきて……頑張るようになったと言うわけだ」
「アンタはそれに自分で気づけただけ、立派だよ」
ミレーユは微笑んで、レングを褒める。
「ははは、立派であろう!」
調子に乗った姿を見て、まだ馬鹿ではあるなと、ミレーユは思った。
「今は私が領主代行を務めていたセンプラーが敵に落とされてしまった。それをアルス・ローベントが取り返そうとしている。彼なら必ずや取り返してくれるだろう」
「そういや、アンタセンプラー領主だったね。大丈夫だったのかい?」
「センプラーの領地運営はしばらく補佐の者に任せて、軍議に出るためアルカンテスにいたのだ。そのせいでセンプラーを守るため戦えなかったのだが……本当はセンプラー奪還には私が行きたかったのだが、父上はアルス・ローベントに命じられた。まあ、力不足なのは分かっている。私には出来ることを精一杯やるだけだ」
少し悔しそうにレングは木剣を握る。
「結構いい目をするようになったじゃないか。アンタ意外と大物になるかもな」
「あ、ありがとう……いや、意外とはなんだ!!」
最初は喜んだが、余計な一言に気づき、レングは怒った。
「じゃ、アタシは戻るよ」
「うむ!」
ミレーユが戻り、レングは鍛錬を再開した。
(坊やのおかげでレングは成長したんだね。影響力のある男になったもんだねぇ)
ミレーユは少し嬉しそうに歩く。
陣幕に戻ると、今度は弟のトーマスが指立て伏せをして、鍛錬をしていた。
「アンタも真面目だね」
「……」
ミレーユのことは完全に無視して、トーマスは鍛錬を続ける。
「よいしょ」
「おい!」
すっと、ミレーユはトーマスの背中に座った。
「何勝手に座ってやがる」
「こっちの方が鍛錬になるから良いだろう。女ひとり乗せて、指立てできないってのかい? 情けないねぇ」
「ち……」
トーマスは黙って指立て伏せを継続した。
「アンタ、今回の戦についてどう思う?」
「かなり不利な戦だ。勝率は低い」
ミレーユの問いに、トーマスは即答した。
「理由は?」
「サイツ兵の士気が思ったより低い。敗戦続き、ミーシアンの傀儡のような国になり、国王になったのは無能な男。兵達は今のサイツを命懸けで守りたいとは思っていないようだ」
「まあ、そうみたいだねぇ」
「俺たちの兵もそんなに士気は高くねぇ。まあ、サイツのために全力で戦いたいと思っている奴らはいないだろう」
「ま、そうだろうね。サイツが落とされると、ローベント家にとっては厄介だから、何とか撃退した方がいいとは思うんだけどね。それでも兵達の士気はあんまり上がらないよね」
参ったという表情でミレーユは言った。
サイツをシューツが取ってしまうと、隣に強力な力を持った勢力が誕生してしまう。
攻め込んで来られると、守り切れるかも分からない。サイツを守ることは、ローベント家の安全保障上大事なことではあった。
「兵の士気は非常に重要だ。サイツ側の大将が、何とかすりゃあいいんだけどな」
「まあね。あの男は中々有能そうだけど、どうなるかね」
ミレーユはアシュドを思い浮かべながらそう言った。
「というかいつまで座ってる気だ。どけ」
「はいはい。アタシはもう寝るよ」
ミレーユは立ち上がり、自分の寝るテントへと向かった。