軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第346話:研究所①

「コトハ様、見えましたわ」

前を飛ぶホムラが示す先に、「口」の字型の黒い建物が見える。その周囲を防壁が囲っていて、四方それぞれに数人の見張りがいるみたい。

今回の作戦に先立ち、ユイハさんたちに聞いた特徴とも一致する。周囲を建物に囲われた中央の庭のような場所で馬車に無理矢理乗せられた、と。

だが、それ以上に確かなことがある。あの建物から漂う不快な魔力は、間違うことがない。ミリアさんとの出会いを最初に、これまで何度か感じたあの魔力だ。

というか、『魔人』を生み出していた施設は前に処理したんだけど、その後でここに統合されたのかな?

ベッシュ砦の指揮官から研究所の情報が得られなかったことは残念だったけど、まあ仕方がない。

同行してもらっている騎士たちには悪いが、しらみつぶしに探してもらうとしよう。

研究所で働くダーバルド帝国の関係者は、一人残らず始末する。

『魔人』に関する研究は、魔素を害する。詳しい原理は知らないが、異なる生命を無理矢理融合させることで、魔素自体を歪ませ、汚染する。

一度汚染された魔素が元に戻るには長い年月を要し、また汚染された魔素はその魔素を取り込んだものへも悪影響を与える。

レーベルから聞いた話の大枠はこんな感じで、一言で済ますのなら、消し去るべき研究というもの。

加えて、研究所こそ、ヒロヤ君たちを召喚した施設。

もう、潰す以外の選択肢がない。そして、この2つの研究を二度と行わせないためには、知っている者を消し去るしかない。

魔法部隊による壁の破壊、ビークルたちによる突撃、そして騎士団による蹂躙。

その結果、ベッシュ砦はあっという間に制圧できた。

今は、カイトやアーロン、そしてヤートンさんを中心に、事後処理を進めているところだが、私やホムラ、そしてマーカスを筆頭に騎士団の古参メンバーは、闇夜に紛れ、研究所へ向かっていた。アーロンはね、さすがに置いてきた。騎士団長だし。

加えて、キアラも参加している。ミリアさんとの件もあり、人一倍思い入れが強い。だから参加志願を認めた。

見たところ、研究所の警備は薄い。

今回の作戦はいたってシンプル。

第1段階として、私やホムラ、そして騎士団のベテランが騎士ゴーレムを率いて突入し、研究所に勤める敵兵を一人残らず殲滅する。その際に、奴隷や捕虜がいれば保護し、仮に『魔人』がいた場合には討伐する。

第2段階として、研究所を跡形もなく吹き飛ばす。

たった、それだけ。それだけではあるが、場合によっては、これまでに自らの手で殺めた総数を超える数をたった一度の作戦で手にかけることになる。

けれど、これは決めたこと。迷う気はない。

ひとまず、研究所の東側に着陸し、同行していた「飛空団」の車両も下ろす。

車両の中から騎士ゴーレムを降ろして配備し、その周囲を簡単な土壁で囲う。

万が一、研究所から敵兵が逃げた場合の備えだ。騎士ゴーレムを囲う土壁の強度は、騎士ゴーレムが体当たりすれば簡単に壊れる程度にしてある。

「・・・よし、行くよ」

「「「はっ」」」

マーカスたちが進むのに先立ち、研究所を囲う防壁の上に上がる。

「っな!?」

狼狽える見張りの兵に『石弾』を叩き込み、息の根を止める。

素早くマーカスに指示を出し、簡易の出入口から突入を開始する。

「それじゃあ、任せたよ」

頷き無言で指示を出すマーカスを横目に、私はホムラと不快な魔力の出所を探す。

マーカスたち騎士団は、地下から全ての部屋を探り、敵兵を倒し、息のある奴隷がいれば救出する。

この施設がなくなるのは時間の問題だし、確認漏れがないように指示してある。

♢ ♢ ♢

「コトハ様。この先から・・・」

「・・・うん。行こうか」

「畏まりましたわ」

見張りの兵士を瞬殺し、室内に入る。

入る前から感じていた不快な魔力が、一層強まった気がする。

薄暗い部屋には、何かのメモらしき書類の束が雑多に置かれている。

魔石の欠片のようなものや、魔獣の牙や毛皮らしきものもそこかしこに散らばり、コップのようなものには何やら液体が残っている。

現代の研究施設と比べることはできないが、思っていたよりもしっかり研究所だったことに驚いた。

「コトハ様」

ホムラが指す先には、男が5人。

何やら作業中みたいだが、なんというか覇気がない。

この魔力にあてられたとか?

