軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第342話:砦攻略戦①

ヤートンさんの件は一旦保留。

正直に言えば、欲しいに決まってる。宰相のもとで働く超エリートで、人柄もいい。更に、出身もギブスさんと仲がいいというバロナム伯爵家で、仲間にすることで下手な干渉を企むこともなさそう。

要するに、万年文官不足に苦しむうちには喉から手が出るほど欲しい人材。

とはいえ、即決するわけにもいかない。

あの様子を見ていると、サーシャは納得しているようではあるが、ヤートンさんはサーシャと結婚するわけで、ヤートンさんがうちに来るならサーシャも来ることになる。単身赴任にはならないだろうし。

そりゃあ、サーシャが近くにいるのは嬉しい。かなり嬉しいが、果たしてそれがサーシャの幸せになるのかといわれると・・・。うちって、深い森の中だしね。

サーシャは、パーティー等の社交が大好きってタイプではないけど、生まれてからずっと貴族令嬢として育ったお嬢様だ。そんな彼女にとってうちでの暮らしが幸せといえるのか・・・

本来は、私が首を突っ込むところではないのかもしれないが、やはり確認しないと。

それに、結婚式は絶対。

それに、実情はともかく、ヤートンさんをうちで雇うということは、宰相のところ、アーマスさんから引き抜くことになる。

アーマスさんはもちろん、バロナム伯爵家とも話をした方がいい気がする。

とまあ、いろいろ並べてはみたが、私の中ではほとんど決まっている。

雇うよ、そりゃあ。レーノやアーロンからも「是非!」と強い返事があったしね。

後は、サーシャのことや、アーマスさんたちに筋は通した方がいいけど、本人が言ってるんだもんねぇー・・・

てなわけで、決定は保留。けど実質は・・・、といった感じでしばらくは。

今は私の横に、ヤートンさんもサーシャもいて、行軍する騎士団の最後尾に付いている。

砦にいる敵の数が3倍に膨れ上がったことが判明した翌日、急ピッチで出撃の準備が進められ、夕方から順次、西側にあるケール砦へ「飛空団」による部隊のピストン輸送が行われた。

私たちは今朝、「飛空団」によりケール砦まで移動し、陸路で進む部隊の最後尾の馬車に乗っている。上空には「飛空団」が部隊の乗り込んだ車両を抱えて追従している。

最後に砦に投入され、制圧する予定の部隊らしい。

馬車の窓がノックされ、マーカスの声がした。

「コトハ様。まもなく陣地に到着いたします」

ダーバルド帝国の砦から2キロほど森に入ったところに設けられた陣地には、10個ほどのテントが設置され、騎士たちが武器の手入れをし、馬を世話して、忙しなく動き回っていた。

乗ってきた馬車から降りて中央にあるテントに入る。

中には大きな机が置かれ、その上には地図が広げられていた。

攻めることを決めたときから、『ランサー族』の騎士が動き回り集めた情報を元に作成した、周辺の地図だ。

「コトハ様入られます!」

その声を合図に、中にいた騎士たちが一斉に立ち上がり、礼をする。

こういうところ、うちの騎士団の統率は素晴らしいと思う。礼をされる私は未だになれないのだけどね・・・

「みんなお疲れ様。準備は予定通り?」

私を奥の上座へ連れて行こうとする一部の動きを無視して、カイトとアーロンに確認する。

少し呆れた様子のカイトが何か言おうとしたが、私を見て諦めた様子。

「準備は完了。コトハ姉様、クルセイル大公殿下のご命令があれば、いつでも攻撃を開始できます」

・・・・・・カイトのこの口調、やっぱ悲しい。

いや、カイトがしっかりと自覚を持って行動しているんだと、満足すべきだろうか・・・。

うん、寂しい。

「・・・攻撃開始を。終わらせよう」

「はい!」

「「「はっ」」」

♢ ♢ ♢

私たちの目の前には、緊張した面持ちの騎士団の魔法部隊が整列している。

私の横には、ホムラや護衛の騎士、騎士ゴーレムはともかく、ヤートンさんにサーシャまでいる。

うちへの就職を前提に、ヤートンさんをある程度の役職で雇うのならば、うちの領を象徴する騎士団の作戦は見てもらうことが適切だと思い、誘ってみたところ二つ返事。するとサーシャも同行したいと言い出して、こうなった。サーシャってそれ以外は完璧な貴族令嬢なのに、アクティブよね・・・

魔法部隊は、隊長のアランという騎士を筆頭に、見習いの準騎士も含めて総勢60人ほど。今回参加しているのは、そのうち30人ほどだ。

ジャームル王国から移住してきた人のうち、魔法の素養があった者も部隊に加わっているが、今回はほとんど参加していない。まだ訓練を始めたばかりだからね。

この場にいるのは、初期からうちの騎士として働いていた20人ほどに、少ないが『獣人族』の中で魔法に長けていた数人、そしてうちに来た時点で魔法の腕がかなりのものだったジャームル王国出身の元冒険者2人だ。

そういえば、魔法部隊は騎士団の一部隊って扱いにしているし、それは変えないと思うけど、「飛空団」みたいな部隊名称付けてあげたいな。

「狙え」

アランの号令に応じて、騎士たちが各々、魔法を発動する準備を開始する。

準備とは、体内の魔力に意識を集中させること。また、杖や指輪、それに剣など媒体を使う騎士たちは、それらを準備する。

魔鋼など魔力を通しやすい素材で作られた杖などを使うと発動しやすくなる者がいる一方で、素手の方がいいという人もいて、今のところは個人差というしかない。時間があれば、じっくり調べてみたいんだけどね。本当に魔法は奥が深いというか、未知過ぎる。

