軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第345話:砦攻略戦④

〜ジョセフ・ネルマート視点〜

愚兵共、あーいや、“増援”が来てからまだ二日なのか・・・。嘘だろ・・・

あいつら、たった2日で、苦労して整えた砦の秩序を乱し、食料庫を荒らしてるのかよ。・・・・・・害獣か?

「隊長・・・」

「頼む。通常業務の報告をしてくれ」

「・・・・・・異常なしです。・・・・・・それで、自称英雄軍なのですが」

「・・・なんだ?」

「今度は、『酒はないのか』と」

「・・・はぁ」

んなもん、あるわけないだろうが!

ここをどこだと思ってやがる!? クライスの大森林に面する砦の中だぞ!

帝国軍内で爪弾きにされた俺たちが押し込められた、生きた地獄。物資はほとんどなく、周囲の警戒は命がけ。毎日のように死を覚悟する、そんなド辺境だぞ?

「・・・すまん。俺の名で、そんなものは無いと伝えておいてくれ」

「はい」

勘弁してくれ、本当に・・・

♢ ♢ ♢

自称英雄軍の指揮官は、ダーバルド帝国伯爵、ロメット・ノイヤード。典型的なクズ貴族だ。

今回指揮官に任命されているのは、曰く皇帝の信頼の証、実際は宮廷闘争に敗れたからであろう。

国内の状況などほとんど分からない俺たちでさえ、ダーバルド帝国が終わりに向かっていることを知っている。

ジャームル王国との戦争が手詰まりで、兵と物資を消耗し尽くしたあげく、国内を締め付けたせいでクラリオル山脈に近い領や町が、帝都、皇帝とは距離を置き始めた・・・、見限った。

その中で、この自称英雄軍どもだ。

貴族としては“終わった”ノイヤード伯爵が率いている部隊、というだけでお察しだが、兵の能力も同様に思える。

だが、気になるのはこいつらが帝国に残された「最後の戦力」だという噂だ。

厳密には、動かすことのできないジャームル王国との戦線にいる部隊や、帝都や大都市に駐留する部隊を除き、ということらしいが・・・

自称英雄軍は、皇帝より賜った栄えある任務により、カーラルド王国を打ち破ると。そして、ダーバルド帝国を救うらしいが・・・

まあ、勝手にやってくれればいい。勝手にやってくれればいいんだが・・・

今日も騒がしいな。面倒を避けるため、内壁の東側は一時的にくれてやったんだがなぁ。

ノイヤード伯爵は、テントを嫌って司令部の一室に留まりやがったが。

「た、隊長!」

飛び込んできた部下の様子を見るに、また馬鹿なことを騒ぎ始めたのか?

「今度は何だ? 喧嘩でも始めやがったか?」

「違います! 敵、敵です」

「敵?」

「敵襲です! 森から、敵が攻めてきました」

「はぁ?」

敵ってなんだ?

クライスの大森林の中だぞ?

「魔獣か? あのデカい虎でも・・・」

「いえ、兵です。敵兵。魔法により東壁を攻撃しています。壁上の兵も攻撃を受けているようで、壁も保たないかも」

「・・・全員に戦闘用意を。とにかく、内壁の上まで行くぞ。それと、ノイヤードの野郎も連れてこい」

急いで指示を出し、壁上に向かう。

「隊長!」

壁の上には俺の部下たちが集まっていた。

東側にテントを張り陣取っていた自称英雄軍の連中は、状況が飲み込めていないのか右往左往しているな。

指揮系統がなってないのがよく分かる。個々にはそれなりに動けそうな兵もいたのに、部隊単位ではこのザマか。

東側を明け渡す際に、俺たちに見張られるのが嫌なのか、見張りも自分たちでやると言われたときに、そこは押し通すべきだったか。まさか敵“兵”が来るとは思わなかった。

東壁の上で攻撃を受けているが、俺の部下じゃなくてよかったと考えるべきか・・・。いや、優秀な奴らが、見張りに回されているんだろうから、失ったことを悲しむべきだな。

準備を整える部下を確認しつつ、東壁の状況を確認していると、遂に東壁の一部が大きな音を立てて崩れ落ちた。

「まさか」

「魔法で、だと」

部下たちの驚きもよく分かる。

音からすれば連続して高威力の魔法が命中していたわけだが・・・、どれだけの魔法使いを揃えたんだ?

だが、俺の疑問はそこまでだった。

「・・・・・・マジかよ」

壁が崩れ落ちた時を上回る轟音とともに、壁の残骸や巻き込まれた兵を蹴散らし、巨大な馬車が突っ込んできやがった。

「な、なんだアレ・・・」

「馬車、なのか?」

とりあえず馬車ってことにしておくが・・・

目を逸らしたいが、馬車の後ろから魔獣の群れも入ってきて、今度は馬車から・・・、多くないか?

