作品タイトル不明
第344話:砦攻略戦③
ダーバルド帝国の砦は、東西に延びる長方形。
クライスの大森林、そしてクルセイル大公領に面する東側の壁は、魔法部隊の連続攻撃を前に、崩れ落ちた。
ビークルを牽くマーラたちに、『ユーテ』を駆る『ワーロフ族』の騎士が砦の中に突入し、崩れた壁を足場に、『ランサー族』の騎士が壁の上にいる敵兵を制圧しに向かった。
カイトのいる本陣には、細かく情報が伝達されており、それを聞いている限り、どうやら順調らしい。
私たちは本陣の端っこで、見学している状態。
指揮系統が混乱するのは避けた方がいいので、今回、報告する相手はカイトに一本化。
私たちはその様子を眺めているだけ。
といっても、報告内容やカイトたちの相談内容も聞こえてくるので、それを見守っている形。私は、サーシャとヤートンさんに、適宜『獣人族』やうちの騎士団を紹介している。
砦の攻略は順調そうだが、まだ大きな壁がある。
比喩でも何でもなく、文字通りの壁が。
この砦には、砦の外と内とを隔てる囲いとしての壁に加えて、砦内部を取り仕切る内壁が存在している。
砦の内部を東西に区切る内壁は、かなり西よりに作られている。つまり、内壁の東西で分けると、東側が西側の3倍ほどの広さになる。
現在の主戦場は東側。ここには建物が少なく、増えた敵兵のテントが立ち並んでいた。
今はそこに突っ込んで、荒らし回って・・・戦っている最中。
内壁の西側には、いくつか建物が確認できている。
この砦の司令部的な建物や、兵舎のような建物など。
おそらく、クライスの大森林から魔獣・魔物に襲われた際、仮に砦内に侵入を許しても、この内壁を最後の防衛ラインとして守ることで、砦の指揮機能を守っているのだろう。
加えて、最悪の場合に、砦の西側から脱出する際に時間を稼ぐ意味もあるのかも。
「申し上げます。砦内、内壁の東側を概ね制圧しました。現在、内壁を守るように陣取る敵兵100人ほどを取り囲むようにして、部隊が集結しています」
おおっ。
思ったより順調そうだね。
「ご苦労。当方の被害は?」
アーロンの問いに返したところによれば、騎士ゴーレムが30体ほど破壊された以外に大きな被害は出ていなかった。
騎士も怪我をした者はいるが、戦死者はなし。
それを聞いて、とにかく一安心だ。頭では分かっていても、やはり慣れない。
敵兵の被害はそれなりに。
可能であれば無力化した上で拘束するようにしているが、一定数は死者が出る。
戦死した敵兵には同情するが、それまで。
今回の作戦では、うちの騎士団に新たに加わった戦力を投入し、できればその範囲で終わらせたい。私やホムラ、カイトたちが突入する事態になるのは避けられればベスト。
先陣を切った魔法部隊はもちろん、ビークルも実戦投入は初だし、続いて突入した『ワーロフ族』や『ランサー族』たちも、うちの騎士団としては最初の作戦になる。
加えて、『ヤリュシャ族』は砦上空を警戒し、主に砦の西側から敵兵が逃げ出すことがないように警戒している。ここでの戦いが終わり次第、研究所を処理する予定なため、逃げ出した敵兵に私たちのことを伝えられては困るからだ。既に数人の敵兵が脱出を試み、それを制圧したらしい。
そして『ライ族』。ぶっちゃけ、彼らは対人戦闘が得意ではない。というか、戦闘自体が他の3種族と比べると苦手だ。普段は、その優れた五感や軽い身のこなしを活かして、斥候役を担っていることが多い。彼らが接近する魔獣・魔物を発見する速度は、断トツなのだが、今回は、斥候の出番はない。
しかし、彼らを外すのも・・・。種族ごとの得手不得手があるのは当然だし、それに応じた配置が必要だとは思っているが、それでも今回のような大事の際に、出番なしというのはいらぬ不和の原因になりかねない。
そこで、『ライ族』の騎士とも相談し、敵兵の中にいる奴隷の救出を命じた。敵兵が、身の回りの世話や盾とするために奴隷を用いていることは分かっていた。戦闘が始まれば、敵兵と奴隷とを切り離すことになるが、敵兵に向かう騎士たちに奴隷を安全な場所まで避難させる余裕はない。そのため、『ライ族』の騎士たちが、戦場を走り回りながら、戸惑う奴隷たちを誘導し、安全に避難させていく。
この役目を最初に伝えたときには、少し不安そうだった彼らだが、蓋を開けてみれば大活躍。
既に多くの奴隷を戦場から避難させ、保護している。ついでに、戦場を出入りする際に、細かく報告を入れてくれるため、本陣での状況把握にも一役買っている。
予想以上、と言ったら失礼だが、そんな『ライ族』の活躍に胸をなで下ろしていると、新たな伝令が来た。
「申し上げます。砦西側で何やら戦闘が発生した模様。その後、この砦の司令官だと名乗る男が、降伏を願い出てきました」
・・・・・・ん?
