作品タイトル不明
6.あいつには退場してもらおう
光熹元年(189年)9月 司隷 河南尹 洛陽
グーテン・ターク、董卓である。(ドイツ風)
李儒や荀攸という人材が加わったので、自陣営の体制を整えた。
例の宦官虐殺騒動で混乱していた兵站を立て直し、まともな食事や銭を兵に与えたのだ。
同時に綱紀の引き締めも実行し、涼州兵が乱暴を働くという事件は激減した。
しかしその一方で、ある勢力の不祥事は相変わらずだった。
「執金吾の兵の不祥事が後を絶たない。丁原どのは何をしておるのか!」
「やかましいっ! 貴様の兵だって似たようなものだろうが!」
「ほう……こちらではとっくに対策したのを、ご存じないとみえる。のんきなものだな」
「なんだと!」
俺は今、朝議に出席して丁原を糾弾していた。
実際に最近の洛内で騒動を起こすのは、丁原の配下と相場が決まっている。
奴の配下も俺の涼州兵と似たようなもので、并州から連れてきた荒くれが多い。
そんな奴らを野放しにしていれば、事件を起こすのも当然だ。
かくいう丁原自身も、ゴリゴリの武闘派なため、そういうことに気が回っていない。
おかげで奴を糾弾するのは簡単だった。
「これ、このように最近の事件はまとめてある。基本的に貴殿の配下ばかりだな」
「ぐぬっ……言いがかりだ! 董卓が俺をはめようとしているのだ!」
「ほほう、そうまで言われては、こちらも引き下がれんな。よろしい、ここに丁原どのの罷免を提案する。洛陽の治安を守るべき執金吾が、このような 為体(ていたらく) では示しがつかん」
「おのれ、董卓! 後悔するなよ!」
かくして俺は丁原の罷免を提案し、そのための証拠も提出する。
以後、宮廷主導で審査することになり、俺はその場を辞した。
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それから3日ほどで、丁原の罷免が決まった。
彼を執金吾に任命した後ろ盾を当てにしていたのだろうが、あれだけ公になっては揉み消しようがない。
俺の方でも逃げ道を潰しておいたので、あっさりと提案が通った。
以後、丁原の部隊は解散となり、奴は郷里に帰ることとなる。
ここで俺は、有望な人材の確保に走った。
「 張遼(ちょうりょう) 文遠(ぶんえん) です。以後、よろしくお願いします」
「ああ、期待してるぞ」
そう、張遼を誘ったんだ。
史実では呂布と一緒に流浪するんだが、やがて曹操に召し抱えられて、大活躍する男だ。
彼自身は誠実で義理堅いようだから、ぜひにと勧誘した。
え、呂布?
あいつはなあ、味方である分には心強いんだが、いつ裏切られるか分かんねえから、誘わなかった。
なまじ腕っぷしが強いだけに、問題も起こしそうだしな。
俺の配下には荒くれが多いから、張遼だけで十分だろう。
こうして最大のライバルだった丁原を追い落とし、俺の足場は固まった。
いよいよ次のステップに移ろうかね。
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「足元が固まったところで、ちょいとばかり改革をしたいと思うんだが、どうだろうか?」
「はあ? 何いってんだよ、兄貴」(董旻)
「そうですぜ、大将」(牛輔)
「改革、ですか」(賈詡)
「そんな畏れ多いこと、できるのですか?」(李儒)
「……」(荀攸)
主要な配下を集めて、改革を提案してみたが、反応は概ね否定的だった。
しかしまだ何も説明してないんだから、諦めるのは早い。
「おめえらも今の朝廷に問題が多いのは、感じてるだろ?」
「そりゃまあ、大将軍が殺されて、仕返しに宦官を虐殺するなんて、まともじゃねえわな」
「まあ、そうですがねえ、俺たちには関係ないっすよ」
身内はやる気がないが、賈詡は違った。
「幸か不幸か、今の董卓さまは洛内の軍権をほぼ掌握しておられます。その影響力は小さいとは言えませんね」
「ああ、そうだ。本音を言えば、俺も故郷に帰りたいんだがな。それをやっちまうと、また元の木阿弥だ」
「たしかに。今は外戚と宦官の力が、一時的に弱まってるだけです。放っておけば、また権力争いが始まるでしょうね」
今の洛陽は、何進の死と宦官虐殺で、一時的なショック状態に陥っていると言っていい。
おかげで俺が最大の軍事力を握ることになったわけだが、いつまでも続くはずがない。
すると今まで黙っていた荀攸が、口を開いた。
「董卓さまは、さらなる権力をお望みですか?」
「いや、そうじゃねえ。さっきも言ったように、俺はとっとと田舎に帰りたいぐらいだ。だけどよ、いずれまた権力争いが始まれば、それに巻き込まれるかもしれねえだろ。それ以上に今、この国では多くの民が困窮してる。それをなんとかしてやりてえんだ」
「ふむ……こう言っては失礼ですが、意外ですね」
「フハハッ、はっきり言うじゃねえか。もちろん俺にだって欲はあるぜ。だけどな、今の状況に俺は、天意を感じるんだ」
「天意とはまた、大仰な」
荀攸は苦笑しつつも、頭から否定はしなかった。
ここで彼は居住まいを正し、俺を真正面から見据えた。
「董卓さまと同様に、朝廷を変えようとした何進将軍は、宦官どもに殺されました。それどころか、民のために国を変えたいという願いは、より困難なものになるでしょう。それでもやりますか?」
「もちろんだ。だけど俺ひとりじゃあ、到底できっこねえ。おめえらの力を、貸してくれねえか」
すると荀攸は軽く首を振りながら、息を吐き出した。
「フ~~~~…………これは思った以上に大事になってきました。しかしやりがいはありそうです。皆さんはいかがですか?」
ここで話を振られた賈詡と李儒は戸惑いつつも、それに賛同する。
「そう、ですね。私も閣下に協力したいと思います」
「う~ん、少々こわくはありますが、私もやってみたいと思います」
「おお、そうか! 協力してくれるか。よろしく頼むぜ」
俺は喜びながら、今度は董旻と牛輔に顔を向ける。
「当然、お前らも手伝ってくれるよな?」
「うわ、特大の厄介事が降ってきた…………だけどまあ、いいぜ。協力してやるよ」
「うへ~、そんなに安請け合いしていいんすか。だけど俺だけ、断れるわけねえよな~。協力しまっす」
「ワハハハハ、そうか。協力してくれるか。今後は一蓮托生だからな。裏切るなよ」
「「うい~っす」」
よし、これで下地は整った。
あとはどうやって改革していくかだな。