完全武装の兵・・・、騎士か。

ふと見ると、壁の上にも敵が上がって来ているな。

上と下、どっちも劣勢は明らかか。

壁上にいた一部の兵はどうにか応戦まで持って行けたが、テントで野営していた連中は、ましなレベルで武器を持っているだけ。着の身着のままの奴も・・・

「・・・これまで、か。長引けば、一層不利か」

♢ ♢ ♢

・・・・・・どうしてこうなったんだ?

俺の目の前には、黒い瞳に黒い髪の女、その後ろには赤いドレスにこれまた黒い髪の女がいて、周囲をさっき見た、完全武装の騎士が囲っている。いや、よく見ると少し違う装いの騎士か?

奥には、1組の男女がいるが、こっちはよく見る感じだな。雰囲気的に貴族っぽくはあるが・・・

幸いなことに部下たちは降伏するという俺の案に賛同してくれた。

ノイヤードの野郎や取り巻きは、俺たちに「死ぬまで戦え。私たちの囮となれ」とかほざいていたが、“丁重”にお断りした。

腐っても帝国の伯爵。俺たちが降伏する際の手土産になったことで、ここ2日のことは水に流してやろう。

・・・と思っていたのだがなぁ。

「で? あなたがこの砦の指揮官でいいんだよね?」

目の前の女が聞いてくる。

「あ、ああ。あんたは・・・」

その瞬間、女の後ろの女や囲む騎士の視線が一気に鋭くなった。

「みんな大丈夫。私はコトハ。コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル。さっきあなたを拘束したカイトの姉で、カーラルド王国のクルセイル大公よ」

「んなっ!?」

やべぇ・・・

考えろよ、俺。こんな場面で出てくるなんて、そういうことだろうが。

落ち着け、落ち着くんだ。ひとまずは降伏を認めてもらえたが、本当の意味での戦いはこれからだ。

「んんっ。し、失礼、いたしました。仰せの通りにございます。ベッシュ砦の指揮官、ジョセフ・ネルマートにございます」

遠い過去に覚えた対貴族向けの言葉遣い、振る舞い。

それを思い出せ!

「・・・ああ、大丈夫」

俺の覚悟をすかすように、クルセイル大公が騎士たちを制止した。

「別に畏まったのはいらないよ。それに、敵対するならともかく、態度どうこうで、カイトが保障したあなたの部下の身の安全への約束を反故にしたりもしない。私としては、聞きたいことがあるだけだから」

・・・・・・信じられるわけがない。

貴族ってのは、勝手だ。

金、権力、そして名声。この3つを追い求め、そのためには俺たち下々の者なんかは、魔獣と同じ扱いをする。

臆病で、卑怯。

平民上がりの俺たち末端兵士には、貴族出身の兵士と相対する際に気をつけなければならない決まり事が山ほどある。

この女、クルセイル大公が、どういう貴族なのかは知らんが、ただでさえ身分が違うというに、今の俺は捕虜だ。

気を引き締めろ!

・・・そう、思い詰めていたのは俺だけだった。

最初に制止したときのまま、クルセイル大公は、部下の騎士が険悪なムードを漂わせることを良しとはしなかった。

軽い感じで、質問を受け、俺は淡々と答えていくだけ。

近くにある軍の研究所についての質問が多かったが、生憎と俺はほとんど知らない。前は、物資の融通を期待して部下を送ったこともあったが、すげなく断られてからは、一切交流がない。

他には帝国の内情についても聞かれたが、同様に知らない。

覚悟して正直に俺や部下たちの現状を明かせば、納得したようにすんなり引き下がった。

どうせならと、ノイヤードのことを売ってみたが、そっちは弟だという先ほどの指揮官が尋問しているらしい。

カーラルド王国ってのが最近できた国なのは知っているが、若い女が貴族、それも概念でしか知らん、大公とはな。

結局、身構えていた俺が馬鹿らしいくらいには、呆気なく尋問は終わった。

腕の1本や2本切り落とされるくらいは覚悟していたのだがな・・・

部下たちが集められている食堂に戻されると、連行していた騎士たちは、何も言わずに立ち去っていった。

ここには見張りとして壁に立つ以外には相手の騎士はおらず、俺たちは部屋からは出れないが拘束もされていない。

心配した部下たちが駆け寄ってくるが、問題ないとだけ伝えておく。

あの場で話した内容を伝えるのはリスクが大きい。

幸い、俺たちは元自称英雄軍とは分けて拘束されている。降伏する際に、別の部隊であることを指揮官に伝えたからか、分けられた。

そんな元自称英雄軍の兵士が、あの完全武装の騎士に引きずられているのを道中で目撃した。

騒ぎ立てていたし、何らか反抗したのだろう。あの先は少ない地下牢へ続く階段のはずだから、そういうことだろう。

最初に、別だと伝えた数時間前の俺を褒めておきたい。