なお、詠唱をしている者はいない。うちに来て日が浅い2人も、既に脱詠唱を達成している。

うちの魔法部隊は、他の魔法部隊、魔法師団?と比べて、魔法の威力が高く、また長時間にわたり攻撃を継続できる。

厳密に比べたわけではないというか、他の所のは知らないが、おそらく間違いない。

魔法は、体内の魔力を用いて魔素に指示を与えることで発動するため、魔法を使うにつれて体内魔力が減っていき、制御できる魔素も減ることから、魔法の効果、威力が徐々に減っていく。

この点、うちの騎士たちは、クライスの大森林という特に魔素濃度が濃い環境で訓練を重ね、また住んでいるために、日々多くの魔素を浴びている。加えて、魔法薬や、『アマジュの実』に魔獣の肉といった森の恵みを摂取することで、多くの魔素を取り込んでいる。

結果、明らかに身体の魔素親和度が増しており、そもそもの体内魔力の量が多い。合わせて、日々、訓練や実戦で魔法を使い、体内魔力を放出しては空気中の魔素を吸収し体内魔力へ変換する過程を繰り返してきたため、空気中の魔素を体内魔力へと変換するスピードも速い。

そんなわけで、魔力がなかなか尽きないのだ。

さらに、詠唱ではなく強固なイメージに基礎をおく魔法体系故に、自分や他の騎士が、魔法を放ち、その魔法が標的に命中する様を目の当たりにしては、次の魔法を放つことを繰り返すため、撃てば撃つほどイメージが強固になっていく。

そんなわけで、魔法部隊の攻撃は、魔力がなかなか尽きず、むしろ撃つごとに威力が増していく。

そんな魔法部隊による攻撃が、今始まる。

「撃て!」

合図から遅れること数秒。

横に並ぶ騎士たちから、次々に『火球』が放たれる。

ダーバルド帝国の砦に向かい一直線に進む火の弾。それは砦の壁に命中すると、音を立てて弾け飛ぶ。

まだ壁を大きく破壊するには至らないが、ここからだ。

「撃ちまくれ!」

直前に放った火の弾の描いた軌道を思い描き、破裂する瞬間を思い描く。

そのイメージはより鮮明に、より強固に。

1発目と比べて、着弾時の音は激しく、轟音となり砦の壁にダメージを与えていく。

砦の上には、ダーバルド帝国の兵士がいる。

最初の攻撃を受けるまでは状況が飲み込めていない様子だった彼らも、明らかに攻撃を受けた今、反撃に転じ始める。

「敵襲!」

「森から出てきたぞ!」

「魔法だ! 魔法による攻撃を受けている!」

「弓だ、急げ!」

これまで相対してきたダーバルド帝国軍の練度からすれば、状況を把握し、応戦に転じるのは素早かったと思う。

砦からは一定の距離を取って魔法を撃っている部隊を攻撃するには矢を放つしかない。

けれど、

「1班は引き続き壁を攻撃。2班は壁の上にいる兵士を狙え。命中せずともよい。狙いを付ける時間を敵に与えるな」

直ぐさま魔法部隊の一部が自分たちを狙う兵士へ魔法を放ち始める。

それでもどうにか魔法を撃ちまくる騎士を狙う敵兵はいるが、

「盾、構え」

魔法部隊を取り囲むように配置された騎士ゴーレム。その役割は、魔法部隊を狙う遠距離攻撃から彼らを守ること。

兵士が捨て身で突撃してくることも見据えて、少数の騎士も配置しているが大半は大きな盾を装備した騎士ゴーレム。

ダーバルド帝国の兵士が魔法を避けながらどうにか矢を放つが、騎士ゴーレムが難なく盾で受け止めていく。

魔法部隊が魔法を撃ち始めて10分ほど?

目に見えて砦の壁の一部が壊れ始めた。

魔法部隊の騎士たちの攻撃は止まなければ威力が落ちることもない。

対してダーバルド帝国軍の攻撃は、騎士ゴーレムが揺るぎなく受け止め、弾いていく。

ダーバルド帝国の兵士たちは、魔法が命中し、また壁に命中し破裂した際に弾けた壁の欠片が当たり、徐々に数を減らしている。加えて全く止む気配のない攻撃を受け、自分たちの攻撃がまるで通じない様子を目の当たりにし、既に戦意喪失気味。

そんな中、

「壊れたぞ! 壁に穴が空いた!」

複数の『火球』が着弾した壁の一部が、ひときわ大きな音を立てて壊れ、土煙が晴れると人が出入りできるほどの大きな穴が空いていた。

「よし、あと少しだ! 攻撃の手を緩めるな」

目に見えて壁が壊れたことで、自分たちの魔法による攻撃が通用することを実感した騎士たちの攻撃が続く。

次々に壁に穴が増え始め、そして、

「崩れるぞ」

東西に長い長方形の砦。

東側の壁は、魔獣・魔物の脅威から砦にいるダーバルド帝国軍を守る命綱とも呼ぶべきもの。

その壁が、崩れ落ちた。