西側で戦闘? まだ攻め入ってはなかったよね?
私と同じ疑問を抱いたカイトが、
「西側の戦闘はなに? 敵が仲間割れを起こしたの?」
「詳細は不明ですが、敵兵は大きく2つの隊に分かれているようでして・・・」
「分かった。降伏を願い出ているのであれば、行ってみようか」
そう言って私の方を見る。
私は黙って見つめ返すだけ。今回はカイトに任せたんだし、最後まで口を出すつもりはないよ。
・・・心配だから、後ろからついて行きはするけどね。
♢ ♢ ♢
カイトたちに続いて砦の中に入ると、なかなかにひどい有様だった。
そこかしこに武器が散乱し、敵兵のテントの残骸らしきものが散らばっている。
何カ所かに分けて拘束された敵兵が転がされており、その周りを騎士ゴーレムが剣を突きつけて囲っている。あれが拘束した敵兵なのだとすれば、それ以外に転がっている人は、戦死した敵兵になるのか・・・。思ったより数がいるな。かなり血みどろな光景が広がっている。
一緒に歩く2人の様子を確認してみたところ、若干難しい顔をしてはいるものの、落ち着いた様子。改めてこの世界において死が身近であることを感じただけだった。
そして、向かった先は砦の内壁。内壁を背に、敵兵が100人ほど。それを取り囲んでいるのは、うちの騎士たち。壁の上には『ランサー族』の騎士たちがいる。壁上は完全に制圧したみたいだ。
内壁の南北にはそれぞれ大きな扉があり、その北側が開かれている。ヒロヤ君などうちの突入部隊の指揮官たちも北側にいるようで、カイトたちもそちらに向かう。
カイトを見て敬礼する騎士たち。
続いて私を見て、さらに礼をしようとしたので、首を振って制する。私はただの見学人。ややこしいからね。
「カイト様。敵の司令官が降伏条件について話し合いたいと」
ヒロヤ君がカイトに説明したところによれば、敵兵の中央にいるのがこの砦の指揮官らしい。指揮官というわりには装備がボロボロじゃない?
そして、その横で1人、後ろに数人。縛られている男がいる。
・・・・・・なんで?
「私は、カイト・フォン・マーシャグ・クルセイル。カーラルド王国クルセイル大公の弟であり、この作戦の指揮官だ。この砦における指揮官は名乗りをあげよ!」
カイトが少し前に出て宣言する。うん、様になってるね。
ちなみに、その周囲を、真っ黒な鎧に身を包んだ騎士や騎士ゴーレムが囲っている。弓を構えているわけではないが、敵兵が内壁の上にもいるからね。内壁の前にいる敵兵も、同様に構えてはいないが武装しているし。
「私は、ジョセフ・ネルマート。ダーバルド帝国軍第7防衛隊、隊長を拝命しており、このベッシュ砦の指揮官の地位にある。我々は、これ以上の戦闘を放棄し降伏したい。この砦を放棄し、今後の処遇を貴殿らに委ねたい。その代わり、降伏の条件として、既に拘束されている兵及びここにいる兵の助命を願いたい」
と、相手の指揮官も名乗りを上げた。
うーん、普通に降伏か。まあ、戦力差は歴然だろうし・・・。具体的な数字はともかく、目に見えてこちらがダメージを負っていないことは分かるのだろう。
ただ、縛られてもなお、何か言おうとしている、横の人が気になるんだけど・・・、あ、指揮官に蹴られた。
「・・・ジョセフ・ネルマート殿。降伏の条件について確認したい。部下数名を連れて良いので、こちらまで来てほしい」
カイトの求めに、素直に応じる敵の指揮官。
慌てて騎士たちが、うちと相手の間に、机と椅子を運び込む。
私は、耳に魔力を集中させて、瞬間的に聴力を強化する。
まだ不慣れで、雑音も多く拾ってしまうが、話を聞くためには仕方がない。
「・・・降伏は、そちらの総意なのか?」
「違います。一部、徹底抗戦を主張する者がおりました。対処済みです」
「それが、あの縛られた男たち? 降伏宣言の少し前に、壁の向こうで戦闘が起こったようだが・・・」
「はい」
敵の指揮官を真っ直ぐに見つめるカイト。
罠の可能性もあるからね・・・。実際のところ、私が『魔力関知』で確認する限り、壁の向こう側には敵兵は残っていない。降伏に見せかけて奇襲するといったことは企んではいないと思う。
私と同じように壁の向こう側を確認したのかは分からないが、カイトが後ろに立つアーロンと視線を交わし、その後、キアラ、オプスとも視線を交差させた。
そして、
「降伏を受け入れる。速やかに武装を解除し、我々の指示に従え。その限りで、これ以上の戦闘を行わず、ダーバルド帝国軍兵士の助命及び可能な限りの治療を保障する」
と、敵の降伏を認める宣言を出した。
この瞬間、ダーバルド帝国の最前線の砦、ベッシュ砦がクルセイル大公領騎士団によって制圧された。