作品タイトル不明
5.綱紀を引き締めるか
光熹元年(189年)8月 司隷 河南尹 洛陽
ニーハオ、董卓あるよ。(中華風)
丁原の力を削ぎたいが、人手が足りないと賈詡が言う。
そこで俺は、ある人物を呼び出した。
「はじめまして、董将軍。 李儒(りじゅ) 子遠(しえん) と申します。お呼びと聞き、参上しました」
「うむ、わざわざ悪いな。とりあえず座ってくれ」
「は……」
今回、呼び出したのは、あの李儒だ。
史実で俺の意をくみ、劉弁を毒殺したと言われる謀臣である。
こいつは元々、宮廷で働いていたのが、 董卓(おれ) のために働くようになったらしい。
そこでそれらしい人物を探して、ここに呼びつけたわけだ。
彼はネズミのような小男で、あまり悪党って感じじゃない。
むしろ気の弱そうな、小心者って感じだ。
ちなみに年は46歳らしい。
「知ってのとおり、俺は亡き将軍閣下の手勢を糾合したんだが、おかげで手が足りなくなった。それで貴殿に手伝って欲しいんだが、どうだろうか?」
「は? い、いや、私にも仕事が――」
「それについては、俺の方から正式に配置換えを頼む。貴殿に迷惑は掛けないから、安心してくれ」
「は、はぁ……しかしなぜ、私なのでしょうか?」
「うむ、貴殿は優秀なわりに、埋もれていたようだからな。その能力に見合った地位について、俺を支えて欲しいのだ」
「そ、そこまで私を買っていただけるのですか…………分かりました。ご期待に添えるよう、努力します」
「うん、頼んだぞ」
どうやら俺のリップ・サービスに、李儒はいたく感激したようだ。
おかげで目を潤ませて、やる気を見せている。
この分なら史実以上に働いてくれるだろう。
こうして2人めのブレーンが手に入ったが、まだまだ足りない。
ならば次は、彼に会いに行くか。
「前将軍 董卓である。貴殿が 荀攸(じゅんゆう) どのか?」
「いかにも、私が荀攸です。将軍閣下が何の御用でしょうか?」
「ふ、そう警戒するな。少し話をしよう」
「……」
今日、会いに来たのは荀攸 公達。
後に曹操の軍師として知られる男だ。
だが現状では何進に招請され、その下で働いていた。
彼は名門として名高い潁川荀家の出身で、有名な 荀彧(じゅんいく) とも親戚関係だ。
この一族には優秀な者が多く、荀攸もそれに恥じない能力を持つ。
一説には賈詡に匹敵するほど、失策がなかったとも言われるな。
でまあ、こうしてリクルートに来たわけだが、なぜか警戒されていた。
「ゴホン。今日は貴殿の力を借りたいと思って参った」
「私の力、ですか? 私など、ただの小役人に過ぎませんが」
「いやいや、荀攸どのといえば、何大将軍に招請された俊英と聞くぞ。知っていると思うが今、俺の下には将軍たちの兵が集ってきておる。しかしその運営に難儀しておってな。ぜひ貴殿に力を貸して欲しいのだ」
「……」
しかし俺がこうして下手に出ても、荀攸は首を縦に振らない。
それどころか、何か言いたげだった。
「何か、気がかりでもあるのかな? 言いたいことがあれば言ってくれ」
「……それでは言わせてもらいますが、閣下の兵が乱暴狼藉を働いているのはご存知ですか?」
「俺の兵が? いや、配下には規律を守るよう、言ってあるが」
「やはりご存知ないか……」
荀攸は呆れた表情で、事情を語りはじめる。
どうやら俺の知らないとこで、配下の涼州兵が悪さをしているらしい。
酒を飲んで暴れるぐらいならかわいいほうで、時には町民にからんで金を奪ったり、子女をさらったりもしていると言う。
「ええ、マジか? そこまでひどいとは、聞いていないぞ」
「おそらく閣下を恐れて、誰も言い出せないのでしょう。私も今回のような機会がなければ、言わなかったかもしれません」
「う~ん、そういうことか……」
事態は思っていた以上に深刻なようだ。
俺だって史実を知ってるから、配下の行状には注意を払っているつもりだった。
しかし気性の荒い涼州兵が、口で言ったぐらいで、おとなしくしているはずがない。
それに加えて、元からいた何進の兵も、最近の騒動で規律がゆるんでいる可能性がある。
俺は早急な対策の必要性を感じ、目の前の男に目を据えた。
「兵の狼藉については、早急に対処する。しかしそのためにも、貴殿の力を借りたい」
「……具体的に、何をお求めですか?」
「そもそも兵が暴れてるのは、働きに見合った待遇ができていないからだ。それを無視して締め付けだけ厳しくしても、効果は見込めないだろう」
「ふむ、それはたしかにそうですね。今の朝廷にはお金がありませんから、まともな待遇ができていないのでしょう」
「そのとおりだ。しかし俺には内向きのことはよくわからない。貴殿の知恵を貸してもらえないか?」
すると荀攸はため息をつきながらも、前向きな言葉を返す。
「はぁ……今回の騒動は何大将軍と宦官の 諍(いさか) いに端を発しており、将軍の下で働いていた私も、無関係ではありません。できる範囲での協力はしましょう」
「おお、受けてくれるか。感謝するぞ」
「ただし、権力争いに加担するつもりは、ありませんからね」
「もちろんだ」
とは言ったものの、俺にもそれは自信がない。
しかしまあ、まずは巻き込んでしまえば、なんとかなるだろう。
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光熹元年(189年)9月 司隷 河南尹 洛陽
荀攸を味方につけたら、少しずつ状況が改善されてきた。
今までは朝廷内の立ち回りがよく分からず、ほとんど動けていなかったのだ。
荀攸は黄門侍郎として働いた経験があって、俺たちよりは上手くやってくれた。
そこでまず手を付けたのが、配下の兵の待遇改善だ。
まともな食事を出したり、銭を配るなどして、不満を減らしたのだ。
その代わりに綱紀の引き締めも断行した。
洛内の見回りを強化して、騒動を起こす兵どもを取り締まったのだ。
酒を飲んで暴れるぐらいは当たり前で、女をさらったり、刃傷沙汰も珍しくない。
その取り締まりを、少しずつ強めていった。
最初から厳罰で臨んでいては、反発が出るからな。
それでも馬鹿はどこにでもいるもので、凶悪犯は見せしめに処刑したりもしている。
そうしてようやく、洛内に落ち着きを取り戻すことに成功する。
「ようやく配下の兵がおとなしくなってきたな」
「ええ、閣下の兵については、そのとおりですね」
「ああ、言いたいことはわかるぞ。丁原の兵が暴れてるんだろ?」
「はい、それだけでなく、内輪もめも始まっているようで」
「フハハ、そいつは大変そうだな」
「ええ、まことに」
そう言ってうっそりと笑うのは、李儒だ。
実はこいつには、丁原の配下の切り崩しを指示していたのだ。
それがようやく実を結びつつあるらしい。
せっかくなので、丁原にはここで退場してもらおう。