ホムラと視線を交わし、一番近くにいた男の首筋に、剣先を当てる。

私に剣は扱えないが、手早く脅すためには目に見える武器を使う必要があるので、仕方なくその辺にあった剣を持ってきた。

「動いたら殺す。あなたたちは『魔人』を作る研究をしているのよね?」

最終的には同じ結果になるが、確認はしておく。

何らかの作業を強いられている奴隷という線もあるので念のため。

もっとも、ダーバルド帝国の奴隷は、首に枷をはめられているはずだが、こいつらにはそれがない。生気のなさは奴隷にも思えるところではあるが・・・

「あ、ああ」

抑揚のない声で答える男。

他の4人も頷いているし間違いなさそう。

「ここにいるのは5人だけ?」

今度の問いに対する答えは、すぐにはなかった。

剣を突きつけられた男は、戸惑ったように他の人たちに視線を向けた後、部屋の奥にある扉に視線をやった。

「・・・そっか」

男たちの手元を見ると、それぞれ魔石や何やら資料のようなものが見えた。

間違いないか。

ホムラの邪魔にならないように身体を引き、合図を送る。

次の瞬間、ホムラの『竜魔法』によるレーザー光線が男たちの首筋に次々と命中し、順に地面へと倒れ伏した。

ホムラ、本当にレーザー光線の習得が早かったんだよね。反対に私がホムラから教わった攻撃、いわゆるブレスの方は・・・

いや、ブレスっていうくらいだし、発動箇所が口になるのは分かるんだけどさ。どうしても、自分の口、厳密にはその前から攻撃を放つことに抵抗がある。私が欲したのは、爆発的な破壊力を生む攻撃であって、ブレスではない。

・・・・・・まあ、後で使うんだけどね。

男たちが見た扉の奥からは、2人の魔力を感じる。

詳細は分からないが、部屋の広さは今いる大部屋の半分くらいで、先ほどのように気づかれずに入ることは難しそう。

というわけで、

「なんだ!?」

ドアを蹴破って中に入ったところ、声を上げた貴族然とした男と、私たちが入るのと同時に男の前に出て庇おうとした執事風の男がいた。

「何者だ、お前たち」

貴族然とした男から再び。執事は相変わらず庇う姿勢。

部屋の四方を確認したが、私たちが入った扉以外に逃げ道はなさそう。

この部屋は、社長室みたいな感じ? 好みはともかく、調度品が置かれているし、応接セットもある。

「・・・あなたが『魔人』を作る研究の責任者?」

相手の質問には答えず、確認したいことだけ聞いてみる。

まあ、

「侵入者の問いかけに答える気はない。直ぐに衛兵に・・・なにっ!?」

「侵入者だ!」などと叫ばれても困るので、邪魔の排除と脅しを兼ねて、執事にレーザーを喰らわせた。

その際に貫通したレーザーが、男の右腕を掠めたようだが、どうせ脅すんだし一石二鳥かな?

「き、貴様ぁ・・・」

腕を押さえながらこちらを睨む男。

「質問に答えなさいよ」

質問に答えていないのはお互い様ではあるが、そんなことは関係ない。

なんか、私の方が悪役みたい・・・

まあ、私たちからすれば魔素の汚染という国を超えた話への対処ではあるが、やっていることは戦争だ。故に、これは正義や善悪の問題ではなく、どちらが勝つかの問題。

「あなたが、『魔人』の計画の責任者なの?」

「・・・・・・そうだ」

よし。

「あなたの他に、『魔人』の計画に関与しているのは?」

「・・・・・・それを知ってどうする? 我々の研究成果を盗むのか?」

「・・・そんな、恥知らずなことはしないわよ」

「ふんっ。コソ泥のように忍び込んだ分際で何を・・・」

「ああ、違うから。盗むことをいったんじゃなくて、生命への冒涜でしかない『魔人』に関する研究の成果を利用することが恥知らずなのよ」

「何だと・・・」

「まあ、いいや。そういえばあなたの名前は?」

「・・・・・・グラリオス・ケイファ伯爵である」

おお、今度は素直に答えてくれたね。

責任者の名前は後に必要かもしれないから一応確認しておきたかったんだよね。

『魔人』に関する研究の責任者は、私たちが出会った『エルフ』の女性、ミリアさんの敵ともいえる。

だからキアラに任せることも考えたんだけど、この場で拘束してってのはリスクが大きい。

キアラもこの作戦には参加しているが、あくまで腕が立つ中で私が信頼の置ける1人ということでの参加だし、キアラ自身が復讐に固執しているわけでもない。

「そっか。じゃあ、グラリオス・ケイファ。これまでにあなたが冒涜し穢した全ての生命へ、せめてもの謝罪をすることね」

そう言って、レーザー光線で首を切り落とした。